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死にたがりのミランダ  作者: 宝月 蓮
貴族学園編

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25/34

穏やかな幸せ、からの……

 月日は流れたある日。

 タフマ王国の貴族学園にある魔法薬学研究クラブはお祭り騒ぎになっていた。

 オリヴィアとルシアンが開発した新薬の効能が認められて世間で実用化されたのだ。

 オリヴィアとルシアンはタフマ王国国王から勲章を賜り、一躍時の人となった。

 そのお陰でオリヴィアは卒業後に魔法薬学研究室の研究員に内定したのだ。おまけにプラーミア公爵家に嫁いだ後も研究員として働き続けることが可能らしい。

 ルシアンも、卒業後は父であるプラーミア公爵家当主アーネストと共に領地経営を(おこな)いながら、魔法薬学研究所の研究員として働くようだ。


「オリヴィアお義姉(ねえ)様、おめでとうございます!」

 ミランダはまるで自分のことのように喜んでいた。真紅の目はいつも以上にキラキラと輝いており、ルビーのようである。

「ありがとう、ミランダ」

 オリヴィアは照れたように微笑んでいた。

 神秘的な紫の目は、嬉しそうである。


 現在ミランダ、オリヴィア、ブライアン、ルシアンのいつもの四人は、学園のサロンでちょっとしたお祝いをしていた。


「ルシアン様、おめでとうございます」

「ありがとう、ブライアン。でもこれは君のサポートのお陰でもある。私だけの力ではない。私の方こそ、君にお礼を言いたいくらいだ。理論面でブライアンは大活躍だったからな」

「俺は大したことはしてないですよ」

 ルシアンに褒められて照れているブライアンだ。ポリポリと頭を掻いている。

 ミランダはその様子を見てクスッと笑った。

(やっぱりブライアン、凄いじゃない)

 どこか嬉しくなるミランダだ。

「さあ皆様、お菓子と紅茶を楽しみましょう」

 オリヴィアが軽くパンと手を叩き、明るい表情になる。それにつられてミランダ、ブライアン、ルシアンも表情を綻ばせ、お菓子や紅茶に手を伸ばした。

 ミランダはクッキーを口にする。

 サクサクとした食感、そしてバターの風味と優しい甘さが口の中に広がった。

 ふとオリヴィアの方に目を向けると、ルシアンと幸せそうに微笑み合っている。

 どこからどう見てもお似合いの婚約者同士である。

 ミランダはその様子を見て真紅の目を穏やかに細めた。

 すると、ブライアンがこちらを見ていることに気付いた。

「ブライアン、何?」

 ミランダはきょとんとした様子で首を傾げる。

「いや、何でもない」

 ブライアンはフッと穏やかに笑っていた。

「変なブライアン」

 ミランダは思わずクスッと笑ったてしまった。

 一口紅茶を飲むと、口の中がさっぱりとした。

(オリヴィアお義姉(ねえ)様がルシアン様と穏やかな時間を過ごしていて、ブライアンもいる。……こういうのが幸せって言うんでしょうね)

 ミランダはマドレーヌに手を伸ばした。

 しかし、その手はマドレーヌ直前で止まる。

(私……こんなに幸せで良いのかしら……? 前世でも味わえなかった幸せを、享受して良いの……?)

 ミランダの中に、不安が生じる。

 生じた不安は雨雲のように広がった。


 ミランダは前世産後うつになった母親の世話を父親から押し付けられ、父親から怒鳴られ続ける人生だった。それ(ゆえ)に、友達がいたことがない。

 このようにオリヴィア、ブライアン、ルシアン達と穏やかに過ごす時間に幸せを感じる反面、不安を感じることもあるのだ。

(……私が幸せになって良いわけがないのに)

 決まってこの思考に陥るミランダである。

「ミランダ、大丈夫? 浮かない顔をしているけれど、どうかしたの?」

 オリヴィアが心配そうにミランダの顔を覗き込んでいた。

 ミランダはハッとする。

(いけない、オリヴィアお義姉様に心配をおかけするわけにはいかないわ。オリヴィアお義姉様には幸せでいてもらいたいもの)

 ミランダは気持ちを切り替えニコリと笑う。

「何でもありませんわ、オリヴィアお義姉様。授業が意外と忙しくて少し疲れただけです。でも、オリヴィアお義姉様の姿を見たら元気が出ますから」

 オリヴィアの方に身を乗り出したミランダ。

「騎士科の授業、やっぱり大変なのね。無理はしないでちょうだいね」

 オリヴィアは眉を八の字にしてミランダの手をそっと握った。

(オリヴィアお義姉様の手、美しいしスベスベしているわ)

 オリヴィアの手の感触に、思わずニヤけてしまうミランダであった。


 その時、サロンの横を男子生徒二人が通る。

 ミランダ達にも見覚えがある生徒だ。

 その二人は魔法薬学研究クラブに所属している。

「今研究どの段階まで進んでいるのか?」

「聖光草と太陽草を煎じて配合する段階だ」

「太陽草か。火炎草と間違えないようにしろよ。間違えたら爆発事故間違いなしだからな」

「ああ、分かってる。十分(じゅうぶん)気を付けるさ」

 二人の男子生徒はそう話しながらサロンの横を通り過ぎる。

 恐らく研究棟へ向かうのだろう。


「今の二人も、研究が大詰めに向かっているようだな」

 ルシアンは通り過ぎた二人を見て満足そうに口角を上げる。

「そのようですわね。あのお二方の薬学研究が成功して(わたくし)達のように実用化されたら、学園も更に賑わいますわね」

 オリヴィアは鈴の音が鳴るような声でふふっと微笑んでいた。

「太陽草と火炎草……いまだに見分けられる自信がないな……」

 ブライアンは肩をすくめて苦笑した。

「ブライアン、見分けてもらわないと困るわ。大事故に繋がるんだから」

 ミランダはそんなブライアンの肩を軽く叩いた。

 そう言うミランダも、完全に見分けられるかと言われたら自信はないのだが。

 四人は紅茶とお菓子を楽しみながら、会話に花を咲かせていた。

 穏やかで幸福感に溢れた時間がサロンに流れるのであった。






☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨






「あ、そういえば、研究棟に領地経営理論の教科書を忘れておりましたわ」

 しばらくし、ふとオリヴィアがそう呟いた。

「確かオリヴィアの学年は明日領地経営理論の授業があったな」

「ええ。取りに行って参りますわ」

 ルシアンにそう言われ、一旦サロンを後にするオリヴィアであった。

「領地経営理論……。難しそうな授業ですね。オリヴィアお義姉様やルシアン様にとってはきっと簡単なのでしょうけど」

 ミランダは難しそうな授業名を聞いて苦笑した。

「俺も領地経営に関してはさっぱり」

 ブライアンも難しそうな授業名にうげっと言うかのような表情だった。

「ミランダ嬢とブライアンも領地経営理論の授業を取ってみれば案外理解出来ると思うぞ。君達は騎士科の中で成績上位に入っているからな」

「領地経営科で各学年主席の成績を取るルシアン様とオリヴィアお義姉様には及ばないですよ」

 ミランダは改めてルシアンとこの場にはいないオリヴィアに畏敬の念を抱いた。

「確かに、俺もお二人には及びません」

 ブライアンもミランダに共感し、深く頷いた。


 その時、学園内に大きな爆発音が響いた。


「今の音、何!?」

 ミランダは思わず立ち上がる。

 立ち上がる勢いが強かったので、カチャリとテーブルの上のティーカップが揺れた。幸い、中の紅茶が零れることはなかった。

「外の方から聞こえたな。ミランダ、俺が確認する」

 ブライアンはすぐに爆発音が聞こえた場所に近い窓を開ける。

「え……!?」

 窓の外を確認したブライアンは驚愕の声を上げる。

「ブライアン、何があった?」

 ルシアンはブライアンと同じように窓の外を確認する。

「あれは……!」

 ルシアンも驚愕の声を上げた。

 何があったか気になったミランダは二人と同じように窓まで向かう。

「嘘でしょう……!?」

 ミランダは真紅の目を大きく見開いた。

 見えていることが嘘であって欲しいとすら思った。


 研究棟が大きく燃えていたのだ。

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