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不可思議事件録2 ~鋼鉄の支配を琥珀の絆で描き直せ。少年と巫女が綴る、街と家族の再設計~  作者: たくみふじ
第二章 河崎武道館、神子(みこ)の舞いと地下の鳴弦(めいげん)

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朱(あけ)の舞台、檜(ひのき)の香りに潜む毒㈡

冷たい数式を温かな余白へ。少年と巫女が綴る、世界再設計のファンタジー

 良亮が、ついに武道館の深層部の「不整合(エラー)」を突き止めた。ディスプレイに表示されたのは、武道館の基礎杭(きそぐい)と、地下の廃駅、そしてさらにその深部にある「旧下水道網」の三次元交差図だった。


「……パパ。パパは、わざとここに『隙間』を作ったんだね」


 良亮の痣が、歓喜するように脈打った。工藤一族が完璧だと思い込んでいた霊的エネルギー集積回路の、ちょうど中心部。そこに、物理的な強度を一切無視した、一箇所の「空間の(ねじ)れ」が存在していた。それは、一見すると設計ミスに見える。しかし、良亮には分かった。そこは、外部からの強い霊的衝撃が加わった際、エネルギーが逆流し、システム全体を「自壊」させるための、唯一の脱出口……すなわち『設計士の反逆』だった。


(……でも、この隙間を突くには、舞台の上から尋常じゃない霊的圧力を叩き込む必要がある。……竜子さんの今の『舞い』じゃ、まだ足りない……)


 良亮は、痣を通じて竜子にメッセージを送ろうと試みた。だが、その時。武道館のスピーカーから、割れんばかりのハウリング音が響き渡った。


『……第一回戦、終了。……選出されたのは、以下の六名』


 電光掲示板に名前が躍る。一位:工藤 弓  二位:門前 竜子  ……。

 竜子は、肩で息をしながら舞台を降りた。彼女の白かった小袖の裾は、舞台から吸い上げられた磁気の(すす)によって、薄汚れた灰紫色に染まっていた。


「……くっ。……なんて……厚かましい……システム……かしら……」


 崩れ落ちそうになる竜子を、宗介が咄嗟に支える。


 その頃、武道館の外……関係者専用の通路で、越智涼子は、介護の現場で得たある「違和感」を追っていた。彼女は、大会のボランティア救護班として武道館に入っていたが、そこで、かつて「鉄錆の里」を退所していった元鉄道員たちの親族数名が、工藤一族の黒服たちに連れられて地下へと降りていく姿を目撃したのだ。


「……どうして、あの方たちがここに? ……それに、あの黒服の人たちが持っているアタッシュケース……。……あれ、佐藤さんの部屋にあった『鉄の切符』と同じ匂いがするわ」


 涼子は、自分のスマートフォンを握りしめた。彼女の中に残る「友之の記憶」が、警鐘(けいしょう)を鳴らしている。工藤一族は、巫女たちの舞いで発生したエネルギーだけでは飽き足らず、被害者遺族たちの「悲しみの波形」をも、この地下で回収しようとしている。


「……良亮。……気をつけて。……この建物、ただの武道館じゃないわ。……大きな、大きな『お墓』に……作り替えられようとしている……」


 涼子が良亮にメッセージを送ろうとしたその時。背後から、冷たい銀髪の男……執事の銀が、音もなく現れた。


「……越智涼子さん。……部外者が、管理区域に立ち入るのは感心しませんね」


「……っ、あなたは!」


 涼子は咄嗟に、かつて護身術として習った(そして友之が好んで使っていた)鋭い目付きで男を睨みつけた。


「……ここの地下で、何をしているの? ……老人たちの記憶を、これ以上汚さないで!」


 銀は、僅かに眉を動かした。


「……ほう。……普通の介護士かと思えば、随分と鋭い『牙』をお持ちのようだ。……ですが、設計図はすでに完成しています。……あとは、第二回戦の『口寄(くちよせ)』で、すべてが実を結ぶ」


 銀が軽く指を鳴らすと、涼子の意識は急速に遠のいていった。


「……良亮……。……逃げて……」


 涼子の身体は、影の中から現れた黒服たちによって、地下の深淵へと運び去られていった。


 武道館の観客席。良亮のスマートフォンに、母からの途切れたメッセージが届いた。


「……ママ!? ……返事をして、ママ!」


 良亮が立ち上がろうとした瞬間、右腕の痣が、かつてないほどの激痛と共に「真っ赤な警告」を脳内に映し出した。


『……パズルは、すべて揃った。……良亮、お前の母は、今、お前の父が設計した「虚無の廃駅」の改札を通過したぞ』


 ARCHITECTの非情な文字が、画面を埋め尽くす。

 アリーナ中央では、第二回戦『口寄』の準備が始まっていた。それは、神仏や死霊の言葉を身体に降ろす、禁忌(きんき)の霊媒儀式。竜子は、宗介の腕の中で、焦点の定まらない瞳で天井を見つめていた。


「……宗介。……聞こえますわ。……地下の廃駅で、パパが……良亮さんのパパが、泣いている音が……」


「竜子様、しっかりしてください! ……これより、第二回戦です!」


 巫女たちの技を競う大会は、その本質を剥き出しにし、生きた人間を部品とする「巨大な変換装置」へと変貌を遂げようとしていた。良亮の右腕の痣は、今や心臓を掴むように左胸へと這い上がっている。


「……工藤。……僕の家族を、これ以上利用させない」


 良亮は、血の(にじ)む唇を噛み切り、武道館の地下構造図に、たった一箇所だけ残された「反逆の線」を、渾身(こんしん)の力を込めて指でなぞった。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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