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最弱テイマーは癒されたい ~頼れる仲間とコンカフェを作ったらイケメンが集まりました~  作者: 愛庵苦労


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第20話 最弱テイマーの癒しの店⑤

あの後、エリオスはルシアンに対し、建物の評価額を至急算出するよう命じていた。どこか不機嫌そうな冷ややかな表情を浮かべ、急かすように彼を総合ギルドへと追い返したのだ。


その後、エリオスとティアは店で一時間ほど時間を潰してから総合ギルドへと向かい、提示された評価額に基づいて正式な契約を交わした。

引っ越しの都合上、運べない家具はそのまま置いていくしかない。結果として、家具付きの「居抜き物件」としての取引となり、契約額は三千万チルという高額に。


土地代と合わせれば、実に五千万チルの支払い。


おまけに税金や諸々の手数料を含めると、別途五百万チルもの負担がのしかかる。割合にすれば一割程度とはいえ、元の金額が大きすぎるために、手数料だけでも目玉が飛び出るような大金だった。


ティアにとって、これが人生初の「高額な買い物」となった。

――いや、人生初の高額な「取引」といえば、あの二億チルの借金だ。今思い出しても、胸がズキリと痛む悲しい記憶である。それに比べれば前進しているとはいえ、財布から消えていった大金の重みには、やはり胃がキリキリとした。



そして引っ越し当日――


ティアは、すでに看板を外された『モルン・ティーサロン』に立っていた。

かつて店の顔だったその看板は、これまでの歴史の証として、引っ越し荷物と共にルイーサへと引き渡されている。


なのでティアは未だに宿暮らしだ。


すでに契約は済んで土地建物はティアのものだが、ルイーサが引っ越しを終えるまで猶予を設けていた。短期間のことだからだ。

ルイーサと息子夫婦が早く一緒に暮らせるよう、エリオスが引越しの手伝いや馬車の手配など、精力的に活動していたからだ。


土地と建物の契約はすでに完了し、名義もティアのものになっていたが、ルイーサが引っ越しを終えるまでは猶予を設けていたのだ。幸い、その期間は短くて済んだ。ルイーサと息子夫婦が一日も早く一緒に暮らせるよう、エリオスが引っ越しの手伝いや馬車の手配など、驚くほどの行動力で精力的に立ち回ってくれたからだ。


ふと前を向くと、ティアの目にルイーサの背中が映った。

店で忙しく働いていた時と変わらない、見慣れた背中。けれど、玄関の前でじっと建物を愛おしそうに見つめているその姿には、どこか哀愁が漂っていた。


「ティア、おはよう。ふふっ、最後のお別れを済ませてきたわ。これでもう、ここには何の忘れ物もないわね」


振り返ったルイーサは、少しの曇りもない、晴れやかな笑みを浮かべていた。

その瞳の奥には、新しい生活へ踏み出す確かな決意が秘められている。


「長い間お店を守って、本当にお疲れさまでした……」


けれど、その潔い表情を見たティアは、胸がいっぱいになってしまい、それ以上気の利いた労いの言葉が上手く出てこなかった。


ルイーサはティアの言葉に、ふっと目元を和らげた。寂しさがないと言えば嘘になるが、ティアの気遣いが何よりも嬉しかったのです。


「ありがとう、ティア。あなたにこの店を引き継いでもらえて、本当に良かったわ」


ルイーサは愛おしそうに、もう一度だけ建物を振り返りました。


「ここで過ごした時間は私の宝物。でもね、これからは息子夫婦と一緒に新しい思い出を作っていくの。だから、全然悲しいお別れじゃないのよ。……さあ、私の『モルン・ティーサロン』はこれで本当におしまい!」


彼女はパンッと小さく手を叩き、まるで気持ちを切り替えるようにティアに向き直ると、悪戯っぽく微笑みました。


「次はあなたの番ね。ここをどんな素敵なお店にするのか、楽しみにしているわ。……あ、そうそう。エリオスには本当に感謝しなくちゃね。あの子、驚くほど手際が良くて、引っ越しの準備があっという間に終わっちゃったのよ? なんだか、一刻も早く私を追い出したいんじゃないかって邪推しちゃうくらいにね」


クスクスと笑うルイーサの言葉に、ティアはふと、数日前のエリオスの不機嫌そうな顔を思い出した。ルシアンを急かして総合ギルドに送り返し、手続きを迅速に進めようとしていたあの姿。

ルイーサを早く息子夫婦の元へ送り出してあげたいという彼なりの配慮……にしては、少し焦っているようにも見えたが、その真意はどこにあるのか。


「それじゃあ、私はもう行くわね。馬車が待っているの。ティア、あなたの新しい出発を、心から応援しているわ」


ルイーサの声は穏やかだったが、目元にはうっすらと涙が浮かんでいた。

別れ際、ルイーサはティアの手を優しく握り、温かい温もりを残して一歩を踏み出した。




ティアは馬車に乗り込むまで見送ろうと、その後ろを静かに付いて行った。胸の奥が熱くなり、視界が少しぼやける。

すると、待ち構えていた馬車は、白い幌が被せられた荷馬車だった。御者台には、意外な二人の姿があった。


「お、やっと来たか。待ちくたびれたぜ」


「あら? ティアちゃんはお見送り?」


ニカッと笑うゲオルグと、杖を軽く振ったセラフィナ。


「お二人は?」


「隣町まで護衛の依頼を受けた。婆さん一人じゃ心配だしな」


ベテラン討伐者のゲオルグが護衛に着くなら、これ以上頼もしいことはない。ティアは胸の内でほっと息をついた。


「乗るのを手伝うか?」


「あっ、私が手伝います」


御者台にいる二人より、すぐ動けるティアが手伝う方がいいだろうと思い、馬車の後方に回った。


その瞬間、ティアは息を呑んだ。


馬車の後方、幌を支える支柱の上方から、『モルン・ティーサロン』の看板が吊り下がっていたからだ。


「この看板は……?」


ティアは思わず呟いた。声が震えていた。


「がははっ、気づいちまったか! 隣町に移動するまで何度か休憩がある。その度、ルイーサの婆さんにお茶を振る舞ってもらおうと思ってな。臨時の喫茶店だ! 看板が荷物にあったから、勝手に付けさせてもらったぜ」


ゲオルグは豪快に笑ったが、その笑顔の奥には、ルイーサを思う優しさと、店への愛着が溢れていた。


ゲオルグの計らいが心に染みたのだろう。


馬車に乗り込んだルイーサは、ここ最近見られなかった満面の笑みを浮かべていた。目尻に涙を浮かべながらも、その笑顔は本当に幸せそうで、ティアの胸を熱くした。


(……ルイーサさん、笑ってる……。この旅が、彼女にとって新しい始まりになりますように)


不安を吹き飛ばすかのような、その笑い声に、ティアはルイーサに楽しい旅路が訪れる予感を強く感じた。


やがて馬車はゆっくりと走り出した。


石畳を叩く馬蹄の音と、車輪の軋む音が、朝の通りに響いていく。白い幌が風に揺れ、『モルン・ティーサロン』の看板が朝陽に輝きながら遠ざかっていく。

ティアは店の前で、馬車が角を曲がるまでじっと見送った。

風が頰を撫で、目頭が熱くなる。


(……さようなら。そして、本当にありがとう)


ルイーサの温もりが、まだ手に残っている気がした。

いつも読んでいただきありがとうございます!



誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。


とても助かっております。


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