第三話
今回の戦いも前回と変わらず、またしても神奈川国の西側での戦いになる。しかし、前回と違うのは今回『アトムス』の出動が確認されているためにいつもよりも警戒態勢を引き上げていかなければいけないことだ。
三浦が前回の戦いで亡くなり、今回から四人での部隊編成となり、移動の車の中はいつもより広く使えることが出来ている。五人で座ると肩が当たるくらい狭い車内だったが、四人だとこぶし二つ分くらい余ってしまう。その隙間が寂しさで埋まっていることはその場にいる全員が理解していた。
そんな隙間があるというのに古河は相良の近くに座り、時折古河の髪の毛が相良の鼻にかかる。そのせいで車内は一人分空いている。
「真奈美…、空いてるんだから広く使えば?」
「私は近くに座りたいの。それとも私、邪魔?隣に座ったら匂いうつる?」
「わかった、わかった。隣にいてくださいお願いします」
「エヘヘー//」
外気はそこまで暑くはないが、陽が出ているし車という密閉空間のため、さすがに熱を持つ。だからなのか、相良の額には少しだけ水が垂れている。さすがに車内にエアコンが効いているとはいえ、人が真隣に座れば熱が伝わり体温も上がる。
相良が流した汗は古河のタオルによって拭かれているがそれでは本末転倒なのではないかと相良は思っている。しかし、それについて言及することは誰もしない。なぜなら今から向かうことは戦場だからだ。いつ死ぬかわからないから今何をしていようと誰も咎めることができない。
金村は足を組んで椅子に座り端末をいじっていて、小鳥遊は緊張からか目を開けてはいるが床の一点だけをただ見ている。そして、相良と古河は隣に座り、会話をしている。誰もが周りを気にせず自分たちだけの空間を作り、緊張を紛らわそうしていた。
しかし、そんな場は長くは続かないのが戦場の常であった。
突然運転席の方から叫び声が聞こえた。しかし、その叫び声は一瞬に消えたために聞き逃してしまってもおかしくない声量だったがその場にいた四人全員が反応していた。
「相良!確認を急げ!」
隊長である金村の声を皮切りに車内の空気が冷たく変わる。今までの空気とは一変して肌がピリついた空気感になる。命令を受けた相良は急いで前方の運転席の方へ確認へ向かう。運転席には運転手がハンドルに頭を打ち付けて倒れていた。頭から血が流れて、ハンドルをつたって足元に流れている。即死だった。
この場にいるほうがむしろ危険だと感じた相良は運転手の体を助手席に退けてハンドルを握った。そして、アクセルを思い切り踏み込む。さっきまで自分が座っていた後ろの方から女の子がびっくりしたような声が聞こえたが気にしている余裕はない。
「相良!動くなら言ってからにしろ!」
「すいません!でも、この場を離れないと狙われます!」
相良が言っていることが正しいために金村はそれ以上言うことはなく、次の指示を相良に伝える。
「相良、とりあえず安全な建物に移動しよう。そこで作戦を考える」
「了解です!」
○
車を走らせて15分ほどして建物に到着した。少し淡い灰色で覆われた外壁だがガラスは全て割られているかヒビが入っている。意図的に割ったようだが何の意味があるのかはわからない。
「まだここにいるのはバレてないはずから中に入るぞ」
隊長である金村の言葉を聞いて車から四人一斉に降りて建物の中へ向かう。この建物は神奈川国が今回の戦いのために設置した武器などが置いてある建物だったらしく、床には弾薬が散乱していた。
それらを踏まないように気を付けながら、建物の内部に進んでいく四人はとある部屋に到着した。テーブルに椅子が並んでいて、まるで本部の会議室のような場所についた。
「よし、とりあえずここで状況を整えよう」
「隊長…」
金村が声掛けをして少し緊張が途切れた。が、相良は神妙な面持ちで金村に呼び掛ける。
「どうした、相良」
「隊長ここは…」
「おそらく会議室に使われていたんだろうな……『アトムス』の」
金村は後半からの声を潜めて相良にだけ聞こえるように話を続ける。
「そんな怖い顔をするな相良、確かにここはアノことを話し合うためのものだがこの建物自体を狙われたのか、今すぐに何かあるわけじゃねえよ」
「でも、そういって真は……真だったらどうする…いや、でも。…」
金村の説明に対して相良はぶつぶつ言いながら下を向いて考えことをする。目の中の黒い部分を右に左に上に下に動かして頭の中を整理するがまとまらない。
「まあ、そういうときは何も考えないことだ。ということで古河がこっちをずっとにらんでるから俺は退散するわ」
「え?」
すると、いつの日かと同じように後ろから何か物体が飛んでくるのがわかる。相良は咄嗟によけようとするも、よけきれずもろに物体と衝突した。といっても、物体は古河だから痛みはない。
「たくみ!また一人で抱え込んでたでしょ!何のための私なの!あなたのためよ!」
「唐突に飛んできてなに言ってんだ!」
「私はたくみの為を思って言ってるの!いい加減わかって!」
「わかってるよ!ありがとな!」
「う、うん…」
傍から見ればちょっと気の強い夫婦が言い合っているようにしか見えない。
こんな状況だけれども古河はいつも通りのテンションで相良は安心する。いや、実は無理矢理テンションを上げているのかもしれないが、相良はそれもわかっている。だからなのか、最近はスキンシップにも慣れてきて普通に感謝の言葉を口にすることが出来ている。
「それで?たくみはこれからどうするの?」
「どうするもなにも…、とりあえず今回の指揮をしている人のところに行かないと…」
古河の質問に相良は顎に手を当てて考えるも、あいまいな回答しかできなかった。
「でも、ここがその場所だったって聞いてるわよ」
「小鳥遊さん…」
小鳥遊は椅子に腰かけながら相良に向かって話しかける。
「ここがその指揮をしている…いや、していた人たちがいたところで間違いなさそうよ。その証拠に、ほら」
「ん?なんですかこれ?」
「今回の戦いに出動している隊員たちの名簿よ」
小鳥遊が渡してくれたのは隊員たちの名簿である。約一万人もの名前が全て載っているわけだが、どうしてこれがこの場に落ちているのかはわからない。
古河が何かに気づき、小鳥遊に質問する。
「小鳥遊さん。この私たちの名前に斜線が引かれているのはどうしてですか?」
「それはわからないわ。他にもっと偉い人がいるはずなのに、なんで私たちの名前が一ページに書いてあるのかもね…」
この会話間、三人は互いの顔を見ることはなく、それぞれバラバラなところを見て会話をしていた。まるで、そこに書いてあることから目をそらすみたいに。
しかし、三人の目の焦点は次の瞬間、一気に合うことになる。
「おい、三人とも!急いでここを離れる準備をしろ!」
突然、金村が走ってきたせいで話は中断する。そして、すぐに行動を始めると共に、相良は金村に確認を取る。
「隊長!何がありましたか!」
「でかい戦闘機が上を飛んで行った!前線が後退する!」
「では、どうしますか!」
「次の建物に向かい、指示を仰ごう。俺たちの判断で行動するには危ない」
四人は車に乗り、上空に戦闘機が飛び交う中、またしても死体の山の間を走り抜けていく。
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車を走らせてから30分が経過した頃、建物が立ち並ぶ大通りらしきところについた。
らしき、というのも地面のアスファルトはガタガタで建物の外壁も崩れかかっている。だから、ここが大通りだったに違いないと相良は分析する。
「うわ、何だこの匂い!」
相良は車から出た途端に鼻に嗅いだことのない匂いが通り抜け、咄嗟に鼻をつまむ。
「おそらく…硫黄の匂いじゃないか?腐った卵みたいな匂いだろう」
「隊長!臭いです!」
「まるで俺が臭いみたいだな…」
金村が長年嗅いでいなかった臭いを記憶から探っているときに、古河の感想により金村の発言は空を切った。
四人が辿り着いた硫黄の臭いがするここは、神奈川国の箱根に近いところに位置する。箱根といえば温泉。その温泉の湧き出るところ特有の硫黄の臭いがするのだろう。
今では観光客もいなくなり、衰退してしまっているが温泉の名残がいまだに残っていた。相良や古河はこの臭いを嗅いだことがなかったので少しビックリした顔をしていた。
「硫黄は火器で爆発しやすいから気を付けて建物に移動しよう」
金村を先頭に一列に並んで建物へと向かう。周りはそこまで高くはないものの狙撃をされるかもしれないので身を隠しながら移動を開始した。
「隊長、ちょっとお話いいですか」
「どうした?」
小鳥遊は神妙な面持ちで歩きながら金村に尋ねる。その顔はまるで覚悟が決まっておらず、一歩どころかその場から動くことのできない子供のような眼をしていた。
「この状況を隊長は……、いや、隊長はどうしてそんなに冷静でいられるのですか?前回の戦いで建物が壊され、三浦さんが串刺しになり、今回でもこの死体の山、気が気じゃありませんよ。いつ自分の番がくるのかわからずに眠れない日々。それなのに隊長と……、相良はどうしてそんなに冷静で落ち着いてられるのですか。何か知っているんですか。もし知っているならどうして私たちに教えてくれなかったのですか。どうして…」
「おちつけ、落ち着け。確かに俺たちはある程度想定していたから、耐えられているが内心はそうでもないぞ」
「落ち着いてられますか!!いつ死ぬのかもわからないのに、こんな遮るものもない道を歩いてるんですよ!今すぐにでも建物の中に…。でも、それだと前回と…」
「小鳥遊!」
「!!!」
「落ち着け。さっきも言ったが俺も想定外の連続で内心焦っている。でも、今は平気なはずだ。だから次の建物を目指せ。いいな?」
「-------」
小鳥遊は金村との会話の後から建物に着くまで一言も話さずにいた。小鳥遊は今回が二回目とはいえ、前回の戦いで命の危機に面していたので今回の戦いで疑心暗鬼になってしまっていた。だから、隊長を非難することをしてしまった。誰もが戦いは怖いし、死にたくない。だから、落ち着きをなくしがちだが金村はそんな隊員を多く見てきたから対応に慣れていた。
しかし、それでも状況が変わるわけではない。先ほどから何度か遠くで銃撃音が聞こえてくるようになってきた。一瞬でも気が抜けない。そんな中だから不安にもなるし、焦りも生まれてくる。そんな状況下に置かれたときにどうするかで強くなれるかが決まる。
そんな中、相良が一人でこちらに向かってくる。
「隊長、一度近くの建物で休んでみるのはいかがでしょう。小鳥遊さんもそうですが、真奈美もあまり顔がすぐれないので、ここは一度休息を図って状況を整理しましょう」
「あぁ、わかった。お前はずいぶん落ち着いているんだな…」
「……いえ、実際は自分を落ち着かせたいために時間が欲しいだけです。これ以上何か起きたら頭がパンクしそうです」
相良が言ってるのは前回の戦いのときに三浦の死を目撃した後、敵による発砲を背負っていた古河に助けられたことを言っているんだろう。あの時に古河が自分ごと前に倒れなかったら今の相良はいない。
さらに、その敵に対しての金村の『アトムス』の発砲。人に対して撃つのは初めてだと言っていたが、その音で相良は全てをシャットアウトして、次に目覚めたのはベッドの上だった。あの時みたいにならないためにも一度状況を把握し、選択しなくてはならない。
「とりあえずここにするか」
着いたのはさっきいた所と同じような建物だった。さらに言えば、前回の戦いで崩落したあの建物とそっくりだった。
〇
「小鳥遊さん、大丈夫ですか…?」
壁にもたれて座っている小鳥遊に話しかけたのは古河だった。自分も同じように気分が優れないのに人を心配するのは、古河の性格ゆえである。
「えぇ、大丈夫よ。まだちょっと頭が追いついてないけど…、平気。後輩に情けないところ見せられないもんね」
「そんなこと……」
顔面蒼白で乾いた笑いを浮かべながら話す小鳥遊は誰が見ても強がりだとわかる。けれど、その不安や疑念を払うことなど出来るはずもない。この状況下でどんなことを話しかけてもその心に響くことなどないからだ。
小鳥遊は落ち着いた表情を見せながら、古河の近くに行き、周りに聞かれないような小声で囁く。
「ねぇ、古河さん。あの二人何か隠してると思わない?二人だけで会話することが増えたし、今も思案顔だもの」
「…えぇ、そう思います」
「でしょ?これは、隊長に問い詰めないと…私たち何かに巻き込まれてるんじゃ…」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
逸る気持ちのままに、小鳥遊が隊長のいる方向に一歩踏み出したところを古河が腕を掴んでなんとか止める。
「わたし、あの二人を信じてるんです」
「は?何を?こんな状況なのに信じてる?相良が好きだからって自分がこんな状況に置かれたら信じられるわけないでしょう。自分の命とどっちが大事だと思ってるの?だから一刻も早く撤退して次の機会にしましょう。そこにわたしはいないでしょうけど!」
「」
小鳥遊が早口で捲し立てる中、古河は一度も瞬きをせずにその目を見つめていた。何も口にすることなく、私の言いたいことを察してくれとばかりに見つめていた。しかし、心の声は届くはずもない。だから、古河は口にする。
「わたしは、あの二人を信じています。あの二人なら私たちを守ってくれる気がするんです。私たちが知らないことを隠していようと、それがいい形になるように努力をしているはずです。だから、今はあの二人に従いましょう」
「………」
小鳥遊は隊長がいる方向とは逆の方向にある椅子に座った。一時的ながら古河の言うことを了承してくれたようだ。古河は小さく「ありがとうございます」と呟き、同じく近くにおいてある椅子に座った。
すると、その椅子の下に何か置いてあったみたいで座った時に踏んでしまった。そこにあったのは…。
「『アトムス殲滅計画』??」
そこで古河は声に出してしまったことを後悔する。
小鳥遊が凄い形相でこちら向いて近寄ってくる。血眼になり、息を荒げ、傍から見たら変人。古河が手に持っていたその冊子をひったくり、その内容に目を通す。小鳥遊の顔がその紙を読み進めていくごとにその顔が歪んでいく。さっき、古河のおかげでなんとか引っ込めた感情がもう一度フツフツと舞い戻ってくる。
小鳥遊は持っていた冊子を乱暴に古河へ投げつけた。さっき、古河が宥めてくれたのですぐに心が乱れることはないが、それでも気持ちを落ち着かせられるほど強くはなかった。
古河は投げつけられたその『アトムス殲滅計画』を読んでみる。ボロボロになっている一番最初の表紙のページを開いて、一文目に書いてあったその文に目を見張るような言葉が書いてあった。
しかし、その続きを読む前に金村の下へ向かった小鳥遊を追って、部屋から出ることにした。
「嫌な予感がする…」
古河は誰もいなくなったその部屋に向かってそう呟いた。
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「隊長!きちんと説明してください!なんですかあの冊子は!」
鬼のような形相で、金村を食って掛かりそうなくらいの勢いでその場にやってきた小鳥遊は、自分の中にある単純な気持ちをぶつけることしかできなかった。金村の口から説明されたところで理解はできても、納得はできないだろうが、それでも憤りを隠すことはできなかった。
それに対して金村は…
「冊子?一体どんなやつだ」
白を切った。
「知らないんて言わせませんよ!あの『アトムス殲滅計画』とかいうバカげたものですよ!あれの中を読んでみたら、もう私たちは……私たちは…」
そう言って小鳥遊は顔に手を当てて、その場で少しだけ背中を丸め、頭を大きく抱えた。
「とりあえずその冊子を見せてみろ」
「隊長、これです」
ようやく追いついた古河は手に持っていたその冊子を金村に渡した。
その時に目の端にチラリと相良の顔が歪んでいるのが見えた。その顔は絶望なのか、恐怖なのかわからないが、歪んで引きつった顔が一瞬だけ見えた。
金村はその冊子を眺める。しかし、そのスピードはやけに速い。読むではなく流すようにページを捲っていく。
そして、その冊子を閉じて、さっきから閉じていた口を開いた。
「とりあえずお前らの言いたいことはわかった」
「これは一体どういうことなんですか…」
「この冊子は俺にもわからない。だから、今は俺が預かることにしておこう。危険だということはわかるからな」
「」
あまりの展開に小鳥遊は口を閉ざしたまま喋ることができない。隊長なら何か知っている思っていたが、外れてしまった。ということは、今から何が起きようと、その命は隊長では保証できない。もう逃げ場などないのだ。信じていたその二人が信じられなくなった。
「古河、この建物の中に会議室があるらしいが見つけたか?」
「それなら、さっきまで私たちがいたところがそうかもしれません」
「よし。ならばそこに行こう」
金村はそう言ってその場から動き始めた。それに付いていくように相良がその場を離れる。
その時に相良は古河の顔を見ると、目が合った。
その顔は何か知っているなら話してほしいと言っていたが、目をそらすようにして誤魔化し、相良は金村の後を追った。
少ししてから、小鳥遊はなにも考えていないような無機質な目になった。そして、その場から離れていった。もう自分しか信じられないような状況になったとき、人間はああいう目をする。
古河はというと…。
「寮に帰ったら、たくみにお仕置きしないと」
戦いから気持ちが乖離している。
ように見えた。
あれから数ヶ月、プロットだけが進み本文は全く進みません。更新しないと…
※誤字脱字があればご指摘よろしくお願いします。




