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異世界 満喫トラベラー ~のんびり旅行するつもりが色々巻き込まれました~  作者: みみたん


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第27話 ヤクメーの活躍

 目の前に、一人の人物が立っている。

 魔王国冒険者ギルドのギルドマスター、オーエ・ライサンさんだ。


「すまないが我々は急いでいる。道を譲ってくれないか?」


 ヤクメーさんが怪訝そうな顔で声をかける。

 だけど、ライサンさんは何も答えない。


「あの人、ド近眼で、多分少しボケも入っているんだよ……」


 私は気を遣って小声で言った。


「ん? ハルカは彼を知っているのか?」


 ヤクメーさんが私を見る。


「あの人は冒険者ギルドのマスターで、オーエ・ライサンっていうんだよ」


 マチルダが教えてくれた。


「そんな人物が深夜にこんなところで……怪しくないか?」


「あの人に限ってそんなことはないよ。多分見えてないだけ」


「あたしもそう思う。あの人はド近眼だから道に迷ってるだけさ」


 マチルダもそう思うよね。

 よかった。私だけじゃなかった。


「ライサンさん、私です。ハルカです。こんな夜遅くにどうしたんですか?」


 私が声をかけると、ライサンさんの目がカッと見開かれた。


「小娘よ、お前はなぜ呪熱病にかかっておらぬ?」


「……なんのことですか?」


 小娘って私に向かって言ったよね?

 それになんで呪熱病のことを知ってるの?


「ふむ、我が呪いは失敗したか、それでは本物の地獄を味わわせてやろうではないか」


「まさか、シャガムトとフンバルトに呪いをかけたのはあんたかい!」


 マチルダが叫ぶ。

 だけど、ライサンさんはマチルダの言葉を無視した。

 その両手に、黒い波動が浮かび上がってくる。


「ライサンさん、何を知っているんですか? あとで全部話してもらいますよ!」


 そう言っても、ライサンさんは何も答えない。

 無言のまま、黒い波動をどんどん溜めている。

 なんで無視するの? だんだん腹が立ってきた。


 ヤクメーさんが少し前に出て構える。


「どう見ても彼は我々を攻撃しようとしている。ポポ君、また頼むよ」


「クワーフゥ」


 ポポはあくびをした。

 なんか無関心みたい。

 でも、なんとなくポポの目が淡く輝いているように見える。


「死ねぇぇぇ!」


 ライサンさんの両手から、黒い炎が噴き出した。

 黒い炎が、私たちへ向かって襲いかかってくる。


「ポ、ポポ君!?」


 ヤクメーさんが必死に結界のようなものを出した。


 ドォォォォン!!!


 大爆発が起きた。


 黒い炎が周囲を焼き、爆風が吹き荒れる。

 いやいやいや!確実に殺す気じゃんこの人!

 誰だよ近眼なんて言ったのは出てこい!


 私たちはヤクメーさんが出した結界のおかげで無事だった。

 けど、本当に怖すぎるってこれ。


「危なかった……どうしてポポ君は動かないんだ? ハルカどういうことなんだ!?」


「わ、私に聞かれてもわからないよ!」


 ポポは全然気にしてないみたい。

 なんか向こう側を見てるし。


「ポ、ポポ様は勇者が戦えと仰られている……」


 だからなんであんたにそれがわかるんだよ!

 でも今のはポポは何も言ってないし、あくびをしただけだよね……。

 まさか……ビビーにはポポの心の声が聞こえてる……?


「僕が戦えばいいんだな?」


 ヤクメーさんが剣を構える。


「勇者だと? ちょうどいい。お前も始末してやる」


 いつの間にか、ライサンさんの手には杖が握られていた。

 いつ出したの?

 さっきまで両手で黒い波動を出してたよね?


「あたしも強かったら加勢するのに……」


 マチルダが悔しそうに呟いた。

 大丈夫だよ。

 マチルダは私たちの頭脳になってくれたら、それでいいんだよ。


 ヤクメーさんとライサンさんが、剣と杖を構えて向かい合う。

 二人が動いた。


「はやっ!」


 何が起きたのかわからない。

 ヤクメーさんが前に出たと思ったら、ライサンさんの杖がいつの間にか別の場所にある。


 キィンッ!


 金属がぶつかる音だけが、少し遅れて聞こえてきた。

 速い。速すぎて、ほとんど見えてない。


 てか……ヤクメーさん、本当に強かったんだね。

 私の感覚だと、ヤクメーさんが優勢で戦っている。


 ライサンさんの攻撃をかわして、ヤクメーさんが斬り込む。

 ライサンさんも杖を使って受け流している。

 ちょっとずつヤクメーさんが押しているように見える。


 あれ?

 二人の動きが見えるようになってる?

 さっきまで何をしているのか全然わからなかったのに、今は少しずつ目で追える。

 ……なんか変だよ。明らかにおかしい。


 私はパルに小声で尋ねた。


「ねえ、神様は私に隠れスキルを他にも付与してる?」


「ん? そんなことはないぞ。それは神に誓ってもいい」


 隠れスキルじゃないのか。

 ……どの神様に誓ったんだろう。

 うーん、今は考えないでおこう。


 私たちが二人の戦いを見ていると、動きがあった。

 ヤクメーさんが一気に踏み込む。

 そして、ライサンさんの肩を剣で叩いた。

 切ったんじゃない。

 剣の切れないところで叩いたんだ。


「ぐっ……!」


 カランカラン。

 ライサンさんの手から杖が落ち、片膝をついた。


「ハァハァ……くっ、殺せっ!」


 そんなオークに捕まった女剣士みたいなことを言われても……。

 聞きたいことがいっぱいあるから殺さないよ。

 そうじゃなくても殺さないけどね。


「わしは何も喋らんぞ。早く殺せぇ!」


「殺さないし、知ってることを話してもらうからね」


「ふん、馬鹿め」


 それ以上、ライサンさんは何も言わなくなった。


「とりあえずこの人を縛って」


 私は無限収納から縄を取り出して、ビビーに渡した。


「人質のつもりか」


 ライサンさんが聞いてきたけど、さっきから無視された仕返しで私も答えない。


「なんで俺が……」


 ビビーは文句を言いながらも、手際よくライサンさんの手と足を縛り上げていく。


「どうするんだい? ギルマスに事情聴取するのか、薬の素材を優先するのか」


 マチルダが聞いてきた。


「うーん、今は薬を優先しよう。ライサンさんにはあとからたっぷり聞きましょ」


「わかったよ」


 ライサンさんをポポにくくりつけた。

 こうすれば逃げられないよね。


 ヤクメーさんに、すぐ移動しても問題ないかを確認したら、問題ないと言われた。

 役目を降りたいはずなのに、出番があったからか、目の輝きが少し戻っている。


「急ごう。まだ常闇獣のヨダレは手に入ってないよ」


 私の合図で、みんなで魔王国中央物流センターの中に入った。


 中には誰かがいる気配がない。

 明かりもなく、真っ暗だった。


「何も見えないね。真っ暗じゃないか」


 そうだね。

 私の無限収納にも松明とかは入れてないよ。


「僕が光魔法で照らそう」


 ヤクメーさんが勇者っぽいことを言っている。


「クルル?」


 ポポが突然光りだした。


 そんなことまでできるんだね。

 あとは何ができるの?

 ポポと話せるようになりたいよ。


「さ、さすがだねポポ君」


 またヤクメーさん落ち込む?

 とにかくヤクメーさんの気を逸らそう。


「常闇獣のヨダレ……どこにあるんだろう」


 これで逸れるかな?

 てか真面目に、そもそもどんなものなの?


「それが探している素材かな?」


 ヤクメーさんの気が逸れた!


「そうだよ。ヨダレだから瓶に入っているんだろうけど、どこにあるのかもわからないね」


 マチルダもわからないんだね。


「誰か常闇獣のヨダレがどんなのか知ってる人いる?」


 みんな首を振っている。

 ポポも首を振っている。

 やばい。どんなものなのか誰もわからない。

 しかも物流センターにも誰もいない。

 これどうしたらいいの。


--


 私たちは当てもなく建物内をさまよっていた。


「どうしよう! 急いで病院を出てきたから何もわからないよ!」


「ちょっと見通しが甘かったね……」


 マチルダもどうしていいか悩んでいる。

 その時、通路の向こう側から光が見えた。


「誰かいるのかー? 避難できなかったのか?」


 全員が顔を見合わせる。

 ヤクメーさんが一歩前に出た。


「僕たちは、とある事情で直接あるものを受け取りに来た! 怪しいものではない!」


 向こうから三人の男性が歩いて来た。


「クーデター派の一味ではないんだな?」


 少し離れたところから声をかけてきた。


「違う! 今証明できるものは何もないが、信じて欲しい」


 男性たちは少し話し合っていたけど、こちらに来てくれた。


「まあ、確かにその格好でクーデター派には見えないか」


 一人の男が私をジロジロ見ている。


「てか、ハルカ様!?」


「……え!? まじだ!」


「ファンです! サインください!!!」


 ここでもかい……。


「ごめんなさい。私たち、今急いでいるんです。また今度時間のあるときに、ね?」


 男性たちは残念そうだけど、そもそも私、サインなんて書けないよ?


「そ、そうですか……」


「仕方ないか……俺たちはここの警備員なんです。欲しい素材があるとか?」


 良かった。話が早くて助かるよ。


「そうなんです。薬の素材なんですけど、常闇獣のヨダレがどこにあるかわかりますか?」


「警備員がわかるわけないじゃないですかー!」


 そうですよね……。


「でも、地下シェルターに物流職員が残っていますよ。その人たちに聞いてみましょうか?」


「ぜ、ぜひお願いします!」


 いい流れじゃん!

 やっと手に入るか!


「ではこちらへどうぞ!」


「はい!」


 いやー、有名人なんてなりたくなかったけど、こんなところで役に立つなんて。


 私たちは警備員さんの案内で、地下シェルターに向かった。

 頑丈な扉の先へ進み、入口が細工されている部屋に入った。

 そこには残ったと言われている職員らしい人たちが数人いた。


「警備員さん……その人たちは?」


「ハルカ様ですよ! 魔王様のご友人の!」


「ええ? なんでそんな方がこんなところに?」


 やっぱりそう思うよね。

 また手短に事情を話すか……。


「実はかくかくしかじかで……」


「ふむふむ、それで薬の素材が欲しいと?」


「そうなんですよ」


「うーむ、我々は一般職員ですので困りました」


 周囲の職員さんも黙り込んでいる。


「突然、部外者が来て、困っているので物をくださいって言われても渡せませんよね……」


「簡単に言うとそうですね。はい」


 何かいい方法はないかな。

 一つ思いついてるけど、これしかないかな……。


「実はこの件、魔王さんも事情を知っているんですよ」


「魔王様が……」


「はい、魔王さんにお願いして、あなたたちの責任にならないようにするのでダメですか?」


 これまで何も喋らないで奥にいた女性が立ち上がった。


「私、常闇獣のヨダレの場所を知っています。今は緊急時なのでお渡ししてもいいかなって……」


 他の男性職員が怪訝な顔をしている。


「責任は君が取ると?」


「責任とかじゃないけど、ハルカ様ほどのお方なら、逃げる意味もないかなって、信じていいかなって思ったんです」


「なるほど……」


「俺もそれでいいと思う!」


「私も!」


「それに協力したらサインとか貰えそうじゃないですか」


「た、たしかに!」


「俺も協力します!」


 他の職員の人まで協力してくれそう。

 明らかに下心があるけど。

 サインなんてどうやって書くの!


「ありがとうございます! 早速ですが、取りに行くのでどなたか一緒に……」


「そんな、大丈夫ですよ! 私が取ってきます!」


 うーん、ここで任せるとなんかフラグになりそう。

 このまま帰ってこないとか、クーデター派が攻めてくるとか。

 判断が難しい……私はこんな時のマチルダに聞いた。


「どうしたらいいかな? お願いしてもいいのかな?」


「ここまでハルカがまとめてくれたんだ。あたしはハルカを信じるよ」


 ここに来て私の判断ですか……。


 どうしようどうしよう。

 めっちゃ悩む……。

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