七音
パタンベタンと。
機織り部屋から機を織る音が聞こえる。
パタンペタン、織りましょ、織りましょ、あなたのために。
ペタンパタン、織りましょ、織りましょ、私のために。
横糸切るは、結んで許しましょ、ペタンパタン。
縦糸切るは、許しません、ペタンパタン。
織姫がその若者と出会った時の衝撃は、生まれてこの方、殿方と言うものを話でしか聞いていなかったこともあったが故だった。
その優しい瞳優しい声、その逞しい身体、女性の中でしか、天女の中でしか暮らしていなかった織姫は、一目会った牽牛に惹かれ、心奪れる。
恋は盲目、あっという間に恋に落ち、逢瀬を重ねるようになった。
初めての恋と、周りの天女たちも神様も初めはその情熱も分からなくもなく、大目に見ていたが、機を織ることも忘れ、牛の面倒も見ることも疎かになり朝から晩まで、部屋にこもりっきりとなった。
パタンペタン、織りましょ、織りましょ、あなたのために。
ペタンパタン、織りましょ、織りましょ、私のために。
横糸切るは、結んで許しましょ、ペタンパタン。
縦糸切るは、許しません、ペタンパタン。ペタンパタン。
反物は全くと言っていいほど、織らず。
牽牛も全く牛の面倒を見ないため、牛が餓死したり、病気になるものもいた。
いいかげん神様もお怒りになって、いよいよ、改めるよう注意した。
だが、若い二人はそんなことも意に介さず逢瀬を重ねた。
パタンペタン、織りましょ、織りましょ、あなたのために。
ペタンパタン、織りましょ、織りましょ、私のために。
横糸切るは、結んで許しましょ、ペタンパタン。
縦糸切るは、許しません、ペタンパタン。ペタンパタン。
やがて二人は天の川と言う川の彼岸、此岸に別れさせられた。
神様の怒りはもっともだった。
織姫は部屋に籠り、毎日が上の空だった、逢瀬の事を日々空しく思い出すだけだった。
そんな時、牽牛に新しい天女が近づいた。
パタンペタン、織りましょ、織りましょ、あなたのために。
ペタンパタン、織りましょ、織りましょ、私のために。
横糸切るは、結んで許しましょ、ペタンパタン。
縦糸切るは、許しません、ペタンパタン。ペタンパタン。
織姫がそれを知ったのは、ずっと後になってから。
神様との約束の一年に一回の逢瀬の時であった。
いつもと様子が違う牽牛に、織姫は問い詰めた。
だが、牽牛が寂しさを埋めることの言い訳を織姫に何百回といったところで、織姫は気も狂わんばかりだった。
血の涙を流すばかりだった。
パタンペタン、織りましょ、織りましょ、あなたのために。
ペタンパタン、織りましょ、織りましょ、私のために。
浮気は、結んで許しましょ、ペタンパタン。
裏切りは、許しません、ペタンパタン。ペタンパタン。
切れた縦糸、魂の緒で結びましょ、ペタンパタン。ペタンパタン。
機織り部屋から、機織る音とともに歌が聞える。
朝日に照らされ血だるまになって動かなくなった牽牛を横目に、うつろな笑顔で機を織る返り血で真っ赤になった織姫が、同じく返り血で真っ赤になった反物を、ただ黙々と織っていた。
パタンペタン、織りましょ、織りましょ、あなたのために。
ペタンパタン、織りましょ、織りましょ、私のために。
ペタンパタン、パタンペタン。
ペタンパタン、パタンペタン。
拙作に目を通していただき誠にありがとうございます。




