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異世界 満喫トラベラー ~のんびり旅行するつもりが色々巻き込まれました~  作者: みみたん


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第17話 魔王国の日常3

――この世界ファンキアスには、大小さまざまな三十六カ国の国があります。

――東にヒガシーナ大陸。

――西にニーシニアル大陸。

――北にキッタノハテ大陸。

――中央にドーマンナッカ大陸。

――そして南には、群島海域サザンクロスがあります。

――みなさん、世界の形をしっかり覚えてくださいね。

――学校の試験に出ますよ。


 ……いろいろ知らなかった。


――みなさんもご存じの我がマオーサンクール王国。

――通称、魔王国です。

――魔王国はヒガシーナ大陸の北部に位置しています。

――そして、ここ魔王国の王都はサイキョーです。

――魔王城も、この王都サイキョーにあります。

――建国されたのは、今から約六千七百年前。

――世界最古の歴史を誇る国の一つです。


「魔王国って、ちゃんと名前があったんだ……」


――なお、我が魔王国ではマオー歴を採用しています。

――現在はマオー歴六七二一年。

――ファンキアスで標準となっている環星歴は五一四一年となります。

――つまり、我が魔王国の歴史は環星歴を千五百年以上も上回っているのです。

――これは我が国の誇りですね。


――もっとも、現在の魔王国でも世界共通の環星歴を使用する機会の方が多くなっています。

――伝統派の皆様からは、少々残念がる声も聞かれますね。

――時代の流れもありますが、みなさんは我が国の伝統を大事にしましょうね。

――ここもよくテストに出ますので両方覚えておきましょう。


「日本みたいだね」


 思わず笑ってしまう。


――魔王国には、実にさまざまな種族が暮らしています。

――特に多いのは、大角族。有翼族。紫肌族ですね。

――その他にも大小さまざまな種族が存在します。

――その数は、なんと百近くもあるんです。

――さらに異なる種族同士の血が混ざったミックスの方々も多く、現在では分類することすら難しい状態になっています。

――みなさん、種族差別はいけませんよ。

――みんな仲良く。喧嘩をしないでくださいね。

――それと、しっかり覚えて帰ってくださいね。

――今日ここで教えたことは学校のテストに出ますよ。


 ……この国だけで百近くもいるんだ。


――魔王国の通貨は、金貨・銀貨・銅貨です。

――金貨一枚=銀貨百枚=銅貨一万枚となっています。

――また、人間族の国とも非公式には交易が行われているため、両替所も存在します。

――ただし、国交がないため、公式な両替レートは存在しません。

――みなさん、お小遣いの管理はしっかりしましょうね。


 はい、私もお金が大好きです。


――この世界では、誰もが「スキル」を持っています。

――ただし、その強さは人それぞれで、生まれつきの才能や努力によって決まります。

――魔法も同様で、誰でも使えるわけではありません。

――みなさん、自分のスキルを大事に、そして他人のスキルを尊重しましょうね。


 ふむふむ、チートでごめんなさい。


――魔王国では、治癒魔法を使うことができます。

――ただし、高度な治癒魔法は限られた人しか使えません。

――そのため、病気や怪我をしたときは、病院や薬草医に診てもらいましょう。

――みなさん、日頃から健康管理をしましょうね。


 次のスキルは病気にならない体にしてもらおうかな?



 そして部屋が明るくなった。


『以上で、子供向けの「よくわかる。魔王国の簡単な歴史と地理」の上映を終了します。順番を守り、走らずに部屋を出てくださいね。保護者の方は、出口付近にあります「よくわかる。魔王国の簡単な歴史と地理」の勉強教材を販売しておりますので、ぜひお手に取り、ご確認ください』


 私はしばらく、席に座ったまま考え込んでいた。


 ……知らなかった。


 この世界はファンキアスという名前で、三十六カ国もあることを。

 大陸が四つもあることも。

 南に群島海域サザンクロスなんていう、やたら格好いい名前の場所があることも。


 何よりこの場所って。


「魔王国って、マオーサンクール王国っていうんだ……」


「そこからかよ」


 隣にいたパルが呆れていた。


「だって知らなかったんだもん」


「やっとこの世界の勉強をしたもんな」


「確かに、何の考えもなく観光って言ってたかも……」


「観光する前に地理くらい覚えろ」


「いやぁ……」


 私は苦笑する。

 だって、日本にいた頃でもそんな発想になったことないよ。


 上映会場から、子供たちに混じってぞろぞろと外へ出る。

 その横には、モフモフ団の二人がいる。

 今日はまた、名前を知らない二人と門前でばったり会って誘ったんだ。


「魔王国を知れて良かったね」


 私がそう言うと、二人も頷いた。


「俺もだ。自分の国のことも知らないのに、魔王国に詳しくなっちまうよ」


「ガハハハハ!」


 どうやらモフモフ団も満足したらしい。

 ポポはというと、上映中ずっと画面を見ていた。


「……ポポ、ちゃんと見てたね」


「クルル♪」


 なんか、ポポから知性を感じる。

 ……もしかして私より頭いいんじゃない?


 それに歴史だけの話じゃない。

 私が感心したのは、映画館と同じようにスクリーンに映し出す投影魔法があること。

 異世界ってもっと中世ヨーロッパで魔法が使えるみたいな感じじゃないの?

 私が知らないだけで飛行機とかもあるんじゃないのこれ。


 って、考え事をしていたらもったいない。ここは博物館なんだ。


「さて」


 私は博物館の中を見回した。


「次はどこを見ようかな?」


 魔王国歴史博物館はかなり広い。

 展示されているものも多く、歴史だけではなく文化や産業についての資料まで並んでいる。

 せっかく来たんだから、もう少し見ていこう。


 私たちは館内を歩き始めた。

 最初に目に入ったのは、魔王国の建国から現在までを記した巨大な年表だった。


「うわぁ……」


 横幅だけでもかなり長い。

 その一角に、魔王国と人間族との戦争について書かれていた。



『魔王国と人間族の戦争史』


――魔王国が建国されてから約二百年。

――人間族との間で、最初の大規模な戦争が発生した。

――それ以降、魔王国と人間族は長い歴史の中で幾度となく戦火を交えることになる。

――ただし、絶え間なく争い続けていたわけではない。

――時に刃を収め、束の間の平穏を分かち合った時代も確かに存在した。


「へえ……」


 私は年表を眺めながら歩く。

 そして次に、大きな展示が目に入った。

 そこには、魔王国史上でも特に悲惨な時代について記されていた。



『地に落ちた千四百年代』


――マオー歴千四百年代。

――この時代、魔王国は歴史上最も多くの戦争を経験した。

――他国への侵攻と併呑を繰り返して広大な国土を手に入れた結果、当時の国号は魔王国ではなく「魔王帝国」であった。

――しかし、絶え間ない戦乱による戦死者は膨大な数にのぼった。

――さらに裏切りを恐れた皇帝サイアーク・グッテイは苛烈な粛清を重ね、自国民をも大量に殺戮した。

――歴代最悪の暴君として後世に名を残すサイアークは、部下の裏切りによって暗殺され、その血塗られた治世に幕を下ろした。


「……すごい時代だったんだね」


 展示の横には、その後の魔王国が平和を取り戻していくまでの歴史が続いている。

 そして、その先。


「……あれ?」


 私は足を止めた。

 その展示には、見覚えのある名前が大きく書かれている。


『人間族との休戦』


――救世主ハルカにより、マオー歴六七二一年、戦争に終止符が打たれる。


「……仕事早すぎない? めっちゃ恥ずかしいんだけど」


「確かに早いな。ここだけシンプルだし突貫工事で急ぎましたって感じだな」


「そうだよね。……っていうか私、何もしてないんだけど」


「まあ、あの時話してたのハルカだけだし、それはないと思うが……」


「なんか申し訳なくなってきた……」


 私は「疲れたなら休めば」と言っただけで、魔王さんや勇者さんたちが話し合って、戦争を止めた結果だ。

 なのに、歴史の展示では私の名前まで載っている。

 昨日のお笑い会場でもデタラメを言われたしさ……。


「なんか、すごく恐縮なんですけど……」


「歴史に名前が残るのは普通にすごいことだろ」


「でも私、観光しに来てこんな気持ちにさせられるなんて」


「そこは胸を張っていいんじゃないか」


 パルが温かい目で私を見てくる。

 さらに進むと、次の展示があった。


『魔王と勇者』


 そこには歴代の魔王と勇者の戦いが記録されている。

 勇者に倒された魔王。勇者を倒した魔王。相打ちになった者。

 戦いの途中で行方が分からなくなった者までいる。

 時代によって、その結末はさまざまだった。


「魔王と勇者って、本当に昔から戦ってたんだね」


「歴史が長いからな。だからこそハルカは感謝されたのかもしれない」


「そっかぁ……。なんか急に、事の大きさが重くなってきたかも」


 さらに館内を歩く。


『魔力暴走による大爆発事件』


『舌禍事件によって魔王、拗ねて職務を放棄』


「……これ何?」


 この展示を見て簡単に想像できてしまうのが悲しいよ魔王さん。


「魔王、拗ねて仕事をしなくなったって書いてある」


「そんなこともあったんだな」


「魔王さんって昔からそんな感じだったの?」


「俺が知るわけないだろう」


 モフモフ団の二人も展示を覗き込む。


「魔王って大変なんだな」


「でも仕事をしなくなるのはどうなんだ?」


「そこは俺たちも人のこと言えないだろ」


「それもそうだな!」


「ガハハハハ!」


「あんたたち、お金ないんだからちゃんと仕事しなよ」


「仕事しない宣言をしているハルカに言われるとはな」


 パルが笑いながらツッコんできた。

 確かにそうかもしれない。

 

 そのまま次の展示へ進む。

 今度は歴史ではなく、文化についての展示だった。


『魔王国のお笑い文化』


 そこには、約二千年前から続く魔王国のお笑い文化について説明されていた。

 人々の笑顔が国を良くする。

 そんな考えをもとに、お笑い文化が発展していったらしい。

 現在では、お笑いは魔王国でもっとも親しまれている文化の一つとなっている。


「だから昨日のお笑いライブもあんなに人気だったんだ」


「そういうことだな」


「魔王さんも好きだったしね」


 昨日の舞台を思い出す。

 突然舞台に呼び出されたせいで、めちゃくちゃ疲れた。

 でも、今思えば楽しかった。


「また行きたいなぁ」


「あの時、意識が飛びかけてなかったか?」


「そうだけど、やっぱり楽しかったよ」


「そうか」


 パルが意外そうな顔をしている。


 次の展示場は観光名所だ!

 ここは楽しみだな!


『魔王国おすすめ観光名所』


 ――第一位、魔王国大笑劇場。

 ――第二位、魔王城。

 ――第三位、魔力渦の谷と魔結晶オーロラ。

 ――第四位、絶望の丘。


「え? もう一位と二位を達成してるんじゃん!」


「これを見る限りそうだな」


 パルもやっぱりそう思うよね。


「三位と四位、ここ調べて行ってみようかな」


「いいんじゃないか? もうハルカの仕事はないよな?」


「うん! 明日から計画を練るよ!」


 私とパルの会話を聞いていたモフモフ団がしょんぼりしている。


「ハルカはいいな……俺たちはバイトがあるからなぁ」


「ガハハ……笑えない」


「お土産買ってくるから拗ねないの!」


 モフモフ団はかわいそうだけど仕方ないよね。

 私は明日からの楽しみもできて最高だよ!


 そして次に進む。

 次の展示は食文化だった。


『魔王国の食糧事情』


 魔王国は非常に高い食料自給率を誇っている。

 国土の各地には農村が広がり、国民のおよそ一割が農業に従事している。

 豊富な食材を背景に独自の食文化も発展し、ファンキアスでも特に成熟した食文化を持つ国の一つとして知られている。


「一割も農民なんだ」


「多いな」


「だから昨日の料理も美味しかったのかな」


「それはありそうだな」


 展示を眺めながら、私は満足していた。

 知らないことを知るのは楽しい。

 魔王国について何も知らなかった私だけど、少しずつこの国のことが分かってきた気がする。


 さらに次に進む。


『マオー歴二百年頃の国境警備隊の遺品』


「この剣、すごいね」


 私は古びた剣をじっと見る。

 錆びて、欠けて、でも丁寧に保管されている。


 説明書きには、『国境を守った兵士の剣』とある。

 展示物の前に、説明書きがあった。


『この剣は、国境を守った兵士が持っていたもの』


「国境を守った……」


 私はまた剣を見つめた。


「この人、何を守りたかったんだろう」


 隣にいたパルが答えてくれた。


「多分、家族か、仲間か、あるいはこの国そのものか」


「……なるほど」


 私は次の展示物を見る。

 古い手紙の断片。


『愛する妻へ。子供たちを頼む。俺は必ず帰る』


「無事に帰れたかな」


「そうだといいな」


 パルの声が、少しだけ低かった。


「……不思議」


「何がだ?」


 パルが肩に乗ったまま、私を見る。


「日本にいた頃、私は歴史なんて全然興味なかった」


 私は手紙から目を離さずに言う。


「教科書で覚えるのは、テストのためだけ。何年、何が起きた、誰が勝った、それだけ」


 それからしばらく、さまざまな遺品を見ていた。


「こうして実際に目の前にすると……」


 私は剣を、もう一度じっと見る。


「なんか、日本にいた頃の私なら、絶対にこんなこと考えなかった」


「そうか」


「……はっきりとこうだ!って言えるわけじゃないんだけどね」


 私は頷いた。


「この世界に来て、戦争を身近に感じて変わったんだと思う」


「……良い変化なのかもな」


 どう変わったかはちゃんと言葉にできない。

 でも、この思いをいつか……。


「俺、もう疲れた」


「俺も」


「腹減った」


 モフモフ団の二人に考えを中断された。


「えー、まだ見てないところあるよ?」


「腹が減っては歴史も見られん」


「それは確かに」


 私も自分のお腹に手を当てる。


「……私もお腹空いた」


「よし! 飯だ!」


「おー!」


「行こうぜ!」


 結局、私たちは博物館を出て、昼食を食べに行くことにした。


「何食べようかなぁ」


「昨日はハラーが案内したんだよな? 今日は別のところにしようぜ」


「賛成!」


--


 モフモフ団の二人に案内され、近くの食堂へ入る。

 いくつか料理を注文して、みんなで食べた。


「うまい!」


「これも美味しいな」


「魔王国って飯うまいよな!」


「ね!」


 しばらく食べて満足した頃、私は本題に入った。

 この世界、名前を聞くのに覚悟が必要なんだ。


「あんたたちの名前、なんていうの?」


「俺か? 俺はキーチョ・メーンだ」


「俺はマーチョ・メーン。モフモフニャンコミルキーズで唯一遠距離魔法が使えるんだぜ」


「マーチョはそうだな。俺たちの連絡役だ。俺たちは従兄弟同士なんだぜ」


 やっぱり!普通の名前じゃないと思ってたから覚悟しといて良かったよ!

 パルが私の反応を見て悔しそうだ。

 ふふん、毎回リアクションで配信映えを狙えると思うなよ!

 私は気難しい演者なんだよ。


「ふーん、マーチョってよくガハハハハって笑うけど、マッチョだし似合ってるよね」


 モフモフ団の九人の内、これで七人まで名前を知ることができた。

 残るは二人、名前を聞いて笑う屈辱は避けたいな。

 パルがすぐニヤニヤするし。


 それからも私たちは話し込んだ。


 昨日に続いて、今日も美味しい料理だった。

 観光して、美味しいものを食べる。

 なんだかすごく贅沢な時間だ。


 食事を終え、私たちは魔王城へ向かって歩き始めた。


「美味しかったね」


「ああ」


「また食べたいな」


「次は別の店にしようぜ」


「いいね!」


 そんな話をしながら歩いていると、ふと街の様子が変わった。


「……あれ?」


 通りの先に、何台かの荷車が並んでいる。

 積まれているのは食料でも日用品でもない。


「武器……?」


 剣や槍。それ以外にも大量の武器が荷車に積まれている。

 その先には柵があって、柵の向こう側では魔族の兵士たちが訓練をしていた。

 一定の間隔で並び、武器を構えている。

 掛け声と同時に、何度も同じ動作を繰り返していた。


「軍事訓練か」


「戦争は終わったんじゃなかったか?」


 モフモフ団もそう思うよね。


「うん」


 私は少し離れたところから、その光景を眺める。

 人間族との戦争は終わった。

 でも、魔王国の中にはまだ好戦的な人たちがいるって魔王さんが言っていた。

 これまで楽しく観光していたからこそ、その光景が少しだけ怖かった。


「……早く、全部解決するといいのに」


 私は小さく呟いた。


「そうだな」


 パルが真面目な顔をして答える。

 博物館に行ったことが私の心に影響を与えていたんだと思う。

 私はそれ以上、その光景を見ることはせず、魔王城へ向かって歩き出した。


「明日から楽しみだなぁ」


「ハルカが羨ましいぜ」


「お土産まっててね!」


 私は笑った。

 明日からは魔力渦の谷と魔結晶オーロラ。それに絶望の丘だよ。

 楽しみでたまらない!

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