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第二章 【01】 序

〈ヒビキ視点〉


「――問答無用! この女蛮鬼(アマゾネス)の戦士、オビイが成敗してくれる! ちぇすとおおおおおおっ!」


 義憤に駆られた、黄金の瞳を輝かせて。


 燃えるような赤髪を、湿った褐色肌に張り付けながら。


 濛々と立ち込める湯気を引き裂くようにして。


 鬼角を生やした全裸の少女が、拳を握り締めて殴りかかってくる。


「っ!」


 咄嗟にヒビキが構えたのは、身体に染みついたライヅ流の『山式』であり。


 考えるよりも早く。


 肉体に刻み込まれた反射によって。


 構えに対応した魔能(スキル)が、魔力を消費して、体内で速やかに発動していく。


 直後にガツンと、衝撃があった。


 十代半ば程に見える少女が繰り出したとは思えない、大型の鈍器で殴りつけられたかのような、重厚な打撃である。


「「 ……ッ!? 」」


 互いに驚き、目を見開く豚鬼オーク女蛮鬼アマゾネス


 しかしヒビキの動揺は、受け止めた打撃の威力ではなく。


 彼女が用いた『技』そのものにあった。

 

(――はあっ!? ちょっと待てよ!? なんでコイツが、『ライヅ流』の技を!?)


 拳を振るう上での、体重の乗せ方。


 体幹の使い方。


 足運びなど。


 皆伝の腕前を有する師匠から五年以上に渡って、直々に叩き込まれてきた流派の動きだ。


 ヒビキがその一挙一足を、見間違えるはずがない。


 間違いなく、目の前の赤髪少女が用いたのは、ライヅ流に連なる体術であった。


「――チイッ!」


 一方で、ヒビキに先制攻撃を防がれた少女は。


 鋭く不満を、吐き捨てて。


 打ち込んだ拳を引きながら、グルリと身体を反転させる。


 身体の側面に引き込まれた腕と入れ替わるようにして、水飛沫を散らしながら高く跳ね上がったのは、美しく均整のとれた少女の右足であり。


 大開脚した足を鞭のようにしならせながら、ヒビキの側頭部を狙った後ろ回し蹴りを繰り出してくる。


 再度、豚鬼の鼓動が跳ね上がった。


(ちょオイ! それ丸見え――)


 当然のことながら。


 相手の産毛すら見てとれるほどの至近距離で。


 惜しげもなく晒された、一糸纏わぬ少女の振る舞いに。


 ギョッと目を見開いて硬直してしまった豚鬼を責めるのは、あまりに酷というものだろう。


 今世に生まれ落ちておよそ七年。


 前世も合わせるなら三十年ほど。


 延々と貞操を守り続けてきた童貞豚野郎に、その光景は、あまりに刺激が強すぎた。


「――ふごっ!?」


「くっ、硬いな! まだまだあっ!」


 狼狽によって、一拍、反応が遅れてしまい。


 慌てて振り上げた腕によって、直撃こそ凌いだものの。


 今度は衝撃を受け止めきれずによろめいたヒビキに、全裸の褐色少女が、容赦なく追撃を加えてきた。


 右、左、右と。


 左右の拳による高速連打に加えて、時折、体重の乗せられた蹴撃が見舞われる。


 その度に右、左、右と。


 立派に実った褐色の果実がバルンバルンと盛大に暴れて、跳ね上がった脚線美が、悲しき男の本能を捉えて、離してくれない。


(しゅ、集中しろ、俺っ! 集中集中集中ーッ!)


 ただでさえ現状、転移前に繰り広げた女騎士との戦闘によって、魔力をほとんど使い果たしているのだ。


 少しでもそれを補充しようと、呼吸と共に体外魔力(マナ)を取り込み、体内で体内魔力(オド)に変換してはいるのだが、その先から魔能(スキル)によって消費されているため、回復がまるで追い付いていない。


 たとえ体格や筋力、技量で優っていても。


 それらを強化(ブースト)する魔力が足りなければ、総合力で劣ってしまう。


 このままだとジリ貧だ。


(とにかく一度、距離をとって仕切り直さないと――っ!)


 状況の不利を覆すために。


 嵐のように繰り出される連撃の合間を縫うようにして、ヒビキは掌底を突き出した。


 ひとまずは、少女との距離を置きたいがゆえの一手である。


 それが。


「……っ!」


 意図せずして……ムンニュリと。


 少女が有する、たっぷりと質量を有した膨らみを、鷲掴みにしてしまったのだった。


(ほげえ!? や、やわらか……っ!?)


 人生初となる、脅威的な弾性と柔性を兼ね備えた蠱惑の感触に。


 天を衝く硬質な髪をさらに逆立てて、おののく豚鬼に対して。


「き、貴様……ふざけて、いるのか! 先ほどからあからさまに、手を抜くばかりか、オレをこんなにも、コケにして……っ!」


 たっぷりと。


 己の胸部を、無遠慮に鷲掴みにされた少女は。


 煮え立つ憤怒を、黄金の瞳に湛えていた。


 込み上げる怒りが、羞恥によるものではなく、戦士としての憤懣であることが、ヒビキにとって幸か不幸かであるのかはさておくとして。


「ち、ちがっ、俺はただ――」


「――だったらさっさとその手を離せえええええっ!」


 悲しいかな。


 どのような言い訳を並べたところで。


 雄としての本能が、ようやく手にした果実を、未練がましく手放さなかったことは事実であり。


 ――キンッ!


「ぶギいッ!?」


 そのために。


 怒声と共に跳ね上がった少女の右足に、対応が遅れてしまったがゆえに。


 男としての致命的な急所を、守り損ねてしまう。


「……かっ……はっ……おまっ、馬鹿っ、シャレになんねっ……っ!」


 痛々しい悲鳴を漏らしながら。


 股間を抑え、内股となったヒビキは、その場に崩れ落ちた。


「この! 発情! 淫乱! 豚鬼オークが! このオレを、そう簡単に手籠にできるなどと、思わぬことだっ!」


 ゴッ、ゴズッ、ドゴッ、と。


 激昂した少女の繰り出す、容赦のない踏打撃(ストンピング)が。


 ビクビクッ……ビクンッ……、と。


 足場を満たす温水に、半ば身体を沈めながら。


 弱々しく痙攣する豚鬼に、容赦なく降り注ぐ。


(コ……ホオオオッ! マジ、で、何してくれてんだよこのクソガキ! つ、潰れてねえよな!?)


 温水に顔面を浸すヒビキの目尻には、うっすらと涙すら滲んでいた。

 

 なにせ前世どころか、今世においてすら。


 未だ未使用の、己が分身だ。


 それがこのまま終わってしまうなんて、そんなの、男としてあまりにも可哀想過ぎる。


 立派に産んでくれた母親に申し訳が立たない。


 豚鬼という、ヒビキの美的感覚としては凶悪にして醜悪としか思えない身体に転生した境遇において、唯一ひそかに自尊心を満たしてくれていた『相棒』の可能性を、こんな風に潰してしまうなんて酷すぎる。


 この世に神はいないのか。


(……ん? んんん?)


 そのような、童貞豚野郎の祈りが。


 はたして今世における、創造神のもとに届いたのかは不明だが。


「……っ!? な、なんだ、この揺れは!?」


 ゴッ……ゴゴッ……と、足元を揺らす振動に。


 褐色肌の少女も気付き、攻撃の手を止めてくれたようだ。


 頭蓋骨の形が変わるんじゃないかというほどに踏みしだかれていた豚鬼が、内心で安堵したのも束の間。


(――っ! この方角は、不味いっ!)


 ゴゴッ……ズゴゴゴッ……と、地面から伝わる振動と。


 メシメシと、水中越しにも聴こえた異音が。


 ヒビキの胸中に危惧を宿して。


 液体に塗れた豚顔を、水面下から跳ね上げさせた。


 さわっ……もにゅんっ!


「ひゃっ!」


 起き上がった拍子に。


 血走った目つきの豚鬼の顔が、眼前に晒されていた無防備な股座に突っ込むことで、少女が悲鳴を上げたものの。


「邪魔だ、どけえ!」


 それを気にする余裕のないヒビキは、顔を真っ赤に染めた少女を跳ね除けて、すぐに立ち上がり駆け出してしまう。


「なっ、貴様! どこへ行く!? 逃げる気か!」


 背後から少女の叱責が聴こえるが、それすらも無視して。


 必死の形相でヒビキが向かう先は、先ほどマリアンを安置した天聖樹の根本であり。


 彼女の背中を預けていた白銀の大樹は、地鳴りとともにその威容を、急速に萎ませている最中であった。


(……頼むっ! 間に合ってくれっ!)


 ペキペキ、メシメシ、ミシミシと。


 白樺のような幹が乾燥して萎み、白銀の葉が枯れ落ちて、梢が砕け落下していく。


 その眼下には、無防備な姿を晒す、昏睡した少女の姿があって。


「ぶっ……ぎイいいいいいっ!」


 一心不乱に、水辺を掻き分けながら前進していた豚鬼が。


 雄叫びを伴う渾身の大跳躍を見せた直後に。


 ズッ……ズゴゴゴオンッ……と。


 白銀の輝きを失った大樹が、その場に崩れ落ちたのだった。


「「「 ………… 」」」


 そうした天聖樹の倒壊から、やや間を置いて。


 衝撃によって湯気が吹き飛んだ周囲には、多くの人影があって。


 どうやらヒビキを正面から見下ろす赤髪の少女と同じ人種らしい、いずれも引き締まった肉体を有する褐色肌の全裸の女性たちが、崩壊した天聖樹の根本で四肢を地面につく豚鬼と、その胸下に守られた只人(ヒューム)の少女を凝視していた。


 それら、無数の視線に晒されながら。


 とうとう魔力が、底をついたヒビキの。


 口にする願いは、ただひとつ。


「……た、頼む……お願いだから、この人を、助けてくれ……っ! この人は……俺の大事な、母親、なんだ……っ!」


 自らの命よりも優先されるべき、想いを吐き出して。


 限界を迎えたヒビキの意識は、そこで途切れたのだった。


【作者の呟き】


 童貞豚には全裸特攻が効きますね。


 ということで、相変わらず作者の癖が闇鍋な第二章ですが、楽しんでいただければ幸いです。


 また活動報告にも載せましたが、この第二章を更新している期間中は、少しでも新規読者様の興味を惹けるように、タイトルを弄ってみるつもりです。


 そうした小細工が気に入らない読者様には申し訳ありませんが、作者はやはり作品が誰かの目に届いて、評価されることを求めてしまう生物ので、寛大な心で容認してくださると、嬉しいです。


 それでは。


 m(_ _)m

 

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豚くん、更新待ってたZE! (๑˃̵ᴗ˂̵)وグッジョブ!!
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