研究棟爆発
「オリヴィアお義姉様が研究棟に……!」
ミランダは顔面蒼白だった。
爆発により研究棟は燃え上がっている。
激しく真っ赤な炎である。
「ミランダ、落ち着け」
「ああ、確かにオリヴィアが心配だ。だが、オリヴィアはもう研究棟を出ている可能性だってある。確認しに行くぞ」
ブライアンとルシアンはそうミランダを落ち着かせた。
(オリヴィアお義姉様、どうか無事でいて!)
ミランダは必死にそう願いながら、ブライアン達と一緒に研究棟の方へ向かった。
☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨
研究棟付近には人だかりが出来ていた。
大きな爆発音がしたので皆気になったのである。
怒号や生徒や教師の安否を確認する声が飛び交っている。
「オリヴィアお義姉様! どこにいますか!?」
ミランダは必死に叫んでオリヴィアの安否を確認する。
とにかくオリヴィアが無事でいて欲しいという思いでいっぱいである。
「ミランダ嬢、この状況で叫んでも君の声が届くとは限らない。周囲にいる者達にオリヴィアの行方を聞いてみるんだ」
ルシアンは冷静だった。しかし、オリヴィアが心配であるということが表情に出ている。ルシアンにとってオリヴィアは大切な婚約者であるから当然だろう。
いつものミランダなら、ルシアンがオリヴィアを大切に想っていることに満足してニヤけるだろう。しかし、今は状況が状況なだけにミランダにはそんな余裕などなかった。
「そう……ですよね」
ルシアンの言葉で、少しだけ落ち着きを取り戻したミランダである。
「失礼、オリヴィア・エードラム嬢を見かけなかっただろうか?」
ルシアンは近くにいた生徒にオリヴィアの安否を尋ねるが、生徒は「見かけていません」と首を横に振った。
「あの、オリヴィア・エードラム嬢は恐らくまだ研究棟だと思います! 彼女が研究棟に入ってしばらくしてから爆発が起こったので!」
「何だって……!」
とある生徒の証言を聞いたルシアンは顔色を悪くする。
ミランダはその言葉を聞き、いてもたってもいられなくなった。
「つまり……オリヴィアお義姉様はまだ研究棟の中に……!」
再び顔面蒼白のミランダ。頭よりも先に体が動き出していた。
「おいミランダ! 待て! 研究棟に入る気か!?」
隣にいたブライアンがミランダを止めるが、既にミランダは人を掻き分けて燃え盛る研究棟へ向かっていた。
(オリヴィアお義姉様は、私が助ける! オリヴィアお義姉様がこんなところで死ぬなんて絶対に駄目よ! オリヴィアお義姉様は、幸せにならなければならないのだから!)
「ミランダ! 待て! 行くな!」
「ミランダ嬢! 無茶だ!」
ブライアンやルシアンの制止も聞かず、ミランダは激しく燃えている研究棟に勢い良く飛び込んだ。
「うっ……!」
研究棟に飛び込んだミランダは、入った瞬間顔を顰めた。
(……熱い! 体が痛い……! でも、そんなこと言ってられないわ!)
炎により体は確実にダメージを負っている。
呼吸をする度に高温の空気が肺に入る。
研究棟の中にはまだ人がおり、必死に出ようとしていた。
「オリヴィアお義姉様! どこにいますか!?」
ミランダは必死に大声を出し、オリヴィアの安否を問う。
すると、少し離れた場所から聞き慣れた声が微かに聞こえた。
「ミランダなの……!」
その声にハッとするミランダ。
「オリヴィアお義姉様!」
ミランダは炎の中、声が聞こえた方向へ走る。
熱さや痛みを気にしている場合ではない。
ミランダにとって自分のことよりもオリヴィアのことが大切なのだ。
「オリヴィアお義姉様!」
「ミランダ……来てしまったのね……。いけない子ね」
オリヴィアは力なく笑う。しかし、思ったよりもダメージは負っていなさそうだ。そのことにミランダはホッと胸を撫で下ろした。どうやらオリヴィアは光の魔力で自身の周囲に結界を張っていたらしい。
光の魔力の結界は、あらゆるものから身を守ることが出来るのだ。
「オリヴィアお義姉様、早く外に逃げましょう!」
ミランダはオリヴィアの手を引き、炎の中を駆け出した。
その際、オリヴィアが光の魔力でミランダのダメージは多少軽減されていた。
オリヴィアもダメージを負っていたので、いつもよりも力を発揮出来ていないらしい。
それでもミランダは先程より動けるようになっていた。
(何としてでもオリヴィアお義姉様を研究棟の外に出さないと!)
ミランダはその思いが強くなった。
必死に走り、研究棟の外が見えて来た。
「オリヴィアお義姉様、もうすぐです!」
「ありがとう、ミランダ」
ミランダとオリヴィアの表情が少し明るくなった。
燃え盛る中、手口が見えたのだ。
二人にとってそれは、希望の光だった。
しかしその時、炎の柱が倒れて来る。
「オリヴィアお義姉様、そのまま真っ直ぐ走ってください!」
ミランダはオリヴィアの手を離し、勢い良くオリヴィアを出口方面に押した。
炎の柱は、ミランダとオリヴィアを引き裂くように倒れるのであった。
「熱っ!」
炎の柱が腕に直撃し、火傷を負うミランダ。
出口へ向かう道が塞がれてしまった。
「ミランダ!」
出口側にいるオリヴィアが悲痛な表情で叫ぶ。
「オリヴィアお義姉様はまだ逃げられます! 早く出口へ!」
「でもミランダが……!」
オリヴィアは今にも泣きそうな表情だ。
「オリヴィアお義姉様、私の魔力が何かご存じですか? 炎ですよ。だからきっと私は炎に強いはずです」
ミランダはオリヴィアに心配かけないよう口角を上げる。
炎の魔力を持つからと言って、炎に強いわけではない。しかし、オリヴィアを安心させる為に出た言葉がそれだったのだ。
「お願い、オリヴィアお義姉様。逃げてください。お願いだから」
ミランダは明るく笑った。
「ミランダ、必ず貴女を助けるから……!」
オリヴィアの紫の目からは、一筋の涙が零れていた。
そのまま出口へ駆け出すオリヴィアを見届けたミランダはホッと安心した。
(良かった。オリヴィアお義姉様は、助かるわ)
その瞬間、ミランダの所に更に炎の柱が倒れて来た。
(さて、私はどうやって逃げようかしら? ……別に、死んでも構わないけれど……私が死ぬべき時は今じゃない。今死んだら、タフマ王国の危機にオリヴィアお義姉様やルシアン様が駆り出される可能性がある。そのせいで、『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』ではオリヴィアお義姉様が必要以上に心身共に負担を強いられてしまう。そんなの駄目! オリヴィアお義姉様には、ルシアン様と一緒に穏やかで幸せに過ごしてもらわないといけないの!)
別に生きることに執着はしていないミランダ。しかし、自分が死ぬタイミングは今ではないので何とか逃げ道を模索していた。
どこへ行っても炎の海。
オリヴィアも弱っていたので、ミランダに張られていた光の結界もついに消えてしまう。
熱過ぎる空気がミランダを襲う。
いくらミランダが炎の魔力の持ち主でも、火の海の中では流石に死んでしまう。
その時、ミランダ目掛けて再び炎の柱が倒れて来た。
(もう駄目なのかしら……)
ミランダの意識はそこで途絶えた。
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