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異世界 満喫トラベラー ~のんびり旅行するつもりが色々巻き込まれました~  作者: みみたん


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第18話 魔王国での旅行準備

 今、私は魔王さんと一緒に朝食を食べている。

 これはもう毎朝のルーティーンになっていた。


 昨日は魔王国歴史博物館を見て、そのあとモフモフ団と一緒に昼食を食べた。

 魔王国での生活は楽しい。

 美味しいものを食べて、観光して。

 私は今、かなり満足していた。


「してハルカ、実際に魔王国で暮らしてみて、不便などはないか?」


 魔王さんがそう尋ねてくる。

 私は目を輝かせた。


「何も不満なんてありませんよ!」


「観光地はたくさんあるし、ご飯は美味しいし、人も親切で優しいです!」


「それは良いことだ」


 魔王さんが満足そうに頷く。


 ……まあ、本当は一つだけ言いたいことがある。

 肖像画。あれだけは撤去してほしい。

 でも、あれを撤去してもらったら、肖像画を売りたくないのかって疑われちゃうよね……。

 撤去してほしい。でも、お金は欲しい。

 ……悩んだ末、私は結局そのことを心の中にしまっておくことにした。


「それで、今日からは何をするのだ?」


「しばらく遠出しようと思っています」


「ほう」


「魔力渦の谷と魔結晶オーロラ。それに絶望の丘に行く予定です」


「魔力渦の谷と絶望の丘か」


 魔王さんは顎に手を当てた。


「それなら歩いて四日ほどだな」


「歩いて四日……」


 思ったより遠い。

 まだ何も調べていないからそんな情報は全然知らなかった。


「護衛はいらんか?」


 危険なところなのかな、王都の外のことを何も知らない。


「護衛が必要なんですか? まだ何も調べてなくて……」


「そうか」


 魔王さんは横目で大臣を見たあと、満面の笑みを浮かべた。


「ならば、吾輩が同行しよう」


「えええ?」


「護衛としても道案内役としても、道中の話し相手としても申し分ないぞ」


「魔王様」


 横から、大臣さんの冷たい声が飛んできた。


「なんだ?」


 魔王さんが話の邪魔をしてきた大臣を横目で見る。


「公務をほっぽり出す気ですか?」


「ほっぽり出すとは人聞きの悪い。吾輩はちゃんと公務を――」


「今の魔王様に、そんな時間はございませんよ」


 魔王さんが黙った。

 大臣さんはさらに追撃する。


「そもそも、こないだのお笑いライブも、私になんの相談もなしに城を抜け出しましたね?」


「そ、それは……」


「国のトップが、何の連絡もなく城を抜け出すのはいかがなものかと思いますが?」


「こ、公務はちゃんとやっておるではないか!」


 魔王さんが必死に反論する。

 すると大臣さんの表情が、ほんの少しだけ険しくなった。


「ほう……公務をちゃんとやっているのですね?」


「う、うむ」


「百歩譲って、そうだとしましょう」


「譲らなくてもいいではないか……」


 魔王さん、すごく小声だ。


「しかし、国のトップが行方をくらますのはどういうことです?」


 魔王さんが完全に黙った。

 私はその様子を見ながら、なんとなく昔おじいちゃんが見ていた時代劇を思い出していた。

 すぐに城を抜け出す将軍様。

 でも魔王さんは目立つから、あのドラマと違って国民にすぐ気づかれそう。


「……そ、それは」


 魔王さんが目を逸らす。


「……すまなかった」


「これで何度目ですか?」


 大臣さんに責められ続け、もはや魔王さんの威厳がどこにもない。


「次はありませんよ」


「……はい」


 魔王さんが肩を落とした。さすがに反省したらしい。

 ……と思ったけど、私は見逃さなかった。

 下を向いてる魔王さんの目が、妙に怪しく光ってる。

 口元もニヤっとしてるよね。

 これ、またやるな。


「まあまあ」


 私は苦笑しながら声をかける。


「お土産を買ってきますよ。だから魔王さんも公務頑張ってくださいね」


「うーむ……」


「でも、魔王さんの国だから、お土産いらないかな?」


 すると魔王さんは、さっきまで怒られていたのが嘘みたいにケロッとした顔になった。


「ハルカよ。その気持ちが嬉しいのだ」


「そうですか?」


「うむ」


 大臣さんが深いため息を吐いた。

 ……なんだかんだで、魔王さんらしいと思ったよ。


--


 朝食を終えた私は、いったん自分の部屋へ戻った。


「さて、どうしようかな」


 部屋に戻ると、パルが私の肩から窓際へ移動した。


「何がだ?」


「旅行だよ。魔力渦の谷と魔結晶オーロラ。それに絶望の丘」


「計画をちゃんと立てるのか?」


「うん」


 私は窓から外を見る。


「魔王さんの話だと歩いて四日なんだよね」


「そうだな」


「だったら、案内役を雇ったほうがいいんじゃない?」


「それが無難だろうな」


「冒険者ギルドで探せるかな?」


「たぶん探せるんじゃないか?」


「じゃあ、そうしよう!」


 方針は決まった。


--


 私は大臣さんのところへ行き、しばらく留守にすることを伝える。


「では、行ってきますね」


「はい。くれぐれもお気をつけください」


「ありがとうございます」


 私は魔王城を出た。

 そして城門まで歩いてきたところで見覚えのある二人がいた。


「……またあんたたち?」


 今日はシャガムトとフンバルトがいる。

 ……これでモフモフ団とこの場所で会うのは三日連続。

 さすがに偶然じゃない気がしてきた。


 ただ、なんだか二人とも元気がない。


「今日はあんたたちがシフト休み?」


 返事は大きなため息で返ってきた。


「どうしたの?」


 二人は何も答えない。

 互いの顔を見合わせる。

 そのまましばらく葛藤したあと、フンバルトが小さく頷いた。

 それを確認してから、シャガムトが口を開く。


「……実は、バイトをクビになった」


「え? 何やってんの? 他のメンバーは?」


 また二人が顔を見合わせる。

 また少しの間があってから、シャガムトが言いにくそうに口を開いた。


「……クビになったのは、俺とフンバルトだけだ」


 団長と副団長がクビになるとかさ。

 ……あんたら、どんだけ使えないリーダーズなのよ。


「お前たち、配信を盛り上げるために行動してるのか?」


 パルが感心したように言う。

 たしかに、これは視聴者ウケが良さそうだ。


「配信……?」


 シャガムトが首を傾げる。


「それはよくわからんが、しばらくは団員に食わせてもらう」


「神々に向かってヒモ宣言か。いいじゃないか」


 パルが呟いた。

 そして多分コメント欄を見てるよね。口がニヤニヤしている。

 ……パル。私より、こいつらを撮影するほうがバズると思うよ?


「でも、ずっとそのままってわけにはいかないでしょ?」


 私は当たり前のことを聞いてみた。


「そうなんだよ」


 シャガムトが頷く。


「そこでだ、ハルカ……」


 めっちゃ真面目な顔じゃん。


「俺たちを雇ってくれないか?」


「……私が?」


「お前、金が入るだろ?」


「そう来たか……」


 私に雇われたいなんて、そんなに追い詰められてるのかな。


「荷物持ち、護衛、話し相手、小間使い。なんでもやるぜ?」


 私には無限収納があるから荷物持ちは必要ない。

 ポポもいるから護衛も間に合っている。

 話し相手もねぇ……。

 小間使いも、私はパシリが欲しいとかない。

 うーん、どうしたものか。


「あんたたちが困ってるのはわかったよ」


「おう!」


「私、行きたいところがあるから、歩きながら考えよ?」


「おう!」


「よし!」


 ここで話していたら時間がもったいない。

 私は冒険者ギルドへ向かいたいのだ。

 二人を促して歩き始めた。


「私ね、今日から魔力渦の谷と魔結晶オーロラ、それに絶望の丘に行こうと思ってるんだ」


「ほうほう」


「それは遠いところなのか?」


「うん」


 歩きながら、私は今回の旅行について二人に説明していく。


「ふむふむ」


 シャガムトが頷く。


「なんで景色を見たいのかわからんが、見たいんだな?」


 逆に見たいのを理解できないのがわからんけど。

 そして、自分のスキルについても説明した。


「お前、アイテムボックス持ちかよ!」


 フンバルトが驚く。


「うん。だから荷物持ちは必要ないんだ」


 二人が悲しそうな顔をしている。


「それにポポがいるのに、私を護衛したいの?」


「……たしかに、ポポ様を忘れていた」


「だから、二人にお願いできる仕事ってあんまりないんだよね」


「は、話し相手とか!」


「あんたらさっき、なんで景色を見たいのかわからんって言ったよね?」


「言ったな」


「それで話し相手になると思ってるの?」


 シャガムトとフンバルトの元気が、さらに無くなっていった。


「大丈夫?」


「大丈夫じゃない」


「俺たち、完全にいらないじゃないか……」


「まあまあ、何かできることがあるかもしれないし」


「……ハルカ、もしかして優しい奴なのか」


「……ハルカって、本当はいい奴なのかもな」


 は?兄弟そろって失礼すぎじゃない?

 連れてくのやめようかな……。


 そんなことを話しているうちに、冒険者ギルドへ到着した。

 三人で受付へ向かう。


「すみません」


「はい。どうされましたか?」


「魔力渦の谷と魔結晶オーロラ。それに絶望の丘に行きたいんですが、案内役を雇うことは可能ですか?」


「はい。依頼を出していただければ可能ですよ」


「わかりました。依頼はどうやれば?」


「それは後ほど説明しますね。他に条件などはありますか?」


「うーん、女性の案内役が嬉しいです」


「女性の案内役ですね」


「はい。そうです」


 私は頷く。


「今日からお願いできますか?」


「今日から、ですか? 冒険者ランクが低くてもよければ可能かもですが……」


「今日から準備したいですね。冒険者ランクって、高い方が安心感ありそうですね」


「そうなりますねぇ」


「なら、できるだけ高い人で」


「承知しました」


 受付嬢さんが依頼内容を書き留めていく。

 その横で、モフモフ団の二人は完全に空気になっていた。

 ……やっぱり役に立たない。


「ただ、今日中に高ランクの冒険者が捕まるとは思いませんので、低ランクでも良ければ、お客様が直接お会いになって決めますか?」


「それは面接みたいなものですか?」


「そう思っていただいて大丈夫ですよ」


「はい。早く旅行に行きたいので話してみたいです」


「わかりました」


 受付嬢さんが依頼書を差し出す。


「では、こちらにサインを……」


 私はペンを受け取った。

 依頼書に名前を書く。


「――って」


 受付嬢さんの動きが止まる。


「……救世主ハルカ様!?」


「え?」


 私は書くのをやめた。


「いやいや、私は普通のハルカです」


「魔王国でそんな珍しい名前の方はいません!」


「そうなの?」


「どうしよう……ギルマス呼ばなきゃ!」


 受付嬢さんが突然慌て始めた。


「これは緊急クエだわ!」


 この受付嬢、何を言ってるの?


「あのー……大事にしないでくださいね」


「はい! あとはお任せください!」


 全然聞いてない。


「では、座ってお待ちください! 急いで処理をしますね!」


 受付嬢さんはそう言うと、奥へ向かって走っていった。

 私はその背中を見送る。


「なんだかなぁ……」


 たぶんわかってないね、あれ……。


 それからしばらく待っていると、奥のほうからドタドタと足音が聞こえてきた。

 やがて現れたのは、スキンヘッドで眼光の鋭いお爺さんだった。

 たぶん、あれがギルマスなんだろうなぁ……。


「ハァハァ……あなた様がハルカ様ですか!」


 息を切らしながら、ギルマスさんが私の隣に座っている魔族の女性へ声をかけた。


「え? 私はそんな名前じゃないですけど!?」


「なぬ!? これは失礼した!」


「ギルマスさん、あのー……」


「では、あなた様ですかな!?」


 今度は私の反対側に座っている女性へ声をかけた。

 ……私の声、聞こえてないんかい。

 受付嬢さんも、どうしようって顔でハラハラしている。

 いや、そこは受付嬢さんが声をかけてあげてよ。


 もういいかな。

 結果がどうなるのか、楽しみに見ていよう。

 と、思っていたら。


「おーい、ジイさん! ハルカはこっちだ!」


 シャガムトが声をかけてくれた。


「ん? そっちのお方じゃったか!」


 ギルマスさんが、ようやく私のほうを見……ないんかい!

 ……いや、その人フンバルトだよ。


「お、俺じゃねぇよ! ハルカはこっち!」


 フンバルトが慌てて私を指差す。


「おお、すまんすまん。わし、ド近眼なんじゃ」


 ようやく話ができそうだ。


「……いえ、ド近眼なら仕方ないですよね」


「すまんのう。早速ですが、ハルカ様。わしはオーエ・ライサンと申します。詳しい話はこの奥で……」


「なんか、そんな大げさにしなくてもいいですよ」


 私は苦笑する。


「冒険者の方と面接をしたら、すぐ出発しますから」


「そういうわけにはいきませぬ」


 ライサンさんは、なぜか真剣な顔で首を横に振った。


「ほれ、そこの部下の方もどうぞ」


「俺たち部下じゃないけど、まあいいか」


「だな。ここで商談をまとめたら、ハルカも雇ってくれるだろ」


 商談じゃないんだけどなぁ。

 みんな勘違いしてるけど、いちいち訂正していたら話が進まない。

 私は仕方なく、ライサンさんについていくことにした。


--


 通されたのは、かなり豪勢な部屋だった。

 ……冒険者ギルドって、こんな部屋まであるんだ。

 私は驚きながら席に着く。


 そして、さっそく本題に入った。


「ライサンさん、さっそくですが面接をしたいんです」


「うむ」


「……と言っても、すぐに人は集まります?」


「もちろんですじゃ」


 ライサンさんは自信満々に頷いた。


「既に集め終わっております。三人の冒険者を用意したので、話を聞いてくだされ」


「三人も?」


「そうですじゃ……おい!」


 ライサンさんが受付嬢さんを呼び寄せる。

 そして、何やら小声で話し始めた。


「あの子とか、あの子いたじゃろ?」


「誰のことです?」


 受付嬢さんが困った顔をする。


「まだ用意できてないですよね?」


「ほら、あのS級のあの子じゃ」


「この国にS級は一人だけですけど……」


「うむ」


「勇者の帰国で、付き添い人として雇いましたよね?」


「ふぁっ!?」


 ライサンさんの目がこれでもかってくらい開いた。


「A級の女性も、みんな今はクエストで遠方です」


「しもたぁ!」


 ライサンさんが頭を抱えた。


「ハルカ様に嘘ついたのか、わし!」


 ……なんだか頭が痛くなってきた。

 というか、全部聞こえてるんだけど。


「あのー……」


 私は二人の会話に割って入る。


「全部聞こえてますけど、高ランクの方がいないのはわかりました」


「申し訳ございませぬ……」


「別にいいですよ」


 私は今回の案内人の条件を事前に考えていた。


「B級でもC級でも、道に詳しくて料理ができる方なら……」


「ん?」


 すると、隣からシャガムトが声を上げた。


「料理なら俺ができるぞ」


「たしかに、料理なら兄さんが得意だな」


 フンバルトも頷く。


「そうなの?」


 私は二人を見る。


「意外……。嘘ついてない?」


「ほんとだって!」


 シャガムトが胸を張る。


「お前、鑑定使えるんだろ? 見てくれよ」


「わかった。見るよ」


 私はシャガムトを見る。


【鑑定】


『シャガムト・ベンデル

 二十四歳 男

 料理:やばいほど上手。でも、手は洗ってね』


「……ガチじゃん」


 思わず呟いた。


「清潔にしてくれるなら、もし野宿になったときに料理を任せていい?」


 シャガムトが嬉しそうに笑う。


「嘘ついてねぇだろ? 清潔にしたら雇ってくれるんだな?」


「うん。ちゃんと手は洗ってね?」


「やったぜ!」


 シャガムトがガッツポーズをする。

 嬉しい誤算だ。

 もし野宿になっても、美味しい料理が食べられるのね。


「あの……」


 私はライサンさんを見る。


「置いてけぼりにしてごめんなさい」


「いえいえ」


「何級でもいいので、道に詳しくてキャンプ慣れしてる子をお願いできますか?」


「もちろんですじゃ!」


 ライサンさんが勢いよく頷く。


「誠に申し訳なかったですじゃ! おい、急いで冒険者を募集するんじゃ!」


「は、はい! 今すぐにー!」


 受付嬢さんは慌てて部屋を出ていった。

 ……なんだか大丈夫かな、この冒険者ギルド。

 受付嬢さんを待っている間、どうしようかな。暇だなぁ。


「なあ、ハルカ」


「なに?」


 フンバルトが声をかけてきた。


「兄さんだけじゃなくて、俺も雇ってくれよ」


 確かに、シャガムトだけを雇ったらかわいそうなのかな。


「兄さんの料理サポートをするからさ」


 サポートかぁ。

 それよりシャガムトだけ連れていって、フンバルトを連れていかなかったら……。

 なんか恨まれそうだなぁ。


「うーん……」


 私は二人を見る。


「一人だけだとかわいそうだもんね」


「おう!」


「仕方ないか。いいよ」


「よっしゃ!」


 フンバルトが嬉しそうに拳を握る。


「恩に着るぜ!」


 ベンデル兄弟が、ほっとしたような顔をしている。

 ……なんか私、モフモフ団の面倒をめっちゃ見てあげてる気がする。

 そんなことを考えていると、受付嬢さんが一人の女性を連れて戻ってきた。


「やっと一人見つかりました」


「ありがとうございます」


「ランクは低いですが、魔力渦の谷の麓が出身だそうです」


 女性が私を見る。


「あんたがハルカ様かい?」


「はい」


「あたしはマチルダって言うんだ。よろしく」


「……え?」


 逆にびっくりしちゃった。

 ……まさかの普通の名前!

 ガレスさん以来だ!


「よろしくお願いします。マチルダさん」


「よろしく」


 受付嬢さんが恐る恐る声をかけてきた。


「ハルカ様、面接をなさるのですよね?」


「そうだった」


 私はマチルダさんを見る。

 ……うーん。

 面接って言ったけど、何を聞いたらいいんだろう。

 何も考えてなかったし、考えるの面倒だな……。

 ……そうだ!鑑定しちゃえ!


【鑑定】


『名前:マチルダ

 十九歳 女

 魔力渦の谷の麓にある村の出身

 思ったことを口にするが優しい

 戦闘はすごく弱い』


 なるほどね。優しいのはポイントアップだ。

 それにしても、見た目はグラマラスなのに私より年下!

 ……まあ、それは今はどうでもいい。

 うーん、うーん…。そうだ!


「マチルダさん、二つ質問してもいい?」


「なんだい?」


「絶望の丘までの道はわかる?」


「ああ。観光地だから何度も行ったことあるよ」


「良かった。それともうひとつ、キャンプは得意?」


「冒険者の基本だよ。それはできるさ」


 うーん。この人でいいのかな?

 何か決め手がほしい。

 私はシャガムトとフンバルトを見る。

 すると二人とも、私に向かって親指を立てて頷いていた。

 ……任せろってこと?

 わかった。あんたたちを信じてみるよ。

 私は二人に期待を込めて頷いた。


 まずはシャガムトが質問するみたい。


「マチルダさんよぉ」


 シャガムトが偉そうに口を開く。


「ハルカが雇ったら、お前は俺たちの後輩だ。なんでも言うことは聞けよ?」


 マチルダさんがジロリとシャガムトを見る。


「あんたは誰だい? ハルカ様の要求がめちゃくちゃじゃなきゃ、ハルカ様には従うよ」


 シャガムトが、やりきったような顔をした。

 いや。あんたの言うことは聞かないって言われたんだよ?


 次はフンバルトが何か言いそうだ。

 なぜか顔を赤くしている。


「の、野宿になったら……全員、おおお、同じテントで寝るよな?」


「はぁ?」


 フンバルト、お前は馬鹿だ!

 なんでそんなこと聞くんだよ!

 照れるなら聞くなよ!

 シャガムト、なんで親指立ててるんだよ!


 マチルダさんが呆れたようにフンバルトを見ている。

 これはあれだ、呆れて何も言えない間だ。


「あんたも誰だい? 馬鹿だねぇ。女は女、男は男。別々に決まってるじゃないか」


「うん、採用」


「ええ?」


 マチルダさんが突然のことで驚いている。


「この子は信用できる!」


 あの二人のバカな質問に怒らず、しかも冷静にまともな常識で返してくれた。

 ……それだけで十分だ。


「も、もういいのかい?」


「うん。マチルダさん。あなたを信用するよ」


「わかった」


 マチルダさんが笑う。


「私のことはマチルダでいいよ。よろしく、ハルカ様」


「うん。マチルダね」


 私も笑う。


「私もハルカでいいよ」


「さすがに雇い主にそれは……」


 言いかけて、マチルダが考える。


「……まあでも、これから一緒に冒険をする仲なんだ。遠慮なくそうさせてもらうよ、ハルカ」


「契約成立ね!」


「ああ」


 マチルダが頷く。

 それからまた口を開いた。


「それと、良いかい?」


「なに?」


 なんだろう?

 料金の交渉かな?


「この馬鹿男どもは、ハルカの連れかい?」


 マチルダがシャガムトとフンバルトを見る。


「初対面のあたしが言うのもなんだが……あんまり、こいつら良くないよ」


 ……私だって、そう思ってるよ。

 なんか偶然一緒にいることが多いけど、確かに助ける必要なんてないんだよね。

 でも知り合っちゃったし、ここで放っておくのはなんだか寝覚めが悪いんだよ。


 シャガムトとフンバルトがマチルダを睨んでる。

 マチルダは気づかないふりをしてる。大人と子供みたいだ。


「あー……そうなんだけどね」


 私は苦笑する。


「根っからの悪人じゃなさそうだし、困ってるから助けてあげてるの」


「ふーん、ハルカは優しいねぇ」


 ……そうなのかな。

 まあ、放っておけないものは仕方ない。


 そんなこんなで、ようやく話はまとまり、契約も完了した。


 ギルドを出たところで、どっと疲れが出てきたよ。

 ……こんなことで、今日中に出発できるのかなぁ。


★★★


 一方その頃、オーエ・ライサンの自室。


「ふん。あれが救世主と呼ばれている小娘か」


 先ほどまでの間の抜けたギルドマスターの姿は、そこにはなかった。


「馬鹿な部下を連れておったな。……あれに魔王は熱を上げているのか」


 その目には、ハルカの前にいたときとは違う鋭い光が宿っていた。


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