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死にたがりのミランダ  作者: 宝月 蓮
タフマ王国の危機編

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31/34

心残り

(うっ……!)

 自らの炎の魔力をまとい、闇のドラゴンの口の中に突っ込んでいったミランダ。


 闇のドラゴンの体内は予想以上にミランダの体にダメージをきたした。

 騎士団から支給される軍服は特殊な生地が使われているので、魔法薬がかかっても破れることはない。

 しかし、軍服越しに闇のドラゴンの粘膜が肌に付着し、ひりつく。痛みと熱さでミランダは思わず顔をしかめた。


(耐えなさい、ミランダ!)

 ミランダは自分自身にそう言い聞かせ、歯を食いしばる。

(原作のミランダ()とブライアンは……闇のドラゴンに食われて命を落とした。本当にざまぁだわ)

 闇のドラゴンによるダメージを受けながらも、ミランダはフッと笑う。

(でも……今のブライアンは、努力家で一生懸命で真っ直ぐ。オリヴィアお義姉(ねえ)様に酷いことも全然しない。まあ、当然よね。オリヴィアお義姉様は原作と違って早いうちからルシアン様の婚約者になったのだもの)

 ミランダは自身の炎の魔力を強めた。

 すると、闇のドラゴンの呻き声が聞こえる。

 恐らく体内からの炎の魔力の攻撃が効いているのだろう。

(今のブライアンは、死ぬ必要なんかないわ。だから、生きてもらわないと。ブライアンがいる第二部隊が来る前に、私が闇のドラゴンを倒す。そして、オリヴィアお義姉様の幸せを守る。その為なら……私は死んでも構わない)

 そう思いつつも、ミランダの真紅の目が揺れる。

(ずっと前から覚悟していたじゃない。なのに、どうしてこんな気持ちになるのかしら? 前世では自殺を選んだくらいよ。死ぬことなんか、怖くない。怖くない……だけど……)

 炎の魔力を強めた反面、ミランダの笑みは弱々しくなる。


「オリヴィアお義姉様の結婚式……見たかったなぁ……」


 掠れた声でポツリと漏れた本心。

 死ぬことは怖くない。しかし、ミランダにはまだまだ心残りがあったのだ。

(オリヴィアお義姉様のウェディングドレス姿……絶対に綺麗でしょうね……)

 純白のドレス姿のオリヴィアの姿がミランダの脳裏に浮かぶ。

(オリヴィアお義姉様はきっとルシアン様の隣で、幸せそうな表情をしているわよね)

 想像するだけで幸せな気分になるミランダである。

(オリヴィアお義姉様とルシアン様は、結婚して幸せに暮らす。きっとそのうち子供も生まれるでしょうね。オリヴィアお義姉様とルシアン様の子供……きっと可愛いに決まっているわ)

 ミランダは想像して表情を和らげる。

(もしも息子が生まれた場合、息子とルシアン様がオリヴィアお義姉様を巡って水面下でバトルをしていたりして。それに気付いたオリヴィアお義姉様は、きっと困ったように微笑むけれどどこか幸せそう)

 穏やかな表情と裏腹に、先程から炎の魔力を強めまくるミランダ。

(オリヴィアお義姉様にそっくりな娘が生まれた場合なら、オリヴィアお義姉様はその娘に本を読んであげていて、お仕事から帰って来たルシアン様が二人をまとめて後ろから優しく抱きしめる。オリヴィアお義姉様も生まれた娘もルシアン様も、幸せそうな表情をしているでしょうね)


 ミランダが体内から攻撃したことにより、闇のドラゴンの咆哮が響く。

 ふと、外の様子はどうなっているだろうか、外での負傷者はどのくらいだろうかと疑問が湧くミランダ。

 なるべく外での負傷者を減らしたいなと思うのであった。

(このままいけば、闇のドラゴンを倒すことが出来るかしら? 『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』では、闇のドラゴンに食べられたミランダ()がドラゴンの体内で炎の魔力を暴走させていた。ショボい魔力だったけど、効果はあったみたいで闇のドラゴンが少し弱体化したわ。それで、その隙にルシアン様が外から攻撃して闇のドラゴンは倒れるのよね)

 ミランダは原作知識を思い出していた。

(だから私は炎の魔力を鍛えたのよ。原作のミランダは怠惰で楽しいことだけしていたいタイプだったから、魔力を全く鍛えていなかった。もし私が炎の魔力を幼い頃から鍛えていれば、それなりの力になる。闇のドラゴンの体内から攻撃するとなれば、それなりの効果はあると思いたいわね)

 ミランダが子供の頃から騎士団で訓練する理由がこれである。

 全てはこの日の為のものだったのだ。


(それにしても……私、結構心残りがたくさんあるのね。もっとオリヴィアお義姉様と一緒にいたかった……。オリヴィアお義姉様に、「大好きです」ってもっと言っておけば良かった……。ルシアン様に、「オリヴィアお義姉様をよろしくお願いします」って言いたかったわ……。それから……ブライアン……)

 ミランダの心には、いつの間にかブライアンの存在が大きくなっていた。

(ブライアンに……もっと「ありがとう」って言っておけば良かったわ……。気付けばいつもブライアンがいて……ブライアンに助けられて……)

 ミランダは自嘲気味に口角を上げる。

(今になって気付くだなんて……。私、ブライアンのことが……好きなんだわ……)

 気付くのが遅過ぎた。

 しかし、もっと早くにこの気持ちに気付いていても、ミランダのやることはどのみち変わらない。

(ブライアンには、私なんかよりももっと素敵な令嬢がお似合いよ。まあ、この世界で一番素敵なのはオリヴィアお義姉様なのだけど、オリヴィアお義姉様はルシアン様がお似合いだからブライアンでは駄目よ)

 ミランダはフッと微笑み、自身の炎の魔力を最大限にした。

(ブライアンに好きって伝えておいたら良かったわね。でも、どのみち私はこの道を選ぶのだから、関係ないわ。……オリヴィアお義姉様、ルシアン様、ブライアン……どうかこの先も幸せでいて)

 炎の魔力を暴走させたことによる体力消耗と、闇のドラゴンの体内の粘液によるダメージにより、ミランダの意識は遠のいた。


「ミランダ!」


 その時、聞き慣れた声が聞こえたような気がした。

 薄れゆく意識を闇のドラゴンの体内の入り口――口の部分へ向けると、そこから光が差し込んだように見えた。

 そして、強く眩い光のオーラをまとったブライアンがミランダ目掛けて飛び込んで来たのである。

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