ミランダの執念
時は一年前に遡る。
ミランダ、オリヴィア、ブライアンは完全にルシアンと気心知れた仲になり、当たり前のようにプラーミア公爵家に招待される存在になった。
この日もミランダ達はルシアンからプラーミア公爵家に招待され、お茶会を楽しんでいた。
「オリヴィアとブライアンも来年には貴族学園に入学か」
紅茶を音もなく上品に啜り、ルシアンは口元を綻ばせた。
ルシアンは既にオリヴィアと婚約しており、誰も邪魔できないくらいに仲も良いので、オリヴィア嬢からオリヴィア呼びになっている。
「はい。ルシアン様は魔法薬学研究クラブに所属していらっしゃるのですよね?」
オリヴィアがそう聞くと、ルシアンは「ああ、そうだ」と優しく頷く。
オリヴィアに向けられる緋色の目はとても優しく、オリヴィアが特別な存在であると言っていることが周囲にも分かる。
オリヴィアも紫の目を真っ直ぐキラキラとルシアンに向けている。こちらも、ルシアンが大切な存在であることを周囲に語っているようだった。
ミランダはそんな二人の様子を見て、マドレーヌを食べながらニマニマと口角を緩めている。
(オリヴィアお義姉様とルシアン様……! お互いに大切に想い合う婚約者同士! ずっとこの視線のやり取りを見ていたい!)
「おーいミランダ、締まりがない顔になってるぞ」
ブライアンはマドレーヌを一口食べ、そんなミランダに対して苦笑していた。
「私も来年貴族学園に入学したら、魔法薬学研究クラブに入ろうと思います」
オリヴィアは紫色の目を輝かせた。その目はまるでアメジストのようである。
ミランダはそんなオリヴィアの様子にうっとりと真紅の目を細めていた。
「ああ。オリヴィアが魔法薬学研究クラブに入って来ることを楽しみにしている。オリヴィアとは学園でも議論をして一緒に論文を書きたいとも思っている」
ルシアンの緋色の目は楽しそうに輝いている。まるでガーネットのようだ。
(そういえば、『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』原作でのルシアン様は若くして公爵位を継いで学園に通う余裕がなかったのよね。それに、こんな風にルシアン様は興味のある魔法薬学を極めることも出来なかった。今のルシアン様は、本当に楽しそうだわ)
ミランダはまるで親のような心境になっていた。
「ブライアン、君は騎士科に入学予定だったな」
「ええ。領地経営科や紳士淑女科よりも一番肌に合うと思ったので。騎士団にもお世話になっていますし」
タフマ王国の貴族学園には領地経営科、騎士科、紳士淑女科の三つの学科がある。
領地経営科はその名の通り領地経営に関する知識を学ぶ。家を継ぐ長男や長女が多く集まる学科だ。もちろん、家を継がない者でも領地経営科で学ぶことは可能である。
騎士科は剣術や魔力を使った戦闘方法、国防や魔獣撃退方法などを学ぶ。座学よりもやや実践講義の方が多いことが特徴だ。
紳士淑女科は嫁入りや婿入りをする貴族の子女向けの学科である。他の二つの学科よりも緩いと言われているらしい。しかし、礼儀作法などはしっかり詰め込まれるそうだ。
(『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』では、ブライアンは紳士淑女科だったわ。でも、今のブライアンは違うのね。確かに、騎士団に入っているのだし)
ミランダはブライアンが騎士科に入ることを知り、真紅の目を丸くした。
(そういえば、原作でオリヴィアお義姉様は後継なのにも関わらずゴミ両親から紳士淑女科に入れられて、ミランダは領地経営科だったわ。でも、課題とかは全てオリヴィアお義姉様に押し付けていた。考えるだけでもミランダってゴミ屑だわ)
原作情報を思い出し、ミランダは自嘲した。
「まあ、ブライアン様はやはり騎士科ですのね」
「領地経営科の私やオリヴィアとは学科が違うが、それでも被る講義はあるな」
その時、ミランダはあることに気付き、紅茶を飲もうとした手を止めた。
(待って……。私は今十四歳。オリヴィアお義姉様は今十五歳で来年貴族学園に入学。その時にルシアン様は十八歳で最高学年。つまり、私が入学した時にルシアン様は卒業して、オリヴィアお義姉様とルシアン様の学園内でのイチャイチャが見られない……!)
その事実に気が付いたミランダは頭の中が真っ白になった。
「ミランダ……? 固まってしまっているけれど、どうしたの?」
オリヴィアがミランダを心配そうに覗き込む。
「オリヴィアお義姉様……」
ミランダはティーカップをそっと置く。
淑女教育のおかげでカチャリと音を立てずに済んだ。
「私、オリヴィアお義姉様と一緒に来年貴族学園に入学したいです!」
思わず声が大きくなってしまうミランダ。
「ミランダ、それは嬉しいけれど年齢的に貴女の入学は再来年よ」
オリヴィアは少し困ったように微笑む。
「どうにかして私の入学を来年に出来る方法はありませんか!?」
ミランダは必死だった。
このままではオリヴィアとルシアンが学園で仲睦まじく過ごす様子を見ることが出来ないのだ。
魔法薬学研究所やプラーミア公爵邸などで二人の様子は見ることが出来るが、学園という特殊な空間でしか得られない二人の仲睦まじい様子が見たいミランダである。
「ミランダ、無茶言うな。オリヴィア嬢を困らせてどうする」
ブライアンは呆れながら苦笑した。
「いや、ミランダ嬢、出来ないこともないぞ。飛び級試験に合格すれば、十五歳になった君でも貴族学園に入学は可能だ。それならば、オリヴィアと同じタイミングで学園に通えるぞ」
「飛び級試験……! 私、受けます! 騎士科の飛び級試験を受けます!」
ミランダは勢い良く立ち上がった。
こうして、ミランダは騎士団での鍛錬などと並行し、タフマ王国貴族学園の飛び級試験の勉強を始めた。
そして見事に貴族学園騎士科の飛び級試験に合格し、オリヴィアと同じタイミングで貴族学園に入学することになったのだ。
ミランダの執念、恐るべし。
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