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最弱テイマーは癒されたい ~頼れる仲間とコンカフェを作ったらイケメンが集まりました~  作者: 愛庵苦労


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第15話 最弱テイマーの受け継ぐもの⑤

ヴィクトルは解体場の鍵をガチャリと閉めると、三人で応接室に戻った。ティアは落ち着かない気持ちを抑えきれず、わずかな物音にさえ肩が跳ねてしまう。


「おっ? 来たか、入ってくれ!」


ヴィクトルが豪快に声をかけると、ギルド職員が重そうなカートを押しながら入室した。革袋がいくつも積まれ、ずっしりとした存在感を放っている。


ヴィクトルは革袋を無造作に掴むと、テーブルの上に次々と並べていった。重い音が響くたび、ティアの鼓動が大きくなる。


「これで二億チルある。確認してくれ。問題なければ貸し付けの契約書にサインしてくれ」


ヴィクトルは契約書をティアの前に滑らせ、にやりと笑った。


(二億……? 本当に……こんな大金が、私の目の前に……)


ティアの喉がカラカラに乾いた。最初は頭が真っ白になり、次に

「こんな金額、本当に自分のものになるのか」という現実的な不安が襲ってきた。指先が微かに震えるのを自覚しながらも、彼女は契約書の約款を一字一句、慎重に読み始めた。


その間、マーロが元気よく念話を飛ばした。


『……お金数えるのは任せて!』


マーロは触手を伸ばして革袋の紐をほどき、金貨を10枚ずつ積み上げ始めた。ヒョウカ、ジンライ、ホウジョの三体もポケットから飛び出し、愛らしい四体のスライムが真剣に金貨の塔を作り上げる光景は、異様でありながらどこか微笑ましかった。


「時間をかけるなぁ……そんなにじっくり見る討伐者は初めてだぜ」


ヴィクトルが呆れたように笑う。ティアは苦笑しながら答えた。


「……昔の癖で、契約書はしっかり読むようにしています」


ギルドに借金をする討伐者は多いのだろう。ロビーにいた武骨な男たちの姿を思い浮かべ、ティアは「宵越しの金を持たない」というイメージがしっくりきた。


問題がないことを何度も確認した後、ティアは深く息を吸って契約書にサインをした。一部をヴィクトルが引き取る。


「これで契約成立だな。適宜報告はさせてもらう、できるな?」


「もちろんです。ティアさん、総合ギルドの受け付けで確認できるよう手配しておきます」


クレシアが窓口の説明を続けると、ヴィクトルは満足げに大きく頷いた。


「ありがとうございます。マーロ、お金を預かってくれる?」


『……わかったよー!』


マーロは器用に触手を動かし、革袋の口を閉めると、しゅるんと金貨と契約書を体内に収納した。


「途中まで送りますよ」


クレシアに促され、ティアは応接室を出た。背中に残る緊張と、突然の巨額の重みを感じながら。


しかし、足取りは少し軽かった。


(……このお金があれば、ルイーサさんの治療にもちゃんと回せる……)


ティアは落ち着かない鼓動から意識を逸らした。


正面ロビーを経由して討伐者支部を出ようとしたとき、ティアの耳に若い男女の鋭い声が飛び込んできた。


「……あたし、もうあんたとやっていけない」


「好きにしろ」


短く、冷たい言葉の応酬。ティアは思わず足を止めた。

ヴィクトルが小走りで声の元に向かい、クレシアとティアも釣られるように後を追った。


そこには、三人の若い討伐者が立っていた。


強気な目をしたショートカットの女性と、穏やかそうな長い髪の女性、そしてその間に挟まれたように立っているもう一人の若い男性。空気は張りつめ、周辺の討伐者たちが遠巻きに好奇の視線を向けている。


「……ミア、待って……」


穏やかそうな長い髪の女性が慌てて手を伸ばすが、強気な目をしたショートカットの女性――ミアは振り返らない。背中はまっすぐで、しかし肩がわずかに強張っているのが見て取れた。


「エルナは……どうするの?」


問われて、穏やかそうな長い髪の女性――エルナは息を呑んだ。視線が激しく揺れ、ミアと男性の間を行き来する。


「……わ、私は……」


言葉が出てこない。胸が締めつけられるような沈黙が落ちた。

男性は目を逸らし、吐き捨てるように言った。


「無理すんな。行きたきゃ行け」


その一言で、何かが決まってしまった。


エルナは小さくうつむき、震える声で「……ごめんなさい」とだけ呟いた。そして、ゆっくりとミアの方へ一歩を踏み出す。


その瞬間、男性の表情が完全に凍りついた。


「……ああ、そうかよ」


ロビーのざわめきが一層大きくなった。


「解散か?」

「若手はすぐこれだな」

「ジョッキ片手にいい見世物だぜ」


周囲から野次と笑い声が飛び交う。誰ももう、三人を止めようとはしなかった。

どうやらパーティーが決裂した瞬間に、折悪く出くわしてしまったようだ。


「お前ら騒がしいぞ! ……何があった?」


ヴィクトルが低い声で場を収め、当事者たちに事情を聞き始めた。


ティアは少し離れた場所からその光景を見つめていた。胸の奥がざわつく。



ミアの背中は強がっているように見えるが、拳が小さく震えている。エルナは今にも消えてしまいそうなほど肩を落とし、俯いている。男性は苦々しい表情で目を逸らしたまま、唇を固く結んでいた。


(……あの二人、放っておけない……)


ティアは小さく息を吐き、ゆっくりと二人に近づいた。


「ねえ、ちょっといい?」


ミアが振り返る。警戒と苛立ちが混ざった鋭い視線がティアを射抜いた。


「……なに?」


刺々しい。けれど、それも無理はない。

ティアは肩をすくめ、やわらかく微笑んだ。


「そのまま帰るつもり? もったいないわよ」


「は?」


ミアの眉が寄る。エルナはびくりと肩を揺らし、ミアの後ろに半歩隠れた。


「見てたの?」


ミアの声が低くなる。


「ええ、まあ……全部じゃないけど」


ティアはあっさり認め、声を少し落とした。


「でも、あれだけ本音をぶつけられるの、ちょっと羨ましいと思うわ」


ミアは何も言わない。


ただ、その視線の棘が、ほんの少しだけ和らいだ気がした。

ティアはタイミングを見計らい、静かに本題を切り出した。


「で、本題だけど……あなたたち、今フリーよね?」


「……は?」


ミアが怪訝そうに目を細める。


「パーティー、解散したでしょ?」


その言葉に、エルナの肩がびくりと震えた。

ミアは一瞬言葉に詰まり、それから顔をしかめた。


「だから何?」


「仕事、紹介しようかと思って」


沈黙が落ちる。


「……討伐?」


ミアが訝しげに問う。


「違う違う」


ティアはくすりと笑い、指をひらひらさせた。


「もっと平和で、もっと……稼げるかどうかはこれからだけど」


ミアの眉がさらに寄る。エルナは不安そうに視線を泳がせている。


「『モルン・ティーサロン』って知ってる?」


「……は?」


「そこを買い取ることになって、癒しを売るお店を作ろうと思ってるの。疲れたお客さんが来て、甘いものを食べて、温かいお茶を飲んで、少しおしゃべりして……心を休められる場所にしたいの」


ティアは声をやわらげ、二人を交互に見つめた。


「あなたたちみたいな若い子、すごく需要があると思うの。元気な子と、ちょっと大人しい子——バランスもいいし」


ミアが呆れたように息を吐く。


「……あたしたちに給仕しろって?」


「ただの給仕じゃないわ」


ティアは一歩近づき、真剣な眼差しを向けた。


「人を癒す仕事。立派な役目よ」


ミアはキッと鋭い目を向ける。


「それって……いやらしい仕事じゃないでしょうね?」


エルナが小さく顔を上げる。

ティアは首を横に振った。


「いや、でも……私たち、討伐者で……」


その声は自信がなく、揺れていた。


「だった、でしょ?」


ティアは静かに、しかし優しく言った。


「さっきので、一区切りついたように見えたけど」


ミアは何か言い返そうとして、言葉を飲み込んだ。拳がわずかに震えている。


――強い子。でも、今は無理してる。


「別に一生やれとは言わないわ」


ティアは声をさらにやわらげた。


「ちょっと休むのも大事でしょ?」


エルナの視線が揺れる。


「……お金も、悪くないし」


ティアはさらりと付け足す。


ミアがちらりとエルナを見る。

エルナは少し迷って、それからこくりと頷いた。


「……うん」


その表情はまだ不安げだったが、先ほどよりはほんの少しだけ色が戻っていた。


「じゃあ決まりね」


ティアはにっこりと笑った。


「歓迎するわ。名前はまだないけど、私のお店へ」


二人の少女を見つめながら、ティアは胸の内で静かにほくそ笑んだ。


(……従業員をゲットしたわ!)


この世界に来る前から考えていた構想——「癒されたい」という願いを、現実のものにする時が、思ったより早く訪れようとしていた。









こんな騒ぎがあったら真っ先に仲裁に走りそうなゲオルグを見かけたが、介護疲れがあったのか酔い潰れていた。

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