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死にたがりのミランダ  作者: 宝月 蓮
子供時代編

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7/34

盛大に原作クラッシュさせてしまったので

 オリヴィアと共にエードラム伯爵家での新しい生活が始まったミランダ。

 ミランダはミランダ・ヴォルケ改めミランダ・エードラム、オリヴィアもオリヴィア・ヴォルケ改めオリヴィア・エードラムとなった。

 初めての淑女教育に四苦八苦しながらも礼儀礼節を身に付けようとするミランダである。


(カーテシーって、前世で読んだライトノベルや漫画ではよく見たけれど、実際にやるとなるとこんなにキツいの……!?)

 マナーのレッスンの最中、ミランダはカーテシーの体勢を取っていたがプルプルと震えている。

 横にいるオリヴィアにチラリと目を向けると、寸分の狂いもないカーテシーをしていた。

(流石はオリヴィアお義姉(ねえ)様だわ……!)

 うっとりと真紅の目を細めるミランダ。


「うわっ!」

 オリヴィアに気を取られ、ミランダはよろけてしまう。

「ミランダ様、体幹はもっとしっかりと! やり直し!」

「はい! 申し訳ございません!」


 エードラム伯爵家に来ている家庭教師はタフマ王国屈指の厳しさを持つ女性だ。

 しかし、彼女から礼儀礼節などを教わった者は王族並みの所作を身に付けている。


(先生は厳しいけれど、言っていることは正しいし、出来るようになればきちんと褒めてくださるのよね)

 家庭教師は飴と鞭の使い分けが上手なようで、ミランダもやる気を出していた。

(それに、出来なくて怒られたとしても、前世の父親みたいに人格否定をすることは絶対にない。だから傷付くことがないのよね。どこを直すべきか、どこが良かったかもきちんと分かりやすく教えてくださるし。……先生から色々と学ぶことは、何だか楽しい)

 ミランダは学ぶ楽しさを感じていた。


「ミランダ、どんどん良くなっているわよ」

「オリヴィアお義姉様、ありがとうございます」

 レッスンが終わり家庭教師が帰った後、ミランダはオリヴィアに褒められてパアッと表情を明るくする。

(オリヴィアお義姉様から褒められた……! ああ、幸せ……! 幸せ過ぎて死にそう……!)

 エードラム伯爵家でオリヴィアと過ごす日々は、ミランダにとって天国のようだった。






☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨







(さて、どうやってオリヴィアお義姉様とヒーローである冷酷公爵ルシアン・プラーミアを引き合わせようかしら? 私が両親(ゴミ屑共)を排除したことで盛大に原作クラッシュさせてしまったのよね……)


 ミランダが前世で夢中になっていたライトノベル、『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』の物語開始はオリヴィアが十八歳になり貴族学園を卒業した年。オリヴィアは長年義妹(いもうと)ミランダ、ヴォルケ伯爵、ミランダの実母に虐げられていた。物語開始時に冷酷公爵ルシアン・プラーミアの元へオリヴィアを嫁がせたことも、嫌がらせの一種であった。しかし、その虐げられるシナリオが今完全になくなったのだ。


(オリヴィアお義姉様と冷酷公爵ルシアン……原作では趣味が同じだったわ。二人共、薬学に興味があったわね)

 ゆっくりと原作情報を思い出すミランダ。

 思い出した情報をノートにまとめている。もちろん、誰かに読まれても問題がないように日本語でだ。この世界の人間は日本で使われている文字が読めないのである。


(魔法薬学研究所……!)

 ミランダはハッと真紅の目を見開く。

(冷酷公爵ルシアンは、子供時代に魔法薬学研究所に通っていたわ! 彼は領地経営をしながら魔法薬学の研究をすることを将来の目標としていた。でも原作では両親が殺されて僅か十四歳でプラーミア公爵家を継ぐことになって大変だった。魔法薬学の研究をする時間がなかったのよね。だけど、オリヴィアお義姉様と政略結婚して、オリヴィアお義姉様が光の魔力に目覚めた後は、少しずつオリヴィアお義姉様と魔法薬学に関する議論をしていたわ)

 ミランダはルシアンについての情報をまとめる。


(オリヴィアお義姉様には、魔法薬学研究所に通ってもらいましょう。まだ魔力が開花していない子供でも、魔法薬学研究所には入れるはず。子供向けの魔法薬学講座も開催しているそうだし。そうしたら、オリヴィアお義姉様と冷酷公爵ルシアンが出会えるわ。あ、冷酷公爵ルシアンはオリヴィアお義姉様より二歳年上で、確か今十一歳よね。だとしたら冷酷公爵ルシアンの両親もまだ生きているはず。……もしプラーミア公爵夫妻が殺されることを防げたら……)

 ミランダは色々と考えを巡らせていた。

(とにかく、オリヴィアお義姉様と一緒に魔法薬学研究所に行きましょう!)






☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨






 数日後。

 ミランダとオリヴィアはタフマ王国の魔法薬学研究所に来ていた。


「まあ……! ここが魔法薬学研究所……! (わたくし)、ずっと行ってみたいと思っていたのよね。まさか魔力開花前に来られるなんて……!」

 オリヴィアは紫の目を輝かせながら研究所を見て回っている。その目はまるで本物のアメジストのようだ。

 元々薬草や魔法薬学に興味があったオリヴィアにとって、王国最先端の魔法薬学技術を見ることが出来るこの研究所は夢のような世界だろう。


(オリヴィアお義姉様……可憐で可愛らしいわ……!)

 ミランダはオリヴィアの反応をうっとりと眺めていた。

「ミランダ、気持ち悪い顔になってるぞ」

 そんなミランダを見て呆れ気味に苦笑するのはブライアン。

 ミランダはブライアンの言葉に現実に引き戻され、ムスッとした表情になる。

 ブライアンもミランダ達と一緒に魔法薬学研究所に来ていたのだ。

「どうしてブライアンまでいるのよ? あんた、魔法薬学にあんまり興味ないでしょう」

「それは……お前が……」

 ブライアンはミランダから目を逸らし、頬を赤く染めた。

「私が何よ?」

「お前の監視だ! お前が魔法薬学研究所で何かやらかさないように!」

「はあ!? 何よそれ!? ブライアンよりはやらかさないわよ!」

「ミランダ、本当にブライアン様と仲が良いわね。(わたくし)にも、そんな風に遠慮なく来てくれても構わないのに」

 ミランダとブライアンのいつもの口喧嘩の様子を見たオリヴィアは、クスクスと笑っていた。

「オリヴィアお義姉様、誤解です。ブライアンとは全然仲良くなんかありません。それに、私にとってオリヴィアお義姉様は女神そのものなのですから」

(わたくし)を女神だなんて、そう評価するのはきっとミランダだけよ。ありがとう」

「そんな、オリヴィアお義姉様は究極の存在ですのに」

「……オリヴィア嬢も毎日大変そうだ」

 ミランダとオリヴィアのやり取りを見たブライアンは苦笑してボソッと呟いた。


 ミランダ、オリヴィア、ブライアンの三人はこの日初めて魔法薬学研究所にやって来たので、初心者講座を受けてから子供向け魔法薬学講座を受けることになる。

 講師を務める研究員からの説明は分かりやすく、内容がスラスラとミランダの頭に入って来た。

(魔法薬学……面白い……!)

 講師が教えてくれたことをノートに書くミランダ。気が付けばミランダは講座に夢中になっていた。

(魔法薬学の理論、前世の現代日本の薬学や化学にも通じていて本当に面白いわ!)

 ミランダは真紅の目をルビーのように輝かせた。

(私……前世では薬学とか化学系とか……理系に進みたかったのよね……)

 ミランダは前世、大学の理系学部は一限から五限まで授業で埋まっているだけでなく、学費も高いからという理由で父から理系学部に進学することどころか文理選択で理系を選ぶことすら反対されていたのだ。


「全員、初心者向けの基礎は理解されたようですね」

 講師からそう言われたミランダ達。

 無事に子供向け魔法薬学講座を受けることが出来るようになったのだ。

「……ミランダがあんなに質問にスラスラ答えられるなんて意外だ」

 ブライアンは悔しそうな表情だ。

 彼はいくつかつまずく部分があったらしい。

「そりゃあ、努力が嫌いで楽な方に逃げるブライアンとは違うのよ」

 ミランダはしたり顔だ。

「お前なあ……」

 ブライアンはムッとして肘で軽くミランダを小突く。

 オリヴィアは二人のやり取りを見守るかのように微笑んでいた。


 子供向け魔法薬学講座が開催される部屋には、既に複数人の貴族子女がいた。

 ミランダはその中の一人に注目する。


 漆黒の髪に、ガーネットを彷彿とさせる緋色の目。その顔立ちは、まるで精巧な彫刻のようである。


(冷酷公爵ルシアン・プラーミアだわ……! 今はまだ公爵令息だけど、やっぱり子供の頃から美形ね。是非オリヴィアお義姉様の隣に並んでもらいたいわ)

 ミランダはオリヴィアとルシアンで色々と妄想し、口角を緩めていた。

読んでくださりありがとうございます!

少しでも「面白い!」「続きが読みたい!」と思った方は、是非ブックマークと高評価をしていただけたら嬉しいです!

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