第6話 最弱テイマーの初めての仕事①☆
翌朝、ティアは特製のベッドで目を覚ました。
窓から差し込む柔らかな朝陽と、枕元でまだ眠そうにぷるぷると震えるスライムたちの気配が、彼女を優しく現実に引き戻す。
(……よく眠れた。久しぶりにぐっすりと。疲れていたのもあるけど、マーロたちが近くにいてくれたおかげかしら)
ベッド代わりにしたマーロをそっと撫でた。寝心地は最高だった。
(安心はできても……ベッドは堅くて満足できなかったのよね。衛生面も……ね)
宿の食堂で軽く朝食を済ませ、ティアは再びギルドへと足を運んだ。
朝のギルドは昨夜より少し落ち着いていたが、受付の前にはすでに何人もの若い討伐者が集まっている。
受付カウンターにクレシアの姿を見つけ、ティアは近づいた。
「おはようございます、クレシアさん。昨日はありがとうございました。……私でもできるような仕事、ありませんか?」
クレシアは昨日のことを覚えていてくれたようで、柔らかく微笑んだ。
「おはようございます、ティアさん。ちょうどいい依頼がありますよ。嵐の影響で、街のあちこちで被害を受けていて……喫茶店の掃除と簡単な修繕の依頼があります。これなら力仕事は少ないですし、固有スキルを選ばない仕事です。ティアさんなら十分対応できると思います」
「ありがとうございます。それでお願いします」
依頼を受け取り、ティアは指定された場所に向かった。街の少し外れ、木々に囲まれた落ち着いた通りにその店はあった。
『モルン・ティーサロン』——看板には優しい字体でそう書かれている。
モダンでありながら温かみのある外観の喫茶店だったが、先日までの激しい嵐の影響は明らかだった。庭の大きな木が建物に向かって倒れ込み、窓ガラスがいくつか割れ、地面は泥と落ち葉、砂ぼこりで荒れ果てていた。
店先で箒を握っていた老婆が、ティアに気づいて顔を上げた。疲れた様子ながらも、穏やかな笑顔を浮かべる。
「ギルドの子かい? 本当に来てくれてありがとう……夫に先立たれてから一人でやっているんだけど、今回の嵐は本当につらかったよ」
ティアは胸が少し痛んだ。三十四歳の頃、自分も「一人で何とかしなければ」と無理を重ねてきた記憶が重なる。
「大丈夫です。私と……私の仲間たちで、綺麗にしますね」
『……マーロ、がんばる!』
作業が始まると、スライムたちは存分に力を発揮した。
小さくなったままのスライム達がティアのポケットから飛び出すと、ヒョウカが透明な水を操り、泥と汚れを優しく洗い流していく。ジンライは風をコントロールして砂ぼこりを外へと吹き飛ばし、グレンは適度な熱で濡れた場所を素早く乾かした。そしてホウジョは倒れた大木の根元に触れると、土を操って折れた部分を繋ぎ合わせ、まるで元からそこにあったかのように蘇らせた。
「すごい……本当にすごい子たちね!」
老婆は目を丸くして、何度も感嘆の声を上げた。ティアはスライムたちを褒めながら、内心驚いていた。
(森での戦闘もすごかったけど、こんな繊細な魔法も使えるのね。ホウジョなんて見るからに不思議な力だわ。やっぱり最弱なんかじゃない……みんな、最高の相棒だわ!)
作業がほぼ終わり、店がすっかり綺麗になった頃——
「ルイーサ婆さん! 大丈夫か!?」
若い男性の声が響いた。
振り返ると、すらりとした長身の男性が早足に近づいてくる。
西洋風の整った顔立ちに、柔らかな金褐色の髪。年齢は20代後半くらいだろうか。洗練された身なりと、優しげな目元が印象的だ。
彼は老婆——ルイーサに駆け寄ると、安心したように息を吐いた。
「よかった……昨日の嵐の後、ずっと心配していたんだ。店はどうなってるかと……」
そこで彼はティアと、その周りにいるスライムたちに気づき、目を少し見開いた。
「あ……君は依頼を受けた討伐者か。店の片付けを手伝ってくれてありがとう。ルイーサ婆さんには昔から世話になっているから、本当に助かるよ」
男性は自然とティアの近くに寄り、笑顔で話しかけてきた。距離が近い。かなり近い。
「僕はエリオス。この店の常連だ。……君、随分若いね。一人でこんな依頼を受けているなんて、大したものだ」
彼は微笑みながら、ティアの顔をまっすぐ覗き込むようにして言った。爽やかな石鹸の香りと、男性特有の体温が、わずかに近づいてくる。
ティアは思わず後ろに半歩下がり、内心で激しく動揺した。
(え、ちょっと……距離! 距離が近いんですけど!? イケメンすぎて視線が……! 私はこういうのに免疫ないし、15歳の体は余計に照れやすい……!)
頰が熱くなるのを自覚しながら、ティアはなんとか平静を装って答えた。
「た、たいしたことじゃないです……。私のスライムたちが頑張ってくれたので」
エリオスはさらに一歩近づき、興味深そうにスライムたちを眺めながら言った。
「へえ……白いスライムに、色とりどりの子たちか。珍しい組み合わせだね。君の名前は?」
「……ティア、です」
「ティアか。いい名前だ」
彼の柔らかい笑顔と親しげな口調に、ティアの心臓はクイックステップを踊るようにますます速くなる。
(顔が……近い! ……この人、距離感が近いタイプ……? それとも異世界ではこれが普通? 落ち着け、私……!)
老婆ルイーサがくすくすと笑う。
二人に見られているのが余計に気恥ずかしかった。
エリオス※生成AI画像




