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異世界 満喫トラベラー ~のんびり旅行するつもりが色々巻き込まれました~  作者: みみたん


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第21話 旅の中断

 今日は、異世界に来てこれまでで一番眠れたんじゃないかと思うほどぐっすり眠れた。

 私は旅の支度を終えると、マチルダと一緒に一階へ降りた。


「おはようございます」


「おはよう、ハルカちゃん。よく眠れたかい?」


「はい。本当にぐっすり眠れました!」


 マチルダのお母さんが笑顔で迎えてくれる。

 テーブルの上には、朝食が並べられていた。


「わぁ! 魔王国の家庭料理、実は初めてなんです!」


 だからすごく楽しみなんだよね。


「ああ。昨日は夜遅くの到着だったもんねぇ。ハルカちゃんにも食べてもらいたくてね」


「いただきます!」


 目の前に並んでいるのは、見ためは素朴だけどワイバーン肉の塩漬けパンなんだってさ。


「え、ワイバーンって食べていいやつ!?」


 さらに双頭鳥を煮込んだ野菜スープまで、朝から凝った料理を出してない?

 月光花を好むフラワーヴェスパのハチミツ入り魔牛のミルクまである。

 ボリューミーで素材がすごいのに、これで家庭料理なの?


「とってもおいしい……!」


「そうかい?」


「はい!」


 私のために用意してくれたのかな。

 こういう家庭料理を食べる機会があるなんてラッキーだよ。

 マチルダと契約できて本当に良かった。

 魔王城の料理とも、魔王国のB級グルメとも違う。

 家庭で作られる料理が私の一番好みかも。


「もっと食べな。まだあるからね」


「ありがとうございます!」


「お世辞抜きで、これまでで一番うまいぞ」


 パルまで感心している。


「賢い使い魔だねぇ。たんと食べなよ」


 私は遠慮なく料理をいただいた。

 朝から幸せだ。


 それから食事を終え、少しだけゆっくりした。


「そろそろ行くかい」


 マチルダが立ち上がった。


「うん」


 私も立ち上がる。

 シャガムトたちとは、村の中央広場で待ち合わせることになっている。

 二人はマチルダの実家には泊まらず、村の宿に泊まっている。

 さすがに男二人まで泊められるほど広くないからね。

 本当に泊めたくないわけじゃないって言ってたよ。


「シャガムトたち、ちゃんと起きてるかなぁ」


「どうだろうね」


 マチルダが笑う。


「あいつらのことだ。寝坊してるんじゃないかい」


「私もそう思えてきた」


 私も笑った。


「じゃあ、行ってくるよ」


 玄関でマチルダが両親に声をかけた。


「ああ、気をつけてね」


「ハルカちゃんも、また遊びに来ておくれ」


「はい。ぜひ!」


 お母さんが私に笑いかける。

 こういうの、なんだかいいな。


「マチルダも、次はいつ帰ってくるんだい?」


「……また、そのうちね」


 マチルダは答えにくそうに言ってる。

 お母さんがマチルダを抱きしめた。


「たまには帰ってきなさいよ」


「分かったって」


 マチルダは私が見ているのを気にしているのか、少し恥ずかしそうだ。

 これまで見てきたマチルダとは違う。

 なんだか新鮮だった。


「じゃあね」


「気をつけて」


「はい!」


 手を振って答えた。

 マチルダも小さく手を振っている。

 私たちはマチルダの実家を出た。


--


 村の中央広場に着いた。

 まだ朝早い時間だけど、村はすでに人で賑わっている。

 多分、魔力渦の谷を訪れる人が多い村だからだね。


「……あれ?」


 私は辺りを見回した。


「シャガムトたち、まだ来てないね」


「そうだね」


 マチルダも周囲を見る。


「寝坊当たったかも」


「ありそうだね」


 二人で笑いあったあと、しばらく待ってみる。

 でも、来ない。


「……遅いなぁ」


「まだ寝てるんじゃないかい?」


「どうする?」


「待ってても来ないだろうね」


 マチルダが肩をすくめた。


「宿に迎えに行こうか」


「うん」


 私たちは二人が泊まっている宿へ向かった。


--


 宿に着く。


「すみませーん」


 私が声をかけると、受付にいた女性が顔を上げた。


「ああ、あんたたちかい」


「シャガムトとフンバルトっていう二人が泊まってると思うんですけど」


 女性は少し困ったような顔をした。


「あの二人なら、部屋で寝込んでるよ」


「寝込んでる?」


「朝からずっと熱が出てるんだよ」


「え……」


 私とマチルダの顔から、笑顔が消えた。


「部屋、教えてもらえますか?」


「ああ。二階の奥だよ」


「ありがとうございます」


 私たちは急いで階段を上った。

 教えてもらった部屋の前に立つ。

 ノックをして声をかけた。


「シャガムト?」


 返事がない。そのまま扉を開けた。


「入るよ」


 部屋の中には、ベッドが二つ並んでいた。

 その上に、シャガムトとフンバルトが横になっている。


「……ひどい顔だね」


 マチルダが呟いた。

 二人とも顔が青い。汗もかいている。

 いつもの元気な姿からは想像できないほど、ぐったりしていた。


「シャガムト」


 私が声をかける。

 シャガムトがゆっくりと目を開けた。


「……ハルカ……?」


「うん。どうしたの?」


「……すまねぇ」


 弱々しい声だった。


「本当に具合悪そうだね」


 私はベッドのそばに近づく。


「昨日までは普通だったのに」


「朝起きたら、急に熱がな」


 フンバルトも苦しそうに答えた。


「頭も痛ぇし、体に力が入らねぇんだ」


「二人とも?」


「ああ」


 私は二人の顔を見る。

 さすがにこれは笑えない。


「おめえら……優しいんだな」


 シャガムトが苦しそうに笑った。


「悪いな。俺たちはいいから、二人で観光に行ってくれ」


「何言ってるの」


 私は首を振った。


「こんなに具合悪そうなのに、置いていけるわけないじゃん」


「でもよ……」


「あたしが医者を呼んでこようか?」


「マチルダお願いできる?」


 マチルダが頷き、ドアの方に向かった。


「医者を連れてくるから待ってな」


 そう言って、部屋を出ていった。


「……悪いな」


 シャガムトが呟く。


「気にしないで」


 私は二人を見る。


「ちゃんと治そう」


--


 しばらくして、マチルダが医者を連れて戻ってきた。


「どれ……」


 医者は二人の様子を確認する。

 色々確認している。

 いくつか質問をしてから、難しい顔をした。


「……少し珍しい病気だな」


「珍しい?」


「ああ」


 医者は二人を見ながら言った。


「これは『呪熱病(じゅねつびょう)』だと思う」


「呪熱病?」


 聞いたことのない名前だった。


「この辺りでは滅多に見ない病気だ。人から人へうつる病ではないから、その点は心配しなくていい」


 私は少しだけ安心した。

 でも、医者の表情は暗いままだ。


「問題は治療だ」


「治せるんですか?」


「……この村には、治療する手段がない」


 胸がざわついた。


「この病気は、放っておけば一週間ほどで命を落とすこともある」


「一週間……」


 シャガムトが苦しそうに目を閉じた。


「そんなにヤバいのかよ……」


「症状が進むにつれて体力を奪われる。ここで寝ているだけでも、日に日に悪化するだろう」


 医者は続ける。


「王都へ行けば、こうした病気を扱える医師もいる。薬がある可能性もある」


「じゃあ、王都に行けば……」


「治せるとは言えん。ただ、この村にいるよりは治る見込みもあるだろう」


 医者は少し間を置いて、二人を交互に見た。


「……お二人に、心当たりはないか?」


「心当たり?」


 シャガムトが眉をひそめる。


「この病は、自然にかかるものではないことが多い」


 医者の声は低かった。


「誰かに恨まれたり、呪いをかけられたり……そういう心当たりだ」


「俺たちは見ての通り、人間族だ。このあたりに知り合いはいねぇし、わからねぇ……」


「……そうか」


 医者は少しだけ、怪訝そうな顔をした。


「だが、この病は『悪意』がなければ発症しない。心当たりがなくても、誰かがお前たちを憎んでいることは確かだ」


 シャガムトとフンバルトがゆっくりと顔を見合わせた。


「今は考えなくていいよ。それよりも今はまず王都に戻ろう」


 話に割って入った。

 そう、考えるより先に今はやるべきことがある。


「だが……今の状態で長距離を移動するのは危険だ。移動するだけでも相当な体力を奪われる」


 医者は難しい顔をした。


「できるだけ早く判断したほうがいい」


 そう言って、医者は部屋を出ていった。

 扉が閉まる。部屋の中が静かになった。


「……どうしよう」


 私は呟いた。

 目の前の二人を助けたい。

 でも、私には病気を治す力なんてない。

 ……いや。一つだけ、ある。


「パル」


 私はパルに小声で話しかけた。


「なんだ?」


「神様との約束……今、使う」


 パルの目が細くなる。


「……分かった」


 パルが目を閉じた。

 しばらく、何も言わない。

 私は待った。

 やがて、パルが目を開く。

 そして、ゆっくりと首を横に振った。


「……駄目だ」


「駄目?」


「病気そのものを治すスキルはないそうだ」


「……そうなんだ」


 そんな簡単な話じゃなかった。


「じゃあ、症状を軽くしたり、死ぬまでの時間を延ばしたりすることは?」


 パルが再び目を閉じる。

 しばらくして、今度は頷いた。


「それなら可能だそうだ」


「本当?」


「ああ。ただし、神界の境界へ行く必要がある」


「神界の境界?」


「お前も二度行ったことのある、白い靄の場所だ」


 あの場所か。


「どうすればいいの?」


「一人になれる場所で、神界の境界へ行く必要があるそうだ」


「分かった」


 まずは場所を借りよう。


--


「すみません」


 私は宿の主人に声をかけた。


「空いている部屋ってありますか?」


「空き部屋ならあるけど、どうするんだい?」


「一時間くらいだけ、使わせてもらえませんか?」


 私は銀貨を一枚、主人の手に握らせた。


「……まあ好きに使いな」


「ありがとうございます」


 私は空き部屋へ入った。

 扉を閉める。


「パル」


「ああ」


「お願い」


「分かった」


 パルが目を閉じる。

 次の瞬間、視界が白く染まった。


--


 気がつけば、そこに立っていた。

 白い靄に包まれた場所。


『来たか』


 管理神の声が聞こえた。


「うん」


『約束を使うのじゃな』


「シャガムトとフンバルトが病気になったの」


『知っておる。見ていたのじゃ』


「治すことはできないってパルに聞いた」


『うむ』


「でも、死ぬまでの時間を延ばすことはできるんだよね?」


『できる』


 なら迷う必要なんてどこにもなかった。


「じゃあ、そのためのスキルが欲しい」


『分かったのじゃ』


 目の前に、淡い光が集まっていく。


『授けるのは「癒しの手」じゃ』


「癒しの手?」


『対象に触れることで、その者の自己修復力を促進する』


 管理神が説明する。


『怪我や病気の回復を早める効果がある。また、若干ではあるが体力を回復させることもできるじゃろう』


「それで、二人は王都まで行ける?」


『おそらく可能じゃろう』


「寿命はどのくらい延びるの?」


『個人差はあるが……ひと月ほどは延びるじゃろう』


「一か月……」


 それだけあれば、王都まで行って治療法を探せる。


「分かった。それでお願い」


『では、授けよう』


 光が私の身体へ入り込んでくる。

 不思議な感覚だった。

 前回のスキルと違い、身体の奥に何か新しいものが生まれたような感じがする。


『これでよい』


「ありがとう」


『今回はここまでじゃ』


「うん」


 白い世界が揺らぐ。


『さらばじゃ』


 気づいたら私は元の空き部屋にいた。


「……よし」


 私は手を力強く握った。


--


 部屋へと戻った。

 シャガムトとフンバルトは、眠っていた。

 マチルダも二人のそばに座っている。


「ハルカ、どこに行ってたんだい?」


「ちょっとね」


 私は二人を見る。


「二人とも、これから私のスキルを使うよ」


「スキル?」


 マチルダが首を傾げる。


「うん」


 私はシャガムトの腕に手を当てた。


「癒しの手」


 手のひらから、淡い光が広がった。


「……なんだ、これ」


 シャガムトが目を覚ます。

 熱に浮かされていた顔から、少しずつ苦しそうな表情が消えていく。


「……体が、楽になってきた」


「本当?」


「ああ……」


 私は次にフンバルトにも同じようにスキルを使った。


「……あ」


 フンバルトも目を開く。


「さっきより、ずっと楽だ」


「よかった……」


 とりあえず時間ができた。

 完全に治ったわけじゃないけど、これなら移動できるはず。


 マチルダが私を見る。


「ハルカ、あんたはそんなスキルも使えたのかい?」


「うん。隠しててごめんね」


 どこまで話して良いかわからないし、濁すしかない。


「……そうかい」


 マチルダは驚いた顔をしていた。


「これで体力も少し戻ったし、マシになったよね?」


 私は二人を見る。


「体力があるうちに、急いで王都に戻るよ」


「色々とすまねぇ」


「大丈夫だよ」


 この村には治療の手立てがない。

 それなら戻るしかない。


「サイキョーなら、治療できるかもしれないんだよね?」


「ああ、そう言ってたね」


 マチルダが頷き、シャガムトをゆっくりと起こした。


「悪いな、マチルダ。ハルカも助かるぜ」


「気にしないで」


「気にすることはないさ」


 私とマチルダは笑った。


--


 私たちは急いで宿を出た。

 マチルダが心配そうに声をかけてきた。


「王都に戻るのはいいけどね」


「うん?」


「途中で魔獣に襲われたりしないかね」


「そういえば……」


 この旅の間、魔獣に襲われていないけどマチルダは珍しいと言っていた。

 普段、まったく襲われないなんてことはないんだろうな。

 しかも病人を二人連れている。できるだけ安全に進みたい。


 今回は緊急だから、気が進まないけど……。


「ポポ、本当はこんなことを頼みたくないけど、私たちを守って」


「クルルッ!」


 ポポが自信満々に鳴いた。


「……ずっと気になってたけど、ポポは強いのかい? まだ幼龍だろ?」


「うん、魔獣の群れを撃退したこともあるよ。すごく簡単にね」


 マチルダが驚いた。


「それで護衛はいらないって言ってたのかい」


 シャガムトとフンバルトを馬車に乗せた。

 私たちは御者席だ。


「それじゃポポお願いね」


 ポポが馬車を牽いて動き出す。

 何も指示はしてないのに、シャガムトたちに負担が起きないほどの揺れで、走っている。

 でも速度はそれなりに出ている。

 ポポはやっぱりすごく賢い。

 もしかして、私より賢い……?


 たまに二人の体調を確認しながら進み続ける。

 そして夕方になる頃。


「……あれ?」


 遠くに、大きな街並みが見えてきた。


「ちょっとこれは異常だよ!」


 私も驚いたけど、マチルダはもっと驚いていた。

 私たちは、その日のうちに王都サイキョーへと戻ってきたのだ。


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