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最弱テイマーは癒されたい ~頼れる仲間とコンカフェを作ったらイケメンが集まりました~  作者: 愛庵苦労


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第14話 最弱テイマーの受け継ぐもの④

クレシアが討伐者支部の重厚な扉を開けると、そこにはティアがWeb小説で何度も見た「冒険者ギルド」の光景が広がっていた。


酒の匂いと汗の臭いが混じり合い、鎧が擦れる金属音や笑い声、怒声が飛び交う喧騒。壁には魔物の剥製や傷だらけの盾が飾られ、床には泥と血の跡が薄く残っている。

ただ、酔っ払いの中にゲオルグの姿を見つけた瞬間、ティアは思わず目を剥いた。

お店を出た時はまだ眠そうな顔をしていたのに、今はすでにジョッキを傾け、豪快に笑っている。


(……切り替え、早すぎませんか?)


「いらっしゃいませ~、討伐者支部にようこそ~……って、なんだクレシアか。指導員の紹介~?」


受付の女性が最初は明るい営業スマイルで迎えたが、クレシアの顔を認めると声のトーンが一オクターブ下がった。媚びを売って損をした、という残念な表情が丸わかりだった。


「支部長に急ぎのお客さんよ。応接室で待つから連れてきて」


「はいはーい」


クレシアは同僚に気さくに指示を飛ばし、ティアの手を引いて奥へ進んだ。ロビーにたむろする討伐者たちから、不躾で好奇心たっぷりの視線が突き刺さってくる。ティアは肩をすくめ、なるべく小さくなろうとした。


「それじゃあ、ティアさんはこちらに……」


「は、はい」


応接室に案内され、ソファーに座った途端、ティアはようやく大きく息を吐いた。緊張で背中が汗ばんでいる。


「さっきの……指導員の紹介って、何ですか?」


クレシアは苦笑しながら説明を始めた。


「街中の雑用仕事から本格的な討伐依頼にシフトする人は、先輩討伐者について戦い方……というか、生き残り方を学ぶの。ただ、連れ歩くだけで『見て覚えろ』ってタイプも多いから、成長度は指導者次第ね」


「それは……先輩の負担も大きいし、運任せな部分が大きいんですね」


「そうなのよね」


二人がそんな話をしていると、突然扉がノックされ、勢いよく開かれた。


「待たせたな、クレシア。そっちが例の客か」


入ってきたのは、目尻に深い皺を刻んだ壮年の男だった。油断のない鋭い眼光、無精ひげ、短く刈った髪に白いものが混じり、歴戦の討伐者らしい重厚な風格を全身から漂わせている。


「俺は支部長のヴィクトルだ。よろしくな」


ヴィクトルはそう言いながら、対面のソファーにどっかりと腰を下ろした。その動き一つでソファーが軋み、ティアは思わず背筋を伸ばした。


「支部長、こちらは星一討伐者のティアさんです」


「ティアです。よろしくお願いします」


「ほう……彼女が例のドラゴンスケイルを——」


「説明の途中で口を挟まないでください。在庫はまだお持ちですので、そのオークションに追加したいそうです」


クレシアが素早く釘を刺すと、ヴィクトルは豪快に笑った。


「そうか。オークションが賑わうのは大歓迎だ。いくつでも受け付けるぞ。それで具体的に在庫はいくつある?」


予想はしていたが、その質問にティアは困り果てた。


(……どう答えよう。ドラゴン一匹丸ごとなんだから、尋常じゃない数になるはず……正直に全部話すべき? それともぼかした方がいい? でも、支部長の目……誤魔化せそうな雰囲気じゃない……)


ティアは観念し、すべてを説明することにした。

森で倒れていたドラゴン、マーロたちとの出会い、ホウジョの力、ルイーサの怪我、そして『モルン・ティーサロン』での出来事——。


話を聞き終えたヴィクトルは、膝を勢いよく打った。


「よし、話は分かった! まずは元手ドラゴンスケイルの確認だ。場所を変えるぞ」


そう言うや否や、ヴィクトルは席を立ち、応接室の扉を荒々しく開けて颯爽と出て行った。


「……はぁ、先走り過ぎですね。ティアさん、行きましょう。おそらく解体場にいるはずです」


「は、はぁ……」


ティアは突然の展開に呆然としながらも、クレシアに促されるまま立ち上がった。


(……この支部長、かなり強引な人みたい……)


解体場に辿り着くと、ヴィクトルが胸の前で腕を組んでどっしりと仁王立ちしていた。

広い空間は学校の体育館ほどもあり、梁からは血抜き用の滑車がいくつも吊り下がっている。床や壁には赤黒い血の染みが無数に飛び散り、鉄と腐敗の混じった重い臭いが鼻を突いた。その中に立つヴィクトルの姿は、まるでそこにいるべき人間のように妙に様になっていた。


「やっと来たか! この辺りに出してくれ」


「マーロ、ドラゴンスケイルだけ出して、お願い」


『……鱗だけだね~、りょうかーい』


肩に乗っていた小さなマーロがぽよんぽよんと跳ねて広いスペースに移動し、ドラゴンスケイルを一枚、また一枚と吐き出していく。手のひらサイズのスライムが、次々と手のひらより大きな鱗を産み出す光景は、目を疑うほど異様だった。


ヴィクトルは目を細めた。


「収納能力か……そんな能力を持つスライムなんて初めて見るな……。たしかスライムテイマーだったな? ティア……いちおうステータスを確認させてもらってもいいか?」


「あ、はい」


さっきクレシアから「赤くなる」と聞かされたばかりのティアは、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。後ろめたいことが全くないわけではない。心臓が早鐘のように鳴る。


「す、ステータスオープン!」


淡い青白い画面が展開され、赤く染まることはなかった。ティアはようやく肩の力を抜いた。


「チッ……フルオープンしなかったか」


ヴィクトルの小さな舌打ちを聞き、ティアは愕然とした。


(……今の、引っかけ、だったの……?)


「ああ、間違いなく固有スキルはスライムテイマーと表示されているな。となると……変異スライムの固有能力だな」


クレシアもティアのステータス画面を覗き込みながら、感心したように頷いた。


その間もマーロは、ぷるぷると体を震わせながら次々とドラゴンスケイルを吐き出していた。カウンターの上に積み上がっていく鱗の山は淡く光り、まるで小さな宝石の山のようだった。


「……多いな。数えるための頭数を無理やり増やしてもな……、ドラゴンスケイルの情報が漏洩しそうだ。仕方ない、この三人で数えるか」


支部長のヴィクトルは頰を引きつらせながら、呆れたように頭を掻いた。豪快な性格の彼ですら、積み上がる鱗の量に圧倒されているのが明らかだった。


時間はかかったが、ようやく集計が終わった。ティアは指を動かしながら計算を手伝い、肩が凝るのを感じていた。


「ふぅ……全部で1,124枚か」


ヴィクトルは大きく息を吐きつつ集計結果を復唱した。


「いいえ。先に登録した一枚も加えると1,125枚になります」


「一枚でも結構な値が付いたな、確か……」


「30万チルはくだりません」


クレシアは流れるように明確に答えた。


(……30万チル? 一枚で?)


「ってことは……総額でいくらになる?」


ヴィクトルの問いかけにクレシアは間髪入れず答えた。


「337,500,000チルになります」


クレシアの計算の速さにティアは目を見開いた。


(……三億を超える……?)


ティアは慌てて頭の中で計算を始めた。一番左の数字だけ計算しゼロを付け足していくと、途方もない金額が弾き出された。最初は驚きで頭が真っ白になり、次に「こんな大金、本当に自分のものになるのか」という現実的な不安が襲ってきた。しかしすぐに、ルイーサの治療費や今後の生活のことを思い浮かべ、胸の奥が熱くなった。


「それなら二億をティアに貸し付ける!」


ヴィクトルが豪快に胸を叩き、大きな声で宣言した。


「えぇーーーっ!? また借金ですか!」


ティアの声が裏返った。突然の巨額に頭が追いつかず、思わず素の声が出てしまった。


「またって……なんだ、借金しているのか?」


「ドラゴンスケイルを担保に、ティアさんには10万チルの貸し付けを行いました」


ヴィクトルの問いに答えたのはクレシアだった。

……秘書みたい。


「返す当てがあるなら別にいいんじゃないか? つーか、これだけの高額。うち(討伐者支部)も一括での買い取りは無理だ。一度に市場に流せば相場も崩れるしな。だからうちで預かって、小出しにして捌く。その売り上げから借金は相殺してやる。高く売り捌いてやるから安心しろ」


ヴィクトルは豪快に笑いながら、ティアの肩を軽く叩いた。


「でも……金利とかありますよね?」


二億という途方もない金額の金利を想像しただけで、ティアの背中に冷たい汗が流れた。現実的な不安が、一気に頭をよぎる。


「支払いができないのは討伐者支部の都合ですから、ティアさんの負担が増えないように処理します。ですよね、支部長?」


「ああ、金利手数料ゼロだ! 安心しろ、嬢ちゃん。俺がちゃんと面倒を見てやる!」


ヴィクトルは胸を張って力強く言い切り、豪快に笑った。

ティアはまだ現実感が掴めずに呆然としながらも、ふとルイーサの顔を思い浮かべた。


(……このお金があれば、ルイーサさんの治療にもちゃんと回せる……)


突然の幸運に胸が高鳴る一方で、巨額の富がもたらすかもしれない波乱を、ティアはぼんやりと予感していた。

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