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最弱テイマーは癒されたい ~頼れる仲間とコンカフェを作ったらイケメンが集まりました~  作者: 愛庵苦労


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第17話 最弱テイマーの癒しの店②

夕方、いつもの時間になると、エリオスが店にやってきた。


「こんばんは、ティア。何も問題はなかったかい?」


爽やかな笑顔を向けられるが、相変わらず距離が近い。整った顔を間近で見せつけられると、ティアの心臓は複雑なステップを刻む。


「こんばんは、エリオス。お店を受け継ぐことに決めたわ」


ティアは真剣な面持ちで答えた。

エリオスは一瞬目を丸くし、それから表情を綻ばせた。


「そうか……本気でそう思ってくれているんだね」


彼の声には安堵と喜びが混じっていた。


「詳しいことはルイーサ婆さんも交えて話そうか?」


「ええ、わかったわ」


ティアは一階にいた討伐者の彼に簡単に事情を伝え、エリオスと共に二階へ上がった。


「ルイーサさん、ご相談があります。お部屋に入ってもいいですか? エリオスも一緒です」


「ええ、どうぞ。入ってらして」


部屋の中から聞こえるルイーサの声は、思ったより明るかった。

扉を開けると、ベッドの上で上体を起こしたルイーサが、グレンを両手で優しく包み込むように握っていた。部屋に差し込む光をその身に受け、グレンは柔らかく赤い輝き放っている。


「婆さん、元気だったか?」


エリオスがベッドの傍らに近づき、優しく微笑みかけた。


「え、ええ。まあ……」


ルイーサの返事は少し歯切れが悪い。グレンを握る手が、わずかに強張っているのが見えた。


「何か困ってる?」


エリオスが優しく問うと、ルイーサは小さく息を吐いた。


「……やっぱり、常連のゲオルグさんならまだ我慢できたけど……知らない人に身体を預けるのは不安だわ。何日もというのは耐えきれないもの。それにずっとベッドの上というのもね……」


ルイーサの声は寂しげで、指先がグレンの体をそっと撫でていた。

ティアは胸が痛んだ。元気だった頃のルイーサを思い浮かべ、怪我が彼女の心に与えている負担の大きさを改めて感じた。

エリオスはルイーサの肩にそっと手を置き、ティアに視線を向けた。


「そうか……。それなら上級の治癒魔法を早く受けられるよう手続きをしよう。それには……ティア?」


彼の目が『お金の用意は?』と静かに語っていた。

ティアは小さく頷き、マーロに指示を出した。


「……マーロ、一袋だけお願い」


『……わかったよー』


マーロはぷるぷると震えると、収納から金貨の詰まった革袋をポンと吐き出した。ティアはそれをしっかり受け取り、ずっしりとした重みを感じた。

革袋の膨らみと奏でる音で、エリオスとルイーサは中身を推測した。


「これは一部ですが、討伐者支部に借金をして工面しました」


「えっ……!? そんな……借金までさせて……」


エリオスが申し訳なさそうに目を伏せる。


ルイーサも驚いた顔をしたが、ティアなりの考えを聞いていたルイーサはすぐに表情を和らげた。


「とにかく、お金の用意ができたのなら、これから総合ギルドに行って手続きを済ませよう。ティアに店を譲る、婆さんもそれでいいね?」


「……ええ。教会もお願いね」


ルイーサは小さく頷いた。


エリオスは委任状にルイーサのサインをもらい、ティアと共に部屋を出た。

一階に戻り、討伐者の彼に留守を頼むと、二人は夕暮れの街へと歩き出した。

その道すがら、エリオスが静かに話しかけてきた。


「本当は僕が借金をして店舗を買い取るつもりだったんだ。それでティアに少しずつお金を積み立ててもらって、ゆくゆくは店舗を譲り渡す計画だった。それなのに……ティアに借金をさせてまで……本当に申し訳ない」


エリオスは足を止め、深く頭を下げた。夕陽が彼の横顔を赤く染め、普段の爽やかさとは違う、深刻な表情が浮かんでいる。

ティアは慌てて首を横に振った。


「いいんですよ。実は……価値のある物を森で拾っていたから、討伐者支部が買い取ってくれたんです。ただ、すぐにはお金にならない物だったから、借金という形でお金だけ先にもらったんです。売れたら借金は無くなりますし、金利も手数料も発生しませんから」


ティアはできるだけ明るく微笑んだが、エリオスの視線が真剣すぎて、思わず目を逸らしてしまった。


(……こんなに真面目に心配してくれるなんて……距離が近いだけじゃなくて、心も近い人なんだな)


エリオスはほっとしたように息を吐き、柔らかい笑みを浮かべた。


「そうか……それなら良かったよ。僕もお金を工面するのに、勤め先に借入を申し出ていたんだ。よそで借りるより金利の交渉ができそうだし、給金から少しずつ返済もできるからね」


彼の言葉には、ルイーサへの本気の想いと、ティアを気遣う優しさが込められていた。

二人は並んで歩きながら、夕暮れの街を進んだ。石畳に長い影が伸び、街灯が一つずつ灯り始める中、エリオスの横顔が時折柔らかく照らされる。


やがて総合ギルドの重厚な建物が見えてきた。

二人で総合ギルドに入ると、夕暮れも近いこの時間帯は人の姿が疎らで、どこか寂しげな印象を受けた。昼間の喧騒が嘘のように静かで、足音がやけに大きく響く。


「手続きってどこに行けばいいのでしょう?」


異世界の役場のようなこの建物で勝手がわからず、ティアは戸惑いを隠せなかった。


「不動産に関する窓口はこっちだ」


エリオスは無造作にティアの手を引いた。


「ちょ、ちょっと……エリオス、手が……」


子供のように手を引かれ、気恥ずかしさに頰を染めるティアは小声で抗議した。しかしエリオスは振り返りもせず、軽く肩をすくめるだけだった。


「はぐれるといけない。ティアは場所がわからないでしょう?」


言い分はもっともなのに、その手はやけに自然で、ためらいがない。指先に伝わる体温が、妙に意識に残る。


「だからって、手……」


言いかけて、ティアは言葉を飲み込んだ。

――離してって言えば、すぐ離すくせに。

そう思うと、余計に言い出しにくくなる。

エリオスはちらりと横目でティアを見た。


「ん? 嫌だった?」


さらりとした問いに、心臓が一拍遅れる。


「……別に、そういうわけじゃないけど」


視線を逸らすと、彼は小さく笑った気配がした。


「じゃあ、このままで」


そう言って、ほんの少しだけ指に力がこもる。逃がさない、とでも言うように。

ティアは思わず足を止めそうになり、慌てて歩調を合わせた。


(なんなのよ、ほんとに……)


ギルドの喧騒が周囲に満ちているのに、そこだけ妙に距離が近い。仕事の案内のはずなのに、どこか違う意味を帯びていく気がして、ティアの頰はますます熱くなった。

エリオスは気にも留めず、受付の方を指さした。


「まずはあそこだ。登録と手続きを済ませる」


「……うん」


頷きながらも、ティアの意識はつないだ手に集中していた。離すきっかけを探しているのに、なぜか指が離れない。


窓口での手続きは意外に早く終わった。


総合ギルドで登録されている情報を基に、土地だけの契約を完了させたからだ。郊外のひっそりとした土地とは言え、庭付きでそれなりの広さがあるため、二千万チルを支払って締結した。


手数料と税金に一割、二百万チルがティアの負担に……。


建物に関しては、老朽化や嵐の影響で破損もあるため、査定をしなければ契約の仲介はできないと言われた。後日改めて査定と契約をすることになった。

総合ギルドを出たところで、エリオスはティアに微笑んだ。


「僕が教会へ行ってくるよ。上級の治癒術師は教会に所属している。ルイーサ婆さんの骨折なら最低限の一千万で大丈夫だと思う」


「ええ、お願いします」


エリオスはお金を持って教会へ向かい、ティアは一人で店へと戻る道を歩き始めた。

夕陽が長く影を伸ばす中、ティアはつないでいた手の感触を、まだ少し意識しながら静かに息を吐いた。

いつも読んでいただきありがとうございます!



誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。


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