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死にたがりのミランダ  作者: 宝月 蓮
子供時代編

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予想外の展開

(どうしよう……? まさかこんなことになるとは思わなかったわ……)

 ヴォルケ伯爵とミランダの実母が逮捕された後、ミランダにとって予想外のことが起こった。


 それはヴォルケ伯爵とミランダの実母が逮捕された数日後、ヴォルケ伯爵家の庭園でのこと。

「ミランダ、(わたくし)と一緒にお祖父(じい)様とお祖母(ばあ)様の所に行きましょう」

 オリヴィアは優しい笑みでミランダを誘う。

 オリヴィアの後ろには、厳格さと上品さを兼ね備えた老夫婦がいる。

 彼らは先代エードラム伯爵夫妻。オリヴィアの実母の両親。つまりオリヴィアの母方の祖父母である。


 オリヴィアの祖父はエードラム伯爵家当主の座を退き、オリヴィアの祖母や当代エードラム伯爵夫妻家族と共に事業の為他国を回っていた。

 しかし今回ヴォルケ伯爵家の悪事が公になり、ヴォルケ伯爵とミランダの実母が逮捕されたことによりオリヴィアを案じてタフマ王国に帰国したのだ。

 どうやらソイル侯爵がオリヴィアの祖父母に連絡してくれていたらしい。

 おまけにヴォルケ伯爵家の爵位は一旦返上することになったようだ。


(ずっとオリヴィアお義姉(ねえ)様がヴォルケ伯爵家当主になると思っていたのに。……いや、待って。よく考えたらオリヴィアお義姉様がヴォルケ伯爵家当主になった場合、『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』のヒーローのところに嫁ぐことが出来なくなる。結果的にヴォルケ伯爵家は爵位を一旦返上して良かったのかもしれないわ)

 ミランダはこの結果になったことに少しだけホッとした。

(でも、私も迂闊だったわ。オリヴィアお義姉様が虐げられることがないようにとだけ考えていた。それから先のことはあまり考えていなかったわ。これってあれよね、前世のライトノベルやWeb小説に登場するざまぁされる側の考え方じゃない。流石はミランダ()、目先のことしか考えていない)

 ミランダはため息をつき、自嘲した。


「オリヴィアお義姉様、ありがとうございます。そのお誘いは嬉しいです。でも私はオリヴィアお義姉様とは違ってエードラム伯爵家の血は流れていません。だから私はこれから一人で生きていこうと思います。だから、私なんかのことは気にしないでください」

 ミランダはオリヴィアや先代エードラム伯爵夫妻からの申し出を断った。

「そんな、ミランダ……」

 オリヴィアは悲しそうな表情になる。

(オリヴィアお義姉様にそんな顔をさせたくないのだけど……きっと私は邪魔者なのよ。オリヴィアお義姉様の幸せは、遠くからひっそりと見守るわ)

 ミランダはそう決意した。


「君、ミランダと言ったな」

 そこへ、オリヴィアの祖父――先代エードラム侯爵アンブローズがミランダの前にやって来る。

「……はい」

 ミランダは少し緊張しながら頷いた。

「ミランダ、君がこの先一人で生きていきたいというのなら、私も妻も反対しない。これは君の人生なのだから。でも、君はまだ子供じゃないか。それに、君がタフマ王国で生きるにせよ他国で生きるにせよ、知識は必要だ。その知識をエードラム伯爵家で授けようと思うのだが」

「それは……本当にありがたい申し出です。しかし、先代エードラム伯爵閣下、先程も申し上げた通り、私にはエードラム伯爵家の血が流れていません。ですので」


「ああもう、遠慮せずに甘えておけよ、ミランダ」

 そこへ、ミランダの声を遮るようにブライアンの声が聞こえた。

 皆驚いたようにブライアンの方を向く。

「ブライアン、どうしてここにいるのよ?」

 ミランダは眉間に皺を寄せる。

「心配で様子を見に来たんだよ。ミランダはすぐ自分が不幸になるような選択をしそうだからな」

 呆れたような表情のブライアン。

「そんなことないわよ」

「いいや、あるね。実際に今しようとしてる」

「煩いわね。ブライアンには関係ないでしょう」

「関係ないとは何だ!?」

 ブライアンと口論になるミランダ。

 その様子をオリヴィアはクスクスと笑いながら見ている。

「ミランダ、ブライアン様と仲が良いのね」

「「どこが!?」」

 ミランダとブライアンの声が被り、二人はお互いをキッと睨む。

 オリヴィアはまたふふっと笑った。

 

「まあまあ、二人共落ち着きなさいな」

 柔らかな声が聞こえる。

 アンブローズの妻、ヴェロニカだ。

「ミランダ、貴女だってオリヴィアと同じで今回のヴォルケ伯爵家の件の被害者なのよ。私達はオリヴィアだけでなくミランダも助けたいの。血の繋がりなんて関係ないわ」


 優しい表情のヴェロニカ。その顔立ちはどこかオリヴィアと似ている。やはりオリヴィアの祖母だとミランダは思った。


「ミランダ、ブライアン様から聞いたわ。貴女は(わたくし)を助けようと動いてくれたのだと」

 オリヴィアの言葉を聞いた瞬間、ミランダはブライアンを睨んだ。

「ブライアン、オリヴィアお義姉様に余計なことを言うんじゃないわよ!」

「余計とは何だ!?」

 ブライアンはムッとしてミランダを肘で小突く。


「ミランダ、(わたくし)はね、ずっと貴女と話をしてみたいと思っていたのよ。ミランダは気付いていないでしょうけれど、貴女はヴォルケ伯爵家でいつも無表情か怒ったような表情しかしていなかったのよ。それが心配だったの」

 オリヴィアの紫の目は、優しく、そしてどこか悲しそうだった。

「え……?」

 ミランダはオリヴィアの言葉に戸惑う。

(オリヴィアお義姉様は私と話をしたい……!? 本当に……!? それに、私が無表情か怒った表情しかしていなかった……!? 私、無意識のうちにオリヴィアお義姉様は心配させてしまっただなんて……)

 ミランダは少し肩を落とす。


『お前は価値のない出来損ないの人間だ!』

 ミランダは前世で父に言われた言葉を思い出し、表情を失くす。


「心配をおかけして申し訳ございません、オリヴィアお義姉様」

「ミランダ、謝らないで」

「でも……私みたいな価値のない存在がオリヴィアお義姉様を心配させてしまうなんて、あってはならないことですから」

 ミランダの声は少し沈んでいた。

「ミランダ、自分には価値がないだなんて、そんな悲しいこと言わないで」

 オリヴィアはミランダの手を優しく握る。

「ですが……」

 ミランダは俯く。

「オリヴィアお義姉様、私の存在は、オリヴィアお義姉様のお父様の裏切りの証なんですよ。恨みとかは湧かないんですか?」

 ミランダは恐る恐る聞いてみた。

「貴女を恨むわけないじゃない。(わたくし)は今まで兄弟姉妹がいなかったから、義妹(いもうと)が来ると聞いて少しワクワクしたのよ」

 ふわりと微笑むオリヴィア。その表情からは嘘が感じられなかった。

「それに、ミランダは私と顔を合わせた瞬間表情が消えてしまったのよ。そんな子、放っておけるわけないじゃない」


 オリヴィアの紫の目は、真っ直ぐミランダに向けられている。アメジストのようなその目に、ミランダは思わず引き込まれそうになる。


(オリヴィアお義姉様……やっぱり綺麗……)

 しばらくミランダはオリヴィアに見惚れていたが、ハッと我に返る。

(違う、そうじゃないわ。オリヴィアお義姉様に心配をおかけしてしまった。表情管理をこれからしっかりしないと)

 ミランダは自分の頬をパチンと両手で叩いた。

(とりあえず、私はこれからどうしよう……?)

 うーん、とミランダは考える。

「ミランダ、グダグダ考えてないで、オリヴィア嬢と一緒にエードラム伯爵家で世話になったらどうだ?」

 やや呆れ気味にフッと笑うブライアン。

「そしたらお前が敬愛して止まないオリヴィア嬢の幸せな姿を近くで見られるんだぞ」

 ミランダの耳元で囁くブライアン。


 ミランダにとって、それは悪魔の囁きである。


「何てこと言うのよ……! そんなの、近くで見たいに決まっているわ……!」

 ミランダは小声でブライアンに言い返す。

「じゃあ決まりだな」

 ブライアンは満足そうに笑う。

 ミランダは悔しくなり、ブライアンの肩を軽く叩いた。

 そして、オリヴィアと彼女の祖父母の方を向く。

「こんな私ですが、お世話になってもよろしいでしょうか? なるべくご迷惑をおかけしないようにします」

「迷惑だなんて、我々は全然構わないさ」

 オリヴィアの祖父アンブローズは柔らかく口角を上げる。

「そうよ。ミランダ、貴女はまだ子供。子供は迷惑だとかそんなこと気にしなくて良いの」

 オリヴィアの祖母ヴェロニカも優しく笑っている。

「ミランダ、嬉しいわ。これからも一緒にいられるのね」

 オリヴィアは満開の花のような笑みでミランダを抱きしめた。


 ふわりと上品な香りがミランダの鼻を掠める。


(ああ……オリヴィアお義姉様の香り……。オリヴィアお義姉様から抱きしめられている……。私、もう死んでも良いかも)

 ミランダはついしまりのない笑みになってしまう。

 そんなミランダをブライアンは呆れたように見ていた。


 こうして、ミランダはオリヴィアと共にエードラム伯爵家に引き取られるのであった。

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