プライドと決闘の顛末
タフマ王国の貴族学園では、問題事を解決する方法として決闘を行うことが許されている。
ただし、生徒に大怪我がないように教師の立ち合いの下でだ。
ルールは至って単純。
魔法による攻撃が一発でも相手に当たれば勝ちである。
(ああ、本当に面倒なことになったわ)
ミランダは向かいに立つアレックスを見てため息をついた。
「アレックス! 戦闘狂の飛び級生なんかに負けるな!」
「俺達の仇を取ってください!」
アレックス側の応援席からは、令息達の怒号のような声援が響く。
アレックスを応援する者の中には、ミランダが騎士科の授業でコテンパンに打ちのめした相手もいるようだ。
「ミランダ様! 頑張ってください!」
「殿方なんかに負けないで! ミランダ様ー!」
ミランダ側の応援席からは令嬢達の黄色い声援が響いている。ちなみに、その中にはアレックスの婚約者である第二王女ウルスラもいた。
(いやいや、ウルスラ殿下、そこはやっぱり婚約者のアレックス様を応援した方が良いのでは? 私なんか応援する価値ないのに)
ミランダは表情を引きつらせた。
「ミランダ嬢、何をよそ見している? まさかウルスラ殿下のことを見ていたのか?」
キッとミランダを睨むアレックス。
(もう本当に面倒臭い……)
ミランダは決闘を申し込まれてから何度目か分からないため息をついた。
「あの、アレックス様、私に勝ってもウルスラ殿下の心はウルスラ殿下のものですよ。それに、もしウルスラ殿下との関係が不安ならばきちんと話をするべきでは? ウルスラ殿下、話が通じない方ではないと思いますが。ここまで大事にする必要ありました?」
「それは……」
アレックスは悔しそうに口ごもる。
「……ここまで来たら引けるものか。私にもプライドがあるんだ」
拳を握り締め、アレックスは再びキッとミランダを睨む。
(ああ、要するに男のプライドとかいうやつね。巻き込まれた私の身にもなって欲しいわ。わざと負けてさっさと終わらせよう)
手を抜こうとしたミランダである。
その時、よく聞き慣れた声がミランダの耳に届く。
「ミランダ! 私はミランダの味方よ!」
(オリヴィアお義姉様!)
ミランダの真紅の目が輝く。
ミランダ側の応援席の中で、オリヴィアの姿は一際輝いているように見えた。
(……前言撤回。オリヴィアお義姉様には無様な姿を見せられないわ。アレックス様をぶちのめす!)
オリヴィアの声援により、ミランダのプライドがくすぐられたのだ。
立ち会いの教師により、決闘開始の合図が出された。
ミランダはアレックスから飛んで来る水の魔力を軽々と避ける。
(……アレックス様、戦闘慣れしていないわね。魔力に芯が通っていないわ)
騎士科在籍で、おまけに騎士団で訓練もしているミランダは魔力を用いた戦い方を知っている。
そしてミランダは上手く魔力をコントロールし、アレックスに向けて炎の魔力を放った。
まるで炎のドラゴンのようにミランダの魔力はアレックスに向かって行く。
観客席はその様子に目を奪われていた。
しかし真正面からアレックスに向かっていたので、避けられてしまう。
「中々の魔力だが、そんなものか」
アレックスはフッと笑う。
しかしその直後、炎のドラゴンはアレックスの背後から現れた。
「何!?」
アレックスは驚愕している間に、炎のドラゴンに飲み込まれてしまった。
「そこまで! 勝者、ミランダ・エードラム!」
立ち合いの教師の合図に、ミランダ側の応援席は湧き、アレックス側の応援席は分かりやすく落胆した。
ミランダはふとオリヴィアの方を見ると、オリヴィアはホッとしたように喜んでいた。
(良かったわ。オリヴィアお義姉様の前で醜態を晒さずに済んだわ)
ミランダはふうっと一息つき、口角を上げた。
☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨
「ミランダ、お疲れ様」
「ありがとうございます、オリヴィアお義姉様。ルシアン様もいらしたのですね。ブライアンも」
ミランダはようやくルシアンとブライアンの存在に気付いた。
「ミランダ嬢、見事だった」
「お前、本当にオリヴィア嬢のことばっかりだな」
称賛の言葉を述べるルシアンと若干呆れ気味なブライアンである。
「ミランダー!」
そこへ良く通る声が響き渡る。
その声を聞くと、ミランダだけでなくオリヴィア達など周囲の者達の背筋もピンと伸びた。
「ウルスラ殿下……」
ミランダの表情は若干引きつってしまう。
彼女はある意味この決闘騒動の原因でもあるからだ。
チラリと少し離れたアレックスの様子を見ると、彼は恨めしそうにミランダを睨んでいる。
「おめでとう、ミランダ。とても格好良かったわ」
キャッキャッとはしゃぐウルスラ。
「……ありがとうございます。殿下は……アレックス様の元へは行かれないのですね」
失礼のないよう気をつけるが、やはり表情が引きつったままのミランダである。
「え? だってアレックスとは将来結婚して一緒に暮らすのよ。学生時代くらい、同性同士で自由に過ごしたいわ」
ウルスラのピンクの目は、どこまでも純粋だった。
(うわあ……。婚約者そっちのけで学生の間は自由に遊びたいって……。これ、前世で読んだことがあるライトノベルの、身分の低い令嬢と浮気してざまぁ、廃嫡される馬鹿王子と似たような言動ね。まあ、ウルスラ殿下は同性同士で楽しみたいと仰っているし、浮気とは違うけど……)
ミランダは遠い目をしていた。
「そうですか。……ウルスラ殿下は……アレックス様のことが嫌いではないのですよね?」
ミランダは恐る恐るウルスラに聞いた。
「え? 別に嫌いじゃないわ。アレックスのことは、むしろ好きよ。婚約者だから当たり前じゃない」
ウルスラの表情は無邪気にキラキラとしていた。
「……それをアレックス様にも伝えてあげてください。何と言うか……アレックス様が可哀想ですから」
「そうなの? ミランダがそう言うなら、そうしてみるわ」
どこまでも無邪気で純粋なウルスラだった。
ミランダはその姿に思わず苦笑してしまう。
(うん、ウルスラ殿下、本当に素直な方なのよね)
「ミランダ、何と言うか、色々災難だったな」
ブライアンはフッと苦笑しながらミランダの肩をポンと軽く叩いた。
「ええ、まあ……」
ミランダはどっと疲労に襲われたような感覚になる。
「ミランダは人気者ね」
「確かに。ミランダ嬢は令嬢方からの支持が厚い。そこらにいる男よりも格好良いとな」
オリヴィアとルシアンはクスクスと穏やかな表情である。
(女子校の王子様とか歌劇団の男役みたいってこと? ……あんまりピンと来ないわね。……まあ、オリヴィアお義姉様が幸せならばどうでも良いのだけど)
ミランダは自分の立ち位置に戸惑うのであった。
ちなみに、ミランダの助言(?)によりウルスラとアレックスは話をしたようで、二人の仲はより深まったとか。
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