八音
ガタリと音がした方を見た。
残業で遅くなった帰り道。
粗大置き場に打ち捨てられた学習机があった。
その日は一日中雨が続いていた。
雨に濡れそぼっていた。
夜、街灯が濡れそぼったそれをそこだけ照らし、雨に濡れているせいもあって、一層光っていた。
そこだけ。
粗大ごみだろう。
券が貼ってあったが、濡れてはがれそうだった。
最近、購入したものだろうか、まだ新し気な品物の様だ。
それがまるで、捨てないでと言ってるみたいで、悲しげに濡れ光っていた。
ガタリと音がした。
椅子が動いたのか、机が動いたのか、濡れた事で膨張した木材が何らかの作用をしたのか。
もう一度、ガタリと音と共に机が動いたような気がした。
引き出しが少し開いているようだった。
近付いてみた。
引き出しを覗いてみた。
ガタリ、
再び音がした。
引き出しの中からこちらを覗く者があった。
血の気が引いた。
よく見ると顔写真の眼だった。
雨に濡れて、よりリアルに映っていたのだろうか。
顔写真が複数枚、開いた引き出しの中からこちらを覗いていた。
写真には男の子と女の子、そしてその両親だろうか。
写真館で撮ったような、写真だった。
椅子に座った女性の横に男性が、その反対側に男の子と女の子が丁度女性を挟むように立っていた。
家族か。
おかしい、そう思った瞬間。
悪寒が走った。
思い出した。
確かこの前、この近所で一家惨殺事件があったはず。
犯人は父親だと言う。
男の子と女の子とその母親が父親の手によって殺められたと。
父親はその場で自殺。
そういった事件だったはずだ。
ゴトリ、また音がした。
写真の八つの眼が、引き出しの中からジッと見ている。
突き動かされるよう弾かれるよう、駆け出した。
慌ててその場を離れアパートに帰った。
おかしいと思ったのは、そんな事件の現場にあったであろう机が、一体だれがそこに出したのか。
粗大ごみ置き場に。
もしかしたら自身、終う為にあの場所に行ったのだろうか。
思いの詰まった机と、写真が自分自身で。
そんな馬鹿な。
暫く、あの道を通るのは止めよう。
布団をかぶりそう決心した。
ウトウトした夜半過ぎ、ゴトリ、あの音がした。
恐る恐る、窓からアパートの外を覗いてみた。
叫びそうになった。
このアパートの粗大置き場に、あの机が。
あの家族写真が引き出しの中にある、あの机が。
あの机が濡れそぼって、ジッとこちらを見ているように佇んでいた。
街灯に照らされてテラテラ光りながら。
雨はまだまだ続くようだ。
拙作に目を通していただき、誠に感謝いたします。少しでも涼しくなっていただきましたら、幸甚に存じます。




