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死にたがりのミランダ  作者: 宝月 蓮
子供時代編

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壁になりたい

 魔法薬学研究所にある薬草栽培室にて。

「この薬草、図鑑では見たことがありましたが実物を見るのは初めてですわ」

 オリヴィアは紫の目を輝かせなら目の前の薬草に夢中になっている。

「ああ、この薬草は中々珍しいからな。有用な成分を抽出して魔力と掛け合わせると回復薬になる」

 ルシアンはオリヴィアに対してフッと口角を緩めていた。


 現在オリヴィアとルシアンは。薬草栽培室を見学しているのだ。


「各魔力に対応出来るのが大変興味深いですわ。それ(ゆえ)に、万能な薬草と言われているとか」

「その通りだ。オリヴィア嬢は薬草に精通しているようだな」

「いえいえそんな、少し薬草図鑑を見ただけですわ」

 ルシアンの言葉に、オリヴィアは少しだけ恐縮したように微笑んでいた。


「オリヴィアお義姉(ねえ)様とヒーローのルシアンのやり取り……! 至福の時だわ……! ああ、私は壁になりたい……!」

 ミランダは影からオリヴィアとルシアンの様子をうっとりとニヤけながら眺めていた。

「ミランダ、お前また変なこと言ってるな。それに、また気持ち悪い表情になってるぞ……」

 ブライアンはその横で呆れたようにため息をつく。

 ミランダはブライアンの言葉など気にせず、陰から夢中でオリヴィアとルシアンのやり取りを見ている。

(ああ、オリヴィアお義姉様が麗しい……! それに、冷酷公爵ルシアンもまだ冷酷ではなく優しい雰囲気……! 最高だわ……! 見ているこっちまで何だか幸せな気分……!)

 ニマニマと夢中になっているミランダ。


「うわっ!」

「おい、大丈夫か?」

 しかし、妙な体勢になっていたせいで、ミランダはバランスを崩してしまった。

 それを支えるブライアンである。

「……ありがとう、ブライアン」

 八歳のミランダと九歳のブライアン。体格差が開き始めている。

 ミランダは思わずドキッとしてしまった。


「ミランダ? ブライアン様も」

 オリヴィアのきょとんとした表情がミランダとブライアンに向けられる。


 先程ミランダが体勢を崩したことで、オリヴィアとルシアンも二人の存在に気付いたようだ。


「君が言っていた義妹(いもうと)というのは、彼女のことか?」

「ええ。この子が義妹のミランダです。彼女の隣にいるのは、ソイル侯爵家次男のブライアン様ですわ」

 オリヴィアは柔らかな表情を浮かべていた。

「初めまして。ブライアン・ソイルと申します」

 ピシッとした挨拶のブライアン。所作も洗練されている。

(ブライアン、普通に貴族らしい挨拶出来るのね……。流石は侯爵家)

 ミランダは真紅の目を丸くする。

 いつも砕けた態度しか見たことがないミランダにとって意外だったのだ。

 ふと気が付くと、皆の視線がミランダに向いていた。

(あ、私も自己紹介がまだだったわね)

 ミランダはそこでルシアンに自己紹介をしていなかったことに気付いた。

「初めまして。ミランダ・エードラムと申します。オリヴィアお義姉様の義妹です」

 ミランダはエードラム伯爵家で家庭教師から習った通りの所作でルシアンに自己紹介をした。

「ルシアン・プラーミアだ。よろしく頼む」

 ルシアンはフッと口角を上げる。

(おお、流石は公爵家。王家に次ぐ家柄だわ。オリヴィアお義姉様も見惚れてしまうくらい洗練されている所作だけど、こっちも洗練されているわね)

 ミランダは思わずルシアンの所作に魅入っていた。

「流石はオリヴィアお義姉様の相手」

 つい、そうポツリと呟いていた。

(わたくし)の相手……?」

「オリヴィア嬢の相手……とは?」

 ミランダの呟きはオリヴィアとルシアンに聞こえていたようだ。二人揃ってきょとんと不思議そうに首を傾げている。

「あ……!」

 ミランダはハッとする。

 前世や『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』の話をするわけにもいかない。

「あ、すみません。彼女、よく変なことを言うんで、あんまり気にしないでください」

 ブライアンは苦笑しながらミランダのフォローをしてくれた。

 フォローになっているのかは不明だが。


 その後、ミランダ達は四人で薬草栽培室を見学する。

「ミランダ、この薬草は図鑑で見たものよね」

「ええ。確か、水の魔力を強化させる効果がありましたよね? 私はオリヴィアお義姉様と違って記憶力には自信がないのですが」

 ミランダはエードラム伯爵家の屋敷で見た図鑑を思い出しながら答えた。

 自分の記憶に少し自信が持てないミランダである。

「ミランダ、水の魔力で合っているわ。そんなに卑下しなくても」

 オリヴィアはそんなミランダに優しい笑みを向けた。

 その笑みを見るだけで、ミランダの心には温かく幸せな気持ちが広がる。

「いいえ、私はオリヴィアお義姉様には敵いませんから」

 ミランダは思わずオリヴィアから目を逸らした。

(オリヴィアお義姉様の優しい笑顔、ずっと見ていたいけれど幸せ過ぎて怖くなるわ。私がこの幸せを享受して良いのかしら……?)

 ミランダは口を固く結んだ。


「本当に姉妹仲が良いようだな。私には兄弟がいないから少し羨ましい」

 ルシアンはミランダとオリヴィアのやり取りを見て穏やかな表情である。

(そういえば、『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』でも一人っ子だったルシアン様は兄弟に憧れていたわね。……オリヴィアお義姉様が義妹ミランダ()から受けた仕打ちは決して許しはしなかったけど)

 ミランダは原作情報を思い出していた。

「兄が優秀だと、弟としては少し焦りますよ」

 ブライアンはルシアンに対して苦笑する。

(ブライアンはソイル侯爵家の次男だったわね。『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』では確かに優秀な兄と比べられてストレスを抱えていたわ。そのストレスをオリヴィアお義姉様にぶつけていたのだけれど、今のブライアンからはそんな気配を感じない。それに、ブライアンはさっきの子供向け魔法薬学の講座でも、分からない部分を理解しようと努力していたわ)

 ミランダはブライアンを見ながら色々と考えていた。

「ん? ミランダ、どうかしたか?」

 ブライアンはミランダからの視線に気付いたようだ。

「何でもないわよ……!」

 ミランダはハッとしてブライアンから目を逸らす。

「何だよ、変な奴」

 呆れたように笑うブライアン。いつもの彼である。


 その後、ミランダ達はルシアンと打ち解け、魔法薬学研究所では四人で過ごすことが増えたのであった。

 オリヴィアとルシアンの接点が増え、ニマニマと満足げに笑うミランダである。

読んでくださりありがとうございます!

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