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幻想白夜のサーカステントで、君と秘密の恋宙ブランコ ~王立国庫査察官に溺愛される、優雅で甘い月夜の巡業~  作者: 団田図


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第25話 鈍く光る紫の真実

 自分を落ち着かせるため、アリシアはサーカスの裏手にある資材置き場へと向かった。

 そこは、設営や撤収を担う働き者のちびゴーレムたちが集まる場所だ。彼らのコトコトという長閑のどかな音を聞けば、少しは心が安らぐかもしれないと思ったのだ。


 しかし、資材の陰をのぞき込んだアリシアは、思わず足を止めた。

 そこには、スパーダが片膝をつき、リーダー格のAゴレをはじめとするちびゴーレムたちに囲まれている姿があった。


「……何か、見つかったか」


 スパーダが低い声で尋ねる。

 実はスパーダは、彼らに「団長殺害事件の証拠探し」を手伝ってもらっていたのだ。長年サーカスの隅々まで掃除し、暗がりを歩き回る彼らなら、普通の人間が見落とすような些細ささいなものを見つけている可能性があると踏んでの行動だった。


 ゴーレムたちはコトコトと一斉にうなずいた。

 そして、Aゴレが短い石の腕を伸ばし、大切そうに抱えていた『何か』をスパーダへ差し出した。


「それは……」


 スパーダの目が鋭く細められる。

 物陰から見ていたアリシアも、思わず息をんだ。

 Aゴレの手の中にあったのは、キラキラと鈍い紫の光を放つ、親指ほどの『特殊な魔法薬の空き小瓶』だった。


 ちびゴーレムたちは、それが何であるかは分かっていない。ただ「キラキラしていて綺麗だから」という理由で、宝物としてこっそり隠し持っていたのだ。


 スパーダがその小瓶を受け取ると、ちびゴーレムたちは一列に並び、突然、コミカルな身振り手振りで演劇のようなジェスチャーを始めた。


 一体のゴーレムが、頭上にぶら下がる真似をする。空中ブランコ乗りである、先代団長グロリアントの役だ。

 もう一体のゴーレムが、舞台の袖に見立てた木箱の上に、水差しを置く真似をする。そして、先ほどの『空き小瓶』を指差し、顔が見えなかった誰かが、水差しの中に何かを注ぎ込むような動作をした。

 直後、ぶら下がっていたゴーレムが、手を空振りしてドスンと地面に落ちる真似をして見せた。


 それは、彼らが言葉を持たない代わりに、全力で伝えてくれた「あの日、舞台裏で見た光景」だった。


「お前たち……これを、先代団長の事故の夜に、舞台袖の飲み水の近くで拾ったのか」


 スパーダの問いに、ゴーレムたちはコクコクと強く頷いた。

 彼らは、幼い頃から一緒に泥だらけになって遊んでくれたアリシアを深く愛している。彼女が最近ずっと泣きそうな顔をしている理由が、あの夜の出来事にあると直感し、「自分たちの宝物が何かの役に立てば」と持ち出してきたのだ。


「……空間認識能力くうかんにんしきのうりょくを完全に狂わせる、危険な魔法薬の空き小瓶」

 スパーダは、手の中の小瓶を冷徹な瞳で見つめ、確信に満ちた声で呟いた。

「間違いない。これはただのゴミじゃない。……グロリアントを殺した、暗殺の動かぬ証拠だ」


「っ……!」


 物陰に隠れていたアリシアの口から、悲鳴のような声が漏れた。

 スパーダが弾かれたように振り返る。


 アリシアは震える手で口元を押さえ、大粒の涙をこぼしていた。

 スパーダが言っていたことは、嘘ではなかった。最愛の父は、自身のミスで落ちたのではない。このサーカスの中にいる誰かが、飲み水に薬を仕込み、父を確実に死へと追いやったのだ。


「アリシア……」


 スパーダが立ち上がり、彼女の名を呼ぶ。

 ちびゴーレムたちも、アリシアが泣いているのを見て、コトコトと悲しげな音を立てて彼女の足元にすり寄ってきた。


 アリシアは崩れ落ちそうになる体を必死に支え、スパーダの手にある空き小瓶を、そして彼の真っ直ぐな瞳を見つめ返した。

 もう、目をらしている場合ではない。父を殺し、この大切な家族をだまして密輸に利用している真犯人が、すぐそばで息を潜めているのだから。


 水都シアンでの最終公演を明日に控え、二人の運命の歯車が、真実へ向けて大きく動き出そうとしていた。


 +++


 スパーダの大きな手の中にある、鈍く光る親指ほどのガラスの小瓶。

 それは、設営・撤収を担当する働き者のちびゴーレムたちが、先代団長の事故の夜に現場で拾い、キラキラしているから宝物として隠し持っていた『特殊な魔法薬の空き小瓶』だった。多数のちびゴーレムたちが、言葉を持たない代わりに演劇のようにコミカルなジェスチャーで、あの日舞台裏で見た光景を必死に伝えてくる。

 魔法薬の専門的な知識があるスパーダだからこそ、それが「ただのゴミ」ではなく、一瞬にして空間認識能力を狂わせる「暗殺の動かぬ証拠」であると見抜くことができたのだ。


「お父様は……自分のミスで落ちたんじゃない。本当に殺されたの……?」


 物陰からその事実を知ってしまったアリシアは、耐えきれずに膝から崩れ落ちそうになった。その細い体を、スパーダの力強い腕が咄嗟に支える。彼の手はひどく熱く、そして、どこか痛みを堪えるように微かに震えていた。


「アリシア。聞いてくれ」


 水都シアンでの最終公演を明日に控え、スパーダは彼女の肩をしっかりと掴み、真っ直ぐな瞳で捜査の協力を必死で求めた。

 その眼差しには、これまで彼女を騙してきた冷徹な潜入捜査官の影はない。一人の不器用な青年としての、痛切なまでの本音がそこにあった。


「俺は任務のために君を騙し、深く傷つけた。その罪は一生消えないし、許してくれとも言わない。……だが、もう嘘は何一つつかない」


 スパーダは、絞り出すように真摯な声で伝えた。

「君の愛するこのサーカスを、そして君自身を、これ以上得体の知れない悪意に晒したくないんだ。俺のすべてを懸けて、必ず君を守り抜く。だからどうか、真実を突き止めるために俺に協力してくれないか。君だけが頼りなんだ」


 アリシアは、大粒の涙を乱暴に拭い、彼の手をゆっくりとほどいた。彼の嘘に傷ついた心は、まだ完全には癒えていない。しかし、足元で心配そうにコトコトと音を立てるちびゴーレムたちを見て、彼女の胸の奥で一つの強い決意が炎のように燃え上がった。


「……分かりました。協力します」

 アリシアは真っ赤に腫れた目で、力強く彼を睨み返した。

「でも、勘違いしないでください。私は、絶対にこのサーカス団の中に裏切り者はいないということを証明するためだけに、あなたと一時的に手を組むんです」


 その誇り高く毅然とした言葉に、スパーダは短く頷いた。二人は、サーカスの裏に隠されたどす黒い真実を暴くため、一時的な休戦と協力関係を結んだのだった。


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