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異世界 満喫トラベラー ~のんびり旅行するつもりが色々巻き込まれました~  作者: みみたん


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本編16 魔王国の日常2

「ハルカ様。本日も観光へ行かれると伺いましたが」


「うん! 今日も絶対に観光する!」


 朝食を終えた私は、魔王城の一室で大臣さんと向かい合っていた。

 昨日は市場を見て回って、街の雰囲気を楽しんだ。

 だから今日は、昨日とは違う場所にも行ってみたい。


「それでしたら、こちらをどうぞ」


「なになに?」


「本日の午後に開催される、お笑いライブのチケットでございます」


「お笑いライブ?」


 ふーん、チケットね。

 ほうほう、チケットかぁ。


「魔王国のお笑いライブです」


 ……え?

 魔王国の文化すごくない?


「……本当? 私を騙してない?」


「本当です。魔王国の伝統文化でございます」


「まさかの……」


 なんだろう。

 魔族ってもっとこうさ……。

 強い者が賞金総取りのバトルロワイヤルをコロシアムでやるとか。

 荒くれ者が集う酒場で誰が最後まで潰れないかとか。

 私の肖像画を手配犯にしたようなどんよりした美術があるとか。

 そういう方向じゃないの?


「こちらは魔王国でも特に人気の高いお笑いコンビでして」


「へえ!」


 想像の斜め上だけど、本当にすごくない?


「ぜひ行きたいです!」


「それはお渡しする甲斐がございますね」


 大臣さんが微笑む。魔王さんよりダンディーだなぁ。


「では、こちらを」


「……ん?」


 チケットの枚数……多くない?


「……五枚?」


「はい」


「あ、ありがとう」


「皆様でお楽しみいただければと」


 皆様って誰だろう?


「友達を誘う分?」


「はい」


「……私、ポポしか友達いないよ?」


「ハ、ハルカ様……?」


 大臣さんが目を逸らす。


「……ハ、ハルカ様ほどの人気がございましたら、友達などすぐでございます」


「私、昔からそんなに友達多くないけど……」


 なんかグサッと自分を刺しちゃった。


「そんなすぐに友達を作る方法を知らない……」


「……それは大変申し訳ございません」


 そんな深々と頭を下げられてもね……。

 ……そこで謝られるとへこむんだよ。

 まさか大臣さんにとどめを刺されるとは思わなかった。


「では、私はこれで」


「……ありがとう」


 大臣さんが気まずそうに部屋を出ていく。

 私は五枚のチケットを眺めた。


「……誰を誘おう?」


「お前、この世界に来てポポ以外に友達できてないもんな」


「パルに言われたくないよ!」


「俺は友達を必要としていない」


「神の使いなのに?」


「だからこそだ」


「偉そうに……」


 私はチケットを収納に入れた。


「とりあえず外に出てから考える! 最悪一人で行ってもいいし!」


「そうだな」


 ポポを見るとのんびりくつろいでいる。


「ポポも行く?」


「クルル?」


「行くんだね! はい決定! じゃあ、今日も楽しく観光だ!」


--


 私は魔王城を出た。

 大きな門をくぐったところで――。


「あ」


「……あ?」


 モフモフ団のメンバーがいた。

 ただし、私はまだこの三人の名前を知らない。


「ハルカじゃん」


「おはよう」


「おはよう!」


 私は三人を見回した。


「他の人たちは?」


「ああ? 団長たちならバイトだよ」


「へえ……」


 この三人は何やってるの。


「あんたたちはバイトないの?」


「今日はシフトが休みなんだ」


「そうそう」


「金ないし、やることないし暇だなー」


 三人が揃ってため息をついた。

 なんかもう、異世界でバイトでシフトって……。

 それより、これはもうチケットをここで使えってことかな。


「ねえ」


「なんだ?」


「暇ならさ」


 収納からチケットを取り出した。


「これ、行かない?」


「……何だそれ?」


「お笑いライブ」


「お笑い?」


「うん。魔王国で人気のお笑いライブなんだって」


 三人がチケットを覗き込む。


「……何それ、面白そうじゃん」


「でしょ?」


「行く!」


「俺も!」


「俺も行く!」


「じゃあ決まり!」


 こうして、私はモフモフ団の三人と一緒に、お笑いライブへ向かうことになった。


「なんか妙な組み合わせだな。配信的においしいが」


 パルがこっちを見ながら話しかけてきた。


「いいじゃん。楽しそうだし!」


「まあ、ハルカが楽しそうならいいか」


「ポポも楽しそうだよ」


「クルル♪」


「確かに、ポポ様がいるのは心強いな」


「ポポ様が笑顔だ」


「へへっ……今日は可愛いもの恐怖症のあいつがいないから隊列が乱れないな」


 なに、こいつらポポがいるから安心してるだけ?


「私いなくても、ポポさえいたらいいってこと?」


「そ、そんなことないぞ!」


「そ、そうそう!」


「お、俺たちはハルカの友達だからな!」


 私は三人をまじまじと見る。


「友達だったんだ」


「違うのかよ!」


「いや、まあ……いいけど」


 そんなやり取りをしながら、街を歩いていく。

 市場を抜け、昨日とは違う通りへ向かう。

 魔王国の街は広い。

 昨日歩いた場所とは雰囲気が違って、少し大きな建物も増えてきた。


「ねえ、パル」


「なんだ?」


「お笑いって魔王国にもあるんだね」


「あるだろうな」


「なんか意外」


「お前は魔族をなんだと思ってるんだ」


「魔族というか、この異世界に驚いてるよ」


「元日本人の認識だとそうかもな」


「うん、私の感覚がバグってるわけじゃないから!」


 そんな話をしながら歩いていると、ふと視線を感じた。


「…………?」


 私は足を止める。

 少し離れたところに、一人の魔族が立っていた。

 こっちを見ている。じっと。ただ見ているだけ。

 肖像画のせいで私が有名人なのはわかるけどね。

 でもこれまでの視線とは違う感じがした。


「……?」


 私がそちらを見ると、その魔族はすぐに人混みへ紛れていった。


「どうした?」


「ううん。なんでもない」


 私は首を傾げた。

 ……気のせいかな。


「ほら、早く行こうぜ!」


「おーい、ハルカ!」


 三人が先へ進んでいる。


「待ってよ!」


--


 しばらく歩くと、目的地が見えてきた。

 大きな建物だ。

 正面には大きな看板が掲げられている。


『魔王国大笑劇場』


「ここか!」


「でかいな!」


「人もいっぱいだぞ!」


 入口には大勢の魔族が集まっていた。

 若い人や年配の人まで、男性も女性もたくさんだ。


「すごい人気なんだね」


「だなー」


「こっちに魔王国で一番人気のお笑いコンビって書いてるぞ」


「大臣さんが確かにそう言ってたね」


 私はチケットを確認した。

 人数分ちゃんとあるね。

 私は係員さんにチケットを渡す。


「こちらへどうぞ」


 案内されたのは、客席のかなり前方。

 しかも中央なのに広々としてる。


「……ここ?」


「はい。VIP席でございます」


「VIP?」


「どうぞこちらへ」


 私は三人と一緒に席へ座った。


「すげぇ……」


「俺たちがこんなところに座っていいのか?」


「いいんじゃない?」


「ハルカ、お前本当にVIPだもんな」


「不思議だけどそうだよね」


 どうやら大臣さん、普通のチケットをくれたわけじゃないみたい。


「まあ、見やすいからいいか」


 私は椅子に座った。

 ちょっとして会場の照明が落ちる。


「始まるぞ!」


 観客席から歓声が上がった。

 舞台の中央が明るくなり、二人の魔族が登場する。


「どうもー!」


 パチパチパチ。


「お笑いコンビ!」


 二人が声を揃える。


「凶悪ミルクティーでーす!」


「ツッコミ担当、ドッツ・イタルネンでーす!」


「こちらはボケ担当、ツッコ・ミスキーですぅ!」


 会場が大きな拍手に包まれた。

 私はずっこけた。ボケ担当がツッコミ好きて!

 私はモフモフ団に聞いた。


「凶悪ミルクティーって有名なの?」


「俺らが知るわけないだろ」


「人間族が魔王国に詳しいわけない」


「……そうかぁ」


 舞台では二人がテンポよく話し始めた。

 どうやら今日は時事ネタが中心らしい。


「最近、魔王国も大変ですよねぇ」


「何がよ?」


「勇者ですよ、勇者」


「たしかに、勇者めっちゃ怖いですやん」


「いやいや、魔王様も怒ったら怖いでー!」


「ほうほう……でも僕、魔王様の弱点知っとるからね?」


「え? 言うたらあかんやん。それほんま?」


「お前も知っとるやろがー! 魔王様は同級生やん!」


「ゼツーボウ! 見てるかー! お前の弱点これから言うでー!」


 会場が爆笑に包まれる。


「ふははは!」


「なんで魔王様をディスってるんだよ!」


 観客の笑い声が響く。

 そして漫才が終わり、そのまま二人のショートコントが始まった。


『魔王と勇者』


「我は魔王!」


「私は勇者!」


「よくぞここまで来たな、勇者よ!」


「魔王! 今日こそ貴様を倒す!」


「ふははは! 我を倒せると思っているのか!」


「当然だ!」


「ならばかかってこい!」


「うおおおお!」


 勇者が突っ込んで立ち止まる。


「ちょっと待て」


「なんだ!」


「魔王、お前顔色悪いぞ?」


「まじか、よー見とるな! 確かに昨日徹夜やねん!」


「やっぱり? 今から布団敷くから寝るんやで」


「おおきに!ってお前寝とる間にわしを殺す気かい!」


「そんな野蛮なことするかいな! 添い寝するだけや!」


「まさかの展開! きしょいわ!」


「でも素敵やん? それって素敵なことやん?」


 会場がまた爆笑に包まれる。

 コントがどんどん続いていく。


「面白いじゃないか」


 パルが楽しんで見てる。意外だ。

 確かに私も爆笑したよ。

 魔王国のお笑い侮れない。

 そしてパル、カメラマンの仕事しろ。


 ただ、私はこのコントを見て心配になっちゃった。


「いや、魔王さんが普通にディスられてるんだけど、この漫才師、あとで逮捕されたりしない?」


「そんな国なんじゃないのか?」


「そうなのかぁ……」


 隣ではモフモフ団の三人が腹を抱えて笑っている。


「魔王様、かわいそうだな!」


「いや、あの人だから成立するんだろ!」


「勇者も大概だぞ!」


「お前ら笑いすぎ!」


 そんなことを言っているうちに、ショートコントが終わった。

 凶悪ミルクティーの二人が舞台中央のマイク前に立つ。


「いやー、どうでしたか!」


 観客から大きな拍手が起こる。


「ではここで!」


 ツッコ・ミスキーが突然、声を張り上げた。


「スペシャルゲストです!」


 会場がざわめいた。


「え?」


「誰だ?」


 舞台上の二人が客席へ向けて手を伸ばす。

 次の瞬間、スポットライトが客席を照らした。

 私は眩しさに目を細める。


 そしてスポットライトが止まった先を見た。


「…………え?」


 そこにいたのは魔王さんだった。


「えええええ!?」


 思わず声が出た。観客席にいた。

 しかも私のすぐ近くじゃない。

 普通の一般席。


「なんで!?」


 私は思わず立ち上がる。


「なんで魔王さんが普通の席にいるの!?」


 魔王さんは楽しそうに笑いながら立ち上がった。

 そして舞台へ上がる。


「いやー!」


 マイクを握った魔王が叫ぶ。


「最高に面白かった!」


 会場が沸く。


「久々に爆笑した!」


 観客から拍手が起こる。


「いや、本当に面白かった!」


 魔王さんが凶悪ミルクティーの二人と握手する。

 その姿を見て、私は呆然とした。


「……魔王さん、普通にお笑い好きだったんだ」


「そうみたいだな」


「知らなかった……」


 すると魔王さんがこちらを向いた。


「さて! ここからは、もう一人!」


 会場の照明が動いた。

 そして私にスポットライトが当たった。

 会場が静まる。

 私は自分を指さした。


「……私?」


 魔王さんが大きく頷く。


「そうだ!サプライズゲストのハルカだー!」


 観客席から声が上がった。


「ハルカ様だ!」


「ハルカ様!」


「ハルカ様ー!」


「ハルカ!ハルカ!」


「いやいやいやいや!」


 何これ!?

 なんで私!?

 私は観光に来ただけなんだけど!


「ハルカ!」


 魔王さんがマイクを私に向けてきた。


「ぜひ舞台へ!」


「ええ……」


 逃げたい。

 でも、観客がものすごい勢いでハルカコールをしている。


「ハルカ! ハルカ!」


「ハルカ! ハルカ!」


 私は諦めた。


「……行けばいいんでしょ」


「クルル♪」


「ポポは楽しそうだね……」


 私は立ち上がった。

 そして舞台へ向かう。

 一体、何をさせられるの。


「おい! ハルカの友達も来い!」


 突然魔王さんがモフモフ団にもマイクを向けた。


「なんで俺らが!?」


「まじで意味わかんねー!」


 観客が熱狂している。


「トモダチ! トモダチ!」


 もはや宗教かな?

 結局、モフモフ団の三人までついてきた。

 こうして、なぜか私は魔王さんと凶悪ミルクティーとモフモフ団に囲まれて舞台へ上がることになった。

 客席から大きな歓声が上がる。


「ハルカ様ー!」


「かわいい!」


「なんてお美しい!」


「ハルカ様、結婚してくれー!」


「ワー! キャー!」


 私は舞台中央に立たされた。

 そして客席を見る。

 ……みんな期待してる。


 これマジでヤバいやつだ。

 何か言わないといけない。

 でも何を言えばいいの?

 私、芸人じゃないよ?

 そもそも私は日本でも、当たり前だけどお笑いをやったことなんて一度もない。

 お笑いは好きだったけどね。

 どうしよう……。ふと横を見ると、奴らがいる!


「……そうだ、先にお友達を紹介するね」


 この三人が自己紹介してる間に話すことを考えよう。


「俺たち関係ないだろ!」


 モフモフ団が焦っている。

 こいつらを見てるとなんか落ち着くんだよね。

 魔王さんがモフモフ団に自己紹介しろと言ってる。

 魔王さんナイス。


 モフモフ団がとぼとぼと中央に来た。


「俺はナン・トーカナル…」


「俺はハラー・ペーコといいます」


「俺はシンパ・イシスギーでしゅ」


 噛んだ。最後噛んだけど、名前のインパクトがすごすぎて何も思いつかない。

 私は頭を抱えた。

 さっきより何も思いつかない。

 なんなの、この名前。


「どうした、ハルカ!」


 魔王が笑いながらマイクを握る。


「お前の番だぞ!」


 私は覚悟を決めた。


「えっと……ハルカです」


 客席から拍手。


「みんなが知らない遠いところから来ました」


 さらに拍手。


「今は魔王さんにお世話になっています」


 もう無理、何も思いつかないよ。

 私が困っていると、魔王さんがマイクを握った。


「よし!」


「え?」


「魔王の!ドキドキ!玉座の間エピソードタイム!!!」


「めっちゃノリノリじゃん」


「聞いてくれ、民衆よ!」


 魔王さんが満面の笑みを浮かべてマイクを握りしめた。

 マイクがミシミシ鳴っている。


「我が魔王城に、ある日突然、光と共に現れた一人の少女!」


 観客がざわめく。


「彼女は、何百年にも及ぶ人類と魔族の因縁を終わらせるために、神によって遣わされた和平の使者であった!」


「はいぃぃぃ?」


 盛りに盛ってくれてるね!!!


「勇者ヤクメーと我がゼツーボウ、互いに限界まで戦い抜いたその時!」


 魔王さんが私のほうを指さす。


「ハルカが現れ、『あなた達はここで死ぬ運命じゃないわ!』と、神の言葉のように告げたのだ!」


 会場がどよめく。


「さらに彼女は、『生きて……ここでどっちが死んでも、この世にはまた戦乱が続くだけよ』と、言い放った。凛々しかったなぁ……あの時のハルカ」


 会場からどよめきが広がる。


「すごい……」


「そんなこと言ったの?」


「ハルカ様、ただ者じゃない……」


「息も絶え絶えの吾輩と勇者を見てさらに続けたのだ『私の癒しの力で、あなたたちだけじゃなく戦争を終わらせる』ハルカはそう言うと輝きだして、その場にいるすべての者を癒して見せたのだ」


 会場が静まり返る。

 そして、次の瞬間――。


「うわあああああ!」


「泣ける……!」


「感動して涙が止まらない……!」


 至るところですすり泣く声が聞こえる。

 前の席の魔族の女性は、すでにハンカチで目を押さえていた。

 後ろの男性も、鼻をぐずぐず言わせている。


「吾輩と勇者は涙を流したのだ。ハルカの全てを癒す言葉と存在は、我々の戦いを中断させるという奇跡を起こした!」


「ハルカ様……!」


「平和の使者……!」


「神様から遣わされたんだ……!」


 あーもうなんか、軽く魔王さんに殺意まで覚えてきたわこれ。


「魔王さん、落ち着いて」


「ハルカよ、観客にお前の口からも真実を話してやれ!」


 魔王さんの目が酔ってる!

 これはやばい! 目を覚ましてよ魔王さん!


「民衆よ、聞け! これは真実だ! さらにはハルカも言いたいことがあるそうだ!」


 言いたいことはあるけど、真実を言っていいか悩むんだよ!!!

 この空気で何を言ったらいいんだよ!

 もはや魔王さんをジト目で見るくらいしかできない。


「ハルカよ。どうしたのだ……そんな熱い視線を送られてもゼツーボウ照れちゃうのだ」


 だめだこいつ。

 どうしたらいいの助けて誰か。

 周囲を見渡したら……。そうだ目撃者がいる!


「こ、ここにモフモフ団がいます! この人たちも魔王さんと勇者さんの戦いを目撃している証人なんです!」


 モフモフ団の三人は顔どころか全身を真っ青にさせて首をブンブン振ってる。

 ごめん、真実をみんなに教えてあげて!


「おお! そうだな! この者たちもあの伝説を目撃しておるのだ!」


 魔王さんが両手を広げたあと、モフモフ団にマイクを向けた。


「お主ら、話してやってくれぬか。トリはハルカがよいな」


 魔王さんが私にウインクしてきた。それ今はめっちゃ腹立つわ。

 そして魔王さん、目が笑ってないんだよ。

 圧がすごいんだよ。モフモフ団もビビってるじゃん。


「ひぃぃぃ! ……え、えっと、た、確かに俺たちは魔王様と勇者の死闘を目撃しました」


 おずおずとナンが話しだしてくれた。

 がんばれ、がんばれ!


「お、俺もその場にいました。ふ、二人の戦いは伝説と呼ぶにふさわしく……俺たちも、で、伝説の証人になれたんだと感激したです」


 ん?なんか怪しいぞ。

 ハラーよ、あの時はそんな雰囲気だったか?

 そもそも戦いなんて見てないよな?


 頼みます。頼むから方向を修正してよシンパさん……。


「ハ、ハルカの全身が光って『奇跡よ……起きて!』と叫んでから、魔王様と勇者が立ち止まったときは鳥肌が立ったもんでしゅ」


 最後にシンパが締めた。

 魔王さんもうんうんと頷いている。

 てめーらぁぁぁぁ!

 よくもやってくれたなぁ!!!

 魔王さんの圧に負けやがって!!!!


 会場から割れんばかりの拍手が湧き起こる。

 みんな泣いてんじゃん!こんな嘘で泣いてんじゃん!


「よく言った! さすがはハルカの友人だ! さあ、ハルカの番だぞ!」


 会場中が私に注目している。

 いや、モフモフ団の三人は遠い目をしながらあっちを見てるね。


「……えっと、えーっと……」


 チラっと魔王さんを見た。

 魔王さんの期待のこもった眼差しが私を突き刺している。

 もう……どうにでもなれ!


「私、その時は夢中になっていてよく覚えていないんです」


 パルがボソッと「その手で来たか」だってさ。


「私が光るなんて知りませんでしたし、みんなも夢中になってて勘違いしているだけだと思うんですけど……」


 魔王さんの圧を感じる。

 でも、嘘は言いたくないんだよなぁ……。


「私は回復ポーショ――」


「ハルカ! 吾輩は公務に戻らねばならん! この話はまた今度にしよう!」


 食い気味に遮られた。


「……え?」


 観客がポカーンとしている。


「皆の者、すまぬ! 時間が来たようだ!」


 魔王さんの締まらない締めの言葉で舞台が暗くなり、幕が閉じていく。


「……私の話、聞いてないじゃん」


 パルがボソッと言った。


「お前が真実を言うとさすがにこの場がな」


「神の使いが嘘を肯定するの!? ポポどう思う?」


「クルル? クルル!」


「ポポもそう思う?」


「いやどう思ったんだよ」


 パルが呆れていた。


--


「つ、疲れた……」


 劇場を出た私は、魂が抜けていた。


「うむ、さすが我が友人だ。盛り上げ感謝するぞ」


 魔王さんが笑っている。


「なんで魔王さんは元気なの……?」


「楽しかったからな!」


「私は楽しかったけど疲れたよ……」


 モフモフ団も笑っている。


「いやー、面白かったな!」


「ハルカ最高だったぞ!」


「俺、帰ったら母ちゃんに自慢できるよ」


「それは良かったね……」


 私はため息をついた。


「じゃあ飯だな!」


「まってました!」


「ハルカのおごりだ!」


 そうだった。約束してたね。


「おすすめの店に連れてってくれるの?」


「もちろん!」


「まあ……約束だもんね」


 私は笑った。


「じゃあ、ご飯食べに行こうか」


「おー!」


 私たちは近くの食堂へ向かった。

 魔王さんも一緒に来るのかと思ったら、お仕事があるらしい。


「それでは観光を楽しむのだぞ」


「うん。またね、魔王さん」


 魔王さんと別れ、私たちは三人がおすすめする食堂へ入った。


「何食べようかなぁ」


「俺は魔牛のレアステーキ特盛とエール!」


「俺もそれだな!」


「俺もそれだ! 追加で魔王国産フラットフィッシュのカルパッチョとワインだな!」


 どれも美味しそう。

 そういえばこっちに来て魚は食べたことない。

 ハラー・ペーコだけ二品頼んでるし、でも気持ちはわかる。

 私もハラーと同じものにした。


 ……出てきた料理は絶品だったよ。

 本当に驚くほど美味しかった。

 モフモフ団、料理に対する嗅覚がすごいのね。


 私たちは満足……できなかった。

 さらに結局、みんなで色々な料理を注文した。


 料理が運ばれてくるたびに、モフモフ団が歓声を上げる。


「うめぇ!」


「やっぱりハルカ最高だ!」


「ごちそうさまです!」


「まあ、たまにはいいかな」


 私は笑いながら食事を続けた。


「そういえばさ」


「なんだ?」


 私は三人を見回した。


「名前、すごいよね」


「そうか?」


「うん」


 私は少し笑った。


「何とかなる、腹ぺこ、心配しすぎって……性格そのままじゃん」


「おい! 名前じゃなくて性格をなんで言うんだよ!」


「お前が失礼な意味で言ったのはわかる!」


「……でも、俺たちの性格が当たってるのは悔しい」


 三人が顔を見合わせる。


「俺たちのことよく分かってるじゃねぇか!」


「そういうことじゃないよ!」


 私は笑った。

 食事は最後まで賑やかだった。

 もちろん、会計は私が払った。約束だもんね。


「じゃあ、ごちそうさま!」


「ありがとな!」


「また頼むぞ!」


「次はもっと高い店でもいいぞ!」


「調子に乗るな!」


 そんなやり取りをしながら、私たちは食堂を出た。

 夕方の街は、昼間とは少し違った雰囲気になっていた。

 行き交う人々も多い。

 今日も魔王国は、普通の日常を過ごしている。


「楽しかったなぁ」


「そうだな」


「お笑いライブ、また行きたい!」


「お前、あんなに疲れてたのにか?」


「だって面白かったもん!」


「そうか」


 パルが笑う。

 ポポも楽しそうに鳴いた。


「クルル♪」


「ポポも楽しかった?」


「クルル!」


「そっか!」


 私はポポの頭を撫でた。

 そんなふうに話しながら歩いていると――。

 ふと、また視線を感じた。


 私は足を止めた。

 少し離れた通りの端。

 一人の魔族が、こちらを見ている。

 じっと目を離さない。これ、私を見てるよね。


「……?」


 私が目を逸らさず見ていると、その魔族は人混みの中へ消えていった。


「どうした?」


「……ううん」


 私は首を傾げる。


「なんでもない」


 そして、また歩き出した。


「明日はどこ行こうかなぁ」


「まだ観光する気か」


「もちろん!」


「いいな。俺たちはバイトだー……」


 私は笑った。

 今日は疲れたけど楽しかった。

 魔王国には、まだまだ知らないことがたくさんある。


 明日もきっと、楽しい一日になる。


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