第12話 モフモフハルカミルキーズ
ようやく一息つくことができた。
これで人間族と魔族の戦争が止まるんだよね。
次は私たちを心配してるかもしれないガレスさんたちだ。
思ってたことが顔に出たかな、ヤクメーさんと魔王さんがこちらを見る。
「どうした?」
「いや……ガレスさんやドラタンさんとどう合流したらいいかなって」
ヤクメーさんの表情が曇る。
「はぐれた仲間のことかな」
「はい。たぶん、今頃ものすごく心配してると思うんですよね」
私たちは森の遺跡で転移魔法陣らしきものに触れて、そのまま魔王城に飛ばされた。
飛ばされた先で魔王城にいて、魔王さんたちとテーブルを囲んで話してるなんて想像できないよね。
「確かに、それは心配だろうな」
魔王さんも頷いた。
「フォルティスから魔王城までどのくらいの距離なんですか? すぐ帰れますかね」
ヤクメーさんが考え込む。
「こことフォルティスは同じ大陸内にあるが、魔王城は大陸の一番北側。フォルティスは大陸の南西だ。歩くと、ふた月は優にかかるかな」
「そんなに……歩く以外の手段はないんですか?」
ヤクメーさんが渋い顔をする。
「あるにはあるが……」
「何か問題でもあるんですか?」
「魔王国と人間の国は国交がないんだ。魔王、この国にも乗り物くらいはあるだろう?」
「そうだな。吾輩の乗り物を使えばすぐだが……それがハルカを危険にさらすかもしれん。戦争を止めたばかりだ。余計な火種は作りたくない」
魔王さんが残念そうに言った。
「簡単じゃないんですね……」
何かいい方法ないのかなぁ。
日本ならスマホですぐ連絡できるのに。
……そうだ。連絡だ。
「なら、まずは連絡を取る手段はないんですか?」
「連絡か……」
魔王さんは考えている。
「魔王城から人間族の領地へ直接連絡するのは難しいな」
「……やっぱりそうですよね」
「だが、方法がないわけではない」
「え?」
魔王さんが続ける。
「獣人族の集落を経由すれば、手紙を届けることはできる」
「獣人族?」
「うむ。中立を保っている集落がある。そこならば、人間族との交易も行っている。歩いて行くよりは早かろう」
「なるほど……」
私は少し考える。
「じゃあ、手紙を書いてもいいですか?」
「もちろんだ」
魔王さんは快く頷いた。
「吾輩の名で届けさせよう」
「ありがとうございます!」
これで少し安心できそうだ。
「それじゃあ……」
私は紙とペンを借りることにした。
そして、机に向かう。
「えーっと……」
何を書けばいいんだろう。
私は少し悩んだ。
まずは無事だということ。
それから、魔王城にいること。
そして、すぐには帰れそうにないこと。
「……あとは、フォルティスを襲ったモンスターは、魔王軍は関与してないもんね」
これは絶対に伝えておいた方がいい。
少なくとも、魔王さん本人が否定している。
ガレスさんたちがどう考えているかは分からないけど、これで少しでも情報が増える。
「よし。書きますね」
――私たちは無事です。
――現在、魔王城にいます。
――あの転移魔法陣のようなもので、気づいたら魔王城にいました。
――どうしてここに来たのかは、まだ分かっていません。
――魔王さんと勇者さんは休戦することになりました。
――魔王さんによると、フォルティスを襲ったモンスターは魔王軍の仕業ではないそうです。
――森の遺跡についても、魔王さんは関与していないそうです。
――魔王国として調査を開始することになりました。
――魔族によるキメラの研究も、魔王さんは知りませんでした。
――それについても調査してくれるそうです。
――私たちは、しばらく魔王領に滞在することになりそうです。
――ガレスさんとドラタンさんも心配していると思いますが、私たちは元気です。
――また合流できるようになったら連絡します。
――追伸、モフモフニャンコミルキーズは役立たずです。
――ハルカ
「……こんな感じかな」
私は書き終えるとペンを置いた。
「できました」
「見せてもらうぞ」
「はい」
魔王さんに手紙を渡す。
魔王さんは一通り目を通すと、頷いた。
「これなら問題ない」
「本当ですか?」
「うむ。必ず届けさせよう」
魔王さんの正面で、ヤクメーさんがウズウズしている。
「僕も読んでみたい」
「あ、どうぞ」
魔王さんから手紙を受け取り、ヤクメーさんも真剣に読んでくれている。
「いいね。ちゃんと書けている」
「ありがとうございます」
これで、ガレスさんたちにも私たちが無事だと伝わる。
すぐに合流できないのは申し訳ないけど、今の状況なら仕方がない。
「……よかった」
これで、とりあえず一つ心配事が減った。
ヤクメーさんから手紙を受け取り、魔王さんが手紙を畳んだ。
「それで、もう一つ聞きたいことがある」
「なんですか?」
魔王さんが、私ではなく別の方向を見る。
その視線の先にはモフモフ団。
モフモフ団も、魔王さんの視線に気づいた。
「お主たちは、何者なのだ?」
私はモフモフ団をまじまじと見た。
そういえば……。
確かに、味方じゃないし、敵でもない。
彼らの立ち位置ってなんなのかな。
「僕もそれは気になっていた」
ヤクメーさんまで頷いた。
「君たちは、ハルカの仲間なのか?」
「え?」
モフモフ団が顔を見合わせる。
「えーっと……」
「……どうする?」
シャガムトが小声で言う。
「どうするって?」
「面倒だから、それでいくか?」
「それって?」
「ハルカの部下」
「それは俺のプライドが許さねぇよ」
「ならどうするんだよ?」
「怖かったからポポ様についてきました、って言うか?」
「まあ……まだそれなら」
「でも仲間じゃないってバレたら怖いぞ」
「たしかに……ハルカは魔王様と仲良くなってるな」
「ここ、魔王領だぞ」
「長いものに巻かれるのが得意なのはうらやましいよな」
「うーん……」
全員が魔王さんを見る。
魔王さんは腕を組んでいる。
別に怒っているわけじゃない。
ただ、ものすごく威圧感がある。
「よし」
シャガムトが頷いた。
「俺たちはポポ様の部下ってことにしよう」
「それでいいのか?」
「仕方ねぇだろ!」
そして、シャガムトが魔王さんを見る。
「お、俺たちはポポ様の部下です!」
魔王さんが眉を寄せる。
「ポポ?」
「クルル?」
魔王さんの視線が、私の横でくつろいでるポポへ向く。
「そこの幼龍だったか?」
「はい」
私はポポを指さした。
「ポポはこの可愛い子です」
「クルル♪」
ポポが嬉しそうに鳴いた。
魔王さんはポポを見る。
次にモフモフ団を見る。
そして、もう一度ポポを見る。
なんとも言えない顔をしている。
「でも、あなたたちポポの部下じゃないよね?」
嘘はよくないんだよ。
「お前、のっけからバラすなよ!」
シャガムトが叫んだ。
「だって違うじゃん」
「そうだけどよ!」
ヤクメーさんが苦笑する。
「やっぱり違うんだな」
モフモフ団が魔王さんを見る。
魔王さんがゆっくり口を開く。
「お主ら……」
「は、はい……」
「いくら吾輩が平和主義だからと言って、馬鹿にしているのか?」
「ひ、ひいぃぃぃぃ!」
モフモフ団が一斉に飛び上がった。
「お、俺……今日からハルカの部下になります!」
「な、なら俺も!」
「俺も!」
「俺も俺も!」
「ちょっと……!本気でやめてよ!」
「だって怖ぇんだよ!」
「ハルカ、頼む!」
モフモフ団が横一列に整列して、お辞儀をしながら右手を出してる。
なにこれ?好きな男を選ぶシステム?
「私が助けたい人だけ手を握ったらいい?」
「そうだったのかよ!」
「な、なら俺の手をまず握ってくれ!」
モフモフ団の全員が必至な目で私を見る。
完全に助けを求める目だった。
いや、冗談を真に受けないでよね。
「……はぁ」
私は額を押さえた。
「もう……」
なんでこんなことになってるんだろう。
シャガムトだけが右手を引っ込めて深刻そうな顔で呟いた。
「くっ……」
「?」
「今日から俺たちは……モフモフハルカミルキーズになるのか……」
シャガムトが拳を握ってワナワナしてる。
「意味は……気高いハルカって意味だ」
いやいや、何で真面目な顔してそれ言えるの?
ヤクメーさんが顔を逸らした。
魔王さんも肩を震わせている。
パルなんて、呆れた顔をしていた。
「……あんたそれ、馬鹿にしてんの?」
私はシャガムトにイライラしてきた。
「してねぇよ!」
「絶対してるでしょ!」
「してねぇって!」
「盗賊団に私の名前を使わないで! あとダサい!」
「なっ……ダサ…………? じゃ、じゃあお前が考えろよ!」
「なんで私が!」
「俺たち今日からお前の部下なんだろ!」
「部下にしないし! 仮に部下なら偉そうにすんなし!」
ちょっとムキになって素の自分が出てきた。
ハルカ失敗しちゃった。でもこんな自分が嫌いじゃない。
魔王さんは、堪えきれなくなったのか笑い始めた。
「ははははは!」
「ここ笑うとこですか!?」
ヤクメーさんも笑っている。
「いや……ごめん。でも、君たちは面白いな」
「面白くないですよ!」
私は頬を膨らませた。
……なんだか、すごく疲れた。
でもさっきまでここで勇者と魔王が本気で殺し合っていたことを考えればさ。
こうやって笑いあえるの、なんか素敵だなって思えてきた。
「見ていてよくわかった。お主らは友人なんだな」
魔王さんはなんだか晴れやかな顔をしている。
「……まあ、もうそれでいいですよ。モフモフ団もそれでいい? 部下とか無理だよ」
「ちっ……わかったよ」
なんで舌打ち?
部下より友人のほうがいいじゃん。
……いや、待てよ。
もしかしてこいつら、私の部下ってことにしてもらったほうが魔王さんの前で安全だと思った?
「……あんたたち、もしかして私を盾にしようとしてない?」
シャガムトが下手な口笛を吹く。
こいつら本当は余裕なのに、私をからかってんのか?
「図星なんだね?」
……でも私は笑った。
こんなどうでも良いことで話を引き延ばすのは良くない。
それに私は心が広いのだ。
とりあえず、手紙は出せる。
とにかくいい方向に進んだはず。
「……でも、変な一日だったなぁ。ほんと疲れた」
本気でそう思ったよ。
そして私は、まだ知らなかった。
ここからしばらく滞在することになる魔王さんの国がすごくすごくすごいことを。
作者的には、この手紙じゃ絶対に伝わらないと思ってます。
ガレスさん「魔王……? 勇者……?」
ドラタンさん「また新しい男かッ!」




