幕間 壱
幕間 壱の投稿となります。よろしくお願いします。
翠失踪後の現代が舞台です。
※本作は『封神演義』の世界を舞台にしつつ、現代的な言葉遣いや独自の歴史解釈を多分に含んだ「IFファンタジー」です。神仙たちのシリアスな戦いと、メタ的なコメディ要素のギャップを笑って楽しんでいただければ幸いです!
幕間 壱:関帝廟の風、静寂を湛える
■ 横浜・中華街・関帝廟通りにて
**時は戻って現代(翠失踪の翌々日)、媽祖廟付近**
週末の金曜日。夕方ともなると、観光客以外にも中華街の飲食店を目指す人影が増える。路地には蠱惑的な甘栗の匂いが漂う。
スマホに映る地図アプリで目的地を確認した瞳は、いつもならその蠱惑的な香りを満喫するが、今は避けるように歩きながら呟く。
「翠……うちを置いてどこ行ったんよ……あの後、ピックアップキャラが全部でてきた神引きをみせたかったのに、スクショまで用意してたのに……うちが神引きしたから、翠が神隠しなんて洒落にもならないよ……」
とぼとぼと、「酔八仙」のオーナーに教えてもらった通りを歩き、言われた場所に到達するが、休業の札がかかっていた。先ほどとは打って変わって、お香のような匂いが漂うが、不思議と安らぎを覚える。
「本当にどこに行ったん。ゼミにも顔を出さへんし……無断欠席はまずいから教授には修行中とボケたら、なぜか真に受けて了解は出るわ……酔八仙のオーナーも心配ないとしか言わへんわ。みんなおかしない? せやから言うて、心配ならここに行けって言われた店は休みやし。……みんな翠が年頃の女の子って分かってるのかしら? 明日の祝勝会に来なかったら説教だよ」
視界の隅、揺れるポニテを認めた。ハッと顔をあげて視線を送るが、どこかのバンド少女がスティックを挿したリュックを背負って歩いていた。
その後ろ姿を、見るとはなしに見送り……ため息一つこぼすと寂しげに首を振ると、駅方面へと歩いて行った。
週末の喧騒を背に、男が細い路地をゆく。頭に白いものが混じった、一見猫背に見えるが、筋が通っていそうな鍛えられた背中が否と主張している。
とある角を曲がる。一歩進む度に喧騒が彼方へと押しやられ、次第に男の周囲は静寂を纏う。
路地の行き止まり、古き良き時代を醸し出しつつ、どこか時代から取り残されたよう店構えの前で男は足を止めた。掲げられた屋号は「八家堂」。男が扉を開くと古い鐘の音が小さく響き、古びた紙の匂いと、微かな線香の香りが静寂と共に押し寄せた。
「おばばは何と?」
挨拶もなしに問いかけた男に、奥から不敵な笑い声が返る。店の主人であろうか。
「おいおい、『邪魔するよ』ぐらい言えないのかい。藪から棒に」
男は鼻をならして、苦情には苦情で応える。
「……ふんっ。それを言うならお前も『いらっしゃいませ』ぐらい言え」
奥から出てきた店の主人であろう男は、諦めたように首を振って応える。
「へいへい。いらっしゃい。おばばの託宣なら預かってるよ」
「それを聞きに来た」
「たく……うちは骨董店だよ? 情報屋でも伝言版でもないんだけどね」
「御託はいい」
「へーい。『死の相はでていないが、この世に影もない。三柱の守護を受けているという卦がでてるよ。不思議な卦だねぇ。わたしゃ初めてみたよ』だと」
伝言を解釈しているのか、沈黙が場を支配する。
「あの白澤図の写本は偶然手に入れたのか?」
「今はそういうことにしておいてもらえると嬉しいな」
「俺は嬉しくない。いつまで待てばいい?」
瞬間にらみ合う二人。すぐに店の主人であろう男が、ため息交じりに両手を挙げて降参のポーズをとりながら言う。
「もう少し。おばばの卦に許しがでれば」
「できるだけ早くしろ。こっちも限界がきている。明日は祝勝会なんだがな……」
「わかったわかった。騒ぎにはしたくないってことは伝えておくよ」
「……そういえば、女の子がここに来なかったか? 翠の友達なんだが」
「ここを教えたのか? 馬鹿なことを。資格のない徒人がたどり着けるわけがなかろう」
「あの娘からは徒人にはない業を感じたのだが……」
「親バカ極まれりだな。翠ちゃんじゃないんだ。中から見てたが、その娘の業は、方向性が違う……」
「ふんっ」
骨董店から出た男は、夜の静寂をまとうようにして、冷たい海風が吹き抜ける雑踏へ音もなく紛れていった。
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明日からは第二幕 風雲の西岐城の幕が上がります。よろしくお願いします。
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次回は明日23時に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします!




