闇のドラゴン
ミランダが騎士団に入団し、数ヶ月が経過した。
ミランダは毎日鍛錬に励んでいる。
学園時代の成績及び、子供の頃から騎士団で鍛えていたこともあり、ミランダは即戦力だった。
もちろん、ブライアンも即戦力である。彼もミランダと同じで、学生時代の成績は上位。おまけに子供の頃からミランダと共に騎士団で鍛えていた。
数日前も二人は魔獣討伐の最前線に駆り出されたのだ。
「魔獣が活発化しているのか、いつも通りなのか分からない状況だな」
討伐帰り、ブライアンはふうっとため息をつく。
魔獣討伐により、騎士団から支給された軍服は少し汚れていた。
ミランダは黙り込んでいる。
ミランダの軍服も、土などで汚れていた。
(確かにブライアンの言う通りだわ。『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』の物語通りなら、闇のドラゴンがタフマ王国を襲うのはまだ少し先……。だから魔獣が活発化して凶暴になるのはまだ早いはず。でも、魔獣の数は増えている……)
ミランダはうーん、と考えていた。
「おい、ミランダ? どうした?」
ブライアンに声をかけられたことで、ミランダはハッと意識を戻す。
「……何でもないわ」
「何でもないって……お前、最近何か考えごとが増えたよな」
ブライアンは心配そうな表情である。
ミランダはそんなブライアンにクスッと笑う。
「私は貴方と違って場当たり的に生きているわけじゃないからね」
「は? 何だよそれ? 場当たり的って、お前も大体場当たり的だろうが」
ブライアンはフッと呆れたように笑い、ミランダの脇を肘で軽く小突いた。
いつものようにブライアンと軽口を叩き合うミランダになる。
ブライアンと冗談を言い合いながらも、どこか切なくなるミランダ。そして気が付けば、オリヴィアだけでなくブライアンとも一緒にいたいという気持ちが芽生えていた。
(嫌だわ、私ったらどうしてこんな気持ちになっているのかしら?)
ミランダは芽生えた気持ちに戸惑っていた。しかしブンブンと首を振り、軽く自分の頬をぺちっと叩く。
「ミランダ、いきなりどうした?」
ブライアンは突然のミランダの動作に首を傾げている。
「何でもないわよ。さあ、早く本部に戻って報告しましょう」
ミランダは背筋をピンと伸ばし、キビキビと歩き始めた。
その動きは騎士らしく様になっている。
ブライアンも「そうだな」と頷き、少し前を歩くミランダに追いつくのであった。
(どのみち、私がやるべきことは決まっているわ。それに、残り時間も……)
ミランダの真紅の目は真っ直ぐ力強く前を向いていた。
☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨
数ヶ月経過したある日のこと。
魔獣が活発化しているので、ミランダとブライアンが現場に駆り出される頻度が増えていた。
この日、騎士団の訓練所で戦闘訓練をしていたミランダ達の元へ、緊急の連絡が入る。
「大変だ! イシュケ辺境伯領で凶暴な大型魔獣が突如暴れ始めた!」
騎士団員からの報告を聞き、ミランダはハッとする。
(きっと闇のドラゴンね……! いよいよだわ……!)
ミランダは唇を固く結び、ピンと背筋を伸ばした。
「被害はどのくらい出ている?」
「イシュケ辺境伯領にいる隊は半分程負傷しています! このままでは王都まで魔獣が来るまでそう時間はないでしょう!」
「分かった! 直ちに魔獣討伐隊を編成する!」
騎士団長は報告を聞き、瞬時に動き始めた。
「あの、団長!」
ミランダは騎士団長の元へ駆け寄った。
「何だ? 緊急事態だぞ」
「はい。その魔獣討伐、私に行かせていただけませんか? お願いします!」
ミランダは懸命に騎士団長に頼み込んだ。
(闇のドラゴンを早く討伐しなければ、オリヴィアお義姉様とルシアン様の生活に響いてしまうわ。オリヴィアお義姉様の幸せを守る為にも、私が行かなければ!)
ミランダの心には、いつもオリヴィアがいた。
ミランダの行動理由はいつでもオリヴィアの幸せである。
オリヴィアの幸せを守ることこそが自分の存在価値だとミランダは思っていた。
「新人のお前がか……」
騎士団長は一瞬だけ考え込み、再びミランダに目をむける。
「そうだな。ミランダ・エードラム、確かにお前は実力がある。今から編成する魔獣討伐第一部隊に入れよう。直ちに準備せよ」
「ありがとうございます!」
ミランダは騎士団長の言葉を聞き、急いで準備に向かった。
「おい、ミランダ!」
ミランダが魔獣討伐へ向かう準備をしている時、ブライアンに声をかけられた。
「ブライアン、悪いけれど今急いでるの」
「ああ、だろうな。でも、自ら魔獣討伐の第一部隊に志願する奴がいるかよ!?」
ブライアンの黄色の目からは心底心配だという様子が伝わって来る。
ブライアンは魔獣討伐第二部隊に選出されている。
ミランダの次に出動する部隊である。
「緊急時の歴代第一部隊の生存率が低いこと、お前も分かってるだろう!? 今からでも騎士団長に掛け合って第二部隊以降にしてもらうことは出来ないのかよ!?」
凶悪な魔獣が出現したなど、タフマ王国の緊急時には騎士団が対応に当たる。
その第一部隊は、まだ魔獣の情報が少なく戦い方も確立されていないので生存率が低いのだ。
「馬鹿言わないで、ブライアン。そんなこと知っているわ。知っていて志願したのよ。……私はこの為に今まで生きて来たのよ」
ミランダの真紅の目は、今までにない程力強く真っ直ぐだった。
その目を見たブライアンは何も言えなくなってしまう。
「おい、ミランダ・エードラム! 準備は出来たのか!?」
騎士団の仲間の声が響く。
「はい! 今行きます!」
ミランダは第一部隊の仲間の元へと駆け出した。
残されたブライアンは悔しそうに地面を睨みながら呟く。
「ミランダ、馬鹿野郎、この死にたがりが……!」
握り締めた拳はプルプルと震えていた。
☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨
ミランダ達魔獣討伐第一部隊が報告のあった魔獣と対峙した時、イシュケ辺境伯領の半分が壊滅的な状態だった。
「あれは……闇のドラゴンだ!」
第一部隊のメンバーの一人が青ざめている。
闇のドラゴンは魔獣の中で最も凶悪だ。
文献によると、過去に闇のドラゴンは他国を滅ぼしたこともあるそうだ。その際、複数の国の騎士団が出動してようやく闇のドラゴンを討伐出来たようである。
(あれが……闇のドラゴン……!)
禍々しいオーラを放ち、口から光線のようなものを出している。
その光線が当たった場所は直ちに植物が枯れ、土地もやせ細ってしまう。
光が生を司るのだとしたら、闇は死を司るのだ。
闇のドラゴンに攻撃されたらひとたまりもないだろう。
ミランダ達第一部隊は四苦八苦しながら闇のドラゴンと戦っている。
負傷者が続出である。
(私にもっと前世チートがあれば被害を抑えられたかもしれない。でも、そんなことを考えている暇はないわ。『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』の中にヒントは書いてあった。私がそれを実行するだけ)
ミランダは拳をギュッと握りしめる。
真紅の目は、真っ直ぐ闇のドラゴンへ向いていた。
ミランダは自身の体に炎を纏わせる。
そして闇のドラゴンが大きな口を開けた瞬間、ミランダは闇のドラゴンの口の中へ突っ込んで行くのであった。
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