表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
音ノ話  作者: 吉高 都司
PR
5/9

五音

 水琴窟ですか?和室の畳の上での慣れない正座が、自分自身にもうすぐしびれて立てなくなると、膝が悲鳴を上げる寸前の感覚を誤魔化すように言った。無垢の木で出来た、見るからに重そうな大木をスライスして作った高級なテーブルの前に座っていた。出された緑茶がその湯気を出し切って、冷え冷えとしている。もう一度聞こうとしたが、相手が先に言葉を発したので私は口をつぐんだ。手水の地下に瓶を埋め込んで、そこに手から零れ落ちた水が滴り落ち、地下の瓶に水が叩いた時に発する音を楽しむもの。とか、そんな説明だった。物書きの取材で、この家に訪問して数時間、こんなやり取りを繰り返していた、眼の前のICレコーダーと手に持っているメモ帳と、念のために持ってきたパッドが俺の荷物の全て。相手はおもむろに違う話をし出した。おかしなもので、鹿威しとか、水琴窟とか、鈴虫の音とか、外国の人の方は単なる物の音でしか認識されてないみたいですね、と。足のしびれが、はあ、と生返事をさせた。音がその認識が違って来るっておかしいですよね、同じ音なのに。じゃあ、人の声はどうでしょう、笑い声、静かなこえ、怒ったこえ、そして、叫び声。叫び声、のセリフにビクッとなって目線を向けると、その人の眼が穴の開いた穴に見えた。見間違いだろうか。え、おれは聞き返した。叫び声ですよ、特に断末魔、苦しみに耐えきれず、最後の懇願も虚しく生を諦めた、憐れみを乞う最後の断末魔。生を感じるのですよ、いいですねと二ッと笑った。ゾッとした。目をまともに見れなかった。追い打ちをかけるように言った。瓶の代わりに頭蓋骨から奏でる音もいいものですよ、私にとってはかけがえのない音です。本能が早急にここから立ち去るように駆け巡った。お茶はどうです、冷めましたね。立ち上がろうとしたタイミングを逃せば危ない、危険を察知する本能がここから早急に立ち去るよう、最終警告を発していた。いや、もうお暇します、もうじゅうぶんおはなしはお伺いいたしました、と立ち上がろうとした時、慣れない正座であしがしびれ、もたついてしまった。四つん這いになりながらICレコーダーとパッドと手帳をカバンに押し込み、立ち上がりながら、つんのめりつつその部屋の畳を踏みしめ、廊下に出ようとした。廊下には老婆のお手伝いさんがお盆に湯呑を二つ乗せて、立っていた。が、その顔を見ると叫び声を上げそうになった。目がない、いや、眼球の代わりに漆黒の穴が二つ開いているだけだった。何も言わずお盆を持ったまま立っている。後ろで、新しい瓶が欲しくてね、と言って声をかけられたのが最後だった。


 暗い、漆黒の穴の奥、手水の滴り落ちてきた水が私の頭蓋骨に落ちて来る。

 

 頭蓋骨に水が滴り落ちて反響した音は、その暗闇の中で音をいつまでも奏でていた。


拙作に目を通して下さり誠にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ