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死にたがりのミランダ  作者: 宝月 蓮
貴族学園編

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27/34

助けてくれたのは……

 ぼんやりと目を開けると、見慣れた天井が目に入った。

(ここは……エードラム伯爵邸の私の部屋かしら……?)

 ミランダの頭はぼんやりとしていた。

「ミランダ! 気が付いたのね!」

 声の方向に目を向けると、オリヴィアが紫の目から涙を零していた。

 オリヴィアはしっかりとミランダの右手を握ってくれていたらしい。

「オリヴィアお義姉(ねえ)様……」

 ミランダの頭はまだぼんやりとしていた。

(私、何でここにいるのかしら? えっと、確か学園の研究棟が爆発して、オリヴィアお義姉様がまだ研究棟の中にいて……)

 ミランダは何が起こったのかをゆっくりと思い出した。

 そして真紅の目を大きく見開く。

「オリヴィアお義姉様、無事ですか!?」

「ああ、ミランダ、勢い良く起き上がっては駄目よ。三日間も寝込んでいたのだから」

 起き上がろうとしたミランダだったが、オリヴィアに制止されてしまった。

「三日間も……!」

 ミランダは自身が寝込んでいた期間に驚いていた。

「ミランダ、痛いところはない? 体におかしいところはない? あったら些細なことでも良いから教えて」

 オリヴィアは悲痛そうな表情でミランダの手を握ったままだ。

「オリヴィアお義姉様、私は大丈夫です。それよりも、オリヴィアお義姉は怪我とかはありませんか? 大きな爆発だったから、私、いてもたってもいられなくて」

(わたくし)は大丈夫よ。ミランダが助けてくれたから。ありがとう。でもごめんなさい。(わたくし)のせいで貴女がこんな目に……」

 オリヴィアはミランダを抱き締めて嗚咽を漏らした。

「オリヴィアお義姉様……」

 ミランダは目を伏せる。

(オリヴィアお義姉様を悲しませてしまったわ……。心配かけてしまった……)

 ミランダの願いはオリヴィアの幸せ。

 それなのに、オリヴィアにこんな悲しそうな表情をさせてしまった。

 オリヴィアにそんな表情をさせたくなかった。

 ミランダの中で罪悪感が大きくなった。

「オリヴィアお義姉様、心配をかけてしまって本当にごめんなさい」

「ミランダ、謝らないで」

 ふわりとオリヴィアの香りが鼻を掠める。

 ミランダはオリヴィアに抱きしめられていた。

「オリヴィアお義姉様……」

 いつものミランダなら、オリヴィアに抱きしめられたことにテンションが上がっていただろう。

 しかし、今のミランダはオリヴィアを抱きしめ返すだけだった。

 自身よりも少し華奢なオリヴィアの体。

(オリヴィアお義姉様……私が絶対に守るわ!)

 ミランダはそう決意した。


 ふと、ミランダは自身の腕が目に入る。

 炎の柱が倒れて大火傷をしたはずの腕は、綺麗に治っていた。

 普通に治療されただけでは三日でこんなにも綺麗に治るはずがない。もっと時間がかかるはずだ。

「オリヴィアお義姉様、もしかして光の魔力で私の火傷、治療してくださいました?」

「ええ、もちろんよ。だってミランダが(わたくし)を助けてくれたのよ。ミランダがそれによって負った傷は(わたくし)が治療して当たり前よ」

 オリヴィアは目尻を下げてミランダの手を握っていた。

 改めて見ると、オリヴィアも相当炎によるダメージを負っていたが、体のどこにも火傷の跡が見当たらない。恐らく自分で治療したのであろう。

 そういえば、子供の時もオリヴィアに治療してもらったことを思い出した。

 あれは悪漢達に狙われたオリヴィアをミランダが庇って連れて行かれた時のことだった。

「またオリヴィアお義姉様に負担をかけてしまいましたね。ごめんなさい」

 ミランダは肩を落とす。

「そんな、謝らないで。(わたくし)の方こそ、ごめんなさい。ミランダが火傷を負うだけでなく、髪も……」

「髪……?」

 オリヴィアの言葉に首を傾げ、ミランダは自身の髪に触れた。

「あ……」

 ミランダのピンク色の髪は、今までならオリヴィア同様腰まであった。

 しかし今のミランダの髪は、肩よりも短くなっていた。

(おお、かなり短い。前世の私と同じくらいかも)

 ミランダはふと前世を思い出した。


 前世のミランダは、産後うつになった母親の介護で見た目を気にする余裕がなく、髪もショートヘアだった。


「オリヴィアお義姉様、髪に関しては全然気にしていません。それに、髪くらいすぐに伸びますから」

 ミランダはオリヴィアを悲しませないようにクスッと笑った。

「そうだけど……」

 オリヴィアは紫の目を伏せた。


 その時、部屋の扉がノックされる。

 ブライアンとルシアンがお見舞いに来たらしい。

「ミランダ嬢、目が覚めたのだな」

「本当、一時はどうなるかと思ったぜ」

 ホッと安心し、穏やかな表情のルシアン。そして、呆れ気味だがどこか安心したような表情のブライアンである。

「ルシアン様、ブライアン……」

 ミランダは二人にも心配をかけてしまったなと苦笑した。

「ミランダ嬢、私の婚約者オリヴィアを助けてくれたこと、本当に感謝する。私も君の勇敢さに負けていられない。私も君のようにオリヴィアを守れるように精進しよう」

 ルシアンは目尻を下げて口角を上げていた。

 その緋色の目は穏やかで真っ直ぐ力強かった。

「そんな、私は……」

 そう言われたミランダは少しだけ照れてしまう。

 オリヴィアの婚約者ルシアンに認められたことが何だかむず痒かった。

「それにしても、どうして研究棟が爆発したんでしょう?」

 気恥ずかしくなり、話を逸らすミランダ。

「魔法薬学研究クラブの男子生徒二人が、太陽草と火炎草を間違えて配合したようだ」

「ああ、そうでしたか……」

 ルシアンの言葉に、ミランダはサロン横を通り過ぎる男子生徒二人の会話を思い出した。

(もしかして、彼らかしら? でも、そうだとしたら彼らはどうなるのかしら?)

「配合を間違えた男子生徒達は、停学処分になったわ。魔法薬学関連の仕事も、今のままでは就けなくなるみたいよ。だけど、故意ではなく過失だから、より厳しい試験に合格すれば、魔法薬学関連の仕事も出来なくはないみたい」

 ミランダの疑問を察したかのように、オリヴィアが答えた。

「太陽草と火炎草、見極めに自信がないなら教師とか詳しい人を呼べって感じだよな。本当、迷惑な話だ」

 ブライアンは呆れたような表情だ。

「ブライアンだって完全に見極められるわけじゃないでしょう」

 ミランダはブライアンの発言に思わず苦笑してしまった。

「まあまあ、ミランダ。ミランダを助けてくれたのはブライアン様なのよ」

「え……!?」

 オリヴィアの言葉に、ミランダは真紅の目を大きく見開いた。

 ブライアンに目を向けると、「俺は別に……」とフイッとそっぽを向かれてしまう。

「オリヴィアが研究棟から出てきて、ミランダ嬢の状況を知ったブライアンは血相変えて研究棟に飛び込んで行ったんだ。ミランダ嬢が迷わずオリヴィアを助けに行った時のようにな」

「そう……ですか」

 ルシアンの言葉を聞き、ミランダの心臓はほんの少しだけ跳ねる。

 ブライアンが助けてくれたことを、少しだけ嬉しく感じたのだ。

(この気持ちは……何かしら……?)

 ミランダの頬はほんの少しだけ赤く染まり、まともにブライアンを見ることが出来なかった。

 しかし、すぐに表情を暗くする。

(オリヴィアお義姉様だけでなく、ルシアン様とブライアンにも迷惑かけたわよね……)

 ミランダは軽くため息をつく。

「ルシアン様、ご心配をおかけして申し訳ございませんでした。ブライアンも、手間かけさせて悪かったわね。ごめんなさい」

 謝罪の言葉を口にするミランダ。

 すると、ルシアンは少しだけ困ったような表情になる。

「いや、君が謝る必要はない」

 ブライアンは複雑そうな表情で何も言わず、ミランダから目を逸らしただけだった。


「そうだ、ミランダ。貴女にお見舞いの品がたくさん届いているの。特に、ウルスラ王女殿下と彼女のご婚約者であられるアレックス様からかなりの量が」

 オリヴィアの言葉通り、ミランダの部屋の半分が見舞いの品で埋まっていた。


 ミランダファンクラブの令嬢達からが主である。そしてウルスラとアレックスからの品がその半分を占めていた。

 ウルスラはミランダを気に入っているらしい上、アレックスもある意味ミランダのお陰でウルスラとの関係が深まったので、そのお礼も兼ねているらしい。


「果物とか日持ちしないものは、お祖父(じい)様やお祖母(ばあ)様と一緒に一部をいただいたけれど、焼き菓子ともがたくさんあるわ」

「……こんなにたくさん、ありがたいけれど食べきれません」

 ミランダは見舞いの品の量に苦笑した。

「ルシアン様、焼き菓子類いくつか持ち帰ります? ブライアンも、気に入ったやつがあれば持ち帰って良いわよ」

「ミランダ、お前なあ、自分に贈られた見舞いの品を流用するなよ」

 ブライアンはいつものように呆れた表情でため息をついた。

 オリヴィアとルシアンはその様子を見て表情を和らげていた。


 ミランダの意識が戻り、穏やかな時間が流れていた。

読んでくださりありがとうございます!

少しでも「面白い!」「続きが読みたい!」と思った方は、是非ブックマークと高評価をしていただけたら嬉しいです!

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これで貴族学園編は完結です。

次回から最終章です。

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― 新着の感想 ―
ミランダちゃん、どんなきっかけがあれば皆に大事に思われてるって気付いてくれるのでしょう? とりあえず私が言っておこう。“ブライアン、ありがとう!”
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