第32話 座薬と癒しの女神
シャワーを浴びてすっきりした私たちは、これからシャガムトたちの様子を見に行くことになった。
「薬は完成したんだよね? あの臭いヨダレの匂いは薬にすると消えるのかな?」
「臭いまま飲まされるのかもしれないね」
マチルダと笑いながら部屋を出たら、部屋の前にたくさんの兵士たちが直立不動で立っていた。
「……えーっと、お、お疲れ様です……?」
「癒しの女神……ハルカ様に敬礼!!!!」
ビシィッ!と音がしそうなほど、全員が一斉に敬礼をした。
魔族の敬礼は、なんかすごかった。
中途半端なガッツポーズみたいに右腕を上げて、人差し指だけ立てていた。
そして、その人差し指の先から黒い光が出るんだもん。
あと、ガチで癒しの女神はやめて!
恥ずかしいよそれ!
「……ハルカ、応えてやりなよ」
マチルダの眼差しがなんか温かい。
「ハ、ハハハ……ど、どうもです」
私もビクビクしながら兵士と同じポーズを取った。
残念ながら黒い光は出なかったけどね。
「うおぉぉぉ!」「ハールーカ!ハールーカ!」
熱狂的な爆音で兵士のテンションが爆発した。
……もはや怖いよ。
「ハルカ様、これがあなたのやったことですよ」
いつの間にか大臣さんがいた。
大臣さんも、すごく温かい目で私を見ているんだけど……。
「三十分後に、魔王様奪還作戦の会議が始まります。ヤクメー殿にも特別顧問としてお声がけしております。ハルカ様も会議室にいらっしゃるよう、お願いいたします」
温かい眼差しで言うセリフじゃないと思う……。
「びょ、病院なので静かにした方が良いと思いますよ……」
そう言うのが精いっぱいだった。
「と、とにかく……シャガムトたちの様子を見てきますね……」
やっぱり異世界なんだよね。
この世界の常識をまだ掴めないや……。
私は逃げるように、兵士の熱い視線をかいくぐってシャガムトたちの病室に向かった。
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シャガムトの病室前についたら、病室の前にモフモフ団が全員いた。
マチルダがビビーを睨んでいる。
ビビーは奥に引っ込んでこっちを見ないようにしてるね。
「あれ? なんでみんなここにいるの?」
「……ん? まあ、ちょっとな……」
キーチョが言いにくそうに返事をした。
「中に入らないの?」
「まあまあ、それよりも薬の素材ありがとうな」
話題を逸らしてる?
「いえいえ、それじゃ中に入るね」
「あっ! ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「どうしたの?」
「いやぁ……ハルカはもう、体調はいいのか?」
「え? もともと悪くないよ?」
なんのことだろう?
何か隠してるよね?
あからさまに怪しいんだけど。
「もどかしいね。そんな話はあとでもいいじゃないか。中に入るよ」
「団長……すまん……」
誰かの声がボソッと聞こえた気がした。
マチルダは気にせず病室のドアを開けた。
私とマチルダが中に入ると……。
「あ……?」
「え……?」
私とマチルダは無言で病室から出た。
うん、何も見なかったことにしよう。
「なあ、あたしは二人が心配だからお見舞いに来たんだ」
「お、おう……」
シンパが気まずそう。
「あんたら、人を馬鹿にしているのかい?」
「そ、そんなつもりはない……と思う」
「……シャガムトも、フンバルトも、二人そろって尻を出して、ニヤニヤしながらカエルみたいなポーズをして、美人な看護師に尻を見せてたじゃないか!」
うわー、全部言っちゃった。
「マチルダ……見たんだな?」
ハラーが悲痛な声を出した。
「見たさ! ハルカも言ってやりなよ! あんな変態どもを救うために、ハルカもあたしも、命をかけたのかい!!!」
「ご、誤解だ! 団長たちは確かに救いようのない変態かもしれねぇ……でも、この件は違うんだ!」
ビビーめっちゃ必死にシャガムトたちをかばうじゃん。
かばえてないけどさ。
「私も心配してたのに、病室で兄弟そろってあんなことをしてるなんて、もう病気が治ったの?」
「ハルカ、皮肉を言うなよ……あれには深い事情がだな……」
お馬鹿キャラのマーチョまで言いにくそうにしている。
本当に何か事情があるの?
「どんな深い事情があるってのさ! 言ってみなよ!!!」
マチルダが激おこだ。
しかもビビーへの当たりだけ強い。
でも、マチルダって怒っても可愛いよね。
「あーもう! 言うしかねぇんだな! 完成した呪熱病の薬が臭すぎて、口から摂取しても吐く患者だらけなんだとさ。それで呪熱病の薬は座薬しか作ってないらしいんだよ」
キーチョが答えてくれたけど……。
ざ、座薬ね……。
呪熱病にかからなくて心からホッとしたよ!!!
そしてマチルダが怒りの行き場を無くして困ってるじゃん。
それもまた可愛い。
病室のドアが開いた。
「処置は終わりました。お友達の方たち、病室に入ってもらって結構ですよ」
看護師さんが出てくるなり、そう言い残して去っていった。
「だ、だから俺らは事情があるって言ったじゃねぇか……」
確かにマーチョはそう言ってたね。
言ってたけど、座薬入れてるから待てって言えば済むじゃん!
変なところで男の友情を見せられた。
「じゃ、じゃあ中に入る……か?」
「……俺はしばらくいいや」
「……俺も、ちょっとここで待ってる」
「……だな。ハルカたちだけで行ってこいよ」
なになに? みんな中に入らないの?
知ってたくせに言わなかったあんたたちが逃げるの?
「ハルカ、中に入ろう。こいつらが先に伝えてくれないのが悪いんだ」
「う、うん……そうかも」
マチルダはまだ怒っていた。
でも怒ってると言うより、怒りの気持ちを失えなかっただけというか……。
ドアを開けて中に入ると。
「シクシクシク」
「あんな姿を見られたら……もう、お婿に行けない」
そんな演技をできるほど回復したんだね。
もう心配する必要はなさそう。
「元気そうだね。もう体調は大丈夫なのかい?」
「……元気そうに見えるのかよ。あんな羞恥プレイをくらうとはな」
「うん、どこからどう見ても元気そう」
シャガムトが頭をポリポリ掻いて苦笑している。
それから真剣な表情になった。
「ああ、二人のおかげだと聞いている。感謝してる」
シャガムトとフンバルトは頭を下げた。
「さっきは美人看護師に尻を見られてニヤニヤしている変態だと思ったけど、まあちゃんとそう言ってくれるなら、こっちも気にしないさ」
「そうだね。ど変態なのはイメージ通りだし、ちゃんとお礼を言ってくれるなら私も言うことないよ」
「余計な言葉もあるが、本当にありがとよ」
「うん、二人も無事で本当に良かった!」
私たちは笑顔で抱きしめ合って、熱い抱擁を交わした。
みたいな展開にはならなかった。
フンバルト、広げている両手をしまってほしい。
「いつ退院できるの?」
「あと二回座薬を入れたら完治らしい。もう体調は悪くないんだけどな」
「あと二回……その時間はちゃんと教えてくれよ。あんなニヤケ顔と正面から尻を突き出したポーズなんて、二度と見たくないからさ」
マチルダの声に実感がこもっている。
私も完全同意。
「ああ、団員たちに伝えておく」
「うん、お願いね」
「それか、お前たちが座薬を入れてもいいぞ?」
ちょっとフンバルトが照れている。
発言もキモいし、照れる姿もキモい。
「呪熱病が完治したら、次は頭の検査を受けな」
私もそう思う。
「手厳しいな。冗談じゃねぇか。わはははは」
冗談に聞こえないんだよ。
「まったく……それじゃ私たちは会議があるから行くよ!」
「おう、ありがとな」
二人が無事で本当に良かった。
マチルダと笑顔を交わして病室から出た。
「団長たち……どうだった?」
戻ってくるなり反応が気になるんだね。
「元気そうだったよ。こっちもホッとしたよ」
「なんだ、怒ったり拗ねたりしてなかったのか」
シンパがホッとした表情だ。
「うん、そんなのはなかったね」
マチルダもそう思うよね。
「んじゃ、病室に入るか」
モフモフ団がぞろぞろと病室に入っていった。
「てめーら! 恥ずかしかったじゃねぇか!」
シャガムトの怒鳴り声が聞こえてきた。
「俺はまた見られたいけどな!」
フンバルト、お前はずっと入院してろ。
病室から声が聞こえてきたあと、マチルダが首をふっている。
「ハルカ、私は何も聞こえなかった。あいつらのことは考えたくない」
「そうだね」
「これから会議なんだろ? 私も参加するように言われたんだ」
「そうだったの? それじゃ一緒にいこ」
「うん、あんたは会議室の場所を知らないだろ? こっちだよ」
こうして、魔王さんの奪還作戦に向けて、会議が始まろうとしていた。




