原作ではクズキャラのブライアン
「お前、じゃあどうしてその植物を摘もうとしてるんだ!?」
「あんたには関係ない! 努力嫌いで怠惰で、楽な方に流されるあんたが私を止める権利なんてないわ!」
読んでいたライトノベル『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』の大嫌いなキャラ、ブライアンに止められて怒りが爆発するミランダ。
「はあ!? 何だよそれ!? お前に俺の何が分かるんだよ!? 俺達初対面だろう!?」
ミランダの言葉にブライアンはムッとした。
「分かるわよ! オリヴィアお義姉様に婚約破棄を突き付けるクズは黙りなさい!」
「は? オリヴィアお義姉様? 誰だよそれ? それに、婚約破棄? お前は何を言ってるんだ?」
「あ……!」
つい勢いでそう言ってしまったミランダ。
前世の記憶があること、ここが『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』の世界だということを言えば、おかしな奴確定である。
(ああ、もう! 私はどうせすぐに死ぬし、変な奴、痛い奴って思われても良いわ!)
ミランダはヤケクソになった。
「それなら教えてあげるわよ! ここは私が前世で夢中になっていたライトノベル、『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』の世界で、私とあんたはオリヴィアお義姉様を虐げて破滅するってことをね!」
ミランダは前世のことや『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』のことを全てブライアンに話した。
いや、ぶち撒けたと言った方が正しいだろう。
「は……? 前世……? ライトノベルとか言う物語……? 全っ然わけが分からないぞ。お前……頭は大丈夫か?」
ミランダの言葉にブライアンは困惑した。
当然の反応だなとミランダは苦笑する。
「私は至って正常よ。だからこそ、オリヴィアお義姉を守ろうとしているの」
ミランダはそのまま強い毒がある植物に手を伸ばす。
「いや待てって! それで何で毒のある植物を摘もうとする!?」
ブライアンはミランダの行動にギョッとして再び止める。
「そんなの、両親を殺して私も死ぬ為よ! オリヴィアお義姉様が幸せになる邪魔をするな!」
「いやそんなこと聞いたら余計止めるわ! 知ってるか!? 殺人はなあ、犯罪なんだぞ! 法律の本にそう書いてあった!」
「は……?」
ブライアンから至極真っ当なことを言われ、素っ頓狂な声を出すミランダ。
「知ってるわよ。どこの国でも、どこの世界でも殺人は犯罪。当たり前のことをドヤ顔で言われても」
「何だ、知っていたのか」
ミランダの反応にホッとするブライアン。
「ええ、だから放っておいて。何よりも大切なのは、オリヴィアお義姉様の幸せ。オリヴィアお義姉様は不幸な目に遭ってはいけないの。その原因となる両親と私は死ぬべきなのよ。あんたも死ぬべき人間だと思うわ」
「俺もかよ。本当にお前、わけが分からないな。前世とか物語とか、よく分からないけど、お前は何かに追い込まれていること、それからオリヴィアお義姉様の幸せを願っていることだけは分かる」
「別に私は追い込まれてなんかいないわよ」
「追い込まれてるだろう。じゃなければ、両親を殺して自分も死のうだなんて思わないだろ」
ミランダを諭すようなブライアンだ。
(……原作ではオリヴィアお義姉様を虐げて婚約破棄を突き付けるクズの癖に)
何となく癪に思うミランダだ。
「お前、えっと……」
ブライアンはミランダの名前が分からないようだ。
「ミランダよ。一応家名込みで名乗るとミランダ・ヴォルケ」
ため息をついて名乗るミランダ。
「ああ、ヴォルケ伯爵家の。俺はブライアン・ソイル。ソイル侯爵家次男だ」
ミランダはブライアンの名前を知っているが、ブライアンは改めて自己紹介をしてくれた。
「そういえば確かヴォルケ伯爵閣下は後妻を迎えたんだったな」
「ええ。私はその後妻とヴォルケ伯爵の娘よ。本当、ヴォルケ伯爵も母も何を考えているのかしら。二人揃って、自分達のことしか考えていないクズよ。まあ私もクズの血が流れているのだけど。だからこの先私はオリヴィアお義姉様を虐げてしまうのよ」
ミランダは自嘲した。
「また前世とか物語の話か。でもお前、まだそのオリヴィアお義姉様を虐げていないだろう。むしろ、幸せを願うくらいだ。一旦前世とか物語から離れろよ」
「でも……」
ミランダは黙り込む。
『お前さえ生まれて来なければ……!』
前世の父の言葉が蘇る。
(何で自殺した後もこんな風に人生が続くんだろう……? 私なんかが生きていても無駄なだけなのに)
ミランダから表情が消える。
「放っておいてよ」
「放っておけるわけないだろ」
「努力嫌いで怠惰で、楽な方に流される癖に!」
「お前、またそれかよ! ……確かに俺は努力が嫌いだ。勉強も嫌いだ。毎日楽しいことだけしていたいよ。それは認める。今もこうして勉強から逃げて来たんだからな。勉強するふりして全然関係ない植物図鑑眺めたりもしてるし」
「勉強放り出して何やってるのよ」
ミランダは呆れながらブライアンを見る。
しかしブライアンは黄色の目を真っ直ぐミランダに向けていた。
「でもな、目の前で人を殺して自分も死のうとする奴を放置する程俺は腐っていない! 今お前を放置したら、何かこう……モヤモヤするというか、その……」
自分の気持ちを言い表す言葉が上手く出て来ないブライアン。
「良心が許さない? 寝覚めが悪い?」
ミランダが呆れながらそう言うと、「多分それだ!」とブライアンは頷く。
「あんた、私が言った言葉の意味分かってるの?」
「まあ何となく。ミランダ、お前難しい言葉知ってるんだな」
ブライアンはミランダに尊敬の眼差しを向けている。
そんなブライアンに、ミランダはほんの少しだけ口元を緩めた。
「なあ、さっき前世とか物語から一旦離れろって言っておいてアレだけど……ミランダの言うことが正しいのなら、お前の両親やヴォルケ伯爵家が脱税とか違法薬物の取り引きとかに手を染めていることを告発したら良いんじゃないのか? それなら捕まるのは両親だけで、ミランダは無事だろう? お前が大切に思ってるオリヴィアお義姉様も」
「それはそうだけど……そうしたら私は死ねない。私なんかが生きていても無駄なだけよ」
「だから死のうとするなって。ミランダ、お前はオリヴィアお義姉様の幸せを願っているんだろう?」
「当たり前よ」
「だったら、そのオリヴィアお義姉様が幸せになるところ、見届けようとは思わないのか? 自分の大切な奴が幸せになるところ、絶対見たいだろう?」
「それは……」
ミランダは想像する。
オリヴィアが幸せそうに表情を綻ばせる姿。きっとオリヴィアの笑みは、満開の花のような笑みだろう。
想像するだけで、ミランダの心は満たされる。
「そんなの……見たいに決まっているわ!」
「それなら、死ぬなんて言うな。生きる選択をしろ」
「……そうね」
まさか原作ではクズキャラのブライアンに説得させられるとは思わなかったミランダだ。
「俺の家を頼れよ。ソイル家は侯爵家。ヴォルケ伯爵家よりも立場が上だ。侯爵家は貴族の中でも上から二番目なんだぞ。凄いだろう」
したり顔で自慢するブライアン。
ブライアンの態度が子供っぽ過ぎてミランダは思わずクスッと笑ってしまう。
「身分を振り翳すんしゃないわよ。それ典型的な悪役がやることよ」
「ミランダ、お前……ようやく笑ったな。お前、今までずっと怒るか無表情だったぞ」
ブライアンは少し安心したような表情だった。
「そんなこと……」
ミランダは少し困惑した。
「とにかく、ミランダ、ソイル侯爵家を頼れ。その脱税とか違法薬物の取り引きとかの証拠。それをソイル侯爵家に持って来てくれたら父上が何とかしてくれる」
「そこはあんたが何とかするんじゃないのね」
「仕方ないだろう。俺はまだ九歳の子供なんだよ」
ムスッと膨れるブライアン。確かに九歳の子供らしい表情だ。
ミランダは思わず吹き出してしまった。
「ミランダ、何笑っているんだよ?」
「だってあんた、本当に子供っぽいんだもん」
「お前も子供だろうが!」
「確かに。私も今は八歳の子供ね」
ミランダは笑いが止まらなかった。
久々に笑ったような気がした。
「私、ヴォルケ伯爵家の屋敷に脱税や違法薬物の取り引きの証拠があるか探すわ」
ひとしきり笑った後、ミランダはそう切り出した。
「おう。証拠が見つかったらソイル侯爵家に持って来い」
「ええ。ブライアン……ありがとう」
ミランダは表情を綻ばせた。
今までの中で一番穏やかな笑みである。
「お、おう」
ブライアンはほんのり頬を赤く染めて、ミランダから目を逸らした。
(とりあえず、死ぬのは一旦保留。オリヴィアお義姉様の幸せな姿を見てからでも遅くないわね)
今まで死ぬことばかり考えていたミランダ。しかし、今はまず生きてみようと思うのであった。
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