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異世界 満喫トラベラー ~のんびり旅行するつもりが色々巻き込まれました~  作者: みみたん


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第19話 絶望の丘へ

 旅の準備がやっと終わった。

 なんとか今日中に出発できそうでホッとしている。


 必要なものはマチルダが教えてくれたし、私には無限収納もある。

 食料や水、野営に必要な道具まで収納に入れてしまえば、荷物の心配なんてほとんどない。


 ここまでで、マチルダめっちゃ優秀なんですけど。


「ハルカ、魔力渦の谷と魔結晶オーロラ、それに絶望の丘。どこから先に行くんだい?」


 隣にいるマチルダが尋ねてくる。


「うーん……絶望の丘かな」


「そっちからでいいのかい?」


「うん。魔王国歴史博物館で観光名所ランキングを見たんだけど、四位だったんだよね」


「そうなのかい」


「三位は最後の楽しみで、先に四位からかな!」


 マチルダは頷いた。


「それなら、絶望の丘から行くのがいいね。あそこなら目的地まで馬車で行けるよ」


「馬車で?」


「ああ。魔力渦の谷は途中までだけど、絶望の丘なら近くまで馬車道が通ってる」


 マチルダは説明を続けた。


「魔力渦の谷の麓に私の村があるだろ? そこで馬車を預けられるし、そのルートが楽なのさ」


 ふむふむ。私は無限体力があるけど、他の人に歩かせると時間かかりそうだよね。


「じゃあそうしよ!」


--


 私たちはさっそく馬車を借りることにした。

 みんなでレンタル馬車屋へ向かう。

 店には何台もの馬車が並んでいた。


「わあ……いっぱいある」


 豪華な装飾が施された頑丈そうなもの。

 逆に、今にも壊れそうなほど年季の入ったもの。

 荷物を大量に積めそうな大型の馬車まである。

 異世界の馬車はまんまイメージ通りだなぁ。


 たくさんの馬車を一台ずつ眺めていった。


「これがいいかな」


 最終的に選んだのは、豪華すぎず、ボロすぎない普通の馬車だった。


「これなら落ち着いて旅行できそう」


「そうだね。値段も手ごろで良いと思うよ」


 マチルダも頷く。

 するとポポが突然、馬車の前へ駆け寄った。


「クルルッ!」 


「どうしたの?」


「クルル!」


 ポポは馬車を見上げ、それから馬をつんつんした。

 さらに馬をどかすジェスチャー、自分が馬の場所に入るジェスチャーをした。

 そして、私のほうを振り返る。


「……もしかして」


「クルルッ!」


 ポポが胸を張った。


「自分が馬の代わりをするって言ってる?」


「クルル!」


「いやいや、ポポ。これは馬が引くものだよ?」


「クルルル!」


 ポポは首を横に振って頑として譲らない。

 馬車を引いている馬をじっと見ている。

 どうやら、あれが羨ましいらしい。


「ポポ、馬になりたいの?」


「クルル!」


「……どうして?」


「クルルルル!」


 理由はよく分からない。

 でも、ポポは完全にやる気になっていた。


「ポポ様が引きたがってるんだし、やらせてやれよ」


 シャガムトが言う。


「だな」


 フンバルトも頷く。


「私はポポとぎゅーってしながら景色を楽しみたいけど?」


「だってポポ様がやりたがってんだぞ?」


「それはそうだけど……」


 ポポを見ると目がウルウルしている。

 か、かわいい……。


 結局ポポの強い希望に負けて、馬の代わりをしてもらうことになった。

 ……まあ、ポポがやりたいのを止めるのもかわいそうだしね。

 それに考えたら、馬のレンタル代も値引きしてくれるかも。


「この子が馬の代わりをねぇ……」


 マチルダは疑ってるようだけど、私が大丈夫と言ったらレンタル屋と交渉をしてくれた。


「馬のレンタルはないから半額でいいってさ」


 マチルダ使えるじゃん。

 交渉までできるなんて契約して正解だったかも!


 御者席にはマチルダが座る。


「じゃあ、出発するよ」


「お願いします!」


 マチルダの隣に座った。

 せっかく旅行に来たんだもん。

 道中の景色も見たいし、マチルダのガイドも聞きたい。


「なにが楽しくて御者席に来るんだよ」


「まったくだ。ハルカも物好きだなー」


 シャガムトとフンバルトはそう言い残し、馬車の中へ。


「じゃあ、行こう!」


「クルルッ!」


 ポポが元気よく走り始めた。

 馬車が動き出す。

 ガタン。


「おお……」


 思ったより揺れる。

 でも、不快というほどではない。


「いい揺れだな」


「眠くなるな」


「……寝るか」


「そうだな」


「景色楽しまないの?」


 シャガムトは手をヒラヒラして、フンバルトは首を横に振って断ってきた。

 二人は馬車が動き出して、すぐ眠ってしまった。


「……あいつら、何しに来たんだい?」


 マチルダが呆れた声を出す。


「自分たちの仕事は料理だけって決めてるのかもね」


 こんなの苦笑するしかない。


「あんた雇い主だろ? びしっと言わなくていいのかい?」


「そのうち何かあったら言うよ」


 サイキョーの門を出て、しばらく進んだところでマチルダが説明してくれた。


「絶望の丘までは、だいたい歩くと四日くらいだね」


「そうらしいね」


「今日は途中にある街まで進んで、そこで泊まる予定だよ」


「なるほど」


 道の両側には草原が広がっていた。

 遠くには山が見える。


「あの山って何?」


「どの山?」


「あれ。右側の大きいやつ」


「ああ、あれかい? あれは貧乏山だよ」


 まさかの日本にもある山の名前と同じだった。

 私の日本にいたときの友達が山マニアだから偶然知ってたんだ。

 山マニアってなんだよ。


「へ、へぇ……」


 少し進む。


「あの森は?」


「手つかずの森だよ」


「手つかず?」


「ああ。原生林で、太古の昔から変わってないのさ」


「へえ……あの森って結構大きくない?」


「確かに大きいね。昔からあの辺りは自然保護区で、立ち入りは制限されてるんだ」


 マチルダは、森についても詳しく説明してくれた。

 どうやら昔から周辺の村では、動物の保護だけでなく、森を生活にも活用しているらしい。


「許可を得た村人だけが入って、間引きした木から薪や木材を取るのさ。魔族の生活に欠かせないんだ」


 自然の恵みと偉大さを、マチルダは教えてくれた。


「なにげないことでも聞くと楽しいね」


「いちいち気にするねぇ」


「だって気になるんだもん」


「ハルカは相当珍しいよ」


 マチルダは呆れたように言う。

 でも、私が質問するとちゃんと答えてくれる。

 道沿いに建っている建物について聞けば、その建物が何に使われているのか教えてくれる。


 小さな村が見えれば、その村のことも説明してくれる。

 面倒そうにしているけど、案内役としてはすごく丁寧だった。


「マチルダって詳しいね」


「地元だからね。この辺りのことなら、それなりに知ってるよ」


「すごい! 私は地元のことをここまで知らないよ」


 マチルダのおかげで馬車の道程を満喫できていた。

 知らない場所を見て、知らないことを聞く。

 こういうのが楽しいんだよね。

 ……ちなみに馬車の中では。


「ぐー……」


「すぴー……」


 シャガムトとフンバルトがずっと寝ていた。


「……あいつら、起きないね」


「昨日仕事がクビになったばかりだから、眠れなかったとか?」


「クビね……そんなことで眠れなくなるタマには見えないけどねぇ」


--


 しばらく進んでから、マチルダが話しかけてきた。


「ねえ、ハルカ」


「なに?」


「どうして絶望の丘に行きたいんだい?」


「観光名所ランキングに乗ってたんだよ? 興味わくじゃん」


「……うーん」


 マチルダが、なんとも言えない顔をする。


「どうしたの?」


「いや……そうなのかい、って思ってね」


 なんだろう。絶望の丘について何か知っているみたいだけど。


「何かあるの?」


「まあ、そのうち分かるよ」


「えー?」


 気になる。でも、マチルダはそれ以上教えてくれなかった。

 まあ、現地に着いてからのお楽しみってことかな。


 それからも旅は順調だった。

 魔獣に襲われることもなく、道も安定していた。

 景色を楽しみながら、マチルダにいろいろ質問する。

 マチルダは面倒そうにしながらも、そのたびにちゃんと答えてくれた。


--


 こうして私たちは途中の街で一泊後、絶望の丘の近くまでやってきた。


「ここまでスムーズな旅はなかなかないよ。二日で到着なんてびっくりさ」


 マチルダが言う。


「うん! 何事もなく来られてよかった!」


 旅行って楽しいなぁ。

 私がニコニコしていると、マチルダが少し言いにくそうに口を開いた。


「……ハルカ」


「なに?」


「絶望の丘に着いたら……その、覚悟しておきな」


 覚悟?いいじゃん!


「絶望だもんね! 何かすごい体験できる?」


「……いや、そういう意味じゃないんだけどね」


 マチルダが気まずそうに目を逸らした。

 どういう意味だろう。

 ワクワクしながら、前を見た。


「……え?」


 小高い丘を越えたところで、絶望の丘が見えてきた。

 その入口には、大量の旗やのぼりが立っている。


『ようこそ絶望の丘へ!』

『絶望の丘、観光名所!』

『あなたは絶望の目撃者となる』

『絶望!絶望!とにかく絶望!』

『絶望の先には絶望しかない』


 日本の観光地と同じノリじゃん。

 魔王国ってこれまでもずっと、予想の斜め上よね。


 さらに進むと絶望の丘そのものが、思っていたよりずっと小さい。

 なんかこじんまりしてる?

 丘と呼んでいいのか迷うくらいの高さしかない。

 歩いてすぐ登れそうだ。


「……これが絶望の丘?」


「そうだよ」


 マチルダが淡々と答える。

 周囲には観光客向けの看板が立ち並んでいた。

 投影魔法による記念撮影用の場所まである。

 そして頂上には、『絶望の丘・頂上』という看板まで立っている。


 目の前の小さな丘と、その周囲に大量に立てられた宣伝を交互に見る。


「魔王国の観光ランキング四位なんだよね?」


「ああ」


 なんかこう……危険な魔力地帯とか期待しちゃってたかも。

 ……ハズレなのかな。絶望の丘を改めて見渡す。


「だから覚悟しろって言ったの」


「そういうこと」


 マチルダが頷いた。

 本当にこれで終わり? まさかね。


「でも、奥に行けば何かあるんでしょ?」


「……まあね」


「やっぱり!」


 きっと奥には、本当の絶望が待っているんだ。

 そういう異世界らしい何かが!


「じゃあ、行こう!」


 私たちは馬車を降りた。

 そして絶望の丘の奥へ向かって歩き始めた。

 シャガムトとフンバルトがすごく張り切ってる。

 

 ポポの馬具を外そうとしたら、自分で外しちゃった。

 ポポが張り切ってる。目まで光っちゃって! そんなに楽しみなの。


「よし、行くぞ!」


「おう!」


 たっぷり寝てたもんね。だから元気なんだよね。

 二人をおいかけて丘の入口へ向かって歩き始めた。


「……あれ?」


 なんだろう。ほんの少しだけ、気分が沈んだような気がする。

 身体も少しだけ重い?


「なんか違和感が……」


 軽く身体を動かしてみる。

 うん。動ける。気にするほどじゃない。


「ハルカ?」


「大丈夫。ちょっと身体が重いだけ」


 マチルダがこちらを見る。


「……そうかい」


 そのまま歩いていく。


「……なんだ、これ」 


 ちょっと進んだところでシャガムトが声をあげた。


「……なんか、気持ち悪くねぇか?」


 フンバルトも顔をしかめていた。


「たしかに……なんか変だ」


 二人の顔から、みるみる血の気が引いていく。


「大丈夫?」


 私が振り返るとシャガムトが膝から崩れ落ちた。

 その直後、フンバルトもその場に倒れる。


「ちょ、ちょっと!?」


 慌てて二人に駆け寄った。


「シャガムト! フンバルト!」


 返事がない。


「気を失ってる……?」


「……そうみたいだね」


 マチルダの声も苦しそうだった。


「マチルダ?」


「あたしも、かなり気分が悪いよ……」


 マチルダは額に手を当てている。

 顔色もかなり悪い。

 さっきまでと景色は何も変わらない。

 旗とのぼりが見えて、観光客向けの看板もある。

 でも、人がほとんどいない。


「なんでこんな場所に観光地の旗がいっぱいあるの?」


「観光地だからだよ」


「でも、人いないよ?」


「今は大会の時期じゃないからね」


「大会って?」


 マチルダは苦しそうになりながらも説明してくれた。


「絶望の丘はね、魔族の我慢大会の会場にもなってるんだよ」


「我慢大会?」


「ああ。どれだけ長く、この場所で耐えられるかを競うんだ」


「……何それ」


「魔族にとっては、それなりに人気のある大会だよ」


「じゃあ、今は?」


「大会期間外だから、こんなもんさ」


 大量の旗やのぼりだけが、寂しく風になびいている。


「大会の時期なら、もっと人が多い。記録を競う連中も集まってくるよ」


「……観光地っていうか、修行場じゃない?」


「まあ、似たようなもんだね」


 マチルダが苦笑する。

 もう一度、周囲を見渡した。

 丘の入口に大きな看板が立っていることに気づいた。


『第七代魔王の絶望が残る地』


「第七代魔王?」


「ああ」


 マチルダが頷く。


「四千年くらい前の魔王さ」


「へぇ……」


「その魔王は、この場所で長い間、絶望を振りまいていたらしい」


「絶望を……?」


「ああ。詳しいことは、またあとで奥についたら話すよ」


 マチルダは丘の奥を見る。


「そのときに振りまいた絶望が、今もここに残っている」


「それが……この気分の悪さ?」


「そういうこと」


 自分の身体を確認する。

 確かに少し気分が沈んでいる。

 身体も少し重い。でも、それだけ。


「……私、そんなに辛くないけど」


「ハルカは平気なのかい?」


「うん。ちょっと気分が沈むくらい」


「……そうかい」


 マチルダが驚いたように私を見る。


「普通はもっときついんだけどね」


「そうなの?」


「ああ」


 マチルダは苦しそうにしながらも、なんとか立っている。


「魔族のあたしでも、ここに長くいるのは辛いよ」


 その横では、シャガムトとフンバルトが完全に伸びている。


「……人間族には、かなりきついみたいだね」


「そうだろうね」


「この二人、どうしよう?」


「少し休ませたほうがいいだろうね」


 マチルダが二人を見下ろす。


「ここで倒れる人は初めて見たが……」


「普通は倒れないの?」


「倒れるまで耐える連中もいるよ。まあ大会のときだけね」


「危険じゃない?」


「気分が悪くなるだけで体に何も害がないんだ。だから観光地になってるんだよ」


 マチルダは淡々としている。

 倒れている二人を見る。

 ……この二人はショボいってこと?


 そのとき、コメント欄を見ていたパルが私の肩の上から声をかけてきた。


「ハルカ」


「なに?」


「どうやらここ、かなり特殊な場所らしいぞ」


「うん……」


 さっきまでは、ただの小さな丘にしか見えなかった。

 でも今は違う。四千年前の魔王が残したものが今でも消えずに残っている。


 こんなのを危険もなしに体験できるなんて、すごい観光地なのかも。


「……でもさ」


 周囲の旗を見る。


『ようこそ絶望の丘へ!』

『絶望を体験しよう!』

『絶望に耐え続けるあなたは素敵!』


 ……なんか、雰囲気を全然分かってない気がする。


「この旗とか、のぼりとか……」


「あたしも個人的に、このノリはどうかと思うよ」


「うん……もうちょっと名前に雰囲気を寄せたほうがよくない?」


「まあ、あたしが初めてここに来たときからこんな感じだからねぇ」


 マチルダは肩をすくめた。

 ……なるほど。

 この国では、四千年前の魔王の絶望すら観光資源になっていて興味深いよ。

 異世界の情緒を感じながら、丘の奥を見る。


「それで、マチルダ」


「なんだい?」


「この先には何があるの?」


 マチルダが少しだけ笑った。


「それは、実際に見てからのお楽しみさ」


「えー?」


「ここまで来たんだ。せっかくだから、自分の目で見てみな」


「分かった!」


 ちょっとワクワクしてきたよ。


「よし! 行こう!」


 丘の奥へ向かって歩き出した。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、ハルカ……」


「マチルダ、大丈夫?」


「……大丈夫じゃないけど、行くしかないだろ」


「そっか、ここからは私一人でもいいよ?」


「いや、契約分はちゃんと働くさ」


 マチルダ……なんていい子なの。


「シャガムトとフンバルトはどうしよう?」


「……置いていくわけにもいかないだろ」


「だよね」


 二人を見ながらため息を吐いた。

 そしたら、ポポが二人を担いでくれた。


「この子、馬の代わりもするし、すごいね」


 マチルダがポポを見て驚いている。

 ふふん、私のポポはすごいんだよ。

 

「それじゃ先に進もう!」


 ちょっと進んだら、看板が立っていた。


『絶望する準備はできましたか?』


 この看板を見て思うことは一つ。


「これ、期待外れのパターンじゃない?」


 マチルダが私を見て、首を横に振っている。

 なにそれ、その仕草に絶望しちゃうよ。

 さらにその先に、別の看板が見えている。


『ここから先、あなたは絶望する』


 さらに進む。……丘は小さい。景色も普通。特別なものは何もない。

 そして頂上に着いた。


『絶望の丘・頂上』


 看板が立っている。それ以外には、特に何もない。

 周囲には木があり、建物も見える。

 景色も、なんというかめっちゃ普通。


「……何もない」


「そうだよ」


 マチルダが淡々と答えた。


「何もなくていいの?」


「絶望の丘はね、期待して来た人を絶望させる場所として有名なんだ」


 私は丘を見渡す。


「たったそれだけ? なんかないの?」


「まあ……それじゃ元々の由来を教えてあげるよ。昔、ここで魔王軍が敵を待っていたんだ」


「敵?」


「ああ。三か月、ずっと待ってたらしい」


「緊張しっぱなしで三か月も待つの……」


「そう。絶対に来るという情報があったらしくてね」


「絶対って、私の中で信用できない言葉ランキング一位じゃん」


「そんなもんかもね。案の定、敵は最後まで来なかった」


「やっぱり」


「その当時、絶望的な戦力差で、誰もが負ける戦いだと思っていたらしい」


「覚悟してたのね」


「ああ、ある者は恋人に最後の別れを、ある者は遺書を書き、ある者は散財後に戦場へ終結したらしい」


「なるほど」


「ああ、だが魔王軍は戦うこともできず、そのまま帰ることになった」


「ふむふむ」


「兵士たちは『せっかく来たのに何もなかった』って絶望したらしい。それほどの覚悟があったのさ」


「……覚悟が無駄になって逆に絶望したのね」


「まあ、そうだね」


 マチルダは淡々と答えた。


「その後、魔王国はここを観光地として売り出したんだ」


「どうやって?」


「『魔王軍が絶望した伝説の地』って宣伝してね」


 大量の旗があって、確かに『魔王軍が絶望した伝説の地』の旗もある。

 大量の看板もあるね。土産物屋に記念撮影スポットまで。


「……宣伝だけはすごい」


「そうだね。それから観光地なのに何もないってんで、さっきの七代魔王が絶望を振りまいたらしいんだ」


 確かに思ってた方向と違う形で絶望した。

 だって何もないんだもん。

 そして七代魔王も同じ気持ちだったみたい。


「そのおかげでそれなりの観光地になったけどね。景色を期待してたら残念に感じるんだよ」


 パルは私の肩の上で配信画面を確認していた。


「ハルカ」


「なに?」


「視聴者には割と好評だぞ」


「こんなのが?」


「気になるなら自分でコメントを見たらいいだろう」


「観光に集中できなくなるから嫌なんだよね」


「ハルカはそうだろうな」


「まったく、どうせ私を馬鹿にしてるんでしょ……」


 そんなことより観光だよ。絶望は二つの意味があった。

 期待よりすごい絶望と、期待外れの絶望。

 私はここに来れて良かったと思っている。


 そして丘を降りた。

 しばらく戻り、絶望を感じなくなった辺りで二人が目を覚ました。


「また俺たち寝てたのか!?」


「ここどこだよ?」


 きょろきょろしてたけど、観光地だと気づいて二人はどこかに歩いていった。


「運んでもらったのに感謝もなしかい」


 マチルダは呆れている。

 そのとき、近くの売店から声がした。


「絶望された方には、こちらがおすすめですよ!」


「え? オフシーズンでも売店に人がいるのね」


 店員さんが笑顔で商品を差し出してくる。


「絶望の丘まんじゅうです!絶望した人におすすめですよ!」


「……絶望していない人には?」


「まず絶望してからお買い求めください」


 店員さんがやり切った顔をしている。

 なんか悔しい。


「ネタまで準備してんじゃん!」


 どうやらこの観光地。

 雰囲気とマッチしてないよね。センスがないというか。


 マチルダが苦笑する。


「だから、あたしは最初から渋い顔してたんだよ」


「なんかちぐはぐな観光地だもんね……」


 絶望の丘の景色には、かなりがっかりしたけど。

 絶望を体験できたことと、マチルダの解説はかなり良かったよ。


「マチルダに案内してもらえてよかった」


「そう言ってもらえれば十分だよ」


 マチルダは少し照れたように笑った。

 案内役として、かなり頼りになる。

 あと解説が楽しいよ。


「ハルカが普通に観光しているのは、一定の視聴率を見込めるな」


 パルが満足そうだ。


「配信が盛り上がるの本当に好きだね」


 パルがおとなしいときは、撮影に苦労しているかコメントを読んでいる時だ。


「おーい、ハルカ!」


 シャガムトが大量の袋を抱えていた。


「見てくれ!」


「何それ?」


「絶望の丘の記念スタンプ押してもらったぞ! 他にも色々買った!」


「俺は記念メダル買ったぞ!」


 フンバルトも嬉しそうにメダルを掲げている。


「絶望の丘に来た記念だからな!」


「そうだな!」


 二人とも楽しそうだ。


「一番この観光地を楽しんでるの、あんたたちじゃない?」


「そうか?」


「そうだな!」


「お金ほとんど使ったでしょ?」


「細かいこたぁ気にしねぇんだよ!」


 あんたたちらしいね。


「来てよかったじゃん」


 私より二人が楽しそうで悔しいけどさ。

 絶望の丘に来てよかった。


 それに、次の目的地が残っている。


「次は魔力渦の谷と魔結晶オーロラだね!」


「そうだね」


「楽しみ!」


 旅行は、まだ続く。

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