オリヴィアとルシアンをくっつける作戦開始
ミランダは子供向け魔法薬学講座が開催されている部屋で、冷酷公爵(今はまだ公爵令息)ルシアンを見つけた。
(冷酷公爵ルシアンの隣の席が空いているわ! オリヴィアお義姉様にはそこに座ってもらいましょう! それに、冷酷公爵ルシアンの後ろの席は二席空いているわ! 丁度良いわね!)
早速オリヴィアとルシアンをくっつけようとミランダは画策していた。
「オリヴィアお義姉様、私、オリヴィアお義姉様の後ろに座りたいです」
「え……? 別に良いけれど……」
オリヴィアはミランダの隣に座るつもりだったので、少し困惑していた。
(これでオリヴィアお義姉様はルシアンの隣に座ることになるわ)
ミランダはニヤリと笑う。
「お前、何でオリヴィア嬢の隣に座らないんだ?」
ミランダの隣に座ったブライアンは訝しげである。
「まあ良いじゃない」
ミランダはニヤけたままである。
「あの、お隣失礼いたします」
オリヴィアはルシアンに声をかける。
「ああ」
ルシアンはフッと笑い、オリヴィアを受け入れたようだ。
「君はこの講座が初めてのようだな」
「はい。元々魔法薬学に興味があったので、とても楽しみですの」
「そうか。私はルシアン・プラーミアだ」
「自己紹介が遅れて失礼いたしました。私はオリヴィア・エードラムでございます」
軽く会話をするオリヴィアとルシアン。
そんな二人をミランダは後ろでニヤけながら見守っている。
(オリヴィアお義姉様とルシアンが並んだ姿……眼福……!)
「ミランダ、気持ち悪い表情になってるぞ」
ブライアンはそんなミランダを見て呆れたような表情である。
子供向け魔法薬学講座が始まると、ミランダはニヤけた顔から一変し真面目な表情になる。
講師の説明をきちんとノートに取り、ミランダは魔法薬学の理論を理解しようとしていた。
途中、チラリと前に座っているオリヴィアとルシアンの様子を見る。
(オリヴィアお義姉様もルシアンも、講義中は特に何もやり取りはしないのね。まあ、初対面だし講義中だから当たり前よね)
ミランダはフッと口角を緩め、再びノートに講師からの説明を書いていた。
☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨
講座が終わり、ミランダがふと隣を見ると、ブライアンが難しい表情で魔法薬学の本やノートと睨めっこしていた。
「ブライアン、分からないところがあるの?」
「……ああ。それに……どこが分からないかすら分からない……」
「何よそれ。理解出来る部分は一つもないわけ?」
ミランダは少し呆れながら苦笑した。
「いや、本に書いてあるこの部分だけは理解出来た」
「どれどれ?」
ミランダはブライアンに示された部分を読む。
「多分ブライアン、この部分でつまずいているんじゃない?」
「……そうかもな」
「私、分かるから教えてあげるわ」
「ああ、頼む」
ミランダはブライアンに講座で教わったことを噛み砕いて説明した。
(人に教えると自分の勉強になるって前世でも言われたことがあるけれど、こういうことなのね。より頭が整理される感じがするわ)
ブライアンに説明しながら、自分の理解も深まるミランダだった。
「なるほど……。何か分かった気がする」
ブライアンは納得したように黄色の目を見開いていた。
「なら、良かったわ」
ミランダは口元を緩めた。
「ミランダ、ありがとう。お前教えるの上手だな」
「……そうかしら?」
ブライアンから真っ直ぐ向けられる黄色の目に、ミランダは思わずたじろいでしまう。
(そういえば、異性から褒められたことって前世ではなかった気がする。父からも罵倒されるばかりだったし……)
ミランダは表情を曇らせる。
『お前は価値のない出来損ないの人間だ!』
『お前さえ生まれて来なければ……!』
前世で実父から言われ続けた言葉が心にずっとこびりついている。
(ブライアンからの褒め言葉は……喜んで良いのよね……?)
ミランダは自信が持てなかった。
「ミランダ? どうしたんだ?」
ブライアンの声にハッと我に返る。
「……いいえ、何でもないわ」
ミランダはクスッと笑った。
「そうだ、オリヴィアお義姉様は……」
ミランダは前の席のオリヴィアに目を向ける。
しかし、オリヴィアは席にいなかった。
「オリヴィアお義姉様!? それに冷酷公爵ルシアンもいないわ!」
オリヴィアだけでなくルシアンの不在にも驚くミランダ。
「何だよ? 冷酷公爵ルシアンって」
ブライアンは呆れたようにミランダを見ている。
「と言うか、よく見てみろ。オリヴィア嬢からのメッセージが置いてあるぞ」
ブライアンはミランダの席に置いてあったメモを示す。
《ルシアン様と研究所内の薬草栽培室を見学するわね》
「オリヴィアお義姉様と冷酷公爵ルシアンが一緒にいる……! これは見に行かないと!」
ミランダは真紅の目を輝かせて興奮していた。
「さっきから何だよ? 冷酷公爵ルシアンって。プラーミア公爵令息だろう? もしかして前に言ってた前世とかライトノベルとかいう物語のことか?」
「ええ、そうよ! オリヴィアお義姉様は冷酷公爵ルシアンと結婚して幸せになるのだから!」
ミランダの行動原理はオリヴィアが幸せになることである。
「ミランダ、お前、前世とかその物語とかに囚われ過ぎてないか? オリヴィア嬢がそのルシアン様を好きになるとは限らないだろう。もしオリヴィア嬢がルシアン様以外を好きになってその人と結婚したいってなったらどうするんだよ?」
「それは……」
ミランダは答えに詰まってしまう。
そこまでは考えていなかったのだ。
(ああ、やっぱりミランダって目先のことしか考えていない。短絡的だわ……)
ミランダはため息をつく。
「私は……オリヴィアお義姉様に幸せになって欲しい。もしもオリヴィアお義姉様が他の人を好きになった場合は、無理に冷酷公爵ルシアンとくっつけようとはしないわ。オリヴィアお義姉様の幸せが一番なのだから。物語通りでなくても良いわ」
それは紛れもなくミランダの本心だ。
ルシアンとくっつかなくても、オリヴィアが幸せであるならばそれで構わない。
「そうか」
ミランダの答えを聞き、ルシアンは安心したように表情を和らげた。
「私、物語に囚われてブライアンにも酷いことを言ったわ。努力嫌いで怠惰で楽な方に流されとか、クズだとか……」
申し訳なく思ったミランダは肩を落とす。
「別に気にしてない。努力嫌いで怠惰で楽な方に流されるクズ……確かに事実だからな」
ブライアンは自嘲した。
「いいえ。もしそうならば、この講座で言われたことを理解しようとするしていないはずよ。でもブライアン、貴方は理解しようと努力していたわ」
ミランダは真紅の目を真っ直ぐブライアンに向ける。
するとブライアンは頬を赤く染め、黄色の目をミランダから逸らした。
「……そうかよ」
ブライアンの表情は、どこが嬉しそうだった。
「ああでも、やっぱりオリヴィアお義姉様と冷酷公爵ルシアン、推しカプを見たい気持ちは抑えられないわ! ブライアン、オリヴィアお義姉様達の所へ行くわよ!」
ミランダは真紅の目を輝かせる。
「……ミランダ、お前やっぱり相変わらずじゃないか」
ブライアンは苦笑しつつもどこか楽しそうだった。
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