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音ノ話  作者: 吉高 都司
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8/9

八音

 ガタリと音がした方を見た。


 残業で遅くなった帰り道。


 粗大置き場に打ち捨てられた学習机があった。

 その日は一日中雨が続いていた。


 雨に濡れそぼっていた。

 夜、街灯が濡れそぼったそれをそこだけ照らし、雨に濡れているせいもあって、一層光っていた。


 そこだけ。


 粗大ごみだろう。

 券が貼ってあったが、濡れてはがれそうだった。

 最近、購入したものだろうか、まだ新し気な品物の様だ。


 それがまるで、捨てないでと言ってるみたいで、悲しげに濡れ光っていた。

 ガタリと音がした。

 椅子が動いたのか、机が動いたのか、濡れた事で膨張した木材が何らかの作用をしたのか。


 もう一度、ガタリと音と共に机が動いたような気がした。

 引き出しが少し開いているようだった。

 近付いてみた。

 引き出しを覗いてみた。

 ガタリ、

 再び音がした。

 引き出しの中からこちらを覗く者があった。


 血の気が引いた。


 よく見ると顔写真の眼だった。

 雨に濡れて、よりリアルに映っていたのだろうか。

 顔写真が複数枚、開いた引き出しの中からこちらを覗いていた。


 写真には男の子と女の子、そしてその両親だろうか。

 写真館で撮ったような、写真だった。

 椅子に座った女性の横に男性が、その反対側に男の子と女の子が丁度女性を挟むように立っていた。


 家族か。


 おかしい、そう思った瞬間。


 悪寒が走った。


 思い出した。


 確かこの前、この近所で一家惨殺事件があったはず。


 犯人は父親だと言う。


 男の子と女の子とその母親が父親の手によって殺められたと。

 父親はその場で自殺。


 そういった事件だったはずだ。


 ゴトリ、また音がした。


 写真の八つの眼が、引き出しの中からジッと見ている。


 突き動かされるよう弾かれるよう、駆け出した。



 慌ててその場を離れアパートに帰った。


 おかしいと思ったのは、そんな事件の現場にあったであろう机が、一体だれがそこに出したのか。


 粗大ごみ置き場に。



 もしかしたら自身、終う為にあの場所に行ったのだろうか。

 思いの詰まった机と、写真が自分自身で。


 そんな馬鹿な。

 暫く、あの道を通るのは止めよう。

 布団をかぶりそう決心した。



 ウトウトした夜半過ぎ、ゴトリ、あの音がした。

 恐る恐る、窓からアパートの外を覗いてみた。


 叫びそうになった。


 このアパートの粗大置き場に、あの机が。

 あの家族写真が引き出しの中にある、あの机が。

 あの机が濡れそぼって、ジッとこちらを見ているように佇んでいた。


 街灯に照らされてテラテラ光りながら。

 雨はまだまだ続くようだ。


拙作に目を通していただき、誠に感謝いたします。少しでも涼しくなっていただきましたら、幸甚に存じます。

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