第一幕 邂逅の乾元山 其の三
其の三の投稿となります。よろしくお願いします。
どうやら太乙真人の実験台となっていたようです。果たして翠は意思疎通を図ることができるのでしょうか?お楽しみいただければ幸いです。
※本作は『封神演義』の世界を舞台にしつつ、現代的な言葉遣いや独自の歴史解釈を多分に含んだ「IFファンタジー」です。神仙たちのシリアスな戦いと、メタ的なコメディ要素のギャップを笑って楽しんでいただければ幸いです!
其の三:三奇仙のお節介、常識を蹴とばす
■ 乾元山・金光洞にて
**時はそのまま古代、金光洞の一房**
金光洞では、少女が三度、気を失い倒れている。今度は呼吸も安定しており、心労からくる一時的な現実逃避なのかもしれない。
「……全く、太乙殿。この『通言環』に限らず、そなたの創る宝貝は威力の加減がちと雑すぎでござらんか? 玉鼎殿がいなかったら、今頃干からびていたところでござるぞ」
雲中子が、気絶した少女の首元にある宝貝を、細い棒で器用に弄りながらこぼした。
少女の呼吸は安定しているが、その顔色はどこか疲弊しているように見える。
「気にするな、玉柱洞。もとより市井の民が使う宝貝など想定しておらん。それに小娘も単なる市井の民とは言えぬ。少なくとも気を通し、霊気を放出してみせた。刹那とはいえ、瑞獣の如き辟邪の瞳も気になる……単なる聖火というよりは、劫火やもしれんがな。それより今は、『通言環』が使えることが分かった上に、活きの良い贄が手に入ったことを喜ぼう」
「生贄になってるでござるよ!?」
「太乙の。なぜにまた『通言環』のような宝貝を作ったのだ?天界交流でも、おぬしなら意思疎通ぐらいできようぞ?」
「確かに交流での意思疎通には困らんが、術式や宝貝の細かいところが不鮮明になるので、技術を盗みにくいと思っていたのだよ」
「盗むって言ったでござるか?」
「良い部分は真似たいと思ってだな」
「言い直したでござる!」
「何を言っている。模倣は最大の敬意だぞ?」
「とうとう開き直ったでござる!」
「……まぁいい、前回の『ティル・ナ・ノーグ』に赴いたときにだな、『ウルシャリム』という地から参加していたソロモン王という王と知遇を得てな。彼の万物と意思疎通する術式を見せてもらったのだよ。で、この術式を盗……真似てだな。事の仔細が解せる宝貝にしたんだ。ところがいざ出来上がっても、周りは意思疎通に困らないものばかりで、本当に使えるかどうかが分からなかったのだ。威力が大きいのは、とりあえずだな。足りないよりは、余る方が良かろう? 『蟠桃も多いほど良い』と言うであろう」
「初めて聞いたでござるよ。なんかもう、とんでもない告白をされているようでござるが、この後どうするでござるか?」
「初めてに決まっておろう。今考えたのだからな。それはともかく、小娘の持ち物の検分と宝貝への錬成だろ」
「宝貝への錬成は確定でござるか……まあ、いくら間違って召喚したとはいえ、正体不明の者を崑崙に置いておくわけにもいかないでござるからなぁ。致し方ないことではござるが……」
雲中子は良心の呵責を感じつつも、太乙真人の手元を覗き込む好奇心には勝てなかった。
太乙真人は少女の持ち物と思しき袋を逆さまにし、無造作に中身をぶちまけた。何やら用途のわからない小物が転がり出るが、一際目を引くものがドサッと落ちた。布に巻かれた一尺より少し長い棒状のものだ。おもむろに布をほどき中身を持ち上げて広げて見る。
「ふむ……羽扇……なのか? 見たことのない造りだ。折り重なるのか……面白い。それにしては重いな。青銅……だとしても重い。仰ぐにも一苦労だろう。これは……石でも金でもないな。隕鉄? ……いや、違う。俺の知らぬ理の金石か。また一つ識るべきものが増えたな。扇面の布も、俺の知る織物ではないなか。くく……これは時がいくらあっても足らんな」
「そういえば、最初に目覚めたときに、腰回りを探る仕草をしておったな。武器を求めたが見当たらず、やむなく無手で戦う姿勢をとったのだろう。太乙の。おそらくそれは、棍や槌のように敵を打ち据えるための道具ではいか?」
玉鼎真人が、先の少女の仕草を思い出しながら推測する。
「扇面に何も絵が描かれていないでござる。風流の欠片もないでござるし、玉鼎殿の見立てが正しいでござろうよ」
雲中子も、その無骨な打ち物説に同意する。
「二人が言うのならそうであろうよ。だが、小娘の得物としては重過ぎるな。頑丈にしようとして重くなったのか……仕方ない。未知の金石の代わりに俺の蒐集品の中から適当な霊獣の素材を使って軽くて丈夫な扇を作ってやろう」
「いいように言ってるけど、未知の金石を貰う気満々でござるな?」
「聞こえが悪い。代償だよ」
「太乙の、扇面の布がやけに丈夫だ。もしかしたら飛び道具を防げるかもしれんぞ?」
「なるほど。なら扇面にはあの霊獣の皮がいいか……」
太乙真人は、ぶつぶつと呟きながら洞府の奥へと向かう。待つことしばし。雲中子が玉鼎真人と
他の小物をああでもない、こうでもないと見ていた。
「できた。中々の出来栄えだと思うぞ」
「もうできたでござるか?」
「何を言っている。一盞茶(十分~十五分)もあれば十分だろ?」
「冷めるようなお茶は出てはいないがな。で、どんな宝貝にしたんだ?太乙の」
皮肉ではない、玉鼎真人の素の指摘を無視し、待ってましたとばかりに語りだす太乙真人。
「骨は鯤鵬の鰭骨を使った。しかもこいつは、北の果ての冥海で、巨大な魚『鯤』が海から飛び上がり、数千里の翼を持つ鳥『鵬』に変化する頃合いを見計らって仕留めた逸品だ。伸縮の性質をもち、非常に軽いが、嵐の風にも耐えられるぞ」
そう言って、太乙真人は自慢げに扇を広げて見せる。
「扇面には夔牛の皮を使った。東海の流波山頂上まで出向くのが大変だったが、黄帝由来の逸品だぞ。こいつで作った太鼓は五百里先まで響き、世界を震わせるのだ」
「な、何と戦わせるつもりでござるか!?」
「何を言っている。せっかく作るのなら、最上の素が良いものになると決まっているだろう?」
「それ! その考えは良くないでござるって、いつも言ってるでござろう? いたずらに騒動を拡大するに決まっているでござる……後始末する身にもなってほしいでござるよ……」
「はははっ いつもの事だ。で、どんな術式を刻んだのだ?」
「いい質問だ。金霞洞。伸縮と力の吸収だ」
そう言って太乙真人が扇を広げると、一尺二寸の扇が瞬く間に三尺越えの大きさとなり、身を隠してしまった。
「叩いてみろ」
「応さっ! ふんっ」
玉鼎真人は、いつの間に手に持ち、抜き放ったのか、斬仙剣を叩きつけた。
「あっ! 剣で斬るのは良かったのでござるか!? 叩くとは?」
「おお、切れぬではないか。次は仙気で……」
普通では切れないことに気を良くしたのか、仙気を纏いだす玉鼎真人。
「まてまて、叩けと言っただろう。行き成り斬るやつがあるか!」
少し焦った様子で太乙真人が姿を現す。
「すまぬな。手近に棍がなかったので、使い慣れた斬仙剣を使ってしまったわい」
「『しまったわい』ではないわ。まったく……しかし、思ったよりいい出来だ。小娘も満足しよう」
「太乙殿。水を差すようで悪いでござるが、ご婦人はどうやって、その術式を励起させるでござる? 『通言環』のように持てば霊気が吸い上げられるのでござるか?」
「む……しばし待て」
といい、その場で作業を始めた。
しばし待つこと一柱香(三十分~一時間)
「できた。口訣で励起するようにしたぞ。大きくするときは『守』、力を吸収するときは『虚』だ。起きたら早速 試させねばな」
「線香が燃え尽きるより早いでござるよ。いつもながら呆れる早さの手練でござるな」
ちょうどその時を待っていたかのように少女は覚醒の様相をていした。
「……う、ん……」
翠の意識が、三度目の浮上を果たす。なぜか芳醇なアルコールの匂いがする。
「む、娘子が気が付いたようだぞ」
確か、玉鼎真人と名乗った半裸の巨漢が、なぜか胡坐をかいて横で瓢を呷っている。
「ご婦人、気が付かれましたか?」
雲中子と名乗った男が心配そうに翠を覗き込む。
「起きたか。存外に寝つきの良い小娘だ」
太乙真人と名乗っていたぼさぼさ頭の男が悪態をつく。
視界がクリアになるにつれ、翠は自分が岩の上に横たわっていることに気づいた。
更に、気を失う前のことを思い出し、首に手を当てる。まだチョーカーがつけられたままだ。
先ほどのように、何かを吸い上げられるまではいかない迄も、心なしか吸い付いて離れない気がする。とりあえず外すかと手をかけると、
「その『通言環』は、外さない方がいい。また言葉が分からなくなるからな」
と諭すように声をかけられた。
「通言環?」
「そうだ。万物と意思疎通ができる宝貝だ。喜べ小娘。お前が初めてそれを使った民になる」
「いやいや、私これで死ぬかと思ったのですけど!?」
「死んでおらぬではないか。多分、宝貝の励起時に、お前の識を取り込んで意思疎通を行うのに莫大な霊気を必要としたのだろうな。今は安定しているようで何よりだ。しかしわからん。見かけは俺たちとそう変わらない顔立ちに髪色。西域の果てならわからんでもないが、見るからに近くの邑にいそうなのに、なぜこれほど霊気を必要としたのだ……小娘、名はなんと申す。どこの邑出身か?」
翠は自分が宝貝や、自動翻訳、霊気というものを受け入れて話を続けていることに愕然としながらも考えを巡らす。
「私の名前は『翠(みどり』 神代 翠です。日本の横浜というところの出身です」
少し考え、付け足す。
「あなた方、崑崙の仙人様からすると、東方……『蓬莱』より東。えーっと、寅の方角? 『扶桑』と言った方がわかるかしら? 『秋津洲』?」
戸惑いながらも、歴史と小説、あとは京子の薫陶よろしく、ゲームなどのサブカルで得た知識を総動員して伝える。翠が凛としながらも少し自信がなさげな声を聞いた、太乙真人は、翠の口元を見詰めながら目を細める。
「ふむ……『カミシロ ミドリ』『ニッポン』……なるほど、『通言環』が読み取ったのは『秋津洲』の理か。玉柱洞、何回か前の天界交流会で、東海の果て、日の昇る場所に浮かぶ八百万の神の領域のやつらの話をしていなかったか?」
「……東海の果て……『高天原』? 東方の天界でござるな。しかも姓も名乗っているのに加え、さきほどは霊気が雷の気を帯びていた。……もしや雷神殿に縁のある家系のご息女!?」
雲中子は驚愕の表情を浮かべる。
「いや、それでも説明がつかぬ気がする。今一つ……何かが足りない……」
己の直感が感じる違和感に悩む太乙真人。
「あのー 今は何方の治世かをうかがっても?」
これまでのやり取りで、何か気づきたくないことに気づいたような翠が問いかける。
「ん? 今は商の紂王三十年だぞ。翠の」
軽い調子で返す玉鼎真人。
推しがマッチョと知ったときの親友(京子)を思い浮かべながらも、当たってほしくない予想が当たり、念押しをする。
「……もしかして革命中だったりします?」
「詳しいな翠の。そうだ」
念押しの結果得た確信の深さからか、親友なら「ありよりのあり」と返ってきそうな業の深さからくるものか、眩暈を感じながらも三仙に告げる。
「なぜそうなったのかは聞かないで欲しいのですが、多分……
……私、三千年の未来から来たようです……」
迷いながらも意を決したように翠が告げる。
「なんと、三千年の未来でござるか!?」
「ほほう。面白い。」
「でかした! 未来か! 因果の螺旋は、俺の想像以上の卦を引いたぞ」
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