第四幕 絶望の十絶陣 其の三
第四幕 其の三の投稿となります。よろしくお願いします。
※本作は『封神演義』の世界を舞台にしつつ、現代的な言葉遣いや独自の歴史解釈を多分に含んだ「IFファンタジー」です。神仙たちのシリアスな戦いと、メタ的なコメディ要素のギャップを笑って楽しんでいただければ幸いです!
其の三 悪意の蠢動、絶望を誘う
■ 泰然の乾元山・金光洞(魔窟)にて
**時は殷周革命中。破天の盤を整える 続き**
翠と三奇仙が、翠からもたらされた革命の識について整理していると、突然、洞府内に玉麒麟のいななきが響き渡る。続いて哮天犬がまさに今敵を捕獲せんとばかりの勢いで翠のもとまで疾駆したかと思うと、清水を催促している。それを慌てて追うように青年道士の二柱が金霞童子に導かれるように現れた。
「なんだ、金霞洞の弟子を呼んだのに、天化きゅんまで来たのか。まあよい」
「師伯! 招きもなく参洞した非礼は幾重にも詫びます。しかし、その『天化きゅん』は止めていただきたい!」
「おもしれーから 断る」
「師伯!!」
猛然と抗議する黄天化。
一方、当の呼ばれた本人は有り得べからざる光景に、口をパクパクしている。その視線の先には何時かと同じく、器に注いだ清水を美味そうに飲みながら、その毛並みを整えられている自分の宝貝がそこに居た。
その口をパクパクする道友の視線の先を見た黄天化も、さっきまで憤りは鳴りを潜め、美しい女仙が小動物と戯れるのもまた良いものだと見惚れている。
そんな新進気鋭の青年道士二柱を瞬時に戦闘不能に陥らせた当の本人は、甲斐甲斐しく哮天犬の世話をしている。
中々の混沌ぶりに流石の雲中子も苦笑いしながら、そう言えば滅多に鳴かないはずの玉麒麟もうれしそうにいなないていたなと思い出し、取り次ぐ。
「翠殿は、霊獣に好かれる質なのでござろうな。雷の精も懐いているようでござるし」
「そんな質、聞いたこともないわ。おい金霞洞の弟子よ。いつまで呆けている。疾くと、飛雲洞の弟子について披露せよ」
滅多に見られない自分の弟子の呆ける姿を肴に、瓢を呷る玉鼎真人。しかし何時までもそのままではまずいので、とりあえず斬仙剣の鞘で小突こうかとした先に、楊戩が我に返る。
「し、失礼しました。弟子楊戩、お召しにより参上しました」
呆けていた時間はなかったかのように拝礼する楊戩。しかし太乙真人は追撃をする。
「自慢の宝貝が他人に懐くなんて滅多に見れねぇだろう。いくら宝貝とはいえ、霊獣は霊獣だったという証左だな。他の転化を持っているやつらも驚天動地だろうな。で、正気に戻ったお前さんに飛雲洞の弟子について色々と披露してもらいたいとこだが、何に備えてかが分からなければ披露のしようもないだろう。莫迦弟子。その宝貝、いつまで撫でる気だ。早く持ち主に返せ。しかるに何故飛雲洞の弟子なのかを説くといい」
促された翠は、哮天犬を撫でる手を止め、両手でやさしく挟みこみ、その顔を楊戩の方に向ける。その後、臀部を軽く叩くと、陶然としていた哮天犬の表情が何事もなかったかのように振る舞いながら、さっと楊戩の懐に潜った。その様子をみた翠はうんと頷いて口を開く。
「楊戩道兄、ごめんなさいね。あまりに美味しそうに清水を飲むのでつい撫でてしまいました」
「いや、それは構わぬが、翠殿は、霊獣を手懐ける術をお持ちなのか?」
警戒する楊戩。翠は首を傾げる。
「いえ、ただのスキンシップですよ。おいしく清水を飲んでくださいねって」
「『すきんしっぷ』という術なのか?」
「楊戩の。翠ののそれは術ではないようじゃ。特別な気の流れは見えん。それより話を早く進めんと、太乙のが何か仕出かしそうじゃぞ」
玉鼎真人の助け舟に感謝しながら、翠は続けた。
「はい。なぜ土行孫道友なのかというところですが、二つの理由があります。一つは道兄もご存知のとおり、救出の際の主力に必要な地行術の使い手としてです」
「そうだね。彼の地行術は素晴らしい。そこに太乙師伯の仙界外の術が組み合わさると思うと……それはそれは埒外の威力を発揮してくれるだろう」
楊戩は想像するだけでも楽し気だとばかりにうなずいた。
「もう一つの理由について、話は九天玄女様の依頼に遡ります。依頼の内容は竜吉公主が封神を免れる算段を付けるというものでした」
翠が九天玄女の名を口にすると、皆一様にピリッと引き締まる。一人だけは物理的にピリッと引き締まる。
「本来、西王母の娘でもある竜吉公主が、蟠桃園での宴で粗相をした罰というだけで、封神されるほどの罪となるものなのでしょうか? 何か陰謀があるのではと考え、三奇仙様と私の識を辿り、公主様の縁結びが偽の符による可能性を突き止めました」
「偽の符とは穏やかではないね。天界の美姫と名高い竜吉公主に偽の符による縁結びを勧めるなど、西王母様の御気色を損ねるに決まっているではないですか。無量天尊、無量天尊」
今度は西王母の怒りを想像したのか、いつもは春風駘蕩としている楊戩にしては珍しく怯えた表情で、厄払いの呪文を唱えるように言葉を重ねた。そんな様子を見ていた翠は思っていたより感情表現が豊かだなと思いながら続ける。
「色々と不可解なことが多い今回の革命ですが、この縁結びもそうです。此度の革命では、革命中にもかかわらず、二組もの縁が紡がれます。師父もおっしゃるよう意味が分かりません。一方では数多の道姑も封神されていますが、皆、戦いの果て、謀略の果てに封神されています」
「面妖な、だがそのもう一つの縁結びが、土行孫道友の縁結びでしたね。さりとて、縁結びは言祝ぐべきことなのではないのかい? 竜吉公主の方は刑罰だとすると奇異に思えるが、土行孫道友は縁が結ばれることを望んでいるのだとすると、私は善哉だと思うのだが……」
楊戩は少し気の弱い、しかし真面目に百年もの間、修行に邁進していた道友を思い出しながら答える。
「そこです。土行孫道友は仙人になりたくて修行をなされていたのでは? 私の識では、道友は仙人になれない、だから美しい女性と縁を結んで、人界の富貴を享受するほうがよい と、『初めて』会ったばかりの申師叔(申公豹のこと)に忠言を受けた、とあります。ご丁寧に縁を結ぶ美女候補の父への紹介状まで添えて」
今度は白額虎に跨る、申師叔を思い浮かべながら応える。
「確かに申師叔は、良い噂を聞かないが、元始天尊様の直弟子で、姜師叔の弟弟子だ。闡教の道友の世話を焼いてもおかしくはなかろう」
翠は痛ましげにかぶりを振る。
「楊戩道兄、残念ながら申師叔は、この革命中、隙あらば姜師叔と敵対する行動ばかりとり、革命の邪魔をしようとします。結果的にはそれが功を奏して、申師叔の思いとは裏腹に、姜師叔の封神計画が成功してしまいます。いわば、姜師叔は正道を通って、申師叔は自身の思いとは真逆に、左道を通って封神計画を実行したことになります。どちらかというと、申師叔は闡教の徒を陥れようとするのです」
「豈……図らんや。貴女の識にはそうなっているやも知れぬが、何か深い理があってのことかもしれん」
悄然と呟く楊戩。雲中子が気づかわし気に楊戩を見ている。
「言葉が過ぎました。楊戩道兄。此度の土行孫道友の縁結びは、申師叔の仕業ではないと私も考えています」
「というと?」
これまた珍しく縋るように尋ねる楊戩。
「そうですね。では縁結びは何方様が司っておられますか?」
「……それは女媧様だ」
「はい。その通り女媧様です。それでは何処で申師叔が、土行孫道友の縁のお相手を知ったのか? 女媧様に教えを乞うた? もっと不自然です。そうではなく、申師叔を名乗る誰かに、土行孫道友は縁結びを持ち掛けられたと考えるのはどうでしょう?」
翠の言に、驚愕する楊戩。絞り出すように反論する。
「いや、翠殿はそうは言うが、白額虎に騎乗するのは仙界広しとはいえ、申師叔ただ一柱。間違うわけはなかろう」
「土行孫道友は、初めて見る白額虎が近づいてきても、その場に止まれるほどの胆力をお持ちでしょうか?」
「否……それこそ土行孫道友の得意の地行術であっという間に姿を隠すだろう」
「でも、会って話をしたという伝承があります。ということは、白額虎に乗っていない。少なくとも同行はしていないと思われます」
「然れど、申師叔のご尊顔を拝せば、誰だかわかるのでは?」
翠は、二人の遣り取りを目を白黒させ聞いていた黄天化に問いかける。
「天化道兄、申師叔に拝されたことはありますか?」
翠からの突然の質問に、顔を赤らめながら応える黄天化。
「貧道は、申師叔の名は存じ上げているが、会うたことない。しかるに、ご尊顔だけでは拝しても誰かは分からぬ」
そんな馬鹿なという雰囲気の楊戩。翠が畳みかける。
「楊戩道兄、あなたほど仙界の様々な事に通じ、様々なお方とご縁をお持ちの道士は片手に余るでしょう。翻って、土行孫道友はいかがでしょうか?」
翠に押され気味の楊戩。聞けば聞くほど土行孫と申公豹の話には聞こえなくなってくる。
「そこで土行孫道友と、申師叔を名乗る輩が現れたら連絡をもらうための盟約を結びたいと思います。縁結びのお相手、鄧蝉玉の父君である鄧九公への紹介状をお礼として」
「勝負ありじゃの。楊戩の。お主、翠のを土行孫とやらのところまで連れていくのじゃ」
■ 泰然の夾竜山・飛雲洞にて
**時は殷周革命中。土行孫修行中**
霊峰崑崙に連なる夾竜山は飛雲洞。洞の前にある崖の上に童の姿が見えたかと思ったら、次の瞬間、その童が下に現れる。と思ったら、今度はまた崖の上ということを何度も繰り返している。誰あろう、今日も今日とて修行に励んでいる土行孫その人であった。
修行中の土行孫を驚かさないよう、少し洞府から離れた場所で土遁を下りた楊戩、翠、雲中子の一行は、歩いて洞府に通りかかった。顔見知りの楊戩が声をかける。
「精が出るな、土行孫道友。光陰、箭の如し。久しく面を合わせてないが、今日も素晴らしい地行術だね」
聞き覚えのある声での挨拶に、応えようと振り返った土行孫。
しかし、顔見知りの楊戩の後ろに見知らぬ二人の姿を認め、さっと土中に潜り崖の上に移動した。
「や、やあ、楊戩道友なのだ。今日は一体何用なのだ? 後ろのお二人、お連れさんなのだ?」
楊戩への親し気だが短い返事の土行孫。会話が苦手のようだ。更に、初めて見る二人に警戒心が露わなのが見てとれる。
「こちらは雲中子師伯と、太乙師伯の弟子、翠殿だ。今日は道友に用があって来たのだよ」
土行孫の警戒をほぐすためか、柔らかく答える楊戩。まったく逆の効果を発揮する。
「ひっ! 雲中子師伯と太乙師伯なのだ!! 三奇仙なのだ!? うちの洞府には梱仙縄しかないのだ!」
更に警戒感を強めた土行孫。やはりと雲中子を見る翠。
慌てて雲中子は首を振り、楊戩が執り成す。
「だ、大丈夫だよ。師父もいないし、太乙師伯も来ていない。そのお弟子さんだよ」
「む、そうか雲中子師伯だけなのだ。なら大丈夫なのだ……で、お、おら……いや、ひ、貧道に何用なのだ?」
言いながらさっと地行術で崖の下に降りてきた土行孫。
楊戩の足元の一丈先の大地がぱかっと割れたように見えたかと思うと、そこには身の丈が八尺に届かずほどの童が佇んでいる。しかしよく見ると、童にしては老成しており、れっきとした成人男性であることが伺える。しかし、その眼は常に周囲を警戒するかのようにせわしなく動き、その赤い団子鼻もひくひくと嗅ぎまわっている。口元は卑屈なまでに引きつっており、何とも言えない雰囲気を醸し出している。しかしひと際目を引くのは、その掌かもしれない。明らかに体のサイズにはあっておらず、玉鼎真人よりも遥かに大きい。地行術の秘を垣間見せるようだ。
「それは、こちら太乙師伯の弟子、翠さんからお話いただくとするよ。翠さん説明を」
三奇仙様といいつつ警戒心を高めた土行孫にさもありなん。どんな被害にあったのだろうと思いながら翠は説明を始める。
「お初にお目にかかります。土行孫道友。私は太乙師父の弟子、李 翠です」
「李 翠、太乙師伯の弟子……なのだ。えええ! 李……哪吒なのだ!?」
翠の名乗りも劇的な効果を表す。自らの連想にぎょっと目を剥く土行孫。
たちまち得意の地行術で崖の上へと戻った。
いったいあの人達は何をしているんだとこめかみを抑えながら翠は土行孫を宥める。
「三哥はいません。降りてお話を聞いてくださいませんか?」
周りをきょろきょろと見渡し、本当に付近に他に誰もいないことを確かめた土行孫は崖の下に降りてきた。
「な、哪吒を三哥と呼ぶなのだ。とんでもないのだ。お、お初にお目にかかるのだ。お、おらは懼留孫師父が弟子、土行孫なのだ」
■ 悠久の金鰲島・白鹿島にて
**時は殷周革命中。申公豹、白鹿島で跳梁跋扈する**
秦完が童子を使いにやり数刻後、九人の道士、道姑が呼びかけに応じて集結していた。
一字巾や九揚巾を身に纏うもの、魚尾金冠や碧玉冠などをかぶるもの、果ては西方教の修行者を思わせる質素な装束を纏ったものが、車座になり、思い思いに佇んでいる。
一同を見渡した秦完が口を開く。
「皆、修行を中断させてすまない。聞道兄の大難と聞いてな。皆の一臂の力を貸して欲しい」
「聞道兄の大難というのであれば、聞き捨てならぬ。しかし、その報は真なりか? 道兄は、商の都で天子を守護し、富貴を得ているのではなかったのか?」
碧玉冠をかぶった理性的な青年道士が疑問を挟む。
「趙道兄の憂は道理だ。こちらの申道兄が義により報せてくれた」
「はんっ! どうだか。他門の洞に虎なんぞ連れ込む輩の、どこに道理があるというのだい」
秦完の応えに、深紅の八卦衣を纏った道姑が言い捨てる。九人の中では唯一の女仙だ。
碧玉冠をかぶった理性的な青年道士がそれに続く。
「その虎、額の雪のような白い王の字を見るに、白額虎とお見受けする。となると仙界広しとはいえ、それを騎獣とするのは一人しかいまい。さきほど秦道兄も『申』殿と言っておったしな。闡教の徒が何の義があって、我らに与しようとする?」
九対の鋭い視線が、秦完の後ろに居る申公豹を睨みつける。
申公豹は、今気づいたとばかりに飄々と言い放つ。
「これはしたり! あまりの居心地の良さに、吾輩の洞府のように振舞ってしまっておったわ。非礼許されよ。白(白額虎のこと)や、表で待っていておくれ」
白額虎はゆっくりと立ち上がると、周囲を威嚇することもなく、傲然と洞を去っていく。
一人残った申公豹、言葉とは裏腹に、悪びれもしない様子に一同の視線は更に剣呑さを増す。しかしそれに気づかない様子で、申公豹は優雅に拝礼する。
「さすがは秦道兄の道友方。多士済済とはこのような方たちのことを言うのだと、この申公豹、今、知り申した。此度、聞道友の大難の報を告げたのは他でもない、西岐の反乱に道理がないと思ったが故。そしてその反乱を収めんと奮闘する聞道兄に道理を見た故」
そして、やおら面をあげつつ、一同をゆっくりと上目遣いにみやる。
「吾輩は確かに闡教の徒ではあるが、その前に道を極めんとする道士でもある。道の前には闡教も截教もあるまいと思うが、いかがかの?」
秦完も執り成すように皆を窘める。
「朱道兄、趙道兄も矛を収めなされ。申道兄の申すとおり、道の前には截教も闡教もない。そして道理も正されねばならん」
そう言って皆を窘めようとする秦完。
その言葉を遮るように、一字巾を頭に巻いた赤ら顔の男が指摘する。
「秦道兄、そなたの言、道理である。であればこそ、何故そこな申道兄は、自で道理を正さんのだ? それこそ道理であろう」
痛烈な指摘を受けた申公豹。表情を苦悶に歪め項垂れる。その様子を可哀そうに思った秦完が助け船を出す。
「袁道兄、言葉がすぎる。申道兄は、義の士である。申道兄の報せなくば、我ら聞道兄の大難を知ることもなく、何も為すことができなかったところだぞ」
項垂れたままの申公豹が言葉を紡ぐ。
「秦道兄。慈悲の言、感謝に堪えぬ。袁道兄の言こそが道理。恥を晒すが、此度の西岐の反乱には我が闡教の徒が合力しておる。姜子牙と申すものだ。だがこの者、吾輩の兄弟子にあたるゆえ。目上の者にはおいそれと逆らえん」
悔し気に項垂れて語る申公豹。さらに言を重ねる。
「秦道兄は吾輩を義の士と称えてくれたが、実態はこのありさまさ。我が身の不甲斐なさを嘆くばかりよ。笑ってくれたまえ」
突然の告白と卑下に言葉を失う一同。
ややあって、袁角が謝罪する。
「いや、貧道の方こそ言葉が過ぎた。同門でも道を違うことはあろう。それが兄弟子ともなれば、何をいわんや。申道兄の報せに礼を欠いたのは貧道であった。非礼、許されよ」
皆も謝罪する空気となり、申公豹はにやりとするが、項垂れたままなので、誰も気づかない。
場を改めようと碧玉冠をかぶった趙江が発言をする。
「申道兄の報せから察するに、聞道兄の大難とは、反乱軍に闡教の徒がいることであろう。しかし、我らが徒に戦場に出ても双方の被害が増すばかりで、道兄の望むところではないであろう。いかがしたものか……」
道の研鑽にはそれぞれが一家言を持ち、それなりに深い造詣を持ってはいるものの、こと軍政ともなると世俗に疎いためかやや心もとない一同。良策に恵まれず、沈黙が場を支配する。そのような場に、あたかも大海に溺れるものへ、天上からもたらされる救い糸の如く、するすると一本の糸が垂らされる。申公豹からの献策であった。
「吾輩に一つ、諸兄に献策仕りたいのであるがよろしいか?」
目の前に垂らされたものは、糸は糸でも墨蛛の網とは露ほども疑わない一同。
誰ともなく申公豹に続きを促す。
「『陣比べ』というのはいかがであろう?」
その響きに魅力を感じたのか秦完が問いかける。
「申道兄。『陣比べ』とは初めて聞きます。如何にするものですか?」
申公豹は、さほど周到に用意したわけでもない、墨蛛の網にかかる哀れな獲物に、少し興ざめるも内心の侮蔑をおくびにも出さず説明を続ける。
「左様、言うなれば知恵比べか。吾輩たちの長年の修練を陣に託し、西岐に与する闡教の徒に解かせる。截教と闡教の玄妙さを披露しあうということだ」
道の前には両教差はないと言った舌の根が乾く前の発言だが、知恵比べ、どちらの術が玄妙かとの問いは、極上の甘露の味わいをもった毒として、かれらの誇りに染み渡り、自縄自縛へと誘う。
いつしか申公豹に巧みに主導権を奪われているが誰も気づかず、話を続ける。
「今、ここに十仙……いやその道の深さから十天君と言った方が相応しいな。一天君、一陣を敷き、十絶陣と名付けるのはいかがか?」
申公豹の甘言が道士たちの誇りをくすぐる。
「……我ら十天君で十絶陣を西岐に敷こうぞ……」
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
本文で哮天犬を転化と表現しております。これは宝貝の分類で、霊獣などを宝貝としたものという設定です。他に原初、然珠、錬具というものを予定しております。おいおい登場する予定です。
もし「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下部にある【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】の評価で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!
次回は明日23時に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします!




