第23話 最弱テイマーの波乱の前触れ③
「ティアさん、そろそろ行きましょうか?」
「あっ、クレシアさん。その前に……スライム達の癒しを体験して行ってくれませんか?」
ティアは笑顔を浮かべながらも、内心で小さく緊張していた。
オープンから数日が経ったが、客足はまだ寂しい。閑古鳥が鳴く店内を見るたび、胸に焦りが募る。
のんびり癒されたいとは思っていても、生活費や借金の返済を考えれば、ただ待っているわけにはいかない。
(クレシアさんなら、総合ギルドや討伐者支部にも影響力があるはず……ここでしっかり体験してもらえれば、きっと広めてくれる)
「そう……ね。ティアさんおすすめのハーブティーも美味しかったし、癒しというのも体験してみますか」
クレシアの前向きな返事に、ティアはぱっと顔を明るくした。
「ではさっそくこちらへ!」
ティアはクレシアを急かしつつ、喫茶スペースの奥にあるパーテーションで区切られた半個室へと誘った。ポツンとサイドテーブルだけが置かれ、照明の光も相まって少し寂しげ。
一見しただけでは何のためか理解しがたい空間に、クレシアは眉を寄せた。
「それじゃあ……まずはジンライ、話しておいた体験をお願いね」
ティアが指示を飛ばすと、ポケットからプチスライム状態のジンライが飛び出した。一度大きく膨らんでから、ぷるんと震え、滑らかな椅子の形状に姿を変える。
不可解だった空間は巨大スライムの椅子で埋まり、一つの完成形を見せた。
「ッ!? ティアさん……これは?」
「以前、討伐者支部でお話ししたマーロ以外のスライムです。彼らの能力を生かした癒しが、他の店には無いここだけの売りなんです」
初めての体験にクレシアが警戒しないよう、ティアは終始柔らかい笑顔で説明した。
(お願い……気に入って。少しでも広めてくれたら……)
「……ティアさんがそこまで言うなら」
少し躊躇いつつも、クレシアはジンライの椅子にそっと腰を下ろした。
その瞬間、身体がわずかに沈み込み、スライム独特のぷにゅりとした感触が全身を優しく包み込んだ。
「これは……新感覚……」
スライム椅子のフィット感は、人をダメにする魔力がある。クレシアの表情が、みるみるうちにほどけていく。
(落ちた……!)
好感触にティアは心の中で小さくガッツポーズをした。
クレシアの変化は一目で分かるほどだった。
「それだけじゃないんですよ……ジンライ、お願い」
ティアが合図を送ると、椅子になったジンライがぷるんと震えた。
「あっ……風が……室内なのに、なぜ? でも、草原に吹くような爽やかな風……」
うっとりとした表情でクレシアが呟く。頰がわずかに緩み、いつもはきりっとした仕事人の顔が、珍しく少女のように見えた。
「街の人は魔物が出る草原に行くことはないけど……誰でも疑似体験ができて、穏やかなひと時を過ごせそうです。癒されますね……これは素晴らしいサービスですよ、ティアさん!」
ジンライに癒されたクレシアの言葉には、本人も気づいていない熱がこもっていた。
その後も残りのスライム達の癒し(マーロ以外)を次々と体験したクレシアは、終了後にぼんやりとした顔で呟いた。
「……みんなに教えないと……!」
妙な使命感を燃やし始めた。




