第一章 【26】 奮戦
〈ヒビキ視点〉
「ひいっ!」
「ま、また来たぞ!」
「今度はそっちへ回り込んだ!」
「人造天使を向かわせろ!」
「くっ……豚のくせに、ちょこまかと!」
重症を負った、狐人のクノイチ……カエデを。
隠蔽効果のある、簡易結界に置いて。
周囲に散っていた、浄火軍の追手と。
交戦する豚鬼……ヒビキにとって。
大事なことは、ふたつ。
ひとつは、時間。
言うまでもなく、カエデは。
多少、持ち直したとはいえ。
すぐに治療が必要な、重篤者であることに、変わりはなく。
さらに、時間の経過に比例して。
大森林の各所に撒いた、囮に。
気を取られている、浄火軍が。
この場に群がってくる確率が。
高まって、しまうのだ。
加えて、発動時間が決まっている。
転移魔法の刻限も、忘れてはならない。
それら制限時間は、ヒビキにとって。
無視することのできない、足枷であった。
そのうえで。
さらに、重要となるのは……
「……ブギいイイイイイッ!」
わざわざ自分から、姿を現して。
周囲に響き渡る、雄叫びを撒き散らしながら。
悲鳴をあげる浄火軍に、何度となく。
襲いかかる、凶暴な豚鬼に。
「……くっ、亜人風情が、調子に乗るな!」
「防御陣形を敷け!」
「仲間の敵討ちだ! 絶対に仕留めるぞ!」
「勇者様、我らにご加護を……っ!」
追い込まれるようにして。
森の中で隆起した、断崖を背として。
一箇所に固まって。
陣形を組む浄火軍の、注意を。
釘付けにすることだった。
(そうそう、そうやって、俺だけに集中しやがれ!)
身動きが取れない、カエデの元に。
自らを真人と名乗る、驕った只人たちを。
絶対に、近づけさせてはならない。
そのために、危険を承知で。
姿を晒した、ヒビキであるが……
(……しっかしこいつら、これで、全部なのか? 多分さっき、あの場所にいた面子のまんまだよな?)
すでに、十分ほども。
目立つように、立ち回って。
近辺に散っていた浄火軍を、履き集めながら。
一箇所に、追い込んではみたものの。
切り立つ岩肌で、背面を隠しつつ。
密集陣形を組んだ、只人たちに。
増援の様子は、見受けられない。
(他の部隊と、上手く連携が取れていねえのか? それとも他の場所で師匠たちが、陽動してんのかしんねえけど……だとしたら、これはチャンスだ!)
ヒビキの目に映る、浄火軍は。
盾役の兵士が三人に。
補助の魔術士が二人。
眼帯をした使役者が三名と。
頭上に滞空する人造天使が三体、といった内訳だ。
完全に、成り行きだったとはいえ。
先ほどの奇襲で、盾役である兵士を。
二名ほど、削っていたことが大きく。
さらに暴走した聖浄騎士を、回収するために。
勇聖教会の、神官が。
兵士と魔術士を、一名ずつ。
幌馬車へと、連れ去ったので。
この場にいる浄火軍の面々は。
戦術の基本となる四人一組を、崩されてしまっている。
そこに勝機を見出した、ヒビキは……
「……ぶっぎイいいいいいッ!」
仲間を、傷つけられたことで。
我を忘れた豚鬼に相応しい、怒声を放ちながら。
ギュルンと、方向転換。
木々の隙間から、飛び出して。
密集した浄火軍へと、再度。
突撃していく。
「き、来た来たっ! また来たあ!」
「お、怯えることなど、ありません!」
「そうです! 私たちには、勇者様のご加護があるのです!」
「下賎な亜人など、恐るるに足らず!」
「何度でも追い払ってくれるわ!」
度重なる、ヒビキの襲撃に対応して。
断崖を背に、声を荒げる浄火軍は。
三列編成の、防御陣形を組んでおり。
その最奥に、配置された。
両目を眼帯で覆う、人造天使の使役者たちが。
頭上に魔杖を、掲げつつ。
声を張り上げた。
「私たちは、天使の操作に集中します!」
「頼みますよ、皆さん!」
「お、おう!」
そして三列編成の、中央に並ぶ。
二名の魔術士が……
「……いくぞ! 主よ、我らを守りたまえ――〈聖なる障壁〉!」
「ほ、〈聖なる障壁っ〉!」
足並みを揃えて。
聖術による、障壁魔法を展開。
瞬く間に半円状の、魔力障壁が。
密集する浄火軍を、包み込む。
「クソ、来るならきやがれ、単細胞豚野郎!」
「今度こそ、ぶっ殺してやる!」
「盾、構えええッ!」
そのうえで、三列編成の最前線。
横一列に並ぶ、三人の兵士たちが。
眼前の魔力障壁に、重なるようにして。
片手盾を、前方に構えていた。
(ガッチガチに、固めやがって……上等だよッ!)
直後に……ズドオオオンッ!
木々の梢を、震わせて。
盛大な激突音が、響き渡る。
「ひいいっ!」
「この……馬鹿力めっ!」
慣性と質量に、魔力を上乗せした。
突進型の魔技である、ヒビキの強烈な〈突撃〉によって。
……ビギギキイッ、と。
魔力障壁が、境界面を軋ませて。
魔術士が悲鳴を、漏らすものの。
「う、狼狽えるな!」
「魔術士は聖術に、集中しろッ!」
「うおおおおおっ!」
展開された魔力障壁と、重なるようにして。
隙間なく片手盾を並べた、兵士たちが。
ヒビキの突進を、食い止めていていた。
「……っ! い、今です!」
「やや、やってくださいッ!」
直後には。
魔杖を掲げた、魔術士たちの。
要請に、応えるようにして。
「お任せくださいっ!」
「今度こそ、仕留めてやりますっ!」
「お行きなさい、天使たちよっ!」
足を止めた、獲物を目掛けて。
上空から、無表情の人造天使たちが。
『『『 おおっ……オオオオンッ! 』』』
不気味な声を、漏らしつつ。
一斉に、襲いかかってくる。
(……クソッ。相変わらず、無茶な使い方しやがって!)
限度を超えた、魔力強化によって。
手足が歪なほど、肥大化した。
人造天使たちの猛攻を。
「ブギいイイイイッ!」
ズババババア……ッ!
体内の魔能配分を。
攻撃から回避に、切り替えたヒビキが。
暴風に舞う、木の葉のような体捌きで。
ひらりひらりと、掻い潜りつつ。
肉体強化の魔技である、〈闘氣〉を纏った拳で。
隙を見て、反撃を叩き込み。
手痛い損傷を、与えてみせる。
『『『 ……オおオオオン……ッ! 』』』
それでも。
手足が曲がっても。
体液が噴出しても。
仲間で同士討ちしても。
人造天使に、苦痛は浮かばない。
己が傷つくことに、躊躇いがない。
ただ淡々と。
自身の損傷など、顧みずに。
自傷を厭わぬ攻撃を、繰り出してくる。
「行くぞ、お前ら!」
そうして人造天使たちが、消耗品として。
捨て身の攻撃で、時間を稼いでいる間に。
「くたばれ、豚野郎っ!」
「死ね死ねっ! 死ねえっ!」
「うあああああっ!」
安全な魔力障壁の、内側で。
体勢を立て直した、兵士たちが。
……ヴンッ、と。
目の前の魔力障壁が、消失すると同時に。
前方に構えた片手盾の隙間から、片手剣を突き出すことで。
人造天使たちの攻撃に、加勢してきた。
さらに。
「いと尊き英霊よ、穢れを祓いたまえ――〈聖なる裁き〉っ!」
「ほ、〈聖なる裁き〉っ!」
前衛となる、兵士たちの背後から。
頭上に掲げた魔杖に宿す、魔術を。
防御用の、魔力障壁から。
攻撃用の、魔法へと切り替えて。
魔術士たちが、無数の魔力弾を、放ってくる。
(……クソッタレッ!)
使役者が操る、人造天使と。
兵士による、物理防御に。
魔術士の、魔法支援という。
浄火軍独自の、連携対応によって。
攻撃を防がれ。
反撃を受けて。
追撃まで、仕掛けられたヒビキは。
またしても、後退を。
余儀なくされるものの……
「……ふ、ふははは! 見たか、愚かなる亜人め!」
「これが勇者様の加護を得た、我ら真人の力だ!」
「力の差がわかったら、大人しく投降しなさい!」
「いい加減、無駄な抵抗はやめるのです!」
「そ、そうだ! 諦めろ!」
すぐさまに、障壁結界を張り直して。
内側で、声を荒げながら。
威圧的な投降を呼びかけてくる。
浄火軍には……
(……ハッ! 強がっても、バレバレなんだよ!)
隠しれない『恐怖』が、滲んでいた。
(たぶんアンタらは、ご自慢の装備や魔法に頼り切った、ラクな戦いしかしてこなかったんだろうけどなあッ!)
一方的な、狩りではない。
互いの命を賭した、戦場において。
御しきれない『恐れ』とは、まさしく。
致命的である。
実際に。
何度も敢行された、ヒビキの猛攻に。
過度な恐れを抱いた、浄火軍は。
過剰なほどの、防御力を用いて。
撃退を、繰り返している。
つまり、浅はかにも。
現時点で、己の手札を。
全て晒け出してしまったのだ。
(十分に、底は見えた! 次で決めるッ!)
一方で、狡猾なる狩人は。
未だその牙を、秘めている。
(テメエの躾には、散々と手を焼かされたんだ! いつまでも寝てないで、ちったあ役に立ちやがれっ!)
ドンッと、握り締めた拳の底で。
胸元の宝珠に、衝撃を与えると。
『……ボオ……』
微睡から、叩き起こされたように。
樹皮と獣皮で拵えられた、革鎧が。
不自然に、蠢いた。
『……ボオオオ……』
同時に、豚鬼のヒビキは。
四大人族の中でもっとも魂の親和性が高いとされる、自分たち鬼人にとって。
その代名詞でもある、共鳴魔法。
対象の魂に、自らの魂を。
共鳴させることで。
一時的に、その力を増幅させる〈解放魂魄〉を、発動してみせた。
(食い散らかせ――『餓樹鎧』っ!)
すると、所有者の呼び声に。
応えるようにして……
……メキメキッ……
……ミシミシッ……
……ギギギギキッ……
ヒビキの胴体を包む、革鎧が。
軋んで。
歪んで。
隆起して。
やがて、腹部に浮き彫りとなった。
人面の如き、樹洞穴から。
『……ウボオオオオオッ!』
飢餓に塗れた咆哮が、撒き散らされる。
「っ!? あの貧相な鎧……魔装備かっ!?」
「ヤロウっ、ここまで隠してやがったな!?」
「く、来るぞ! 気を緩めるな!」
最前線で、片手盾を構える兵士たちは。
距離を詰めてくる、ヒビキの変化に。
気付いたようだが、もう遅い。
(この距離は、餓樹鎧の効果範囲なんだよッ!)
ヒビキの装着する、革鎧のように。
魔装備と呼ばれる、武器や防具には。
多くの場合、素材として。
魔晶石と呼ばれる、特殊な結晶鉱物が、使用されている。
そして、鉱山から採掘されたものではない。
魔獣から採取された、魔晶石とは。
魔生樹より生み出された、魂を持たない魔獣の。
個体情報を蓄積する、記録媒体であるために。
〈解放魂魄〉によって、魂から生じる特殊な魔力線を。
魔晶石へと、接続したヒビキは。
生前となる魔獣の記録を、一時的に再生。
能力とともに、復元する。
『ウボオオオオッ!』
直後には。
餓樹鎧に浮かぶ、人面瘤から。
溢れ出した、不気味な叫び声によって……
……ギャリギャリギャリギャリイッ!
浄火軍を覆う、半円状の魔力障壁が。
身を削られるような。
貪られるような。
悲鳴を、あげた。
「っ!?」
「んなっ……!」
「こ、これは……」
こうした〈解放魂魄〉が、対象となる魔晶石に。
魔力線を介した覚醒を、促すうえで。
とくに、重要となるのは。
魔力の相性や。
多寡も、さることながら。
繋がった対象の記憶を、強く。
刺激すること。
生前の魔獣が有していた、記録の残滓。
魂を持たない、魔獣の本能を。
どれほど強烈に。
鮮明に。
揺り動かせるか、否かである。
「魔力が……食われているのか!?」
「いかん、魔力喰らいの魔装備だッ!」
「障壁が破られるぞ!?」
その上で。
言うまでもなく。
生物にとって、最大級の刺激とは。
自らの『死』に、他ならない。
自らを圧倒する、絶対強者の存在。
それが魔獣を含む、魔族の本能。
魔王や魔人といった『上位種への服従』に、重なることで。
共鳴魔法の成功率が。
飛躍的に、高まるのだ。
そのため、ヒビキの魔装備には。
自身が討伐した、魔獣の。
魔晶石が、用いられていた。
つまりは……
ビギギギギッ……バキンッ!
硝子細工が、砕けるような。
硬質な音を、響かせて。
魔力障壁が、食い破られたように。
餓樹鎧に秘められた、力とは。
生前の擬似樹が、有していた。
魔力の『簒奪能力』である。
「チクショウ!」
「障壁が、砕かれたぞ!?」
「おい、新しい結界を早く――」
目の前で、魔力障壁が砕け散って。
慌てふためく浄火軍が、体勢を。
立て直すよりも、早くに。
「――ブギいイイイイイッ!」
獰猛なる、狩人は。
その喉元に、喰らい付く。
(遠慮すんな、くらっとけえええええッ!)
横並びの兵士たちが構える、片手盾に。
今度は魔力障壁で、減衰されることなく。
背中から、ぶち当たって。
渾身の〈圧壊衝波〉を、叩き込むと……ズパアアアアアンッ!
「うおっ!?」
「ひいっ!?」
「馬鹿な……っ!」
荒ぶる津波に、押し流されるようにして。
衝撃に耐えきれなかった、兵士たちが。
まとめて、吹き飛んだ。
(でもコイツらは、後回しだッ!)
悲鳴をあげて、宙を舞う。
兵士たちには、目もくれずに。
地を駆けるヒビキは、一直線。
「ひっ!?」
「く、来るなあ!」
魔杖を振り回して、怯える。
魔術士たちの間も、すり抜けて。
目指すのは、その後方。
「っ!」
「まさか!?」
「我々を狙って……ッ!?」
切り立つ岩肌を、背にして。
密集陣形の、最奥に控えている。
眼帯で両目を覆った、人造天使の使役者たちである。
「く、来るなあ!」
「て、天使たちよ!」
「私たちを、守りなさい!」
ヒビキの目的に気付いた、使役者たちが。
頭上に待機させていた、人造天使を。
大慌てで地上へと、呼び寄せつつ。
肉盾として、正面に備えると。
「さ、させるか! 〈聖なる裁き〉ッ!」
「ほっ、〈聖なるさ裁き〉っ!」
同調して、背後からも。
先ほど素通りした、魔術士たちが。
威力よりも、速度優先の。
詠唱破棄した、魔術を用いて。
挟撃を、仕掛けてくる。
(邪魔すんなっ! 吐き出せ、餓樹鎧ッ!)
ドン、と胸元を叩いて。
魔力線で繋がった、魔晶石に。
ヒビキは、新たな指示を下した。
『……ボッ?』
(いや、そこは逆らうなよ!? いいから素直に吐き出せって!)
『……ボオオ……』
一秒未満の、抵抗を経て。
魔装備の胸元に埋まった、魔晶石が。
不満そうに、輝きながらも。
『……ウボオオオオオオオッ!』
ブオオオオッ……と。
胴体に隆起する、樹洞穴から。
大量の煙幕を、吐き出して。
ヒビキの姿を、呑み込んでしまう。
「……目眩しっ!?」
「ね、狙え狙えっ!」
「とにかく、打ちまくりなさい!」
突如として視界を埋め尽くした、大量の煙幕に。
人造天使を肉盾とする、使役者たちが。
目標を見失った、魔術士たちを。
大声で、急かすものの。
(遅えッ!)
先ほど餓樹鎧が、吸収した魔力を。
変換して。
生成した。
煙幕を、利用して。
背後から飛来する、魔力弾を。
最低限の被弾で、やり過ごしたヒビキは……
「……ぶぎいいいいいっ!」
濃緑の煙幕を、突き破って。
使役者たちの眼前へと、躍り出た。
「ひいっ!?」
恐怖の悲鳴を漏らした、使役者たちが。
慌てて人造天使を、操ろうとするものの。
ここまで距離を、詰めてしまえば。
完全に、狩人の独壇場だ。
「――ぐふッ!?」
大ぶりな人造天使の、攻撃を。
紙一重で、躱しつつ。
「ごぺッ!」
恐怖に表情を歪ませる、使役者たちに。
「ひぎッ!?」
次々と、致命の魔技を。
叩き込んでいく。
「そ、そんな!」
「天使の、御使が……っ!」
瞬きの合間に。
胴体を、歪に凹ませて。
吐血しながら、崩れ落ちた。
使役者たちを、目撃することで……
「……そ、そんな、馬鹿な……」
「わ、我ら真人が、亜人の手に、かかるなど……っ!」
カランと、魔杖を手落として。
地面に、膝を折り。
両手を、頭の上に組みながら。
「う、嘘だ嘘だ嘘だ、こんなの、夢に決まっている……っ!」
「ゆ、勇者様っ! 我らに、救いを! 不浄なる亜人に、天罰を……っ!」
ここにいない、誰かに向かって。
祈りを捧げる、魔術士たちは。
戦意を、消失させていた。
その頭を。
(ンな程度の覚悟で……簡単に、人様の命を踏み躙ってんじゃねえよッ!)
グチャリッ。
グチャッ、と。
果実のように、踏み潰す。
「……ひいいいっ!」
すると、背後で湧き上がった。
引き攣った、男たちの悲鳴に。
「……」
油断なく、残心を置いたヒビキが。
ゆっくりと、振り返ってみれば。
「な、なんだアイツは!?」
「こんなことが、許されるのか!?」
「悪魔め! 勇者様の裁きを受けて、滅びてしまえっ!」
地面に落下した、浄火軍の兵士たちが。
負傷したまま。
起き上がることもせずに。
怯えた視線を、向けている。
(……なんだよ。人を、バケモノみてえに)
ちなみに、今のヒビキは。
ただでさえ、強面と自認する凶悪面を。
大量の返り血で、赤く染めた上に。
不気味な人面瘤が浮かぶ革鎧を、身につけた。
大変に、猟奇的な姿であるのだが。
残念ながら。
それを指摘してくれる、親切な人間など。
この場にはいない。
『……おおン……』
ただ、使役者を失ったことで。
棒立ちとなった、人造天使たちが。
『……おオお……』
何かを、求めるようにして。
硝子玉の瞳を、向けてくる。
「……ああ。すぐに、終わらせてやるよ」
呟いて。
ヒビキは淡々と。
人造天使の制御宝珠を、破壊していった。
『……お……オおン……』
すぐさまに。
制御機能が発動した、人造天使たちが。
ボロボロと、肉体を崩壊させて。
灰となり。
風に吹かれて。
森に、還っていく。
「そ、そんな……天使まで……」
「い、嫌だ! 死にたくない!」
「おねっ、お願いだ! 助けてくれ!」
人造天使という、最大戦力を失うことで。
兵士たちも、完全に。
敗北を悟ったようだ。
「ひいっ! く、来るなあ!」
「わ、我らに、指一本でも触れてみろ! 勇者様の天罰が降るぞ!?」
「助けてくれ! 俺には女房と、チビたちが、家で待ってるんだよ!」
虚勢を張り。
威嚇して。
中には内股を濡らして、情に訴え。
命乞いをする者もいる。
(でも……見逃すわけには、いかねえよな)
これは勝敗を決するための、競技ではなく。
互いの命を賭けた、戦争なのだ。
手心など、加えられない。
「きひっ、きひひひっ!」
錯乱する者にも。
「そんな馬鹿な……何故、こんなことに……っ!」
後悔する者にも。
「た、助けてください! お願いします! なんでもしますから!」
懇願する者にも。
(……謝らねえぞ)
勝者として、ヒビキは。
敗者たちに、平等な『終わり』を。
与えようとして……
「……見つけたあああああっ!」
その背後に広がる、森の中から。
女の絶叫が、響き渡った。
【作者の呟き】
魔獣「認めへん! ワイはお前に負けたわけじゃ、あらへんど!」
ママ「……は?」
魔獣「イエス、マイロードっ!」
こんな遣り取りが、主人公の知らないところであったとかなかったとか。




