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死にたがりのミランダ  作者: 宝月 蓮
子供時代編

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13/34

オリヴィアを守る為に

 ユーベル公爵家に雇われていた悪漢に囲まれたミランダとオリヴィア。

(この状況、オリヴィアお義姉(ねえ)様をどう逃したら良い?)

 ミランダは必死に打開策を考えていた。

(コイツらは私達のどっちがオリヴィアお義姉様か分かっていない……!)

 ミランダは悪漢達の会話を思い出してハッとした。

「私が……!」

 ミランダは思わず声を上げる。

「私がオリヴィア・エードラムよ!」

 ミランダは立ち上がり、悪漢達をキッと睨む。

「え……?」

 オリヴィアはか細く戸惑いの声を上げた。

「コイツがオリヴィア・エードラムか」

 悪漢の一人がミランダに顔を近付けニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。

 ミランダは思わず後退(あとずさ)りするが、悪漢達を強く睨み付けている。

「そうよ! だからこの子は関係ない! 何かするなら私だけにしなさい! 身代金を要求するにしても、どこの家か分からないし本当のことを言うかも分からないのだから、この子に何かしてもきっと何もならないわ! 私なら、エードラム伯爵家の人間だって分かるから身代金も要求しやすいでしょう!」

 ミランダはキッと悪漢達を睨む。その真紅の目は力強かった。

「その通りだな」

 リーダー格の男はクッと笑う。

「お前ら、この餓鬼を連れて行け。もう一人の方はその辺に放っておけ。俺達はこの餓鬼に復讐出来たら良いんだ。身代金もたんまり要求出来るだろうし」

「そんな……!」

 リーダー格の男の指示に、オリヴィアはか細い声を出した。

 ミランダはそんなオリヴィアを抱きしめ、耳元で囁く。

「お義姉様は逃げてください。私は大丈夫ですから」

 ミランダはオリヴィアを安心させるように微笑んだ。

 そして、ミランダは悪漢達に乱暴に連れて行かれた。

 その際、オリヴィアがプラーミア公爵邸に向かうことを確認し、ミランダは安心した。

(きっとオリヴィアお義姉様の安全は確保されるわね)






☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨






 悪漢達に連れ去られ、粗末な荷物運び用の馬車に乗せられるミランダ。手足は縛られている。

(……乗り心地は最悪ね)

 ミランダは内心ため息をつく。

 エードラム伯爵家の馬車とは大違いである。おまけに平民時代にも辻馬車に乗ったことはあるが、ここまで乗り心地は酷くなかった。

 馬車が揺れる度にロープが縛られた手足に食い込み痛みを感じるミランダ。

(でも、オリヴィアお義姉様が無事なら何でも良いわ。私はどうなろうと構わない。むしろ、こんな目に遭っているのが私で良かったわ)

 自分がこれから酷い目に遭わされるであろうにも関わらず、ミランダはオリヴィアを逃がせたことに安心していた。


 気付けば馬車を降ろされ、粗末な小屋に連れて行かれたミランダ。

「さて、どうしてくれようか。オリヴィア・エードラム、俺達はお前のせいで報酬を受け取れなかったんだ」

 リーダー格の男はポキポキと腕を鳴らした。

 ミランダの真紅の目はスッと冷える。

「この餓鬼、もうちょっと大人ならば()()()()のになあ」

 悪漢の中の一人が残念そうにミランダを睨む。

 場合によっては厭らしい欲望をミランダにぶつけていたらしい。

「本当に下衆ね」

 ミランダは悪漢達をキッと睨んだ。

「何だと!?」

 悪漢の一人はミランダの腹部を容赦なく蹴り飛ばした。

 ミランダは痛みに表情を歪めながら床に倒れ込む。

(このくらい、何てことないわ。そういえば、前世で私がこっそりイベントに行った時、母が処方された睡眠薬の過剰摂取で昏睡状態になったわね。その時、父はこんな風に私を殴り飛ばしたっけ)

 ミランダは暴力を受けながら、前世のことを思い出した。


『お前は価値のない出来損ないの人間だ!』

『出来損ないのお前を好きになる奴なんて誰もいない!』


 前世の父親から吐かれた暴言が蘇る。

 その間にも、ミランダは悪漢達から暴力を振るわれていた。

(ああ、多分私、殺される)

 ミランダは何となくそれを悟った。


『お母さんじゃなくてお前が昏睡状態になれば良かったんだ!』

『もうお前は死んじまえ!』


(黙れクソ親父。私の命に価値がないことくらい知っているわ。だけどね、この価値のない命で私の大好きなオリヴィアお義姉様を守れるのなら、それで十分(じゅうぶん)よ!)

 ミランダは激しい痛みを感じる中で、フッと口角を上げた。

 

 その時、小屋の扉がバンッと勢い良く開き、騎士団らしき者達が中に押し寄せて悪漢達を捕縛した。

 暴力を振るわれ続けたミランダはぼんやりとその様子を見ることしか出来ない。

 何が起こっているのかすら分からなかった。

「ミランダ!」

 不意に、ブライアンの声が聞こえた気がした。

(ブライアン……?)

 何やら血相を変えている気がするなとぼんやりとした頭で思うミランダ。

 そこでミランダの意識は途切れた。






☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨






「あ……」

 ぼんやりと目を開けると、見慣れない豪華な天井が目に入った。

 どうやらベッドに寝かされていたらしい。

「ミランダ! 気付いたのね! 良かった……!」

 目の前で、オリヴィアがミランダの手を握っていた。その紫の目からはポロポロと涙が流れている。

(オリヴィアお義姉様……涙を流すお姿も麗しい女神のよう……。オリヴィアお義姉様が流す涙はきっと水晶だわ)

 ミランダはぼんやりとしながらうっとりとしていた。

(ってそうじゃなくて!)

 ミランダはオリヴィアが涙を流していることにハッとする。

「オリヴィアお義姉様、どうして泣いているのです? 誰かに何かされたのですか?」

「ミランダ、オリヴィア嬢が泣いているのはお前が原因だぞ!」

 オリヴィアとは反対側にいたのはブライアン。

 ブライアンは安心したような、怒ったような表情である。

「私が……オリヴィアお義姉様を泣かせてしまっった……。オリヴィアお義姉様、申し訳ございません」

「ミランダ、違うの。謝らなくて良いの。むしろ(わたくし)のせいで貴女をこんな酷い目に遭わせてしまったわ。本当にごめんなさい」

 ポロポロと涙を零すオリヴィア。

 ようやくミランダは自分が悪漢達から助け出されたことに気付く。

「オリヴィアお義姉様が謝ることではありません。全て私が勝手にやったことです。だからオリヴィアお義姉様が気に病む必要はこれっぽっちもないですよ。むしろ、オリヴィアお義姉様が捕まらなくて本当に良かったです」

 ミランダはどこにも怪我がないオリヴィアを見て、心底安心していた。

「ミランダ嬢」

「ルシアン様……!」

 ルシアンの姿に気付き、ミランダは体を起こそうとした。

「ああ、無理に体を起こさなくて構わない」

「申し訳ございません……」

「謝る必要もない。ただ、君は奴らから激しい暴行を受けていたから、オリヴィア嬢が光の魔力で治療をした」

「オリヴィアお義姉様が……!」

 ミランダは真紅の目を大きく見開いた。

 オリヴィアの光の魔力は外傷を治癒出来る。おまけに痛みも取り除けるのだ。

 ミランダは激しい暴行を受けたが、オリヴィアの魔力で治癒したお陰で全く痛みがない。

「……オリヴィアお義姉様、お手数おかけしました」

 ミランダは申し訳なくなった。

「ミランダ、謝らなくて良いのよ」

 オリヴィアは泣きそうになりながら首を横に振った。

 ふと見ると、プラーミア公爵夫妻やアンブローズとヴェロニカもいた。

「オリヴィア嬢が血相を変えて俺達の所に来た何事かと思った。ミランダ、お前無茶しすぎだろう」

 ブライアンの黄色の目には涙が溜まっているようだ。

「ブライアン……。もしかして、助けに来てくれたの?」

 ミランダは意識が途切れる前、ブライアンの声が聞こえたことを思い出した。

 ブライアンは涙を拭い、「騎士団について行っただけだ」と答えた。


 オリヴィアを狙い、ミランダを攫った悪漢達は騎士団により捕縛されたようだ。

 これでユーベル公爵家が引き起こそうとした件についての関係者は全員逮捕されたらしい。


「ブライアンにも迷惑かけたわね。……ごめんなさい。プラーミア公爵閣下、公爵夫人、アンブローズ様、ヴェロニカ様、この度は多大なるご心配をおかけして本当に申し訳ございません」

 ミランダの中にはひたすら申し訳なさがあった。

(私は価値がない存在、しかも悪役の義妹(いもうと)ミランダなのに、こんなにも大勢の人に迷惑をかけてしまった……。私は悪漢達に殺されるべきだったのに……)

 ミランダは俯きながらもう一度「本当に申し訳ございません」と謝った。

 申し訳なさ過ぎて皆の表情を見ることは出来なかった。


 だからミランダは知らない。

 ミランダが謝る度に皆が悲しそうな表情になっていたことを。


「……言う言葉が違うだろうが」

 ブライアンが悔しそうにポツリと呟いた。しかし、その言葉はミランダの耳に届いていなかった。

読んでくださりありがとうございます!

少しでも「面白い!」「続きが読みたい!」と思った方は、是非ブックマークと高評価をしていただけたら嬉しいです!

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子供時代編はこれで完結です。

次回から新章に入ります。

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― 新着の感想 ―
刷り込まれて自分を大事にできないミランダちゃんが悲しいです( ノД`)… 新章で変化があるといいな。 前世の父親め…… 娘が亡くなった後で思い切り苦労してて欲しいですね!
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