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異聞!封神演義 哪吒の妹  作者: 古書堂 箕風


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間章 星辰の回想、星霜の褥 壱

間章 星辰の回想、星霜の褥《しとね》 壱の投稿となります。

幕が長くなりそうな時に挟んでいきますのでよろしくお願いします。

ブックマーク登録ありがとうございます!

※本作は『封神演義』の世界を舞台にしつつ、現代的な言葉遣いや独自の歴史解釈を多分に含んだ「IFファンタジー」です。神仙たちのシリアスな戦いと、メタ的なコメディ要素のギャップを笑って楽しんでいただければ幸いです!

間章 壱:師の教えと無自覚と


■ 乾元山・金光洞(魔窟)にて

 **時は殷周革命中。破天の盤、準備中**


 瑶池から金光洞に戻ってきた一行。一人酒盛りをしていた……もとい留守番をしていた玉鼎真人と合流し、ひと時の休息をとっている。ふと、何かに気づいたように雲中子が翠に言葉をかけた。


「翠殿ー つかぬ事でござるが、三千年後の未来では、翠殿のように誰もが武に心得があるでござるか?」

「そんなことないですよ。私は師についていましたが、基本的には平和な世の中なので、ほとんどの人は武の心得なんてないですよ」

「そうでござるか。そういえば翠殿の師は、『料理人』とか言っていたでござるな」

「儂もその師とやらには興味があるぞ。じゃがそれよりも、お主の修行にも興味があるの」

「それなんですけど、弟子入りの記憶がないのですよね。物心ついて気づけば弟子入りしていたんです。でも、修行の方は良く覚えていますよ」

「それはなんとも奇妙な縁でござるな。弟子入りを覚えていないというのも気にはなるでござるが、今は、その修行の思い出を聞かせて欲しいでござるよ」


そう問われた翠は房の片隅にある大きな瓶を見ながら答えた。

「そうですねぇ……一番古い記憶は跑缸《ほうこう》かなぁ」



■ 横浜中華街にて

 **時は戻って現代、翠幼少期**


 空は良く晴れており、遠く蝉の鳴く声が聞こえる。早朝といえど、朝から汗ばむ程度には暑い。


「ししょー、 これにおみずをいれてプールするの?」

「そうさなぁ お前さんも来年からは小学校にあがるから、水練《すいれん》ぐらいは教えた方がいいのか? いやいや、今日から新しい鍛錬を始めようかと思ってな」


師匠と呼ばれた男はそう言って慕ってくる幼女の髪を撫でつけながら、遊びではないと窘《たしな》める。その横には男も入りそうな大きな三石甕《さんごくかめ》が置かれている。


「おいおい、水遊びに使うなら、もっと別のものを用意したのに。お前が出来るだけ大きな陶器の水瓶というから、これを取り寄せたんだぞ? このサイズですら滅多に市場に出ないんだぞ!」

裏庭の壁際で紫煙を燻《くゆ》らせながら師弟のやり取りを見ていた男が猛然と抗議する。翠にとっては、師匠の指定する翠の修行道具を持ってきてくれる近所のおじちゃんである。師匠とはいつも口喧嘩をしているが、本当は仲良しさんであると翠は子供心にそう認識している。


「俺は五石甕《ごこくがめ》と言ったはずだが?」

「国宝級だわ! 市場に出る訳ねーだろう」

「ふむ……今はこれでいいが、いずれ必要になる。作っておいてくれ」

「はぁ? 何言ってんの? 人の話聞いてる?」

「高さはこれぐらいでもいいが、五尺あればなおいい。縁の直径は四尺あるといいな」

「だーかーらー……人の話を聞けよ! 水遊びならプール使えよ!」

師匠は、息を切らしながら抗議する男を不思議そうに見降ろしながら応える。


「お前こそ何を言っているのだ? 水瓶を使う修行といえば、軽功しかなかろう。跑缸に決まっておるではないか」

そう言って男は無造作に1メートルはあろうかという三石甕の上に飛び乗った。


「おおー ししょうすごい! みどりもやるー」

無邪気に師匠を称賛する幼女(翠)。

抗議していた男は、その無邪気さに毒気を抜かれながらも抗議は続ける。

「今時誰もやってねぇーよ! いつの時代の話だよ!」

「俺はやっていたが?」

「嬢ちゃんには危ないだろー」


抗議する男の最後の抵抗か、翠を引き合いにだす。しかし師匠はやれやれという表情で、翠に指示を出す。

「翠。走磚《そうせん》をこのおじさんに見せてあげなさい」

「はーい……あれ? このおじちゃんにはみせていいの?」

「良いさ。今日はレンガの長手面《ながてめん》を上にしなさい」


頷いた翠は、よいしょよいしょと八個のレンガを庭の壁際から持ってくると円上に並べだした。もちろん言われたとおり、側面の長い方の面が上にくるようにしている。更によく見ると、地面には八角形のくぼみがあり、そこに挿し込むようだ。その様子にまさかという表情をする男。


「ししょー ならべたよ」

「そうさなぁ、幼稚園で習ったと言っていた『浜っ娘音頭』にしようか」

「はーい」


返事をした翠は、レンガの上に立ちながら器用に「浜っ娘音頭」を披露する。

その様子をみて、さらに口を開いたままの男の横にひらりと着地した師匠。

「そろそろ次の段階に進んでもよいころだと思ってな。翠こちらに来なさい」

「はーい」


とてとてと走り寄ってきた翠を抱えると、三石甕の縁に立たせた。子供一人乗せたぐらいではびくともしない三石甕。しかし、いかに子供とはいえ、その縁の幅は大人の指三本あるかないかでは、十分に広いとはいえず、綱渡りをするに近い。にもかかわらず、翠は怖がる素振りもみせず、またも「浜っ娘音頭」を披露する。それは卓越した集中力のなせる業か、それとも才能か、あるいはそのどちらもか。

「うむ。歩法は問題なくできるようだな。今日からは倒立も始めようか」


そう言うと、師匠はまたも三石甕の縁で浜っ娘音頭を披露している翠を抱え上げると、壁の方へと連れて行き、倒立を教え始めた。なんとも時代錯誤的な指導と、それを難なく熟《こな》す才能を目の当たりにした男は、残っている煙草を吸いながら、しばし思案顔になる。

まあ……そういうこともあるさと自分に言い聞かせ、さてどうやって依頼の五石甕を調達するかとつてを思い浮かべながら裏庭を後にした。


数か月後……蝉の声が鈴虫の声に替わるころ。何とか手配した五石甕を置く相談に来た男は、倒立の姿勢で三石甕の縁を移動する翠を見てまたもや呆然とすることとなった。



■ 乾元山・金光洞(魔窟)にて

 **時は殷周革命中。破天の盤、準備中**


翠が一通り、初期の軽功の修行の記憶について語り終えると、雲中子は驚いたように尋ねる。

「気にはなっていたでござる。翠殿の武術は、仙術を基にしたものではなく、体術だけのものでござったか……」

「そうですよ。私の時代では基本的に仙術というものが伝承に登場するもので、実在するものではありませんでした。創作にはよく出ますけどね」


そういうと、翠は立ち上がりながら、先ほどの房の片隅にある水瓶の方向をみると、裂帛の気合とともにトンボを切って、その縁にそっと降り立つ。その距離はなんと三丈(約5m)。人外ともいえる所業に本人は無自覚だ。


「すごいでござるな」

「ほほぅ」

手放しで称賛する二仙。その横で、榜を弄っていた太乙真人は顔をあげて、「あっ」と声をあげる。

何事と振り向く二柱と一人。太乙真人は翠の足元を見ている。


視線を感じた翠は何かやらかしたかと考えるが心当たりはない。

「その水瓶な、莫迦弟子のために、童子が清水を汲んできてくれたんだ。お前がいつでも喉が潤せるようにとな。お前が良ければ、俺はどうでもいいのだがな……」


翠がはっとして足元をみた丁度その時、履《くつ》から、泥汚れがぽちゃんと水瓶に落ちて行った。


気まずい空気が洞を支配するなか、金霞童子が、奥からてくてくと歩いてくる。その後ろには翠がたっているものと同じ水瓶が宙に浮かんで付いてきていた。

「翠様。ご案じ召されませぬよう。元より二つの水瓶を用意するよう言いつかっておりました」


金霞童子の言に、ほっとした翠。ついと師匠を見やると、元より何もなかったかのように榜を弄っている。

そんな二人をいつもなら雲中子が取り持つところだが、新しい武術への好奇心が抑えきれない玉鼎真人が問いかける。


「して、翠のぅ。お主はその水瓶の縁に立つ次の修練は『倒立』と言っておったな。それができると、どうなるのだ?」

「はい。この倒立功の最終形が、『一指禅《いっしぜん》』もしくは『二指禅《にしぜん》』と言われるものです。私はその境地に達していませんが、この状態から、支えを人差し指だけ、もしくは、人差し指と中指の二本の指だけで倒立を行い、更にそれを片手で行います」

翠はそう言いながら水瓶の縁を握るように倒立を行い、おもむろに片手となる。その姿勢は微動だにせず、一本の柱のようだ。


「眉唾ではありますが、さらにその状態で跳躍をするとか……私は倒立までしかできませんが」

そう言いながら、片手で水瓶の縁から跳躍し、二仙の前にまたもやトンボを切って戻ってきた。

「できないでござるか?」

「否、できるであろう?」

二仙が不思議そうに翠を見ている。その反応に首を傾げる翠。伝わらなかったのだろうか? と考える。

「指一本で身体を支えたら、折れちゃいますよ。まだそこまで鍛えていませんから……」


翠の応えに、雲中子は顔が引きつるのを感じた。(いやいや、鍛えたらできるのでござるね……)


またもや榜から顔をあげて見ていた太乙真人が口を挟む。

「莫迦弟子よ。お前さん、『青龍探爪《せいりゅうたんそう》』とか言って、指に霊気を纏わせただろう? なんで出来ないと思ったんだ? やってみせろ。金霞洞から仙気闘法も習ったんだろ?」

「へっ? いや、そんな簡単に奥義なんて……私の指折れますって」


と言いつつ指に仙気をまとい、その場で倒立を行う翠。まずは五指を立てた状態だ。確かに指先への負担が思ったよりもないことに気づく。

試しにと、まずは人差し指と中指にだけにしてみる……果たして苦も無く倒立を続けられた。ならばと、中指を握りこみ、両の手による一指禅……問題ない。いや、問題なくできたことが問題か?

両手ではあるが、奥義の一指禅ができてしまった翠。ままよ! と、左手をそのまま、右手を腰に当ててみる。仙気闘法というサポートはあるものの、最奥の一指禅を開眼してしまったようだ。


図らずも絶技を披露している少女の姿は、三仙からみると、一本の楔が大地に突き刺さっているかのように、全身を仙気が包んでいるようだ。


「あれ……出来ちゃった」

「ふん。お前の居た時代のやり方ではないかも知れんが、仙気闘法の一指禅としては完成したのではないか? まだ完全とは言えぬが、それは金霞洞と詰めればよかろう」

 

太乙真人は興味が失せたのか、また榜を弄りだした。

玉鼎真人は前のめりとなり翠に懇願する。


「翠のぅ。頼む。二指禅の指南を。儂の予感では、近く二指禅が儂の命を救うことになるのじゃ」

(え、何そのピンポイントのシチュエーション?)

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

明日より第四幕の続きを再開します。よろしくお願いします。

もし「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下部にある【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】の評価で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!


次回は明日23時に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします!

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