第26話 物流センターまでの道のり
私とポポ、マチルダ、それから可愛いもの恐怖症の人。
この四人で、魔王国中央物流センターへ向かうことになった。
「明日になったら、さらに動きにくくなるだろうね。今のうちに行ったほうがいい」
そうかもしれない。
私たちはクーデターの情報を何も知らないし、もっと事態が悪化する可能性もあるからね。
そうなる前にシャガムトとフンバルトを助けたい。
「じゃあ、今から行こう」
私たちは着の身着のままで魔王城を出たおかげか準備の必要もない。
「そういや、重要なことを忘れていたね」
マチルダがそう言って近くにいた医師へ声をかけた。
「呪熱病の薬の足りない素材って何なのさ」
「すみません、私は眼科の担当なので」
そう言って、医師はそのまま去っていった。
知らないくせにやたら堂々としてたな。
「あの医者、全然使えないね」
「そうだな。知ってる担当の医者を紹介してくれたらいいのに」
可愛いもの恐怖症の人の言うとおりだ。
「それだ! 誰かすみませーん。呪熱病の薬で足りない素材はなんですか?」
誰か答えて!そう思って大声で尋ねた。
すると、少し離れたところにいた事務員さんが、おずおずと手を挙げた。
「常闇獣のヨダレです」
「ヨダレ……ですね。ありがとうございます」
おお、ヨダレ……?
異世界っぽい……のか?
「常闇獣のヨダレ……ね。それじゃ今すぐ向かうかい?」
「うん、他に情報はいらないよね」
「俺もそれでいい」
みんな常闇獣のヨダレに違和感を持ってないし普通にしている。
気にすることは何もないってことだよね。
「そういやあんたの名前は? 何かあったとき、とっさに名前も出ないんじゃ困るだろ」
マチルダが可愛いもの恐怖症の人に尋ねた。
「俺か? 知らなかったのかよ」
「私も知らないよ」
だって知ってしまったら笑うかもしれないし。
可愛いもの恐怖症の人は、なぜか堂々と胸を張った。
「ビビー、俺の名前はビビー・リスギー」
「す、すごく似合ってるよ名前」
名前ぴったりすぎるだろぉぉぉ!
パルがニヤニヤしてる。
少し顔に出ちゃったかな。
「だろ?」
ビビーは何でまんざらでもない顔をしているの。
私と違ってマチルダは無反応だね。
「さて、名前もわかったところで行くよ」
「おー!」
「わかったぜ」
私たちは病院を出た。
病院に入る前と違って、外は静かになっていた。
怒鳴り声や金属音が聞こえていたのに、静かになるとそれはそれで不気味かも。
マチルダが周囲を見回した。
「こっちの方角だ」
南を指さす。
「通常ならここから歩いて3時間ってとこだね」
「わかった。何があるかわからないから気を付けながら急ごう」
マチルダの案内で、魔王国中央物流センターへ向かって歩き始めた。
何人か人は見たけど、私たちを気にする様子もなかった。
クーデター中だし、一般の人が避難しているだけだと思う。
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それから一時間ほど進んだところで、様子が変わった。
割と近くで激しい戦闘音が聞こえてくる。
かなり近いかも。
金属がぶつかる音と怒鳴り声が聞こえる。
魔法みたいな光が見えて火が燃えているのもわかるよ。
私たちは足を止めた。
「マチルダ。ここって……」
「ここはサンクール飛空艇発着場だね」
飛空艇発着場?
この世界、飛行機じゃなくて飛空艇だったかー。
進行方向のちょっと右手に見える大きな建物を眺めた。
あっちの方から音が聞こえるし、あの建物が発着場なんだろうな。
「ここもクーデター派が押さえに来てるのかな?」
「そうだね。ここから魔王様が安全な場所に逃走するのを敵もわかっていると思うよ」
そうなんだ。
魔王さんが逃げるための場所なら、クーデター派が押さえようとするのも当然か。
……ん? あの魔王さんが逃げるかなぁ。
吾輩一人で敵など蹴散らす的なこと言ってなかったっけ?
いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
私たちは物流センターへ向かわないといけない。
そう思っていた、そのときだった。
ドゴゴォーン!!!
ガシャァァァーン!!!!
……ガラガラガラ!!!!!
大きな音がして右手の建物が崩れた。
それと同時に大きな瓦礫が私たちのほうへ飛んできた。
「えええええ?」
動けない。ここで死ぬ!!!
私が硬直しているとポポがとことこと前へ歩いていった。
「クルル」
ポポが飛んできた瓦礫の真正面にいる。
ペシッ。
前足で瓦礫を叩いた。
瓦礫は軌道を変え、そのまま私たちから離れた場所へ落ちていった。
ズドォォォン!
大きな地響きがする。
シーーーーーン……。
誰も何も言わない。ふと右手を見ると――。
崩れた建物の先に、たくさん戦っている人がいたみたいで全員がこっちを見ていた。
「なんか瓦礫が急に向きを変えなかったか?」
「確かに俺もそう見えた」
「あいつらがやったのか?」
ちゃんと聞こえてるよ。やったのはポポです。
それよりもさ……。
「……なんか注目されてるね」
「ま、まあ仕方ないさ……」
仕方ないけどやばくない?
クーデター派の人だったらどうするの?
そんな中、人混みの中から、この国では見慣れない格好をした人が近づいてきた。
「ハルカ? ハルカじゃないか!」
「え!? ヤクメーさんがなんでここに?」
声をかけてきたのは、勇者ヤクメーさんだった。
まさか、こんなところで会うなんて。
「驚くのも無理はないか。実はカクカクシカジカで……」
ヤクメーさんが話してくれた。
魔王国を発ったあと、五日でモスキー王国に戻ったこと。
戻る際に、魔王国からS級冒険者を護衛としてつけられたこと。
そこでモスキー王から、和平条約の親書を適当に作り上げ、魔王と和平条約の正式履行を実施する際に魔王の隙をついて暗殺するようにと言われたこと。
当然、そんな命令を許せるはずがない。
だからヤクメーさんは、命令を受けたふりをして、まず魔王さんへ相談することを決めた。
それと、護衛のS級冒険者が明らかに怪しいこと。
なぜなら、モスキー王に勇者とは別の親書を持っており、勇者抜きで会談をしている様子が見られたこと。
そのため内緒でこっそり、個人で所有している高速飛空艇に乗って、急いで魔王国へ戻ってきたのはヤクメーさんだけらしい。
ところが魔王国へ到着したあと、魔王国内部のトラブルが発生したと言われた。
そのトラブルとは外国人を入国させる手続きに手間取っていること。
そのまま発着場内で待機することになった。
何時間も待たされたとき、外から明らかに戦闘のような声や物音が聞こえてきた。
担当者らしき人に外の様子を見たいと言ったところ、突然襲われた。
仕方なく返り討ちにしたが、襲ってきた相手を殺害してはいない。
殺害すると国際問題にされそうな気がして、峰うちで倒したそうだ。
それから外に出ようとするたび、ずっと襲われているということだった。
また、その際の戦闘も全て峰うちで倒していたそうだ。
「ふぅ……僕の事情はこんなところだ。君たちは何をしているんだ?」
「実はかくかくしかじかで」
私は簡単に事情を説明した。
魔王国でクーデターが起きていること。
モフモフ団のメンバーに急病人が出たこと。
魔王さんは非戦闘員を人質に取られることを恐れ、魔王城を出たこと。
私は急病人と残ることを決めて、魔王さんとは別行動になっていること。
今はその薬の素材を取りに行いっている途中であること。
そして、その目的地へ向かっている途中でヤクメーさんとばったり遭遇したこと。
「ハルカの説明はかくかくしかじかいらなかったんじゃないか?」
パルは黙っていてほしい。
「なるほど……」
ヤクメーさんがパルのツッコミをスルーしてくれた。
マチルダとヤクメーさんは初対面だから紹介しようとしたとき、邪魔が入った。
「おい、ハルカがいるぞ」
「こりゃ都合がいいな」
「ここで二人とも始末しちまえ!」
すっかり忘れていた。ここ戦場のど真ん中じゃん!
いつの間にか、とんでもない数の敵兵に囲まれていた。
ヤクメーさんが剣に手をかける。
「ここは僕にまかせ――」
「クルルゥ」
ポポが鳴いた。
そして、とことこと兵士たちの中へ歩いていく。
全員の視線がポポへ集まった。
ポポのあまりにもほんわかした空気に、兵士たちの動きが止まった。
……ん?
ポポが一体。 二体? いや三体?
いつの間にか、ポポが何十体にも増えていた。
何十体ものポポが、兵士たちの前で立ち止まる。
そしてポポの目が光った。
兵士たちの顔に、うっすらと靄がかかる。
「ひぃぃぃ! ば、ばけもの!」
「巨大な可愛いドラゴンに踏みつぶされたぁ!」
「いてぇよぉぉぉ! 可愛いドラゴンに腕を食われたぁぁぁ!」
何が見えているの?
兵士たちは一斉に苦しみ始めた。
武器を捨て、その場でもがき苦しんでいる。
全員が呆然とその光景を見ていた。
しばらくして何十体にもなっていたポポがこっちに戻ってきた。
戻ってきたときには、気づいたら一体だけになっていた。
その隣では、ヤクメーさんが驚いて剣を落としていた。
カラン。
地面に落ちた剣を拾い上げる。
「き、君がやったのか?」
「クルル?」
「そ、そうだ。全てポポ様がやったと言っている……」
ビビーがビビりながら真顔で答えた。
「あんたにポポのなにがわかるのよ! これ以上、話してる暇はないよ! 今のうちに行こう!」
私はヤクメーさんを連れて、急いでその場を離れた。
ヤクメーさんが、妙にポポを気にしている気がする。
しばらく進んで、マチルダが言いにくそうに聞いてきた。
「あのさ、彼は勇者なのかい?」
「あ! 紹介がまだだったね!」
少し元気なく歩いているヤクメーさんに声をかけた。
「ヤクメーさん、彼女を紹介したいんだけどいいですか?」
「ん? ああ、そういえばまだ自己紹介をしていなかったね」
ヤクメーさんが律儀に握手を求めている。
戸惑いながらも握手を受けるマチルダがなんか新鮮。
「僕は勇者ヤクメー・オーリタイ。モスキー王国から来た勇者だ」
「……あ、あたしはマチルダ。ハルカに雇われてガイドをやっている……ます」
「マチルダか。よろしく。そんな改まった話し方はしなくて大丈夫だよ。もちろんハルカもね」
「これからは普通に話してもいいってこと?」
「もちろんだ、僕たちは友達だろう?」
ヤクメーさん、顔だけじゃなくて性格もイケメンだなぁ。
マチルダなんて少し顔が赤くなってるじゃん。
「ヤクメーさん……よろしく。あたし……丁寧に話すのが苦手だから助かる……」
いつものマチルダじゃなくて可愛いなぁ。
「けっ……これだからイケメンはよぉ……」
ビビーが二人を見て拗ねている。
「クルルゥ」
ポポ優しいね。ビビーの頭をなでてあげてるじゃん。
「ひ、ひぃぃぃぃ! ポポ様! 恐れ多いですぅぅぅ!!」
ビビーが三歩くらい後ろに下がった。
あんたはビビりすぎなんだよ。
……と、こんなことで時間を潰している暇はないね。
まあ、今は急ごう。目的地はまだまだ先だ。
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魔王国中央物流センターの前に私たちは到着した。
ここに来るまで、まあスムーズだったよ……。
「ハァハァ……き、君が勇者を名乗ったらいいんじゃないか?」
ヤクメーさんが怯えながらポポを見ている。
ポポ、ヤクメーさんの心をなんで折ってるの?
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少し時はさかのぼって、ヤクメーさんと合流後、一緒に目的地に向かっている途中。
「勇者とハルカがいたぞ!」
敵が現れた。
ヤクメーさんが剣を抜く。
「ここは僕に任せて先に行け!」
「クルル」
ポポが、とことこと前へ出ていく。
そしてクーデター派の前へ向かっていった。
ペチッ。
兵士が飛んでいく。
ポポは別の兵士へとことこ向かう。
兵士たちの顔に靄がかかる。
私たちには見えない何かを見て騒ぎ出し、その場で戦闘不能になる。
静かになった。
「ぼ、僕の出る幕はなかったな……」
ヤクメーさんが呟いた。
ポポは何事もなかったように、とことこと戻ってくる。
そして、また少し進む。
「勇者とハルカがいたぞ!」
まただ。
「今度こそ、ここは僕に任せて先に行け!」
またヤクメーさんが前へ出る。
「クルル」
またポポが前へ出て次はあくびをした。
「クワーフゥ」
兵士がバタバタと倒れて眠っている。
そして、静かになる。
「ぼ、僕の出る幕はなかったな……」
まただ。
それが五回くらい続いた。
最初は「僕に任せて」と言っていたヤクメーさんも、だんだん元気がなくなっていった。
そして最後に敵と遭遇したとき。
「ポポ君、君の出番だぞ」
ヤクメーさんは、不貞腐れていた。
ポポは多分、深いことは何も考えていない。
ただ私たちを守りたいだけなんだと思う。
……でも、その結果。
勇者ヤクメーさんの心は、バキバキに折れていた。
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そんなことがあって、今私たちは魔王国中央物流センターの前にいる。
やっと着いた。
苦戦らしい苦戦は全くなかったけどさ。
無駄にヤクメーさんの心を折っちゃったけど、これで呪熱病の薬の材料を手に入れられる。
けれど私たちの前には、一人の人物が立ちはだかっていた。
その人物とは、魔王国冒険者ギルドのギルドマスター、オーエ・ライサンさんだった。




