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第一章 【37】 選択④

〈ヒビキ視点〉


 転生して、六年余り。


 ようやく、今世の母親から。


 惜しみなく、注がれ続けてきた愛情を。


 信じて。


 受け入れることで。


 見事な母性信者《マザコン》へと覚醒した豚鬼《オーク》……ヒビキが。


 これより、身を投じるのは。


 大陸間を、渡るほどの。


 長距離転移魔法である。


 当然ながら。

 

 必要とされる魔力は、膨大であり。


 安定して魔法を、行使するために。


 集積した魔力の、蓄積触媒として。


 巨大な魔晶石を、埋め込んだ。


 柱型の魔力触媒である『魔晶柱』を。


 合計、六本ほども。


 用意しなければ、ならなかった。


「……こおおお……」


 それら六本の魔晶柱を、頂点とした。


 六芒星の内側に、複雑な魔術式を。

 

 精密に、地面へと彫り込んだのち。


 特殊な染料を、溝に流し込むことで。


 完成する、巨大な魔法陣は。


 直径がおよそ、五十メートルを超えている。


「……ほおおお……」


 たった一本で。


 一つの村を、一年以上は。


 魔力障壁で、覆い続けられるという。


 魔晶柱という、極めて強力な魔法補助《ブースター》を。


 用いたとしても。


 此度の、長距離転移においては。


 一度の発動で、転送できる質量が。


 厳密に、限られており。


 また、転移ごとに。


 消費した魔力の、補填という。


 発動までの、準備期間《インターバル》が必要となるため。


 常に、移動し続ける転移の座標を。


 都度、修正していく必要があった。


「……ふううう……」


 そのため。


 転移の先鋒である、クノイチが。


 浮遊大陸である、勇聖国《エリクシス》から。


 東方の島国である、大和国《ヒノクニ》へと。


 無事、転送されたのちに。


「……ほおおお……」


 巨大魔法陣の、中心にて。


 坐禅を組み。


 瞳を伏して。


 意識を沈め。


「……ひゅううう……」


 深く。


 長い。


 息吹を、繰り返すことで。


 魔法の調整に、没入する。


 仙人然とした精人《アルヴ》の翁《おきな》……ハクヤを。


(……くそっ、じれってえな)


 注がれる魔力に、反応して。


 淡い光を溢す魔法陣の、外周部。


 昏睡する今世の母親……マリアンを。


 腕に抱く、ヒビキは。


(あれだけ啖呵を、切ったばかりだってえのに……けっきょく俺は、待ちぼうけすることしかできねえのかよ……)


 改めて。


 己の、無力さを。


 噛み締めていた。


(ハクヤさんも、師匠も、俺なんかのために、身体を張ってくれてるっつーに、肝心の俺が、ただのお荷物じゃねえかっ!)


 ……チュドオオオンッ!


 ……ドゴオオオオンッ!


 耳を澄まさずとも。


 拠点を覆う、結界越しに。


 森を彩る、戦闘の音色が。


 激しく、鳴り響いている。


 手負のヒビキたちを、逃がすため。


 自ら殿《しんがり》を請け負った、鬼人《オーガン》の大男は。


 今、この瞬間も。


 勇聖国《エリクシス》、屈指の強者と。


 死闘を演じているのだ。


「……こおおお……」


 その家臣である、ハクヤもまた。


 額から、汗粒を滴らせて。


 ヒビキが申し出た、マリアンの。


 大和国《ヒノクニ》同行を、叶えるため。


 呪詛魔法に、侵された聖人を。


 単身で転送する危険性を、鑑みて。


 本来、一人ぶんだった転移魔法を。


 二人まとめて、転移できるように。


 魔術式の設定を、書き換えている。


 追随して、必要とされる魔力量も。


 乗算式に、膨れ上がっているため。


 土壌から、汲み上げた魔力を。


 蓄積する、六本の魔晶柱が。


 ギシギシ、と。


 悲鳴をあげていた。


(みんなに……迷惑ばっか、かけちまって……悔しいし……情けねえけど……でもそれが、今の、俺なんだっ!)


 守られるだけ。


 与えられるばかりで。


 何も、返せてなどいない。


 ヒビキはそう、自覚している。


 だからこそ。


(せめて……これ以上は、みんなの足を、引っ張らねえように、俺は、今の俺にできることをしねえとッ!)


 ヒビキが身を置く、森の拠点は。


 入念に、幾つもの侵入者対策が。


 張り巡らされている、とはいえ。


 それで安全だと、油断するのは。


 あまりに、早計。


 予め、野生動物や魔獣など。


 周辺の、脅威となる存在は。


 排除しているものの……


(……こんだけ魔力が溢れてりゃ、結界が、どこまで魔力を隠しきれてるのかわかんねえ)


 本来であれば。


 許容閾値で、収まっていた。


 魔晶柱を満たす魔力が……ミシミシ、と。


 器から、溢れ出している。


 そうして漏れ出した、違和感を。

 

 森を徘徊する、浄火軍の捜索部隊が。


 最後まで見過ごしてくれる、などと。


 都合の良い、展開は。


 期待はできない。


(これも……俺が、土壇場で、ワガママを言い出したツケなんだ)


 ゆえに、ヒビキは。


 目の前に置かれた、水盆に浮かぶ。


 拠点の探知魔法に、連動した。


 魔力針を、凝視して。


(たとえ、この場所を、嗅ぎつけられたとしても……転移の邪魔だけは、絶対にさせねえぞ!)


 魔力を練り。


 呼吸を整えて。


 戦いに、備えていた。


(来るなら来やがれ! 探知にかかった瞬間、すぐにカッ飛んでいって、ブッ飛ばしてやる!)


 絶対に、この魔法陣には近づけさせない。


 そんな想いに、囚われていた。


 ヒビキだからこそ。


「……る……るううう……」


 不意に。


 魔法陣の描かれた、広場の外側。

 

 密度を保った、雑木林の奧から。

 

 聴こえてきた、不気味な声に。


(……ッ!)


 背筋が、怖気だった。


(はっ!? なんで!?)


 近すぎる、と。


 叫ぶ間もなく……ガサササッ!


 森の茂みを、かき分けながら。

 

 魔法陣を目掛けて、一直線に。


 駆け寄ってきたのは。


「……うぶぶぶるう、うばあアあああッ!」


 神官服を、紅く染めて。

 

 奇声とともに、戦棍《メイス》を振り回す。


 勇聖教会の、神官であった。


(アイツは……たしか! さっき、聖浄騎士《クルセイダー》と一緒にいたヤロウか!?)


 それはいい。


 それよりも。


 何故、この距離に至るまで。


 接近に、気付けなかったのか。


 よもやあの、神官が。


 見かけによらず、凄腕の魔術士《キャスター》で。


 仕掛けられた探知魔法や罠を、全て。


 すり抜けてきたとでも、いうのだろうか。


 だとしても。


(なんでアイツ、わざわざ、ここまで近づいてたのに大声なんかあげて……って、おいおい、なんだよあのツラ!?)


 先ほど、目にした際には。


 冷徹な印象を抱いた、神官であるが。


 今は……ギョロギョロ、と。


 忙しなく、視線を彷徨わせて。


 顔中に血管を、浮かべることで。


 形作られた、狂気の相貌に。


 ひと呼吸ぶんだけ。


 息を呑んで。


(なんにせよ……敵は、潰すッ!)


 速やかに。


 ヒビキは、覚悟を決めた。


(すまねえ、ちょっとだけ、我慢してくれよ!)


 昏睡したまま。


 目を覚さない、マリアンを。


 丁寧に、地面へと横たえてから。


「……ぶっ、ぎイいいいいッ!」


 雄叫びをあげて、駆け出していく。


「あべべべぱブロお!」


 とはいえ。


 広場に描かれた、巨大魔法陣は。


 直径が、五十メートルほどもある。


 そして狂乱する、神官は。


 魔法陣を挟んで。


 ちょうどヒビキの、真反対から。


 飛び出していた。


(……チイッ!)


 侵入者を、速やかに。


 排除しなければならない、一方で。


 ヒビキは、魔法陣の内部に描かれた。


 複雑精緻なる、魔術式を。


 土足で、踏み荒らすことは。


 避けなければならない。


(流石に、間に合わねえかッ!)


 よって、目標までの距離を。


 直線による、最短ではなく。


 魔法陣の、外周部に沿った。


 遠回りな、半円を描いて。


 詰めていく、ヒビキであるが。

 

「こポおッ! コぼボぽぽポっ……」


 こちらは魔晶柱まで、直線で。


 距離を詰めてきた、神官の。


 到達を、阻めなかったのは。


 仕方のない、ことである。


「……ゴボじでやぶうううううッ!」


 口端から飛泡を、吐き散らして。


 目を血走らせた神官が……ガンガンガンガンッ!


 手にする戦棍《メイス》で、狂ったように。


 魔晶柱を、殴打し始めた。


(……っ、ンのヤロウ! 狙いは、魔晶石かよ!?)


 魔晶柱に埋め込まれた、魔晶石は。


 ハクヤが、旅の道中にて。


 数多の中から、選りすぐった。


 替えの利かない、特別な品である。


(させるかッ!)


 仮に、ひとつでも。


 破壊を、許してしまえば。


 触媒を用いた、魔法の成功率が。


 著しく、低下してしまうことは。


 避けられない。


(この速度なら、まだ間に合う!)


 身体強化の魔能《スキル》を、全開にして。


 飛矢の如く。


 風を切る、ヒビキが。


 接敵まで、あと三秒ほど。


(一撃で、仕留めてやるッ!)


 知覚強化の魔能《スキル》によって。


 色褪せた世界と。


 希釈された時間の中で。


 算盤《そろばん》を弾いた、ヒビキであるが……


(……ッ!)


 その、視界の片隅に。

 

 神官の迎撃に向かう、ヒビキを。


 意図的に『迂回する』かたちで。


 魔法陣の反対側となる、外周を。


 息を切らして疾駆する、人影を。

 

 捉えてしまう。


(アイツ……あの、クソ女じゃねえか!)


 つい先刻に。


 散々と。


 自分たちを、甚振ってくれた。


 外見にそぐわぬ、二股長髪《ツインテール》と。


 狂気に満ちた、嫉妬の眼光を。


 見間違える、はずがない。


 間違いない。


 あのときの、聖浄騎士《クルセイダー》が。


 狂乱する神官を、囮として。


 無防備な、マリアンへと。


 急接近しているのだ。


(そういう、ことかよ……ッ!)


 単純な二択である。


 魔晶柱を攻撃する、神官と。


 マリアンに迫る、聖浄騎士。


(ンなもん!)


 仮に、前者を放置して。


 魔晶石の破壊を、許してしまえば。


 転移魔法の発動、そのものが。


 危ぶまれてしまう。


(どっちか、なんてッ!)


 逆に、後者を放置して。


 マリアンを、犠牲にしてしまえば。


 神官を、速やかに討ち取った後で。


 すぐさまに、踵を返して。


 手負いの聖浄騎士を、相手取ることは。


 十分に、可能なはずだ。


(迷うはず……ねえだろうがよおおおおおッ!)


 じつに。


 簡単な、選択肢である。


 馬鹿にするなと、叫びたい。


「……ぶっ、ぎいいいいいいッッッ!」


 代わりに雄叫びをあげて……ギャリリリッ!


 地面を削りながら、急性動。


 からの、反転。


 マリアンに迫る、聖浄騎士に。


 負けてなるものか、と。


 光り輝く、魔法陣の上を。


 遠慮なく、踏み荒らして。


 一直線。


 全力疾走すると……


「……うがあああああッ!」


 命を、振り絞るような。


 絶叫とともに、繰り出された。


 隻腕の、聖浄騎士による。


 血に汚れた、刺突剣《レイピア》の切先が。


 あと、数センチで。


 マリアンに届く……


「……ぶぎイいいいいいッ!」


 直前で。

 

 追いついたヒビキが……バギイイイインッ!


 精錬魔力《ソール》を纏った、手甲で。


 凶刃を、弾き飛ばした。


「――ギイいいいいッ!」


 そのまま、距離を詰めて。


 聖浄騎士の胴体に、掌底を。


 打ち込もうと、したのものの。


「……くうッ!」


 弾かれた反動を、利用して。


 聖浄騎士は、後方に跳躍。


 追撃を阻まれてしまう。


「ふうー、ふうーっ……」


 とはいえ……


 ここに、至るまで。


 相当な無理を、重ねていたのか。


 ヒビキが手を、下さずとも。


 顔色は、蝋のように蒼白く。


 呼吸は荒いのに、弱々しい。


 あからさまな、死《し》に体《たい》なのに。


 瞳だけを、ギラギラと。


 狂気に、滾らせた。


 聖浄騎士が。

 

「……な、なんだよ、オマエ!? なんでボクの、ジャマばかりするんだ!? 一体オマエは、ソイツの、何なんだよおっ!?」


 悲鳴のように。


 口にした、問いかけに。


「ああン、俺か!?」


 背にマリアンを、庇いながら。


 対峙するヒビキは。


「――見ての通り、ただのマザコン豚鬼《オーク》だよッ!」


 堂々と、胸を張って。


 答えてみせた。


「……ッ! ふざ、けるなあアあああッ!」


 直後に。

 

 激怒した、聖浄騎士が。


 距離を詰めてくるものの……


(……遅えッ!)


 先の一戦においては。


 完全に遅れをとった、相手とはいえ。


 呪詛魔法による、大量の魔力消費と。


 切断された腕からの、出血によって。


 今回は、その挙動が。


 はっきりと、見て取れた。

 

(マリアンのぶんも込めて、十倍返しだッ!)


 繰り出された、刺突剣の切先を。


 紙一重で、回避しつつ。


 距離を詰めて。


 肉薄。


 露出過剰な、軽装鎧に。


 容赦なく、掌底を打ち込むと。


「ギイッ!」


 ズドンッ、と。


 魔力を、叩き込んで。


「ブギッ!」


 バキンッ、と。


 刺突剣を、弾き飛ばして。


「ギッ――」


 ズドドドドドッ、と。


 顎に。腹に。腕に。胸に。


 目にも止まらぬ、高速連打を。


 見舞った後で。

 

「――ブッギいイイイイッ!!!!」


 ズバアアアアンッ!!


 渾身の〈圧壊衝波《フルインパクト》〉で、吹き飛ばす。


「うぎゃアあああああ……ッ!」


 全身の骨を、砕かれて。


 肉を潰され。


 内臓を攪拌されながら。


 宙高くへと、打ち上げられた。


 聖浄騎士は……


「……うブへッ!」


 受け身も取れずに、墜落。


 ドクドクと、地面に。


 血溜まりを広げていく。


「……う……ああ……」


 そして、最期に。


 虚空に手を、伸ばしながら。


「……ソラ……さまあ……」


 小さく、呟いて。


 瞳から輝きを、永遠に。


 消失、させたのだった。

 

      ⚫︎


「……ふうむ」


 それからおよそ、十分後。


 一度は敗北を喫した、聖浄騎士の迎撃《リベンジ》を。


 見事に果たした、ヒビキであるが。


「なるほど、なるほど。やはり……」


 数分ほど前に。


 瞑想から、目を覚まして。


 ヒビキの説明から、現状を把握。


 さらに現場を直接、確認してきた。


 ハクヤの口から。


「……申し訳ありませぬが、あの有様では、やはり、完全な転移は不可能でございますなあ」


 残酷な、現実を。


 突きつけられて。


(……っ!)


 息を呑んだ、ヒビキは。


 勝利の余韻など、消し飛んでしまう。


「す、すいません、ハクヤさん! 俺が、下手打ったばっかりに……」


 それは独断で。


 自分たちの生命線である、転移魔法よりも。


 マリアンの安全を、優先した結果なのだ。


 巨大魔法陣における、出力装置。


 六本の魔晶柱に、埋め込まれた。


 六個の魔晶石のうち、二つまでを。


 ヒビキが放置した、神官によって。


 破壊されてしまった、過失は。


 あまりに、大きい。


「……いえいえ、お気に召されるな」


 だというのに、精人の翁は。


 文句の一つすら、溢さずに。


「坊はしかと、己が役割を、全うされたのです。恥じる非など、ありませんぞ」


 長い白髭を、扱きながら。


「むしろその状況で、魔法陣を優先したなどとあれば、それこそがライヅの名折れ。爺が坊に、説教しておったところですわい」


 満足げに。


 微笑んですらいた。


「それに……これでいっそ、この老骨も、観念して腹を括れるというもの」


 そしてハクヤは。


 白眉に埋もれた、瞳を。


 雷鳴轟く、戦場へと向けて。


「ハクヤさん……?」


「坊よ。爺はこの場に、残りまする」


 告げられた、言葉に。


「……ッ!」


 ヒビキは、再度。


 息を呑む。


「あ、いや……そんな……俺の、所為で……」


 己の、判断によって。


 招いてしまった、事態に。


 思わず表情を、歪めると。


「かっかっかっ!」


 たちこめる、重苦しい空気を。

 

 老人は、呵呵と笑い飛ばす。

 

「いや、勘違いなされるな、坊よ。たとえ此度の奇襲がなかろうと、どのみち、あの様子では転移の刻限までに、決着などつきそうにありませぬ。そしてあれほどの死闘から、若を、引き離すことなど……たとえ煌皇陛下の勅命であっても、不可能ですわい」


「……」


「ゆえに家臣として、主君の火遊びに、最後まで付き合うのは当然のこと」


「……」

 

「なあに、この程度の死地など、幾度となく、経験しておりますわい。若と二人であれば、この老いぼれとて、如何様にも切り抜けられますぞ?」


「じゃ、じゃあ……俺も一緒に――」


「――とはいえ」


 二の句を告げようとした、ヒビキに。


 ハクヤは、穏やかな面持ちのまま。


 冷静な眼差しを、向けて。


「坊にはまだ、早い」


 戦力外である、と。


 突きつける。


「そんなことよりも、この場は爺たちに任せて、坊は、己の戦いに挑みなされ」


 透徹した、老人の瞳は。


 苦渋を浮かべる、ヒビキと。


 その腕に抱かれた、マリアンに。


 注がれていた。


「幸いにも、魔術式そのものは、まだ使用に耐え得りまする。蓄積できた魔力量的に、大和国《ヒノクニ》までは届かずとも、道中の何処かまでは、なんとか二人まとめて転移できるでしょうて」


「……」


「しかし、それから後の事は……申し訳ありませぬが、坊の役目ですじゃ。異国の地で、我らの手を借りる事なく、呪詛に侵された御母堂を、果たして、守りきれますかや?」


「……うっす。任せてください、ハクヤさん」


 ここまで、言われて。


 これほどまでに、お膳立てされて。


 今更、未練など不要。


 覚悟だけを、口にする。


「それが俺の、生きる、意味です!」


「うむ」


「マリアンは俺が、絶対に、守りますから……だからハクヤさんも、師匠と一緒に、必ず、追いついてきてください!」


「ええ、無論でございます」


 至極、当たり前のように。


 気負いなく、頷いて。

 

「……ですから男の子が、そのように、情けない顔をなされるな」


「……っ!」


 懸命に、涙を堪えるヒビキに。


 ハクヤは、目を細めた。


「……若人の旅路に、創造神の、ご加護あれ」


 最後に、一度。


 優しく、抱擁してから。


 魔法陣の内部に設けられた、転移円陣《ポータル》に。


 ヒビキたちを、残したまま。


「坊よ、ご武運を祈っておりますぞ」


 ハクヤ自身は。


 同じ魔法陣の内部にある、制御円陣《コントロールサークル》へと移動して。


「それでは往って、らっしゃいませ」


 贈られた。


 別れの言葉に。


「うっす、ハクヤさん! 今まで本当に、ありがとうございましたっ!」


 ヒビキが頭を下げると、同時。


 転送円陣《ポータル》が、眩く発光。


 視界が光に、包まれていく。


(行ってきます、師匠!)


 そして、ヒビキは。


 腕にマリアンを、抱きしめて。


 六年以上を過ごした、浮遊大陸から。


 二人揃って。


 ともに、旅立ったのだった。



【作者の呟き】


 これにて、第一章は終了です。


『2025年12月、第一章の改稿作業も完了しました』


 作者なりに面白いと思うことを詰め込んだので、どこか一箇所でも、読者様の心に刺さるものがあったなら、幸いです。


 そして評価や感想をいただけると、非常に嬉しく存じ上げます。


 それでは【接続話】を挟んで。


 第二章にて、再会を願います。


 m(_ _)m


 

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