第35話 オペレーション・ワルキューレ(笑)
会議室がシーンとしている。
魔王さんの奪還作戦について、誰も良い案を思いつかないからだ。
私はそれなりの案があるけど、採用されたら嫌なんだよね。
残念ながら、多分採用されるだろうなと思っている。
誰かもっと有力な案を出してくれたら私も考えてますよって言えるのに。
採用されたら、私が目立つんだよ。
他の人が変わってくれるならすぐ言うけど、絶対に私が作戦の主役をやらされるんだよ!
「どなたも、他に案を出す方はいらっしゃいませんね……私からの作戦案、よろしいですか?」
みんなが頷いている。
「では……私の作戦案ですが、ヤクメー殿に陽動作戦をやっていただきます。陽動のターゲットは、魔導中央プラント。ここで目立つように暴れていただき、敵の意識が向いたところで移動し、複数の魔導中継結晶塔を襲撃していただきます。敵の目がヤクメー殿に向いたところで、本体は魔王城に攻め込み、ハルカ様に拡声魔法で、クーデター派の嘘を暴きながら説得を試みて、敵の内部から崩すという作戦ですね」
「僕はそれでも構わないが、それでも他国からの支援に当たらないのか?」
それ以前に、私にわからない単語が出てきたよ。
パルペディアに頼むしかないかな。
「ねえねえ、魔導中央プラントと魔導中継結晶塔ってなに?」
すごく小声でパルに尋ねた。
「魔導中央プラントは発電所、魔導中継結晶塔は変電所みたいなもんだ」
「なるほど、ありがと」
それはそうと、こっちの案でも私が作戦に組み込まれるのかぁ……。
「本来は他国からの支援に当たりますが、魔王様の救出は自国民が行う上に、ヤクメー殿は、ただ暴れただけだと言い訳は作れますね」
「ふむ……いい案に思えるが、デメリットもあるんだろう?」
「そうですね。まず、我が国のインフラが一部、麻痺をする可能性がございます。それと、ヤクメー殿の名声が地に落ちる可能性でしょうか」
「な、なるほど……長い目で見たとき、それで国民と魔王殿が救われるなら僕はそれでもいいと思っている」
ヤクメーさん、勇者を辞めたいんだもんね。
名声が地に落ちたところで構わないって本気で思ってそう。
周囲を見ても、みんな頷いて反対はなさそうだし、この案で採用されるかな?
私が案を出しても採用されないような気がしてきた。
「皆、他に良い案はありませんか?」
ここしかないかな。
「はい、私も一つ考えていた案があります」
「おお! ハルカ様どうぞ!」
なんでみんな期待の目で見ているの。
発言しにくいじゃん……。
「え、えーっと……クーデター派は魔導水晶投影機で、撮影したものを配信しましたよね?」
「そうですな」
良かった。撮影や配信というワードはこっちの世界でも伝わる。
「なら、私たちも逆にやり返しませんか? こっちには現役の大臣さんと、クーデター派の捕虜もいます。そのメンバーで、クーデター派の声明が嘘だということ、魔王さんは捕らえられているから解放が必要なこと、さらに戦争をしたいのは相手の方だということを公表しませんか? 世論も味方につくかもだし、どうかなって思ったんです」
ふぅ……噛まずに言えた。
私の役目はこれで終わりかな。
あとは大臣さんの案が採用されるのを待つだけだ。
私も発言したから何も考えていないと思われることもないし、これで大丈夫だ。
「す……」
す……?
「素晴らしい! それでいきましょう!」
大臣さんが机をバンッと叩いて立ち上がった。
「流血を避け、クーデター派の正当性を根本から崩す広報戦……! 捕虜であるライサン殿によるクーデター派の内部告発と、濡れ衣を着せられたハルカ様の真実の訴え。これほど強力なシナリオはありません!」
「え、いや、私は案を出しただけで、出演するのは大臣さんとライサンさんとかウーラ・ギールで……」
「何を仰いますかハルカ様! クーデター派に『悪人』と仕立て上げられたハルカ様ご本人が無事を訴え、真実を語ること以上に国民を動かすものはありません! そして魔王様の側近である私がその裏付けをしましょう!」
「うおおお!!」「ハルカ様!」「完璧な作戦だ!!」
私の予想が当たった……。
当たってほしくなかったよ。
「ちゃ、ちゃんと綿密に立てた作戦じゃないし、やっぱり良くないかもよ?」
これは割と本気で言っている。
だって素人の私が思いついた案だし。
「……なるほど」
大臣さんが顎に手を当てて考え込んだ。
「確かに、そのまま声明を出すだけでは弱い」
「そ、そうだよね」
「クーデター派は、魔王様は病に伏せっている。ハルカ様は危険人物である。と発表しておりますからな。こちらも証拠を揃えて反論しなければなりません」
「そうそう、だからさ……」
いや、それは私も思うけど。
思うからこそ!
「幸い、ここは国立中央病院です。魔王様の健康診断結果や診療記録を調べれば、病気説を否定する材料が手に入るかもしれません」
「で、ですね……」
「さらに住民への自宅待機命令。あれも怪しいですな」
「そ、そこは確かにわかるよ」
「街に衛兵がいないことを隠すための口実かもしれません。ヤクメー殿から話を聞きましたが、大型キメラは徘徊しているものの、敵兵を見かけることはなかったとか」
「戻ってくるとき、そうだった」
ここまで私の意見はゼロ。
返事以外はしてないからね。
「つまりハルカ様は、先に情報を集めて証拠を固めろと仰りたかったのですな!」
「まさかの!?」
「さすがでございます!」
「大臣さんが自分で考えて、勝手に答えにたどり着いたよね!?」
「お優しいハルカ様。謙遜は時に美徳とはなりませんぞ? ハルカ様は、無知なる私たちを正しい答えに導いてくれたのですね?」
あちゃー……。
予想より重症だった。
「皆! 方針が固まりました! これを是とし、さらに問題点を洗い出しましょう!」
大臣さんが手を広げて大袈裟な動きをしている。
なんか魔王さんに似てきてない?
「となると問題は……声明を配信する施設を押さえることだな」
勇者さんが腕を組んで言った。
そうだよ! 電波とか回線とかどうするの?
「ふむ……魔王国全域に映像を送るには、中央魔導放送局をジャックする必要がありますな」
次は中央魔導放送局ね……。
日本で言うところのテレビ局かな?
「少数の部隊で中央魔導放送局を。午前七時より視聴率百パーセント近くある魔王国ラジオ体操の放送を狙いましょう。これは毎朝、生放送でやっているのです。この放送を制圧し、ハルカ様が国中に向けてクーデター派の悪行を暴く……! これならほぼ全国民に届きます!」
「完璧な作戦だ」
勇者さんが爽やかに親指を立てた。
結局私が一番目立つんじゃん!!
それとラジオ体操大人気すぎぃ!
「ライサン殿! カメラの前でクーデター派の悪行を告発できますか?」
ライサンさんは、びくっと体を震わせると、チラッと私の方を見た。
いや、私を見ないでよ。
ライサンさんの額からは汗がダラダラと流れている。
「は、はいぃっ!! もちろんでございます! クーデター派の謀略と幹部の名前、偽の声明文の裏側まで、知っていることは全て告発いたします! ハルカ様のために、この命に変えても吐き出してみせます!!」
必死すぎる。
私のイメージが悪くなるからやめてよ。
「おお! 素晴らしい寝返り……いや、改心だ!」
大臣さんは感心しているけど、違うと思う。
保身に走っているだけにしか見えないんだよ。
「では、ここまでの作戦をおさらいします」
大臣さん、声に力がみなぎっているね。
「ハルカ様が生配信で国民に声明を出します。そのための証拠として、この病院の、魔王様の診断記録の入手。まあ、これはあくまで参考になれば程度ですが。次に大型キメラの捕獲と映像の入手。続いて街中に大型キメラしかおらず、衛兵はどこにもいないという証拠の撮影。大雑把ですが、こんな感じかと」
ここまで言うと、大臣さんは全体を見渡した。
「僕は異論ない」
ヤクメーさんが賛同する。
「他の方もよろしいですね?」
参加者は頷いたり拍手をしたりしている。
「では、これで確定とします! 最後に作戦名を決めたあと、それぞれのメンバー構成を決めましょう」
大臣さん、私を見ないでくれる?
「ハルカ様。作戦名はぜひハルカ様に決定していただきたく」
これは無茶ぶりすぎる……。
でもなんか昔、大学の講義か雑学番組か何かで、軍事作戦の名前を聞いたことがあったような。
「フォーティ……いや、フォルティ……?」
うーん、いまいち思い出せない。
あ!一つ思い出した!
「オペレーション・ワルキューレ……とか?」
「おお、かっこいい響きですな! どんな意味ですか?」
「……うろ覚えだけど、多分女神様がみんなを助ける的な?」
パルをチラっと見たらニヤケすぎている……。
これデタラメ言っちゃったかも。
「や、やっぱ無――」
「いいですな! それに決定しましょう!」
みんなも拍手している。
後戻りできない……。
よくよく考えたら、作戦名なんて言わずに断れば良かった!
「ではこれよりメンバー構成を決めます……」
大臣さんがテキパキと仕切って、このあとのことを決めていた。
けど、私の耳には入ってこなかったよ。
また絶対に戻ってきます。
まだ出してない新キャラとかいるし……。




