第14話 名誉国民は手配犯?
魔王国に来て、待ちに待った日が来た!!
もう国家イベント起きないよね……なんか怖いわ。
「ふぁ~……」
大きく伸びをする。
魔王城に来てから、もう何日になるんだろう。
いろいろありすぎて、まだ魔王国のことを何もわかっていない。
でも、今日からは違う。
ようやく自由に街を歩ける。
「楽しみだなぁ」
「クルル♪」
私の隣でポポが嬉しそうに鳴いた。
「ポポも楽しみ?」
「クルル!」
どうやら楽しみらしい。
パルも楽しみたよね。
「今日はどこから行こうかなぁ」
「まずは近くの街を見てみればいいんじゃないか?」
パルは楽しみか、そうでもないのか読めない。
「そうだね」
昨日まで、ほとんど魔王城から出られなかった。
予定を立てる時間もなかった。
魔王さんと食べる魔王城の料理も美味しいんだけど、私は街のB級グルメだって食べたい。
今日は、特に目的地を決めずにぶらぶらしてみようと思っている。
そんなことを考えながら、私は魔王城の門へ向かった。
「……ん?」
門を出たところで、私は足を止めた。
パルは気づいているのに黙っている。
なんとなく撮影に夢中になっている気配がする。
ポポは気づくわけなく、私の隣でご機嫌がよろしいようで。
「……あれ何?」
街のあちこちに、私の想像していたものとは違うアレが貼られている。
私は近くまで歩いていく。
そこに描かれていたのは私だ。
「…………え?」
大きく描かれた私の顔。
その下には、文字が並んでいる。
『ハイエルフ・ハルカ様
魔王国名誉国民
ハルカ様に危害を加えた者には極刑を科す』
しばらく、その絵を見つめて動けなかった。
「……これは?」
もう一度じっくり見る。
書いてあることがすごい……。
しかも、かなり大きい。
「……これ、昨日言ってたやつ?」
「魔王が国中に貼ると言っていたやつかもな」
パルの声のトーンは普通だけど顔がニヤけている。
私は頭を抱えた。
「いやいやいや……」
昨日の魔王さんの言葉を思い出す。
国民全員に私の顔を覚えてもらう。
それなら安全に街を歩ける。
確かに、そういう話だった。
「普通、こんなに貼る?」
「ハルカの普通がこの国の普通だと思わないほうがいいぞ」
「いや、だからって……いくらなんでもこれは……」
私は改めて絵を見る。
妙に暗いトーンだし、真顔で影が濃い。
しかも正面からこちらを見据えるような構図だ。
「……これ、どこの犯罪者だよ!ってくらいのモンタージュ写真だから!」
「モンタージュ写真?」
「犯罪者を探すときに使うやつ!」
「なるほど」
パルは絵を見上げる。
「そう言われると、確かにな」
「でしょ!?」
私が力強く頷いた、そのときだった。
「……あら?」
後ろから声が聞こえた。
振り返ると、数人の魔族の女性がこちらを見ている。
「あれって……」
「ハルカ様じゃない?」
「えっ、本物!?」
女性たちが、壁に貼られた絵と私を交互に見る。
「本当だ……! 絵にそっくり!」
「当然でしょ。模写魔法で描かれたんだから」
「でも、すごく素敵な絵よねぇ」
「ええ。私、こんなセンスのある肖像画は初めて見たわ」
「私の家にも飾りたいです!」
「分かるわぁ。極上の芸術よねぇ~」
ほ、褒められている。
「…………どう反応したらいい?」
なんて答えたら正解かわからない。
「ハルカ様!」
「本物ですよね!」
「魔王様の大切なご友人なんですって!」
女性たちの顔がどんどん明るくなっていく。
そして、その視線が再び壁の絵へ向けられる。
「この肖像画、やっぱり素晴らしいわ」
「ええ。威厳があって、とても高貴だもの」
「名誉国民に相応しい絵だわ」
私は隣のパルを見る。
「……パル」
「なんだ?」
「これ、本当に魔族のセンスっぽいね……」
「ああ、良いんじゃないか」
やっぱり無関心?
「いやいやいや……」
私はもう一度、壁の絵を見る。
どう見ても犯罪者の指名手配に使う似顔絵にしか見えない。
なのに、この人たちは本気で絶賛している。
「……この国の文化ってことだよね」
「クルル?」
ポポが不思議そうに私を見てくる。
「ポポはどう思う?」
「クルル♪」
「……可愛いって?」
「クルル!」
「そうだよね。ポポは『ハルカちゃんこんな写真でも可愛くなるから不思議~!』だって!」
「かなり斜め上の解釈だな」
パルが呆れている。
「いいの! 私がそう思ったから!」
「そんなのを現実逃避って言うんたぞ」
パルの言うことは無視して、もう一度街を見渡した。
あそこにも、こっちにも、あっちにも。
「……貼りすぎだよ!」
どうやら本当に、国中に貼られているらしい。
「おお、コメントがすごいぞ!」
パルが画面に食いついた。
『破壊神が好きそうな絵だな』
『芸術神呼んで来いよ。奴の評価が知りたい』
『ハルカ本人が犯罪者みたいな顔って言ってるぞ』
『自分で言ってて草』
『魔族の美的感覚どうなってるんだ』
『ハルカが困惑してるの可愛い』
『この表情、いいな』
『困惑してるハルカたん(*´Д`)ハァハァ』
神々は盛り上がってるみたいね。
パル、読み上げなくていいから!
目の前にいる魔族たちも止まらない。
「本当にハルカ様なんですね!」
「はい……まあ」
「お会いできて光栄です!」
「……ありがとうございます」
「こんなに近くで名誉国民に会えるなんて、サインください!」
「……ええ?」
「それに、この肖像画より実物のほうがずっと――」
「待ってください」
私は口を挟んだ。
「この絵、そんなにいいですか?」
「もちろんです!」
女性は即答した。
「すごく素敵ですよ!」
「ええ。これほど見事な肖像画はなかなかありません」
「私も家に飾りたいわぁ」
なんも言えないわ!!
私は再び絵を見る。
真顔で暗くて真正面だし、何より極刑の文字。
「……本当に?」
「本当ですよ!」
「そうなんだ……」
異国文化って難しい。
異国どころか異世界文化か。
私は改めてそう思った。
そのときどこからか腹立つ声が聞こえた。
「ぶっ……!」
振り返ると、そこにはモフモフ団がいた。
私とモフモフ団の視線が交差する。
「……ぶって言った?」
「ぷっ……」
一人が口元を押さえた。
「……また?」
「いや……」
「いやいや……」
「いやいやいや……」
みんなの肩が震えている。
「ハルカ……」
「なに?」
「それ……」
壁の肖像画を指差す。
「……お前よくこれでOK出したな!」
「出すわけないでしょ!」
「ぶはっ!」
別の団員が吹き出した。
こいつら人の話を聞くタイプじゃなかった!
「人の話を聞いてないね!」
「いや、だってよ!」
モフモフ団が次々と絵を見る。
「なんだこれ!」
「怖ぇ!」
「お前、こんな顔してたのかよ!」
「魔王国名誉国民っていうより、極悪人の指名手配書じゃねぇか!」
「おい!」
こいつらの言ってることに同意できるのがムカつく。
「笑うな!」
「だってよぉ!」
「こんなの街中に貼られてんだぞ!」
「ハルカ様だってよ! 大人気じゃん!」
「そういう問題じゃない!」
「でも、本人より絵のほうが偉そうだな」
「やめて!」
「なんか『私に逆らったら極刑だ』って顔してるぞ」
「してないから!」
「ほら、ハルカ様が怒ってるぞ!」
「お前ら……!」
私は拳を握る。
「……いいよ」
「ん?」
「そんなに面白いなら――」
私はにっこり笑った。
「あんたたちの絵も作ってもらうから」
モフモフ団が笑うのをやめた。
「……え?」
「魔王さんにお願いして、あんたたちの肖像画も作ってもらお」
「いや、それはやめろ!」
「なんで?」
「なんでって……!」
「自分たちの顔が街中に貼られるんだよ?」
「嫌に決まってんだろ!」
「私は貼られてるけど?」
「だからそれが嫌なんだよ!」
「じゃあ一緒に貼られようか」
「意味が分からねぇ!」
私は満面の笑みを浮かべた。
「ガチでやるから」
「やめろおおおおお!」
モフモフ団が一斉に叫んだ。
私は魔王城に向き直った。
「魔王城に戻るよ!」
「待て!」
「ハルカ!」
「本気でやる気か!?」
「もちろん!」
「冗談だろ!?」
「ガチ!」
「やめろって!」
私の後ろを、モフモフ団が慌ててついてくる。
こうして、私は魔王国観光初日にして、再び魔王城へ戻ることになった。
--
「大臣さん!」
「は、はいっ!?」
魔王城へ戻った私は、そのまま大臣さんのところへ向かった。
後ろには、顔を真っ青にしたモフモフ団が並んでいる。
「お願いがあります!」
「なんでしょうか?」
「こいつらの肖像画も作って、街に貼ってください!」
大臣さんがモフモフ団を見る。
モフモフ団は一斉に視線を逸らした。
「……予算が」
「予算?」
「はい。ハルカ様の肖像画については、魔王様から特別に予算が出ておりますが……」
大臣さんが申し訳なさそうに眉を下げる。
「モフモフ団の皆様の分までとなると、さすがに……」
モフモフ団がガッツポーズをしている。
舐めるなよ!私は諦めない!
「大臣さん!」
私は身を乗り出す。
「そこをなんとか!」
「しかし……」
「お願いします!」
「いや、ハルカ! そこまでしなくていい!」
後ろからモフモフ団が叫ぶ。
「そうだぞ!」
「俺たちは別に名誉国民じゃないからな!」
「むしろ普通に暮らしたい!」
「知ってる」
私は振り返る。
「だから面白いんじゃない」
「お前……!」
そのときだった。
「何があった?」
声をかけられた。
振り返ると、魔王さんがこちらへ歩いてきた。
「あ、魔王さん!」
「ハルカ?」
魔王さんが私とモフモフ団、それから大臣を見る。
「何やら騒がしいようだが?」
「実はですね!」
私はこれまでの経緯を全部説明した。
街中に貼られた私の肖像画。
魔族の人々から大絶賛されたこと。
私は嬉しくて仕方ないけど、友人であるモフモフ団の分が無くて悲しいこと。
だからモフモフ団の肖像画も作ってほしいこと。
そして大臣さんが予算を理由に渋っていること。
涙ながらに話してやったよ。
もう主演女優賞取れるレベルで頑張った。
「……ふむ」
魔王さんは腕を組んだ。
「なるほど」
そして、モフモフ団を見る。
モフモフ団は一斉に姿勢を正した。
魔王さんが大臣へ向き直る。
「大臣」
「はっ」
「ハルカの頼みだぞ」
大臣の顔が引きつった。
「し、しかし予算が……」
魔王さんの顔が笑ってるけど笑ってない。
「大臣?」
「……承知しました。ただし、魔王様の交際費から出してもらいます。本当に予算がないのです!」
「な、なに!」
やばい、風向きが怪しい。
「魔王さ~ん。おねがい☆」
なりふり構ってられるか!
プライドなんて元々ないけど、プライドをかなぐり捨てて私のミッションを成功させるのだ。
「くっ……あいわかった。名誉国民ハルカの頼みだ……」
「やった!」
大臣がため息をつく。
「百枚だけ……」
「百枚!?」
モフモフ団が悲鳴を上げた。
少ないけど仕方ない。百枚でも文句は言わないでやる。
「十分だろう」
魔王さんは悲しそうに頷いた。
「ハルカが喜んでいるのだ」
「はい!」
思ったより少ないけど仕方ない。
喜んでいるフリをしないと逆になかったことにされそうだ。
私はモフモフ団を見る。
声には出さず、口だけ動かした。
(ザマァ見ろ!)
モフモフ団が悔しそうだ。
私は一応だけど満足した。
引き際を間違うと良いことないもん。
そのとき、衛兵が駆け寄ってきた。
「魔王様に御用の者が……」
「なんだ?」
「商人の一人が、謁見を求めております」
「商人?」
「はい。ハルカ様に関する件で、どうしても直接お話ししたいと」
衛兵が大臣へ報告する。
大臣は、魔王さんを見る。
魔王さんは私を見た。
そして、機嫌よく笑って答えた。
「その者を今すぐ連れてこい」
「はっ!」
「ハルカのことだろう? せっかくだ、ハルカに会わせてやろう」
私は首を傾げた。
「私の扱い、どうなってんの?」
--
しばらくすると、立派な身なりをした魔族の男性がやってきた。
大商人らしく、服装もかなり豪華だ。
男性は私を見ると、深々と頭を下げた。
「お初にお目にかかります、ハルカ様」
「はい。こんにちは」
「わたくし、魔王国で商いをしております。モウカー・リータイでございます」
「リータイさんですね」
もう名前で驚くのはやめたよ。
ちょっと笑いそうになったけど堪えた。
パルの驚いてる顔がうれしい。
「はい」
リータイさんは私の背後にある肖像画をちらりと見る。
その目が輝いた。
「実は……」
リータイさんが、壁の肖像画を指差した。
「そちらの絵画についてでございます」
「これ?」
「はい」
私は振り返る。
「これがどうかしました?」
「これは商品になります」
「…………え?」
私はリータイさんを見る。
「商品?」
「はい」
リータイさんは満面の笑みを浮かべた。
「これほどまでに精巧で芸術的でお美しい、しかも魔王様が認めた名誉国民の肖像画です。すでに我が商会に問い合わせが来ております。非常に高い需要が見込めるかと」
私は絵を見る。
やっぱり犯罪者のモンタージュ写真にしか見えない。
でも、この魔王国では極上の芸術らしい。
「それで?」
「はい」
リータイさんが身を乗り出す。
「わたくしめに、まず百枚……いや、千枚……いやいや、これはもっといけますな」
リータイさんの目がどんどん輝いていく。
「百万枚ほど!」
「百万!?」
この人、商人なの?
本当にこんなものが百万枚も売れると思ってんの?
「はい!」
リータイさんが力強く頷く。
「もちろん、すべてが売れると仮定した場合の話でございますが、予算につきましても――」
リータイさんが大臣へ小声で何かを伝える。
金額らしき数字がいくつか聞こえる。
ほうほう、ふむふむ……。
「……ちょっと待ってください」
リータイさんを見る。
「それって……」
「はい?」
「売れたら、モデルの私にもお金が入るよね?」
リータイさんが焦っている。
そして魔王さんを見る。
魔王さんは当然頷いた。
「もちろんだ、ハルカよ」
「ですよね!」
「おい、リータイ」
「はっ!」
「ざっくりでよい。計算せよ」
「承知しました」
リータイさんが慌てて計算を始める。
しばらくして――。
「全て売れると仮定しましたら……」
リータイさんが顔を上げる。
「ハルカ様の取り分は、金貨三百枚ほどになるかと……」
「……三百枚?」
「はい」
「金貨が?」
「はい」
「私に?」
「はい」
「やりましょう!」
私はリータイさんの手を両手で握った。
「ぜひやりましょう!」
「は、はい!」
「百万枚、作りましょう!」
「むほほぉ! ありがとうございます!」
リータイさんも嬉しそうに握り返す。
「必ずや成功させてみせます!」
「お願いします!」
その横で、モフモフ団が恐る恐る手を上げた。
「あの……」
リータイさんがちらりと見る。
「俺らの取り分は……?」
リータイさんは何も言わなかった。
そのまま私へ視線を戻す。
「それでは、具体的な販売方法についてですが――」
「はい!」
私はリータイさんの話を聞き始める。
その横で、モフモフ団が呆然としていた。
「……無視された」
「完全に無視されたな」
「俺たちも金ほしいな」
私はそんなモフモフ団をちらりと見る。
にっこり。
まあまあ、お金が入ったら少しは奢ってあげるよ。少しはね。
モフモフ団が一斉に嫌そうな顔をした。
「……なんだ、その顔」
「別に?」
「絶対なんか企んでるだろ」
「そんなことないよ?」
「その笑い方、不気味なんだよ!」
「だって……」
私は笑いをこらえながら言った。
「私の絵、売れるんだって」
「だからなんだよ!」
「金貨三百枚」
「…………」
「三百枚だよ?」
「…………」
「ふふふ」
「やめろ!」
モフモフ団が一歩後ずさる。
「その顔やめろ!」
「どうしようかなぁ」
私は楽しくなってきた。
今日は絶対に観光するつもりだった。
市場を見て、食堂に入って、魔族の暮らしを見て回るつもりだった。
それなのに。
「この肖像画をですね、まずは――」
「はい!」
「そして販売店については――」
「なるほど!」
「こちらの取り分につきましては――」
「はい!」
気がつけば、私は大商人リータイさんと商談をしていた。
魔王さんも途中から興味深そうに話を聞き始め、大臣さんも資料を持ってきている。
モフモフ団は隅っこで完全に置いていかれていた。
パルが小声でコメントを読み上げる。
『モフモフ団草ァ!』
--
ふと窓の外を見る。
「…………あれ?」
真っ暗だ。
空には綺麗なお星さまだ。
「……もう夜?」
「そうみたいだな」
パルが答える。
「……今日って」
「うん」
私は遠い目をした。
「観光する日だったよね?」
「そうだったな」
「市場とか……」
「ああ」
「美味しいもの食べたりとか……」
「そうだな」
「魔族の街とか……」
「なんも見てないな」
「でも金貨三百枚ゲットだよ」
パルがコメント欄を読みだした。
どんなタイミングよ。
『全部売れたらな』
「ぐっ……変な芸覚えないでよね」
パルがニヤニヤしてこっちを見てる。
「まあ一枚も売れないってことはないだろうし、絶対に金は入るんだ」
「た、たしかに!」
「明日こそ観光に行くんだろ?」
そうだ。いろいろあったけど深く考えるのはやめよう!
悪い出来事で行けなかったわけじゃないしね!
「……明日こそ観光行く!!!」
私の叫びが、魔王城に響き渡った。
その横では、一銭も入らないモフモフ団が、明日にも自分たちの手配犯画像が百枚貼り出される未来を想像して静かに絶望していた。




