学園卒業
二年の時が経過した。
この日、飛び級でタフマ王国の貴族学園に入学したミランダは、オリヴィア、ブライアンと一緒に卒業する。
(貴族学園、色々なことがあったわ。でも、一年間はオリヴィアお義姉様とルシアン様の幸せそうな様子を見ることが出来て本当に良かったわ)
ミランダは学園長の話の最中、今までのオリヴィアとルシアンの様子を思い出してニヤけていた。
オリヴィアの婚約者であるルシアンは、オリヴィアよりも二つ年上である。よってひと足先に貴族学園を卒業した。
オリヴィアはルシアンと一年だけだが共に学園生活を送ることが出来たのだ。
(そう言えばルシアン様が卒業する時、オリヴィアお義姉様はルシアン様に花束を渡したわね。あの時のオリヴィアお義姉様とルシアン様、二人の世界に浸っていたわね)
ミランダはルシアンの卒業式を思い出し、更にニヤけている。
「おい、ミランダ、顔がヤバいことになってるぞ」
隣に座るブライアンから小声でそう小突かれた。
ブライアンは呆れたような表情である。しかし、どこか優しげでもあった。
同じ騎士科で共に過ごすことが多かったブライアン。
(……前世で読んだライトノベル、『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』では卒業式後の卒業パーティーでオリヴィアお義姉に婚約破棄を告げるクズだった癖に……何だか格好良くなっちゃって……)
学園生活でブライアンが努力する姿を見ていたミランダ。
原作では怠惰で楽な方に流されるキャラだったが、大違いである。
魔法薬学研究クラブでも、向いていないなりに理論だけは完璧にしようと頑張っていたブライアンである。
ミランダはチラリと領地経営科の席に座るオリヴィアを見る。
艶やかで絹のような銀色の長い髪に、神秘的な紫の目。白磁のきめ細やかな肌で、相変わらず可憐で女神のようである。
オリヴィアは領地経営科の学年主席を三年間キープしていた。おまけに魔法薬学研究クラブでは、新薬の開発と実用化の実績があるのでタフマ王国の魔法薬学研究所で研究員になることが決まっている。
そのことについて、ミランダは鼻高々だった。
オリヴィアは卒業後、ルシアンとの結婚が決まっている。
現在結婚式に向けて少し慌ただしい日々を送るオリヴィアであった。
(オリヴィアお義姉様とルシアン様の結婚式……きっと素敵なものになるでしょうね)
ミランダはオリヴィアのウェディングドレス姿を想像し、うっとりとした表情になっていた。
それを見たブライアンは「またか」と呆れつつも見守るかのような表情である。
気付けばいつもブライアンが隣にいたような気がするなとミランダは思っていた。
☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨
卒業式はつつがなく終了し、卒業パーティーに移った。
「オリヴィア、卒業おめでとう」
「わざわざ来てくださりありがとうございます、ルシアン様」
「大切な婚約者の卒業式だ。行くに決まっている」
「ルシアン様……」
オリヴィアは嬉しそうに頬を赤く染めながら、ルシアンから花束を受け取る。
オリヴィアに良く似合う、白と紫の薔薇の花束だ。
(オリヴィアお義姉様とルシアン様の幸せな様子、やっぱりいつ見ても絵になるわね)
ミランダはそんな二人の様子に頬を緩めてニマニマしていた。
「お前、本当に相変わらずだな」
ブライアンは呆れたようにため息をついた。
「まあ、子供の頃からずっとそうだったからもう慣れっこだけど」
ブライアンはフッと口角を上げる。
「もう、だったら良いじゃない。放っておいてよ。オリヴィアお義姉様の幸せを見守る邪魔しないで」
ミランダはムッとしながらブライアンの肩を軽く叩いた。
「痛え」
ブライアンはわざとらしく大袈裟なリアクションだ。
ミランダはそれを無視して再びオリヴィアとルシアンに目を向けた。
オリヴィアとルシアンはどこからどう見てもお似合いで完璧なカップルである。
二人が何かを楽しそうに話す様子を見て、ミランダは満足した。
すると、ルシアンがミランダ達に気付いたようで、こちらに向かって来た。
「ミランダ嬢、ブライアン、卒業おめでとう」
「ありがとうございます、ルシアン様」
ミランダはルシアンにお礼を言う。
「ありがとうございます。ルシアン様、プラーミア公爵家の領地経営と魔法薬学研究所のお仕事を両立されていますが、忙しくはないですか?」
「まあ、最初は慣れずに戸惑ったが、慣れたら何てことはない」
ブライアンの問いに、フッと笑うルシアン。
ルシアンは卒業後、父であるプラーミア公爵家当主アーネストと共に領地経営をしながら魔法薬学研究所の研究員としても活躍しているのだ。
(そういえば、『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』ではルシアン様は魔法薬学の研究をしている場合ではなかったわね。領地経営をしながら魔獣討伐も請け負っていたわ)
ミランダは前世で読んだ原作の内容を思い出した。
(そして闇のドラゴンがタフマ王国全体を脅かした時も駆り出されてピンチに陥って、オリヴィアお義姉様は大層心労が溜まったのよね)
ミランダはチラリとオリヴィアに目を向ける。
穏やかに微笑んでいるオリヴィアは、まるで女神のようだった。
(オリヴィアお義姉様はやっぱり笑顔が似合うわ。あの笑顔を絶対に曇らせてはいけない)
ミランダの決意は固かった。
「ミランダー!」
その時、明るく可憐な声が響いた。
小柄で紫の長い髪をなびかせ、ピンク色の目はキラキラと輝いている。
タフマ王国元第二王女ウルスラである。
彼女はミランダより学年が一つ上だったので去年学園を卒業した。そして卒業後すぐに婚約者のアレックスと結婚し、マイム公爵家の若奥様となったのだ。
「ウルスラ殿下」
「もう臣籍降嫁したのだから殿下は付けなくて良いわよ」
ふふっと笑うウルスラに対し、ミランダはたじろいでしまう。
いつになっても慣れないらしい。
「あの、ウルスラ……様、わざわざお一人でいらしたのですか?」
「ええ。ミランダの卒業式よ。見たいに決まっているじゃない。アレックスに内緒でマイム公爵家を抜け出して来たの」
茶目っ気たっぷりの表情であるウルスラ。
「左様でございますか」
ミランダの表情は若干引きつった。
(後でアレックス様からクレームが来ないと良いわね……)
ミランダは内心ため息をついた。
「ミランダ、卒業おめでとう」
ウルスラはミランダに大きく派手な花束を持って来ていた。
「これはまた……随分とご立派な花束を。ありがとうございます、ウルスラ様」
ミランダが花束を抱きかかえるように受け取った。
「ミランダ様ー!」
「ご卒業おめでとうございます!」
「私の花束も受け取ってください!」
「私は刺繍をして参りましたの!」
ミランダはウルスラだけでなく、後輩の令嬢達にも囲まれた。
ミランダファンクラブはミランダの知らないところでどんどん大きくなっていたらしい。
ミランダに花束やプレゼントを渡す令嬢達が絶えなかった。
(こんなにたくさん……。私なんて、大したことない存在なのに、みんな私を過大評価し過ぎよ……)
ミランダは思わず苦笑してしまった。
ミランダがウルスラ達から貰った花束やプレゼントを、卒業式に来ていたエードラム伯爵家の使用人に預けて卒業パーティー会場に戻ると、ブライアンが近付いてきた。
「ミランダ、人気者も大変だな」
ニヤリと笑うブライアン。
「冗談を」
ミランダはフッと苦笑し、ブライアンを軽く小突いた。
しかし、ミランダはどこかホッと安心していた。
(どうしてブライアンと一緒にいると安心するのかしら? ……きっと長年一緒にいることが多かったから慣れたってことよね)
自身の胸の内に生じた疑問をそう結論付けるミランダだった。
そんなミランダの元へ、ルシアンがやって来た。
オリヴィアは一緒ではないのかと疑問に思ったミランダ。しかし、チラリと見るとオリヴィアは魔法薬学研究クラブの者達と生き生きと話していた。きっと魔法薬学関連の討論をしているのだろうと思うミランダである。
「ミランダ嬢とブライアンは卒業後、騎士団に入団だったか?」
ルシアンに聞かれ、ミランダは「はい」と頷く。
「元々騎士団で訓練していましたから」
「学園二年目の時にミランダと俺、二人揃ってスカウトされましたので」
ミランダとブライアンは騎士科の中でトップではないが、上位の成績だった。
おまけに貴族学園入学前から騎士団で訓練していたので、卒業後に是非入団して欲しいとスカウトされたのだ。
ミランダとしては、オリヴィアの幸せを守れるのなら卒業後の進路などどうなっても良かった。
しかし、騎士団入団は今のミランダにとってとても都合が良い。
(今後起こる闇のドラゴン討伐には、騎士団が対応するわ。騎士団に入団すれば、私も闇のドラゴンをどうにか出来る。その為に私は魔力を鍛えてもっと強くならなければいけない)
ミランダは口を固く結び、拳をギュッと握るのであった。
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