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接続話 【38】 〜新たな出会い〜

〈ヒビキ視点〉


 転移魔法の発動に伴って。


 全身を大量の魔力が包み込み。


 景色と、重力と、足場が、消失する。


(……っ!?)


 思わず、目を瞑って。


 前後左右を見失った、独特の浮遊感を味わいながら。


 体感で十秒ほど、魔力の奔流に身を任せていると……


 バアアンッと、盛大な破裂音がして。


 瞼の裏側の世界に、光が戻り。


 全身に、重力を感じた。


 同時にバチャンと、下半身を浸す水の感触。


(うおっ……なんだこれ!? 湖っ!?)


 咄嗟に目を見開いて。


 抱えていたマリアンを抱き上げるが、どうやら自分たちのいる水場の水深は、膝下程度であるようだった。


「熱っ……って、お湯!? 何だこれ水蒸気か!?」


 視界を埋め尽くすのは、もうもうと立ち込める、湿度を纏った濃霧であり。


 ヒクヒクと豚鼻を動かせば、数多の果汁を混ぜっ返したような、甘ったるい香りを嗅ぎ取ることができた。


(なんだこのめっちゃいい匂いは? 柑橘系のような、熟した果実のような……う〜ん、わからん。あとこの水っていうかお湯、浸ったらメチャクチャ気持ち良さそうだよなあ……)


 身も心も疲弊しているがゆえに。


 むくりと、前世のお風呂大好きな国民性が、鎌首をもたげたものの。


(……って、ダメダメだ。集中しろ、俺。とにかく今は、現状を把握しないと!)


 このような状況に至っても。


 腕の中で昏睡する少女は目覚めない。


 危機感を募らせた豚鬼が足場を求めて移動すると、幸いにも、すぐに陸地を発見することができた。


 そこには……


(……でっけえ樹だなあ……つーかこれ、天聖樹じゃね?)


 見覚えのある白銀の大樹が。


 どっしりと、大地に根ざしており。


 ひとまずはその根本に、マリアンの背を預けたところで。


「……誰だ、貴様! そこで何をしている!?」


 背後から、凛とした少女の声が聴こえてきた。


(……っ!? マジか!)


 立ち込める白靄によって、視界が悪く。


 周囲に満ちる正体不明の匂いによって、嗅覚が半ば麻痺しているものの。


 水場という悪条件のなか、最低限の警戒は怠っていなかったヒビキの警戒を潜り抜けて、ここまで接近してきたのだ。


 素人ではない。


 声の主を視認するため、豚鬼が振り返ったのは反射的な行動であり。


「なン……だ……とっ!?」


 直後に、ガクンッと。


 見開かれた三白眼に映る人物によって、下顎が外れかかった。


「今すぐそこを離れろ、痴れ者め!」


「いや痴れ者はテメエだろうがよ、ド痴女が!」


 咄嗟に言い返してしまった言葉通りに。


 ヒビキに向かって、やや低め(アルト)な声で、警告してきた人物は。


 燃え盛る炎のような赤髪を、褐色の肌に貼り付けて。


 十代半ば程度に見える外見に比してはかなり立派な双山を、惜しげもなく晒した。


 力強い黄金の瞳を宿す、全裸の少女であったのだから。


(ちょ……え? なんで全裸? うえええっ!?)


 あまりに堂々とした、その立ち姿に。


 徐々に薄くなっていく薄靄と反比例して、鮮明になっていく褐色肌の全裸に。


 前世と今世を合わせても絶賛童貞継続中の豚野郎は、一瞬で前後不覚に陥った。


(事案! 今度こそ事案じゃないの!? これえ!)


 しかも相手が十代中頃の少女という外見が、ヒビキの倫理観を激しく動揺させる。


 たしかに義妹とは中学卒業くらいまではおねだりされてときどき一緒に風呂に入っていたが、それはあくまで家族の仲であるからこそ許されていた行為であり、ヒビキの価値観としてはそのような年頃の少女の裸体は、完全にアウトだ。


『……兄さん、サイテーです』

 

 記憶の中の義妹が、般若の形相で睨んでいる気がする。


(不味い……これは、不味いですよおっ!)


 何故か心中で敬語になりながら。 


 思わず何歩か、気圧されるように後ずさって……


(……あっ!)


 つい、大地にはみ出していた大樹の根に足を引っ掛けしまい……


「……やんっ♡」


 たまたま、その終点にいたマリアンに覆い被さるように転倒して。


 むにゅりと、久々に彼女の母性に触れてしまったことも。


 丁度そのタイミングでマリアンが寝言を呟いたことも。


 全ては偶然の産物であった。


「き……貴様あ! その少女を、人質にでもするつもりか!?」


 転じて、そのような事情を知らない者からすれば。


 性欲の化身として名高い豚鬼が、どう見ても乱暴された事後にしか見えない美少女に、襲いかかっている構図であり。


「やはり悪漢か、痴れ者めが! たとえ只人(ヒューマ)が相手とはいえ、この女蛮鬼(アマゾネス)の集落でそのような蛮行、許されるものではないぞ!」


 彼女の噴飯は、ごく真っ当なものであった。


「あ、いや、違うんだ、これは誤解で――」


「――問答無用! この女蛮鬼の戦士、オビイが、成敗してくれる! ちぇすとおおおおおおっ!」


 そのようにして。


 義憤に駆られた全裸の少女と。


 今はなき条例に怯える、情けない豚鬼が。


 互いに予期しない、運命の出会いを。


 果たしたのであった。

 

【作者の呟き】


 主人公のラッキースケベは宿命ですからね!(迫真)

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