ブレないミランダ
ミランダがタフマ王国の貴族学園に入学して数日後のこと。
「本日は小型魔獣を模した魔道具との模擬訓練を行う」
騎士科の講義担当の教師がそう言った。
騎士科のカリキュラムは座学だけでなく剣術など戦闘系の授業もある。
この時間は魔獣との戦い方を学ぶ。
小型魔獣を模した魔道具は随分と可愛らしく、騎士科の生徒達の表情は思わず綻んでいた。
「君達、確かに可愛らしい魔獣に模した魔道具だが、油断は禁物。実際に可愛らしくこちらの警戒心を緩めるような姿の魔獣でも、凶暴で危害を加えて来る場合がある」
騎士科の教師はそう注意した。
しかし実践開始しても、可愛らしい魔獣に模した魔道具相手に本気を出せない生徒達。
実践系の授業だが、どこか緩い雰囲気になっていた。
そんな中、異様な雰囲気を放つ生徒がいた。
ミランダである。
ミランダは可愛らしい魔獣に模した魔道具相手に容赦なく炎を放つ。
おまけに剣で魔獣に模した魔道具を真っ二つに切り捨てた。
更に、魔獣に模した魔道具が動かなくなっても攻撃を続けていたのだ。
(私はオリヴィアお義姉様を守る為に存在しているのよ! ほんの少しの油断がオリヴィアお義姉様を危険に晒すかもしれない! そんなこと、絶対にあってはいけない! オリヴィアお義姉様は、ずっと安全な場所で幸せになるべきなんだから!)
ミランダの行動原理は全てオリヴィアの幸せである。
しかし、その真紅の目は側から見れば異様だった。
周囲の生徒達はドン引きである。
「ミランダ・エードラム、確かに油断はするなと言ったが……君の場合はやり過ぎだ。魔道具が修復不可能なくらいに壊れているぞ」
教師も苦笑しながらドン引きであった。
☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨
授業が終わり、休憩時間になった。
ミランダの隣にブライアンがやって来る。
「ミランダ、さっきの一体何だよ? やり過ぎじゃないか?」
ブライアンは若干呆れ気味に苦笑している。
「油断は禁物と言われたから、その通りにしただけよ」
ミランダは当たり前のようにそう答えた。
「いや、確かに先生から言われたけどよ。まさか魔道具を修復不可能なくらいに壊すとは思わなかっただろう。それにさミランダ、お前、この前の剣術の授業でも剣に炎の魔力を込めて相手を戦闘不能に追いやっただろう。あれもやり過ぎじゃないか?」
「だって剣術はいざ戦う為のものでしょう。どんなやり方でも、こっちが勝って相手は私達の味方に危害が加えられないようにすることが大切なのよ。特に、オリヴィアお義姉様を守る為にはね」
「ミランダ、お前相変わらずブレないな……」
ブライアンはミランダの行動原理に苦笑した。
☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨
昼休みになった。
ミランダは昼食を取ろうとカフェテリアに向かっていた時のこと。
(あ、オリヴィアお義姉様だわ!)
オリヴィアの後ろ姿を見かけたので、ミランダはパアッと表情を明るくする。
しかし次の瞬間、オリヴィアの身に起こっていることを知り、険しい表情になった。
「貴女、ルシアン様の婚約者なのですって?」
「はい、そうですが」
上級生らしき紳士淑女科の女子生徒達に詰め寄られるオリヴィア。
「まあ、どんな手を使ってルシアン様を誑かしたのかしら」
紳士淑女科の上級生はルシアンの婚約者であるオリヴィアを気に入らないようだ。
(ああ、やっぱり思っていたことが起きてしまった)
ミランダは急いでオリヴィアの元へ駆け付けた。
その際、手から炎の魔力を発現する。
「オリヴィアお義姉様!」
「ミランダ……その炎……」
オリヴィアは困惑したように微笑む。
「貴女達、オリヴィアお義姉様にどういったご用です? オリヴィアお義姉様がルシアン様を誑かしたとか聞き捨てならないことが聞こえましたが」
ミランダは手に炎を発現させたまま紳士淑女科の上級生達に詰め寄った。
上級生達はミランダの手の炎に当たりそうだったので、後退りする。
「な、何なのよ貴女は」
「オリヴィアお義姉様の義妹でございます。貴女達は……オリヴィアお義姉の欠片も魅力がないようですね」
ミランダは上級生達を挑発した。
「何ですって!? 熱っ!」
ミランダの言葉に腹を立てた上級生の一人がミランダに詰め寄るが、ミランダの手の炎に触れたようで火傷をした。
「あら、大変ですわね。でも、私は魔力のコントロールの練習をしていただけ。先に炎に触れたのは貴女です。これは貴女の過失ですね」
ミランダはクスクスと笑う。
(オリヴィアお義姉様にいちゃもんを付けたのよ。当然の報いね)
「貴女、その炎をしまいなさいよ!」
「どうしてです? 学園内で魔力のコントロールの練習は禁止されておりませんが」
相変わらずクスクス笑っているミランダ。
ミランダがやっていることは学園の規則にギリギリ違反しない行為である。
それを分かってやっているミランダだ。
「というかこの子、オリヴィア・エードラムの義妹だと言っていたわよ」
「え……!? じゃあ噂のミランダ・エードラム……!?」
どうやら上級生達はミランダのことを知っているようだ。
先程の腹を立てた表情から一変し、ミランダを見て恐れをなしたような表情になる。
(……? 何なのかしら?)
上級生達の突然の豹変に、ミランダは首を傾げる。
「……行きましょう」
「……ええ」
上級生達はその場を立ち去った。
(本当に何だったのかしら?)
ミランダの疑問は消えなかった。
しかし、そんなことよりも大切なのはオリヴィアである。
「オリヴィアお義姉様、大丈夫ですか?」
「ええ、ミランダ。ありがとう。でもミランダ、あまり危険なことはしないでちょうだいね」
オリヴィアは眉を八の字にして、困ったように微笑んでいた。
「でも、私はオリヴィアお義姉様に何かあったらいてもたってもいられません」
ミランダは手の炎を消し、オリヴィアの手を握る。
「ミランダ……」
オリヴィアは目尻を下げた。
「ミランダ、お前本当に相変わらずだな」
そこへ、ブライアンがやって来た。
どうやら呆れ気味の様子だ。
「何よ、ブライアン」
オリヴィアとの時間を邪魔されたので、ミランダはムッとした表情になる。
「ミランダ、お前裏で何て言われているか知ってるか?」
「は?」
「騎士科の授業でめちゃくちゃな戦い方をするから『戦闘狂の飛び級生』とか、『騎士科の狂犬』って呼ばれてるんだよ。さっきのことも加わって、そのうち『苛烈伯爵令嬢』とか呼ばれたりな」
ブライアンはため息をついて苦笑していた。
「私の呼び方なんてどうでも良いわ。それよりオリヴィアお義姉様、お義姉様があんな目に遭わないよう私、頑張ります」
ミランダはオリヴィアの方を向き、そう意気込む。
ふんすっと鼻息が漏れていた。
「それはありがたいけれど……ミランダ、貴女はもっと自分が楽しむことを考えても良いのよ。私は貴女が学園生活を目一杯楽しむことを望むわ」
ミランダの意気込みをよそに、オリヴィアの紫の目は、心配に染まっていた。
読んでくださりありがとうございます!
少しでも「面白い!」「続きが読みたい!」と思った方は、是非ブックマークと高評価をしていただけたら嬉しいです!
皆様の応援が励みになります!




