第24話 ポポの秘密の力
「うーん、まず何をしたらいいかな?」
全員ずっこけた。
「おいいいい!」
「考えてないのかよ!」
いやいやいや、私はみんなのママでもリーダーでもないのよ。
こんな夜中に突然クーデターが起きたって言われて、それでもシャガムトたちを助けるために残るって決めたんだよ?
私だって、今すぐ解決策をパッと思いつくなんてできない。
「どうしたらいい? わかっているのは、シャガムトたちを治すのが最優先だよ」
「やらなきゃいけないことと、現状把握じゃないかい?」
さすがマチルダ、ちゃんと考えてくれている。
「具体的には?」
「そうだね……今の魔王城が安全なのか。王都がどうなっているのか。病院までどうやって行くのか。そこを確認しないと何も決められないだろ?」
「なるほど」
確かにそうだ。
病院へ行く。それは決まっている。
でも、今の状況で何も考えずに行くのは怖い。
「はい!」
キーチョが手を挙げた。
「キーチョ、どうぞ」
「教えてくれ。ここは安全なのか?」
「私もわからないんだよね」
「そうなのか……団長たちの状態を考えたら、全員で進むべきなのか? それとも団長たちここで安静にさせて、医者を連れてくることはできないのか?」
「俺のことは放っておいてみんなで逃げてくれ」
シャガムトが間に入ってきた。
「まだそんなことを言ってんのかい」
マチルダが即座に反応した。
「みんなに迷惑はかけらんねぇよ」
「あんたを守るために残ったんだ。うだうだ言ってんじゃないよ」
シャガムトはどう見ても顔色が悪い。
フンバルトも同じだ。
病院に行くのが正解なのかもわからなくなってきたよ。
「まずは魔王城の状況を確認しよう」
マチルダが言った。
「ここが安全なら、シャガムトたちは一旦ここに残す。危険なら、全員ですぐに出る」
「わかった。悩んでいる暇もないみたいだな……俺とシンパで見てくる」
キーチョがテキパキしている。
「いや、あたしも行く」
マチルダもテキパキしている。
「三人で確認してくるよ」
「ありがとう。助かるよ」
三人が部屋を出ていった。
みんな無言になる。
なんか、しっかり組がいなくなったような……。
……しばらくして、三人が戻ってきた。
「どうだった?」
「城内に敵が入り込んだ様子はないよ」
マチルダが答える。
「よかった……」
「ただし、安心していい状況でもない」
「どういうこと?」
「魔王様が城を出たことで、城の中でも退避が始まってる」
「退避?」
シンパが答えてくれた。
「ああ、残っていた兵士に聞いた。残っている人たちを外へ逃がしたら城は一旦放棄するらしい」
「そっか……」
「城内に内通者がいたのが見つかったんだとさ。魔王様の指示も、無理をせずに一旦城を放棄せよ。らしいからな」
それなら、ここに残るよりも急いで出た方が良いかな。
「じゃあ、みんなで出発しよう」
「そうだね。もう、ここは安全な場所だと思えない」
マチルダも同意してくれた。
「魔王様だって城から逃げろって言ったんだ」
「確かに言ってたね」
「てことは、ここに残ったら人質にされるかもしれないってことさ」
魔王さんは、本当に全部を捨ててでも非戦闘員を守ろうとしているんだ。
「だったら、私たちもここを出た方がいいね」
マチルダが的確にまとめてくれている。
「ああ。問題は、どうやって出るかだ」
「……とにかく急いで出たらいいんじゃない?」
「今は人の出入りが多すぎる。退避する人たちで混乱してるし、外の状況も分からない」
「じゃあ、裏口とかないの?」
「それはわからない。探してみよう」
マチルダの意見にみんなが頷く。
「じゃあ、病院へ行こう」
「おう!」
マーチョが拳を上げた。
「待って」
私はマーチョを遮った。
「なんだ?」
「病院に行くのはいいよ。でも、シャガムトたちをどうやって運ぶ?」
「あー、どうしよう」
やっぱり考えてない。
「それなら俺たちに任せろ」
ナンとハラーがシャガムトの左右に立った。
「フンバルトは俺が運ぶ」
こうして、フンバルトはマーチョが付き添うことになった。
「よし。急ごう」
ここに長くいるほど危険になる。
それなら、少しでも早く病院へ向かった方がいい。
私たちは部屋を出た。
廊下は、さっきまでとは別の場所になっていた。
兵士たちが慌ただしく走っている。
「西区画から報告!」
「第三部隊は南門へ!」
「残っている者を先に外へ出せ!」
「急げ!」
怒号が飛び交う。
でも、戦いの準備じゃなくて、避難する人たちを誘導していた。
荷物を抱えた人たちが、兵士に連れられて城の外へ向かっている。
「……本当に、みんな出ていくんだ」
こんな光景、見たくなかったよ。
「魔王様の命令だからね」
マチルダも少し悲しそう。
「城を守るより、ここにいる人たちを逃がす方が大事なんだろうさ」
「うん……」
私たちはその流れに逆らうように、城の奥へ向かった。
途中で一人の兵士が私たちの前に立った。
「ハルカ様」
「はい?」
「魔王様より、皆様をできる限り支援するよう命を受けております」
「ああ、あなたが支援してくれるんですね」
「正門は使わないでください。魔王様が正門から出たため、敵が集中している可能性があります」
「じゃあ、どうすれば?」
「こちらです」
兵士が廊下の奥を指差した。
「城の裏手に通用門があります。そこから出てください」
「やっぱり裏手が安全なんですね」
「はい、どこに行くにしても、大通りは避けた方がよいでしょう」
「大通りが危ないんですか?」
「反魔王派が主要な通りを押さえ始めているという情報が届いています」
兵士の表情が険しくなる。
「すでに王都の一部では戦闘が始まっています」
「……分かりました」
「それと、こちらを」
差し出されたのは、簡単な王都の地図だった。
「魔王様の命で、病院の場所と、比較的通りやすい道を記しております」
「助かります!」
私は地図を受け取った。
「ありがとうございます」
「どうかお気をつけください」
兵士は深く頭を下げた。
「皆様が無事に戻られることを願っております」
「はい!」
私は頷いた。
そして、地図を握りしめる。
「行こう」
私たちは裏手へ向かった。
通用門は、正門と比べれば全然目立たない。
門番の兵士が周囲を確認してから、ゆっくりと扉を開ける。
「今のところ、こちらに敵兵は来ていません」
「分かった」
マチルダが先に外へ出る。
続いて私たちも門を抜けた。
そして、門を出てすぐに足を止めた。
「……っ」
王都の雰囲気が、これまでと違う。
どこかで金属がぶつかる音がした。これって戦っている音だよね。
煙が上がっている場所も、それを見て呆然としている人や泣いている人まで。
こんな深夜なのに、急ぎ足で子供を連れている家族がいた。
みんな、不安そうな顔をしていた。
「……本当に、クーデターが起きたんだ」
「そうみたいだね」
隣にいたマチルダが答える。
私は王都の景色を見つめた。
つい昨日まで、普通に人が暮らしていた街。
「……怖いね」
「ああ。だから急ぐよ」
「うん、シャガムトたちを病院に連れていかなきゃ」
私たちは大通りを避け、細い路地へ入った。
手元には、魔王さんが残してくれた地図がある。
私たちはそれを見ながら進む。
「こっちで合ってる?」
シンパが地図を覗き込んだ。
「大丈夫だ。このまま南へ進めばいい」
「よかった」
「ただ、その先に大きな通りがある」
「そこを通らないといけないの?」
「地図だとそうなってるな」
「えぇ……」
迷う暇なんてない。しばらく細い路地を進んだ。
建物と建物の間に挟まれたような道で、ところどころ荷物が放置されている。
「……戦争ってこんな感じなのかな」
「そうかもな。でも、魔王様が止めてくれるさ」
キーチョがなんか冷静だ。
「うん、そうだと思いたい」
路地を抜けると、前方から人影が見えた。
「止まって」
マチルダが手を上げた。
向こうから歩いてくるのは、数人の武装した兵士だった。
「……反魔王派かな」
キーチョが小声で呟く。
「分からない」
マチルダが腰の武器へ手を伸ばす。
兵士たちもこちらに気づいた。
「誰だ!」
声が響く。
私たちは反射的に身構えた。
でも、その兵士たちは、すぐに警戒を解いた。
「……ハルカ様ですか」
「はい」
マチルダが答える。
「病院へ向かっています」
「病院?」
「この二人を治療してもらうためです」
シャガムトとフンバルトを指さした。
兵士たちの視線が二人へ移った。
「そうか……」
一人の兵士が苦い顔をする。
「病院ならもっと東側へ回った方がいい」
「東側?」
「この先に進むと危険です」
「何があったんですか?」
私が尋ねると、兵士はほんの少し言いよどんでから答えた。
「反魔王派が兵を集めています。王都の主要な場所を押さえられました」
「……王都が封鎖されるってことですか?」
「すでに一部は封鎖されました」
それを聞いて、病院まで行けるか不安になった。
「ここより西大通りと、このまま南下は、ほぼ通れないかもしれません」
「分かりました」
「それに、東側が絶対に安全とも言えません」
「それでも行きます。この二人を助けたいんです」
兵士は頷いた。
「……わかりました」
「ありがとうございます」
「ご無事を祈っております」
そう言って、兵士たちは別の路地へ消えていった。
「……行こう」
私たちは歩き出した。
二人を治すために、絶対に病院へ辿り着く。
しばらく細い路地を進んだ。
何度も角を曲がる。
最後の角を曲がったところで前方に少し広い道が見えてきた。
「この先を渡れば南側へ抜けられる」
マチルダが言った。
「じゃあ、ここを――」
マチルダが私の肩を掴んだ。
「待って」
通りの向こう側に数人の兵士が立っていた。
「反魔王派?」
「そんな感じだね。どうする?」
マチルダの声に緊張が含まれていた。
「戻って別の道を探すか?」
キーチョが聞く。
「戻ったところで安全な道があるとは思えない」
マチルダが周囲を見る。
「でも、正面から行くのは危険だ」
私はシャガムトを見た。
ナンとハラーに肩を貸してもらっている。
フンバルトもキーチョに支えられている。
二人とも苦しそうだ。
「……ここで待ってる時間もないよ」
「ハルカ……」
「病院へ行かなきゃ」
私は通りの向こうを見る。
数人の兵士が立っている。
クーデター派なら、私たちは何をされるかわからない。
「どうしよう……」
私が悩んでいると。
「クルル?」
ポポが声をかけてきた。
「まさかポポ様が……」
可愛いもの恐怖症の人が何かを察した?
一体どういうこと?
ポポが路地の出口からひょこっと顔を出した。
そして、通りの向こうにいる兵士たちをじっと見つめている。
「……どうしたの?」
「クルル」
ポポは鳴くと、大通りへトコトコ歩いていった。
「ちょ、ポポ?」
堂々と通りを歩いている。
「待って!」
私は慌ててポポを追いかけようとした。
そしたらポポは立ち止まった。
「クァーフゥ……」
ポポが小さくあくびをしたと思ったら、ふわっと淡い光がポポの周囲から広がった。
「……え?」
光は音もなく通りを進んでいく。
兵士たちの身体を包み込んだ。
「な、なんだ……?」
「おい、どうした……?」
何人もの兵士が剣へ手を伸ばす。
しかし、その手が途中で止まった。
「……え…………」
ドサッ。一人が倒れた。
「お、おい!?」
別の兵士が困惑している。
「何が起き――」
ドサッ。ドサッ。ドササッ。まとめてほとんどの兵士が倒れた。
「お前ら、どうし――」
ドサッ。最後の一人まで、糸が切れたようにその場へ崩れ落ちた。
私は口を開けたまま何も言えなくなった。
通りには、兵士たちが綺麗に並んで転がっている。
見事としか言いようのない、本当に綺麗な整列睡眠。
「……ポポ?」
「クルル♪」
ポポが嬉しそうにこちらを振り返った。
「今の……ポポがやったよね?」
「クルル♪」
尻尾が、ぱたぱたと揺れている。
私は兵士たちを見る。
もう一度ポポを見る。
「……眠ってる?」
「クルル♪」
「すご……」
思わず声が漏れた。
マチルダも呆然としている。
「……何をしたんだい、あの子」
「わからねぇ……」
シンパも兵士たちを見ながら首を傾げている。
「一瞬だったぞ……」
キーチョが呟く。
「魔法……なのか?」
「……ポポって魔法も使えるの?」
「クルル♪」
なんか使えるっぽい。
「や、やっぱりポポ様はすごい。怖いけど……」
「ポポ様パネェよ」
私はポポのところまで歩いていき、ギューッとした。
「ポポ、すごいね!」
「クルル♪」
ポポは得意げに胸を張った。
「……っていうか、最初からポポにお願いすればよかったんじゃないかい?」
マチルダが私を責めるような目で見てきた。
「いやぁ……ポポがこんなことをできるの知らなかったの」
「えぇ?」
ものすごく強いのは知ってたよ。
ドラゴンレースのときも、モンスターの群れを遊びながら吹き飛ばしていたからね。
だけど、こんなことまでできるなんて知らなかったよ。
知っていたら最初からお願いしたよ……。
「……ポポとお話できるようになりたい」
「クルル?」
「あとは何ができるの? 何ができるのよぉぉ!」
「クルル♪」
ポポは楽しそうにしてるけど、結局何もわからない。
って、今はそうじゃない!
私は通りに倒れている兵士たちを見た。
「これ、起きないよね?」
「なんかしばらく起きなそうだね」
マチルダが確認する。
「今のうちに行こう」
「うん!」
私は通りの先を見る。
「どうにかなりそうだね」
ナンとハラーもホッとしている。
「助かった……」
「団長たちを担いで走るなんて無理だからな」
「……病人扱いすんなよ」
シャガムトが力なく苦笑する。
「病人だろうが!」
「病人扱いがダメなら、なに扱いしたらいいんだよ!」
「支えなしだと倒れそうじゃねぇか!」
「……そんなに騒ぐなよ。別の奴に見つかるぞ」
「誰のせいだ!」
思わず私がツッコんじゃったよ。
私たちは倒れた兵士たちを避け、そのまま通りを進んだ。
ポポは普段通りで楽しそう。この子大物だわ。
「クルル♪」
「ふふっ」
私はポポの頭を撫でた。
王都はクーデターで、どこへ行っても危険がある。
それでも私たちにはポポがいる。
だったら、きっと大丈夫だ。
「よし。病院まであと少し!」
みんなが頷き、私たちは足を止めることなく先へ進んだ。




