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最弱テイマーは癒されたい ~頼れる仲間とコンカフェを作ったらイケメンが集まりました~  作者: 愛庵苦労


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第3話 最弱テイマーの始まり③

いろいろ驚かされることはあったけど、頼もしい仲間が増えて、ティアの心はそれなりに落ち着いてきていた。

それよりも、目下最大の問題は空腹だった。異世界に来てから一切何も口にしておらず、お腹の虫が盛大に鳴り続けている。

徹夜明けの疲労感とはまた違う、若い体が素直に「早く何か食べさせて」と訴えてくるのが少し新鮮だった。


「はぁ……みんな、移動開始よ。……道はまっすぐお願いね?」


ティアは深いため息をつき、苦笑を浮かべながら言った。青々とした木々の隙間から差し込む柔らかな陽光が、巨大な五体のスライムたちを優しく照らしている。

その光景は幻想的ですらあったが、ここがドラゴンの死骸すら転がる危険な森であることを思い出すと、胸の奥に小さな緊張が渦巻いた。

五体の巨大スライムが一斉に「ぷるるんっ!」と震える姿は、まるで「了解!」と言っているようで可愛らしい。


「マーロ、近くに人が集まる場所はあるかしら?」


『……夕方になると、人間は同じ方角に歩いて行くよ』


「!? きっとその先に街や村があるのね、どっちの方角?」


マーロが体を少し傾けるようにして方角を示した。ティアは頷き、歩き始めた。森の地面は落ち葉が厚く積もり、足を踏み入れるたびに柔らかい感触が靴底に伝わってくる。木漏れ日が揺れる中、時折聞こえる鳥のさえずりと、遠くで何かが動く気配が、彼女の神経をわずかに尖らせた。


「あれ? マーロの言葉、さっきまで片言だったのに、聞き取りやすくなってる……?」


『……そうなの? いつも通り思いを伝えてるよ?』


マーロ自身に自覚はないらしい。ティアはチラリと新しくテイムした四体を見た。


(仲間が増えたことで、私とマーロの絆が深まった……? 『絆魂約』ってスキル、本当にただの契約じゃなかったのね)


念話に慣れてきたのか、受信のタイムラグはまだ少し残るものの、以前よりずっと自然に会話ができるようになっていた。

それがなんだか嬉しくて、ティアは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。34年間、誰かと心の底から繋がるような関係を築いた記憶がほとんどない彼女にとって、この感覚は新鮮で、少しだけ怖いほどだった。


頼もしい仲間に囲まれ、危険な森の中を歩いていても、ティアはほとんど不安を感じていなかった。マーロが正面の大きな壁となり、グレン、ヒョウカ、ジンライ、ホウジョの四体が周囲を固める陣形は、まさに鉄壁。巨大なスライムたちの体が、森の木々を優しく押し分けながら進む様子は、どこか頼もしくもあり、微笑ましくもあった。


「森の中なのに……意外と歩きやすいわね。でも、空は雲一つないのに、足元は雨上がりみたいにじめじめしてる……」


泥が靴にまとわりつく感触に顔をしかめていると、マーロが優しく声をかけた。


『……任せて。ホウジョ、頼んだよ』


ホウジョが前に出て、ころころと転がるように進み始めた。するとその周囲の地面がみるみるうちに平らで固い土の道に変わっていく。湿った土の匂いが薄れ、歩きやすい感触が足に伝わってくる。


「わぁ……歩きやすい。ホウジョ、すごいじゃない」


ティアは素直に感激して褒めると、ホウジョが嬉しそうに「ごんっ」と体を大きく波打たせた。その姿に、彼女の口元が自然と緩む。


(……誰かにこんな風に守られたり、支えられたりしたことなんてほとんどなかったのに)


キャリアウーマンとして生きてきた日々では、常に自分一人で何とかしなければならなかった。部下に強く言えず、仕事を抱え込み、徹夜を繰り返す——そんな毎日に「癒し」を求めていた自分が、今は巨大なスライムたちに守られている。なんだか不思議で、ちょっとだけ目頭が熱くなった。


方角はマーロが人間の通り道を覚えていたおかげで、どうにか合っているようだった。


――キュルルルゥ~……


しかし、歩き始めてしばらくすると、ティアのお腹が盛大に不服を訴えた。


『……ティア、お腹空いた?』


「……うん。ちょっと恥ずかしいんだけど」


マーロに指摘され、ティアは耳を赤らめた。人間じゃない相手にこんな風に甘える自分が、少し新鮮で照れくさかった。


『……ちょっと待ってて』


マーロが触手のように体の一部を伸ばし、木の上の方からリンゴのような赤い果実を枝ごと六個取ってきた。艶やかでみずみずしく、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。


「これ……食べられるの?」


『人間がそのままかじってるのを見たことある。上の方に残ってたやつだよ』


「ありがとう、マーロ。六個あるからみんなで分けましょう。休憩よ~」


ティアは疲れもあって積極的に休憩を提案した。柔らかい草の上に腰を下ろし、果実に服を軽く擦りつけてから齧りつくと——


シャクッ!


薄い皮が簡単に裂け、溢れんばかりのみずみずしい果汁が口いっぱいに広がった。甘酸っぱい味わいが、すきっ腹に染み渡る。


「甘くておいしい……! みずみずしくてほどよい酸味が後を引く。生き返るわ~……はぁ、本当に」


ティアはしみじみと目を細め、一滴も逃すまいと慌てて二口目を齧りついた。頰が緩み、思わず小さな幸せの声が漏れる。


(……こんなに素直に「美味しい」って感じられるの、いつぶりだろう)


ふと自分の服装に違和感を覚えた。通勤スーツではなく、どこかの民族衣装のような、動きやすい薄手の服に変わっている。袖口や裾に施されたシンプルな刺繍が、森の木漏れ日の中で柔らかく光っていた。


(元の服はどうなったんだろう……まあ、今考えても仕方ないか)


ティアは考えを放棄して、再び果実に齧りついた。マーロやグレンたちもそれぞれ果実を取り込んで味わっている様子が、なんだか微笑ましい。


(スライムって雑食なんだ……しゅわしゅわと果実を取り込む食事姿も可愛い)


森を進む途中、鳥頭の熊や金属のような硬い鎧を背中に張った巨大猪など、見たこともない魔物に襲われた。


しかし——


グレンが赤い炎の槍を突き刺し、ヒョウカが吹雪を巻き起こして凍らせ、ジンライが鋭い風の刃で首を刎ね、ホウジョが地面から土の柱を突き上げて貫く。完全なるスライム無双だった。

戦闘の衝撃で木の葉が舞い上がり、魔物の断末魔が森に響く中、ティアはただ呆然と見守るしかなかった。


「それにしても……私の周りだけ無双集団って、どういうこと?」


ティアはため息をつきながら苦笑した。頼もしい護衛の姿に、不安はみるみる和らいでいく。


二時間ほど歩くとその頃には襲撃もおさまり、森がようやく途切れ、視界が一気に開けた。

黄金色の草原が広がり、少し離れた場所に巨大な石壁に囲まれた街が見える。夕陽が壁をオレンジ色に染め、煙突から上がる細い煙が、のどかな日常を予感させた。


「よし、次は街ね。でも……この巨大スライム軍団を連れて入ったら、衛兵さんを気絶させそう」


『……ティア、どうしたの?』


「みんなが大きすぎるから、驚かせないかと思って」


『……それなら小さくなるよ! みんな、小さくなってーっ』


マーロの合図で五体が一斉にしゅるしゅると縮み始めた。マーロはピンポン玉サイズになり、スーパーボールのようにぴょんぴょんと跳ねてアピールする。他の四体も手のひらに載るくらいの可愛らしいサイズになった。


「元の姿より小さくなるなんて……物理法則、完全に無視してるんですけど!? そんな能力あったの!?」


ティアは目を丸くしながらも、思わず笑ってしまった。


『……これなら大丈夫?』


「え、ええ。この大きさならポケットに入れられるわね。みんな好きなところに隠れて」


マーロはティアの右肩に、グレンは左のポケットに、ヒョウカは胸元近くのポケットに、ジンライとホウジョはスカートのポケットに潜り込んだ。小さくなったスライムたちの温かさと、微かな振動が服越しに伝わってくる。


(……一人じゃなかった。ちゃんと、傍にいてくれる)


三十四歳の疲れた心が、十五歳の体の中でゆっくりと溶けていくような気がした。ポケットの中でぷるぷると震える小さな仲間たちを感じながら、ティアは夕陽に照らされた街に向かって、静かに歩き始めた。

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