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異世界 満喫トラベラー ~のんびり旅行するつもりが色々巻き込まれました~  作者: みみたん


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第15話 魔王国の日常

「今日こそ大丈夫よね?」


 今朝、私は朝食を我慢した。

 お腹が空いた状態で、魔王城の自室にある大きな窓から外を眺めた。


「何がだ?」


 パル、わかってて聞いてるよね。


「国家イベント」


「…………?」


「昨日も今日こそ大丈夫だと思ってたら、商談になったじゃん?」


「それは国家イベントじゃないだろ」


「私にとっては十分国家イベントだよ」


「……まあ、ハルカ基準だとそうなのかもな」


 パルがため息をつく。

 ポポが横であくびをしている。


「今日は本当に何も起きないよね?」


「さあな」


「さあなって……」


 私はまた窓の外を見る。

 昨日と変わらない魔王国の街並み。

 朝の光を浴びた建物が並び、通りにはすでに人が行き交っている。


 魔族の国。

 ゲームやアニメのイメージで、私はもっと怖いところだと思ってた。

 常に魔の瘴気が漂っているとかさ。

 ゾンビやスケルトンが兵士をやってたりさ。

 強い者が正義で、強い順に階級があるんだと思ってたよ。


 でも、実際に魔王城から眺めている限り、そんなんじゃなかった。

 まあ、魔王国のトップの友達になれたからかも。


「今日は絶対に観光するからね!」


「昨日も聞いたぞ」


「意気込み大事!」


「フラグかよ」


 パルが笑った。


「今度こそ、ゆっくり見て回ればいい」


「うん!」


 準備万端だ!


「行こう!」


「早いな」


「だって待ちに待った観光だよ!?」


 ポポも私の後をついてくる。

 私は魔王城を出て、昨日と同じ門をくぐった。

 そして恐る恐る足を止める。


「……今日は何もない?」


 昨日見た肖像画が、大量に貼られている以外は。


「当たり前だ」


 パルが呆れた声を出した。


「魔王国の住民だって、毎日暇じゃないだろ」


「うん……」


 改めて見ると、やっぱりすごい。

 私の犯罪者顔が街のあちこちにある。


「……まあ、いいか」


 こんなのを気にしても何も変わらない。


「それより、今日は市場に行ってみよう!」


「市場か」


「うん。ずっと気になってたんだよね」


 私は通りを歩き始めた。

 魔王城の周辺は、思っていた以上に人が多かった。

 様々な姿をした魔族が行き交っている。

 頭に角が生えている人とか肌が青い人が特に目立つ。

 それ以外にも様々な人たちが歩いていた。

 人間族とほとんど変わらない姿の者もいる。

 私はなぜか嬉しくなった。

 みんな、普通に生活している。


「おやじさん! イキの良いのは入ってる?」


「おう! おめーか! 魚、今日入ったばっかりだぞ!」


「じゃあ、それを二匹!」


「毎度あり!」


 魚屋の前では、魔族の男性が魚を買っている。


「母ちゃん、これ買っていい?」


「駄目よ。昨日も買ったでしょう」


「えー!」


「ほら、行くわよ」


 小さな子供が母親に手を引かれている。


「この鍋、もう少し安くならない?」


「無理だねぇ。それ以上下げたら俺が損するよ」


「じゃあ二つ買うから、少しだけ!」


「……仕方ねぇな」


「やった!」


 別の場所では、商人と客が値段の交渉をしている。

 私は思わず笑った。


「普通だ」


「何がだ?」


 私は周囲を見渡した。


「もっと魔族の国って感じなのかなって思ってた」


「魔族の国だぞ?」


「もっとこう……軍事に全振りって感じ?」


「どんな想像をしていたんだ、お前は」


「だって人間族と戦争してたんだよ?」


「それと市場の買い物に何の関係がある?」


「……ないかもね」


「だろ?」


 考えてみれば当たり前なのかもしれない。

 戦争をしているのは国同士。

 そこに暮らしている人たち全員が、戦争をしているわけじゃない。


 ……そう考えると、一人でやってきたヤクメーさんすごいな。

 魔王さんも国民のことを考えて一人で戦っていた。

 二人とも、みんなの笑顔を守りたかったのかも。


「……なんか嬉しいね」


「何が?」


「平和なんだもん」


「意味が分からないぞ」


「そっか、私は研究施設で鑑定しちゃったから」


 パルが呆れたように笑う。

 そんな会話をしながら歩いていると、香ばしい匂いが漂ってきた。


「……ん?」


 私の鼻センサーがビンビンに反応している。


「いい匂い!」


「食べ物だな」


「行こう!」


 匂いを辿っていくと、屋台が並んでいた。

 色んな種類の食べ物がある!!


「待ちに待ったB級グルメ……」


 こんなに屋台があるなんてやばいよ。


「これ、何?」


 近くの屋台を覗き込む。


「魔牛肉の炙り串だよ」


「魔牛……!」


「一本、銅貨三枚」


「ください!」


「はいよ!」


 店主が肉を焼いて、私に渡してくれる。


「熱いから気をつけな」


「ありがとうございます!」


 私は串を受け取った。

 この香ばしい匂いがたまらない。


「いただきます!」


 ぱくっ。

 噛んだ瞬間、肉汁が口の中に広がった。

 少し濃いめの味付け。香辛料が効いている。

 これは私の好みだ!


「おいしい!」


「そうかい。そりゃよかった」


「これ、すごくおいしい!」


「うちはこの辺じゃ評判いいからな」


 店主が嬉しそうに笑う。


「魔王城の料理も美味しいんだけど、こういうのもいいなぁ」


「魔王城?」


「うん、今ちょっとお世話になってるよ」


 余計なことを言っちゃったかも。


「へえ!」


 店主が二度見をしてきた。


「あ、ハルカ様じゃねぇか!」


「……え?」


「その顔だよ。昨日から街中に貼ってあるからな」


 やっぱりそうですよねー。


「……肖像画、便利だね」


「そうだろ?」


「便利だけど……やっぱり嫌だなぁ」


 店主が笑う。


「あの絵、評判いいんだけどな」


「そうみたいですよね……」


「ああ。うちの女房なんか、家に飾るって言ってたぞ」


 あの絵が飾られるのかぁ……。

 お金が入るのは嬉しいけど、嬉しいんだけどね。

 まあ……ここはお礼を言うべきよね。


「ありがとう……大切にしてね……」


「クルル♪」


 ポポが串を覗き込む。


「ポポも食べる?」


「クルル!」


「じゃあ、おじさん串をもう一本ね!」


 私は新しい串を受け取ってポポの目の前に差し出した。

 ポポが嬉しそうについばむ。


「おいしい?」


「クルル♪」


「上手に食べるよね~」


 その光景を見ていた店主が笑う。


「仲良しだな」


「はい! 大切な友達です!」


「クルル!」


「そうだよね!」


 ポポが嬉しそうに鳴いた。


「……俺の分は?」


 パルが肉を見ながら口を挟んだ。


「パルも?」


「俺にもポポと同じやつをくれ」


「食べたいの?」


「食べる」


「はい」


 私はさらに注文してパルに食べさせた。


「うまい」


「よかったね」


 その様子を見て、店主が驚いている。


「ハルカ様の使い魔は賢いんだなぁ!」


「え? つ、使い魔?」


「そうそう、その小太りの目つきの悪い鳥!」


「失礼な! 俺は神のつか――」


 私はパルの口をおさえた。


「そうなの! かしこいんだよね!」


 パルが目を白黒させてる。


「ごちそうさま! すごくおいしかった!」


 私は急いで屋台から離れた。

 ポポが黙ってついてくるのがかわいいよ。


「おいハルカ! さっきのはなんなんだ!」


「ごめん、神の使いって言ってさ、信じても信じてくれなくても面倒そうだと思ったの」


「むぅ……お前なりに考えたというわけだな?」


「うん、ごめんね?」


「わかった」


「そういえば、たまにしか欲しがらないパルが積極的だね」


「ああ、神様から我慢しなくていいって言われたからな」


「そうなんだ。パル、素直になったじゃん」


 私はニヤニヤとした。


「ふん、次の屋台に行かなくていいのか?」


「行こう行こう!」


 私は笑いながら、周りを見渡した。

 市場には、いろいろな匂いが漂っている。

 肉を焼く匂いとパンを焼く匂いがさらに食欲をそそる。

 日本にはない独特な香辛料の匂いから、強烈な果物の匂いまですごい。


 それに、人々の話し声も明るいし、子供たちの笑い声まで聞こえる。

 店主たちの呼び込みや道行く人の雑談まで、その全部が混ざり合っている。


 私は少しだけ立ち止まった。

 異世界に来てから、こんな場所を歩いたのは初めてだった。

 魔王国は特に色んな種族の人たちがいて、すごく賑わいを感じる。

 魔王城では、ヤクメーさんと魔王さん、さらに大臣さんたちと話して。

 戦争のことや休戦のことを聞いて、これからのことを考えて。

 この日常を守りたかったのかもしれない。


「ここに住んでる人たちは、普通に今日を生きてるんだね」


「そうだな」


 パルも周囲を見てから答えた。


「戦争が終わったから、この普通が守られるんだ」


「うん」


 私はまた市場を見渡した。

 色んな人がいて、それぞれの日常を生きている。


「……なんか、安心した」


「何がだ?」


「魔族の国って、普通に楽しいところじゃん」


「まだ市場しか見てないぞ」


「それでも観光、最高!」


 私はポポとハイタッチをした。


「まだ観光初日なのに気が早いな」


「だって楽しいんだもん!」


 そのとき、少し離れた場所から声が聞こえた。


「店主! 今日の分はまだ来てないのか?」


「悪いな。昼過ぎには届くって話なんだが……」


「昨日も遅かっただろ?」


「ああ。避難から戻ってきたばかりだからな。しばらくは仕方ないさ」


「まあ、そうだな」


「届き次第、店頭に出すよ」


「頼むぞ」


 私は話し声が聞こえたほうを見る。


「……避難から戻ってきて間もないもんね。こんなこともあるか」


「まあすぐに日常の全てが戻るわけでもないんだろ」


 パルも私と同じほうを見ながら答える。


「そっか」


 私は特に気にせず、再び市場へ視線を戻した。

 魔王と勇者の――いや、魔族と人間族の戦いは終わったばかりなんだ。

 避難していた人たちも戻ってきている。

 街が完全に元の生活を取り戻すには、まだ少し時間がかかるのかな。


「ねえ、パル」


「なんだ?」


「次は食堂に行こうよ」


「さっき肉を食べたばかりだろ」


「別腹!」


「お前の胃袋はどうなってるんだ」


「無限体力だから!」


「それは胃袋の容量と関係ないな」


「細かいことはいいの!」


 私は笑いながら、街の奥へ歩き出した。

 今日はまだ始まったばかりだ。

 これからも美味しいものを食べたり、観光したい!


「よーし! 今日はいっぱい遊ぶぞー!」


 私は拳を握った。


「クルル!」


「おー!」


 ポポとパルも声を合わせる。

 私は笑った。

 魔王国に来て、初めてだった。

 何も考えずに、ただ楽しみたいと思えたのは。


--


 私は最高の気分で魔王城の門前まで来ていた。

 こんな日が毎日続けばいいのにな!

 そんなことを考えながら、パルとポポと楽しく話して歩いていると――。


「あれ? モフモフ団じゃん」


 道の向こう側から、トボトボと歩いてくるモフモフ団が見えた。

 どうやら向こうも私に気づいたらしい。


「ああ、ハルカか……」


 あれ? いつもの元気がない?


「どうしたの? なんか疲れてない?」


 私が声をかけると、モフモフ団は一斉に愚痴をこぼし始めた。


「お前と違って俺たちはタダ飯食えないし、宿泊費も請求されてんだよ」


「そうそう、おかげでアルバイトしないと生活できねぇ」


「そうだぞ。ハルカ、早く魔王国から出ようぜ?」


 どうやら、私が観光を楽しんでいる間に、こいつらはこいつらで苦労していたらしい。

 私は隣のパルを見る。


「モフモフ団ってお金取られてたの? 知ってた?」


「ああ、なんかそんなことを聞いたぞ」


 パルは知っていたらしい。

 ……じゃあ教えてよ。

 私がそんな顔をしていると、モフモフ団がさらに話を続けた。


「魔王様に俺らの食費と滞在費もタダにしてくれって頼んでくれよ」


「それか、もう魔王国を出ようぜ」


 うーん、モフモフ団がつらいのはわかったけどなぁ。

 ここで観光できないのはかわいそうだけど、こいつら何もしてないしなぁ。

 まあ、私だって何かした記憶はないけど……。

 だからこそ、魔王さんにこれ以上頼みにくいんだよね。


「頼めないよ。あんたたち何もしてないじゃん」


「お前本当に友達かよ!」


「えー? そこまで言うなら、フォルティスに帰りなよ」


「わかってねぇなお前!」


「かぁ~……魔王様の親友は庶民と違うねぇ」


「名誉国民になった途端これだもんな」


 何その言い方!

 私が何をわかってないのよ!

 なんだか腹が立ってきた。


「は? オドオドビクビクガイズのくせに!」


「なんか前もそれ言ってたな! なんかムカつくからやめろ!」


「そうだそうだ! とにかく人間族の領地に帰ろうぜ!」


 なんなのほんとに!

 私だってせっかくの楽しい一日を、こんなところで喧嘩して終わらせたくない。


「そんなに帰りたかったら、勝手に帰ればいいじゃん!」


「それができりゃそうしてる!」


「なんでできないのよ!」


 私が聞き返すと、可愛いもの恐怖症の人が必死な顔になった。


「ポポ様がいないと怖いからに決まってんだろぉ!!!」


「あ……あんたら、本当に情けないね……」


 ……そう、私は心から情けないと思ったよ。

 そう思ってたら、モフモフ団のうち、シャガムト、フンバルト、可愛いもの恐怖症の三人が泣きながら走り出していった。

 団長と副団長がそんなんでやっていけるの……?

 残った団員たちは、そんな三人の背中を呆然と見送っている。

 そして、そのうちの一人が私を見た。


「あーあ、ハルカが泣かせた」


「……なにそれ、小学生ムーブやめてよね」


 なんかもうめんどくさいなぁ。

 私がため息をついていると、今度は別の団員が不満そうに声を上げた。


「あん? お前何を言ってんだよ」


「もういい、疲れたよ。シャガムト達に――ああ、あんたたちもね。今度奢るから機嫌直してよ」


 たったそれだけで、さっきまでの険悪な空気がすぐ消えた。


「まじ? うまそうな店見つけたんだよ! 今度頼むぞ!」


「ハルカ最高だ!」


 ……現金すぎない?

 他の団員たちは喜びながら、先に走っていった三人を追いかけていった。

 あっという間に、私の前からモフモフ団が消えていく。


「はあ……心から疲れたよ」


 がっくりと肩を落とす。

 せっかく今日は楽しい一日だったのに、最後の最後でとんでもない疲労感を味わってしまった。


「……なんで私があいつらのことまで考えなきゃいけないの」


 モフモフ団が去っていった方向を見ながら、パルが妙に感心している。


「あいつら、配信映えを心得てやってるんじゃないのか」


 パルは配信至上主義だなぁ。


「はいはい、私たちも帰ろ」


 これ以上考えると、また疲れそうだ。

 私はポポを連れて魔王城へ向かって歩き出した。

 今日は本当に楽しかった。

 市場を見て、魔族の人たちと話して、美味しいものも食べた。

 魔王国の日常を、ほんの少しだけ知ることができた。


 それなのに――。


「いい一日だったけど、なんか釈然としない」

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