全てをオリヴィアの手柄にした結果
「オリヴィア嬢、両親の馬車の件、本当にありがとう。もし君が気付かなければ、父上も母上も命を落としていた可能性すらある。本当に感謝してもしきれないくらいだ」
ルシアンはガーネットのような緋色のを真っ直ぐオリヴィアに向けていた。
オリヴィアはルシアンの両親アーネストとセレストが乗る予定だった馬車の車輪に細工されていることに気付いたことで、二人が事故に遭い命を落とす未来を防いだのだ。
「いえ、ルシアン様。私は大したことはしておりませんわ。それに、ミランダが馬車の車輪の仕組みについて勉強していなかったらきっと私も気付かなかったでしょうし」
「いいえ、オリヴィアお義姉様! これはオリヴィアお義姉様の手柄ですわ! 私は勉強しても気付きませんでしたから! ルシアン様、きっかけはどうであれ、車輪の細工に気付いたのは他でもないオリヴィアお義姉様ですわ!」
謙遜するオリヴィアに対し、ミランダは前のめりになった。
(やっぱりオリヴィアお義姉様を馬車の車輪の勉強に付き合わせたことで、オリヴィアお義姉様は私以上の知識を身に付けた。オリヴィアお義姉様ならば、『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』の展開通りに細工された馬車の車輪にも気付くと思ったわ! 流石はオリヴィアお義姉様!)
原作通りの展開ならば、ルシアンの両親アーネストとセレストは細工された馬車に乗り、事故で命を落としていた。
それにより十四歳でプラーミア公爵家を継がざるを得なくなったルシアンは、プラーミア公爵家を守る為に冷酷になる。
しかしその展開をミランダはオリヴィアに防いでもらったのである。
「オリヴィア嬢、改めて礼を言う。両親の馬車の件、本当にありがとう。全ては君のおかげだ」
ルシアンは再び緋色の目を真っ直ぐオリヴィアに向け、彼女の手を握った。
恐らくルシアンの中でオリヴィアの存在は大きくなっているだろうとミランダは思い、密かに口角を上げる。
(ええ、その調子よ。ルシアン様には素敵なオリヴィアお義姉様に夢中になってもらわないと)
「もったいないお言葉ですわ」
オリヴィアは少しはにかんでいた。
(オリヴィアお義姉様も、ルシアン様を意識し始めている頃かしら? それにしても、オリヴィアお義姉様とルシアン様のやり取りを目の前で見られるなんて……何て幸せなことでしょう!)
ミランダの口角は思わず緩んでしまう。
「そしてミランダ嬢」
「はひっ!?」
突然ルシアンから呼ばれ、ミランダは変な声を出してしまう。
しかしオリヴィアとルシアンの二人はそんなミランダを笑ったりはしない。
「今回の件の背景には君がいることも覚えておこう」
「いえいえ、そんな……」
ミランダは思わず恐縮してしまった。
「人生、何がきっかけで悲劇を回避出来るか分からないものだな」
ルシアンはフッと笑う。
「確かにそうですわね」
オリヴィアは柔らかな表情だ。
穏やかに微笑み合うオリヴィアとルシアンを見て、ミランダは二人の仲が着実に深まっていることを確信してホッとしていた。
☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨
「それにしても、オリヴィア嬢は凄いな。ミランダが興味を持ったことに関しても、ミランダ以上の知識を身に付けて今回のプラーミア公爵閣下達の件を未然に防いだなんて」
「ええ、そうよブライアン。オリヴィアお義姉様は素晴らしいわ」
「お前、本当にオリヴィア嬢至上主義だな」
いつも通りのミランダにブライアンは苦笑した。
「でも、お前があの場で馬車が見たいだなんて言わなかったら、オリヴィア嬢だって気付かなかっただろう。半分くらいはお前の手柄でも良くないか?」
「いいえ、気付いたのはオリヴィアお義姉様よ。だから全てオリヴィアお義姉様の手柄。プラーミア公爵夫妻だって、オリヴィアお義姉様を褒めていらしたし。オリヴィアお義姉様が周囲から認められて、幸せになることが私にとって一番の幸せなの」
それは昔から変わっていないミランダの本心である。
「そうかよ。でも俺は……お前のことも覚えておくから」
ブライアンは少し頬を赤く染めながら、黄色の目を真っ直ぐミランダに向ける。
「何よそれ。変なブライアン」
ミランダは思わずクスッと笑ってしまった。
その時、不意に、前世父から言われた言葉が蘇る。
『お前は価値のない出来損ないの人間だ!』
それはミランダの心に染み付いて離れない言葉である。
「私なんかのことを覚えておいても、何の得にもならないわよ」
表情を曇らせるミランダ。
「別に得したいわけじゃない。ただ俺は……」
ブライアンはそこで黙り込む。
その時、風が吹きミランダのピンク色の髪とブライアンのブロンドの髪がなびく。
「俺がそうしたいだけだ」
「何よそれ。ブライアンってやっぱり変わってるわね」
ミランダは思わず表情を綻ばせた。
「お前も相当変わり者だぞ」
ブライアンはフッと笑った。
☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨ ☨
数日後、ミランダ、オリヴィア、ブライアンの三人は再びプラーミア公爵家に招待された。
前回は馬車騒動でゆっくり出来なかった。よって今回仕切り直しをするようだ。
「前回は色々騒がせてすまなかったな」
「いえ、ルシアン様が謝ることではありませんわ」
申し訳なさそうなルシアンに寄り添うようなオリヴィア。
「一応皆には報告しておく。あの馬車に細工をしたのはユーベル公爵家の人間だった」
「ユーベル公爵家……」
ミランダはその名前に聞き覚えがあった。
「ユーベル公爵家って、プラーミア公爵家と敵対している家でしたよね?」
ブライアンが聞くと、ルシアンは「その通りだ」と頷いた。
「父上と母上を事故に見せかけて殺して、プラーミア公爵家を弱体化させようとしていたらしい。一族全員今回の件に関わっていたから、ユーベル公爵家の者達は全員逮捕された。父上が手を回しているから、ユーベル公爵家は取り潰しになるみたいだ」
「あらまあ……。でも、そういった厳しい措置も時には必要ですわよね」
オリヴィアは初めて貴族社会の厳しさに触れ、表情を引き締めていた。
(『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』でも、ちらっとユーベル公爵家の名前は登場したわ。確かに、馬車に細工をしてルシアン様のご両親……プラーミア公爵夫妻を殺害した犯人はユーベル公爵家の人間だったわ。ユーベル公爵家の一族全員がプラーミア公爵家を潰そうとしていた。原作ではプラーミア公爵家を継いだルシアン様がそれに気付いてユーベル公爵家に過剰制裁だったわ。タフマ王国を激震させて、冷酷と言われることに拍車がかかったのよね)
ミランダは原作の展開を思い出していた。
「でも、オリヴィア嬢のお陰で父上と母上は何ともなかった。本当に感謝している」
「恐縮ですわ、ルシアン様」
ルシアンはオリヴィアに優しい視線を向け、オリヴィアは穏やかに微笑みながら肩をすくめていた。
「さあ、改めて今日は楽しもう。紅茶とお菓子をたくさん用意している」
「紅茶とお菓子……!」
ミランダはルシアンの言葉に思わず真紅の目を輝かせる。
「ミランダったら」
オリヴィアはそんなミランダにふふっと楽しそうに笑う。
「色気より食い気だな」
ブライアンはやや呆れたように苦笑していた。
その後、紅茶とお菓子を楽しみながらミランダ達は談笑した。
まるで小さなお茶会である。
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小さなお茶会が落ち着いた後、ミランダ達はプラーミア公爵邸の庭園を回っていた。
「わあ……素敵ですわ……!」
オリヴィアは庭園の色とりどりの花々をみてうっとりと花が咲いたような笑みを浮かべる。
(オリヴィアお義姉様の笑顔……庭園の花よりも勝るわ!)
ミランダはそんなオリヴィアにうっとりとしていた。
「立派ですね、ルシアン様」
「プラーミア公爵家自慢の庭園だ」
ブライアンとルシアンはそう談笑している。
「ええ。……ただ、この一画の植物達は他と比べると成長が遅いようですが」
「ああ。この区画の土壌は養分が少ないらしいな」
「もしよろしければ、俺の土魔法で何とかしましょうか?」
ブライアンがおずおずと提案すると、「頼む」とルシアンは頷いた。
ブライアンは土に手をかざし、魔力を注ぐ。
するとみるみるうちに植物が他の区画と同程度に成長した。
(そういえば、ブライアンもオリヴィアお義姉様と同じ十二歳。神殿へ魔力判定に行ったのね。『捨てられた光の乙女、冷酷公爵に溺愛される』の通り、ブライアンは土の魔力持ちなのね)
ふとミランダはその情報を思い出していた。
「ミランダ、向こうにも美しい花があるわ。一緒に見に行きましょう」
オリヴィアに声をかけられてミランダはハッとする。
「はい、オリヴィアお義姉様!」
ミランダはオリヴィアに誘われたことが嬉しく、満面の笑みになった。
ここで、ミランダとオリヴィア、ブライアンとルシアン、男女で別れて行動することになったのだ。
「本当に素敵ね、ミランダ」
「ええ、オリヴィアお義姉様」
ミランダはオリヴィアと一緒に庭園を眺めている。
気が付くと、プラーミア公爵邸の裏門付近までやって来ていた。
ミランダとオリヴィアは、しゃがみ込みそっと美しい花に触れる。
二人揃って隅々まで手入れされた庭園に夢中であった。
だから気付かなかった。
二人の背後から何者かが迫っていることに。
「え……?」
ミランダが不意に視線を上げると、そこにはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる男達がいた。
明らかにプラーミア公爵家の関係者ではなさそうである。
恐らくどこかから侵入したのであろう。
「コイツらのどっちかだよな?」
「ああ、オリヴィア・エードラムはどっちかのはずだ」
オリヴィアは自身の名前が呼ばれたことで少し怯えていた。
ミランダはそんなオリヴィアを抱きしめて安心させようとする。
(何なのコイツら!? 狙いはオリヴィアお義姉様!?)
「オリヴィア・エードラムのせいで俺達に報酬を払うユーベル公爵家がなくなって、金を得られなかったんだ。復讐くらいしないとな」
「本当にな。忌々しい餓鬼だぜ、オリヴィア・エードラムって奴は」
苛立ちを隠そうともしない男達。
(つまりコイツらはユーベル公爵家がプラーミア公爵夫妻殺害の為に雇っていた奴らね。下っ端の平民だから逮捕されなかったんだわ)
ミランダな唾をゴクリと飲む。
(まさかプラーミア公爵夫妻を救ったことを全てオリヴィアお義姉様の手柄にした結果こうなるだなんて……!)
ミランダはこの状況をどう乗り切るか必死で考えていた。
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